第225話 守護龍ジルニトラ
『――――《神裂き》!!』
『嘗めるな小僧!!』
巨大化した右手の爪で切り裂こうとする黒に対し、ナラカは6つの手から黒い波動を出して防いだ。
『神龍か?その姿、奴の血縁だな!』
『・・・・・・。』
『ハハハハ、これはまた面白い奇縁だ!丁度いい、慣らしの的になれ!』
そして神と龍の激闘が始まった。
黒は地上を巻き込まないようにナラカを誘導しながら攻撃していく。
その動きは今まで見てきた黒のどの戦闘よりも激しく、力強いものだった。
消えたと思ったら敵の死角からブレスを放ち、尾で頭を叩き潰そうとする。
「どうなってるんだ?」
『マズイな。ここは何時もと違って現実空間だ。相手はそんなことなど微塵も気にせず攻撃してくるが、黒王の奴は地上にいる連中を気にしながら戦わないといけなない。このままだと負けるぞ。』
『・・・!』
「そんな・・・!」
『それに、向こうにはもう1柱の神がいる!』
翆龍と同じ方向へ視線を向けると、そこでは鳥獣人みたいなのと夜鋼と勇吾が戦っていた。
向こうも凄い魔力だ。
しかも向こうも神!
一体、これからどうなるんだ!?
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――勇吾サイド――
分かってはいたが、やはりこの状況で神格と戦うのは無謀だったな。
邪神パズズ、嵐の神格でもある奴には風属性は無効化され雷属性も効果が薄い。
オマケに邪神である事や熱風を操る事から、闇属性や火属性も効果が薄い。
ハッキリ言って相性が悪い。
まあ、それは黒が戦っているナラカでも同じだが。
『フン、その程度か?』
「クッ!」
『その剣、剣自体が神格を持っているようだが、担い手がその程度では宝の持ち腐れだな?』
それは俺自身がよく知っている。
俺はまだ、布都御魂剣を使いこなすにはまだ未熟だ。
『正直興醒めだな。闇属性の人間に闇属性の風虎、我には役不足な相手だ。』
そう言うと、パズズは4枚の翼を羽ばたかせ、右手を上げて魔力を一点に集め始めた。
『厭きた。煩わしいこの地を一掃し、我は外に出るとしよう!』
『―――させん!!』
「させるか!!」
奴は本気だ。
本気でこの街を破壊する気だ!!
現実への被害を考えて呼ぶのを避けていたが、もうそうは言っていられない!
こうなれば――――――
『――――塵となれ!』
「ライ!!ネレウス!!・・・ジルニトラ!!」
一瞬迷ったが、俺は契約している3柱目の神も一緒に喚んだ。
そして、暴風の結界に閉じられた街に5柱の神が出揃った。
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――琥太郎サイド――
『う・・・・・・!』
「暁!!」
地上が地震や暴風で荒れる中、蒼鷹の姿の暁の意識が戻り始めた。
『ん・・・お・・・僕は・・・・・・?』
「口調が変わった?」
「正気に戻ったんだね!!」
浄化は無事に成功したんだ。
話したい事が沢山ある。
何があったのか、何に苦しんでいたのか、沢山話したい。
『あ・・・あああ・・・・!』
「暁!?」
暁の顔色が――実際は毛があるから見えないけど――真っ青になっていった。
どうしたんだ?
あ、もしかして正気に戻ったから一気に恐怖とかが沸いてきたんじゃ・・・!?
僕はどうにか落ち着かせようとした。
「「――――――!!」」
だけどその直後、空から物凄いプレッシャーが振りかかってきた。
思わず頭を上げると、そこには勇吾を囲む様に神々しい光を纏った神様達がいた。
すっかり顔馴染みのライに、名古屋で見たネレウス、そして初めて見る黒いドラゴンがそこにいた。
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――勇吾サイド――
俺を護るように3柱の神々が目の前に顕現した。
その内の1柱、黒龍の姿をした神が俺の方を睨みつけてきた。
『――――久しぶりに呼ばれたと思ったら、随分な為体ぶりね?契約する相手を間違えたかしら?』
「・・・ジルニトラ。」
守護龍ジルニトラ、スラヴの伝承に出てくる魔法に精通した女神として神格化された龍族だ。
色々あって今はこの世界には住んでおらず、とある異世界で出会った時に試練を乗り越えた末に契約したが、正直言って性格が苦手なので召喚する機会はそれほど多くは無い。
そのせいか、今回もかなり機嫌が悪そうだ。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
『随分と厄介な状況のようだな、まさか、パズズにナラカが復活しているとは・・・。』
『おいおい、異空間じゃなく、こっちで召喚なんて本気かよ?』
「ネレウス、ライ、ジルニトラ、状況が状況だ!奴らをどうにか倒したい!」
ライは兎も角、ネレウスからは緊張の色が窺える。
正直言って、皆を召喚しても勝てるかどうか確証はない。
『フン、懐かしい顔に初めて見る顔もいるな。丁度いい、新しい力を試すには良い相手だ。契約者とともに、この力を存分に味わえ!!』
直後、パズズは溜め込んだ魔力を一気に解放した。
『《死をまき散らす黒き嵐》!!』
黒い暴風と雷が街ごと俺達を飲み込むように襲いかかってきた。
ライは雷、ネレウスは水、ジルニトラは多種多様の魔法を同時に無詠唱で発動させた。
俺も闇と剣を使ってパズズにダメージは与えられなくても、攻撃を相殺させるくらいはしてやろうと全力で布都御魂剣を振るった。
「おおおおおおおおおおお!!!」
魔力を出し惜しまずに放った斬撃はライやネレウスの力と混ざりあってパズズの攻撃と攻めぎ合う。
これはいけるか?
だが、このまま押し通そうと俺が思った直後、俺の背後に竜巻が発生した。
「なっ!ナラカ!?」
『ハハハハハ!!お前らもまとめて死ねえ!!』
『余計な邪魔を・・・!』
『邪魔はお前もだ!消え・・何!?』
黒と戦いながらも俺達に攻撃してきたナラカだったが、そこに火炎弾が撃ち込まれた。
ほぼ全員が同時に振り向くと、そこには赤い炎を纏った龍の姿があった。
そういえば、ここに来た時から妙な気配がいくつかあったが、奴か?
『雑魚が!!』
ナラカはブチ切れて大地を割り、無数の尖った岩石を出現させて飛ばそうとする。
『『《ダブルボルテックス》!!』』
そこに、今度は空から激しい轟雷がナラカに襲いかかった。
あれは雷虎に天鷲か!?
『ガキどもが調子に乗るなああああああ!!!』
『調子に乗っているのはあなた達よ?』
状況を理解する暇もなく、ジルニトラの涼しい声が響き渡った。
彼女の周りには幾つもの魔法球、その1つずつに魔法が込められている。
『賞味期限切れの神ゾンビ達、覚悟しなさい♪』
『『――――ッ!!』』
気のせいか、ジルニトラの顔が悪い魔女みたいに見えた。
パズズとナラカも戦慄していないか?
『偽りの器ごと消えよ!《十二の断罪-天-》!!』
街は虹のような目映い光に包まれ、同時に原爆級の大爆発が起きた。
俺は、召喚する相手を間違えたと少し後悔した。
ジルニトラ、少しは手加減しろよ。
・勇吾が契約している最後の1人がついに登場!
・ジルニトラは外見は黒いドラゴンですが、魔法に精通した女神です。本作ではS系ですが。




