第226話 去る者達
一般人が目にしたら大混乱間違いなしの爆発が次第に収まっていく。
『《セイクリッドブレイク》!!』
光が消える瞬間、黒の声が聞こえた。
『『ギャアアアアアア!!!』』
2柱の悲鳴が俺達の耳に響き渡る。
そして光が消えると、そこには左半身を失ったナラカと、右腕と右の翼2枚を失ったパズズの姿があった。
『神龍に恥じない仕事はしたみたいね?』
『・・・・・・。』
『何で目を逸らすのかしら?』
『・・・・・・。』
黒も彼女は苦手だからな・・・。
しかし、これで形勢は有利になったか。
『女は怖いよな~。何で世界中の美女系女神って、あんな肉食系(?)が多いんだ?』
俺に振るな。
それよりも、今はパズズとナラカだ。
『舐めた、真似を・・・!!!』
『この程度の傷、今の我には無意味だ。』
黒とジルニトラが付けた傷が再生を始める。
けど、回復させる時間は与える気はない!
「一気に叩――――――――」
「――――それは困るよ、少年?」
「!?」
さらなる攻撃をしかけようとした直後、威圧感と共にそいつは現れた。
季節外れのロングコートを身に纏い、飄々と俺達の前に現れたその男はニッコリと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「少年、悪いがソレは回収させて貰うよ?」
「何!?」
「質問は受け付けないよ、少年。アンズー、2柱を回収してくれ!」
『グォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
「―――――っ!あれは!?」
突然、場違いな砂嵐が街全体に襲い掛かり、それと共に巨大な影が俺達の前に舞い降りてきた。
それは、一言で言えばライオンの頭を持った巨大鷲だった。
『――――――――グッ!!』
『テメエ、神に向かって何をする!!』
満身創痍のパズズとナラカに大量の砂が襲い掛かり全身を拘束する。
2柱は当然抵抗するが、どんなに魔力を放出しても砂の檻から逃げ出せそうになかった。
「復活したばかりで悪いけど、あんた達の命はこっちが握っているんだ。《盟主》の名代として、あんた達2柱を拘束、及び管理させてもらうよ。」
『ググッ――――!!』
『不遜な人間め・・・!!』
「その体はこちらが用意した物、どんなに力があっても主導権はこちらにある。抵抗は無駄だ。」
謎の男の言うとおり、パズズもナラカも為す術無く全身を砂に包み込まれ、まるで砂でできた巨大な卵の中に閉じ込められてしまった。
俺はそれを呆然と見ているしかできず、それを見た謎の男はやはりニッコリと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「挨拶が遅れたね少年。そして3柱の神々よ。自分は『創世の蛇』のファルコ=バルト、世間では「廃墟の闇露天商」と呼称されている者の1人だよ。」
「お前が・・・!!」
コイツもバカが捕まえた奴と同じ露天商の1人か!
それにパズズとナラカを拘束したあの鳥、奴が呼んだ名前通りならメソポタミアの神話に伝わる怪鳥アンズーか!?
『あらあら、つまり、私に今回の厄介事に関わらせた元凶という事かしら?』
「そうなるね。さて、何だか大変ご機嫌が悪い様なので、自分はこれにて失礼させていいただくよ♪』
『逃げられると思ってるのか?』
ライが挑発するが、ファルコは余裕の表情で答える。
「勿論!街を囲んでいる結界を解くから♪」
「なっ!!」
今の状況で結界を解くだと!?
そうなれば、結界の外にいる一般人達に見られ・・・・・!
「人助け、頑張りなよ少年?」
「――――――ッ!?」
再び砂嵐が巻き起こり、俺達の視界を奪っていった。
砂塵が街全体を飲み込み、ファルコ性質の姿はその中に消えていった。
「クソッ・・・・・・!!」
『ここは無理に追わない方が賢明だ。』
俺はネレウスの張った水の膜に護られ砂嵐が収まるのを待つしかなかった。
悔しいが、ファルコの言うとおり今は深追いは無意味だろう。
ファルコは勿論のこと、奴が使役していると思われる怪鳥アンズーは無闇に戦うのは危険すぎる相手だ。
この世界で最古の神話と言われるメソポタミア神話において、神々にも恐れられたとされるのがアンズーだ。
大勢の一般人が地上にいるこの状況で戦っていい相手ではない。
『・・・行ったか。』
砂嵐が弱まると、黒は敵が去ったと思われる方向を見上げながら呟いた。
そして街全体を囲んでいた暴風の結界は消えた。
『ん?今、何か飛んでったな?』
その時、俺の横にいたライは何かが飛んでいく姿を見たらしいが、今後の事で頭がいっぱいになっていた俺は気付かなかった。
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――琥太郎サイド――
それは砂嵐が晴れた直後だった。
晴翔の魔法で応急処置を受けていた暁は突然起き上がり、翼を羽ばたかせて僕達の元から飛び去ってしま田。
「暁!!」
『ゴ・・・・・・・ゴメン!!』
涙声の一言だけ残して暁は雲の上まで飛んで行ってしまった。
僕はただ茫然としながら見ているしかなかった。
「お~い!!」
『無事か!?』
その後、皆が集まって来ても、僕は暁が飛んでいった方向だけをしばらく見続けていた。
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――???サイド――
街を囲んでいた結界が消えたのを確認すると、男は迷わず街の外へ出ようとした。
(神代に滅んだ神が2柱復活し、バルトの小僧が持ち帰ったか。)
男は戦いの一部始終を見ていた。
《大罪獣》の体で邪神パズズと悪神ナラカが復活した事も、自分の弟子モドキ達が勇吾達の助勢に動いた事も、顔見知りのファルコが2柱の神を回収した事の全てを見届けていた。
(組織はこの調子で神代の邪神・悪神を次々に復活させて手駒にするだろう。流石に全盛期以上とまではいかないが、それでもかなりの戦力にはなるだろう。そして今回、結界を張ったとはいえ現実空間での何柱もの神の顕現・・・・・・最高位の猛者達も動き出すだろう。)
「待てよ!!」
歩きながら黙考する男を呼び止める少年が現れた。
剣道着姿のままの少年は、呼び止める声を無視して去ろうとする男に向かって何度も声をぶつけた。
「待てって言ってるだろ!!何で俺達を置いて消えようとするんだよ!?」
男は足を止めない。
だが、少年も諦めず後を追ってくる。
「待てよ・・・置いてくなよ・・・!!」
「・・・・・・。」
あの5人の中で2番目に男と付き合いの長い少年は、次第に声を弱々しくさせながら必死で後を追おうとする。
しかし、何かが2人の間を阻むかのようにその距離は一向に縮まる事は無かった。
そして横断歩道を渡る時、丁度信号が点滅し始めた頃を見計らって渡り始めた時、男は少年にだけ聞こえる声で少年の求める答えを呟いた。
「―――――義父として、お前には真っ当な道で幸せになってほしいからだ。」
それを聞いた少年は横断歩道を渡る直前で足を止めた。
そして信号の色が変わり、信号待ちの車が一斉に走り出して男の姿は見えなくなってしまった。
「・・・クソ親父!!」
少年――――瀧山泉希は血が出るほど拳を握り締め、涙を数滴零しながら立ち尽くしたのだった。
・アンズーはズーとも呼ばれます。
・神にも恐れる者がいる怪鳥ですが、元から怪物ではなく、聖なる鳥としても伝承が残っています。




