第222話 八つ当たり
――琥太郎サイド――
【名前】《混濁の黒鷹》
【種族】大罪獣(???) 【クラス】憤怒 嫉妬 怠惰 傲慢
【属性】闇 風
【魔力】――測定不能――
【状態】精神支配(小) 精神汚染(大) 暴走(中)
【名前】《荒れ狂う蛇龍》
【種族】大罪獣(???) 【クラス】憤怒
【属性】闇 風 水
【魔力】――測定不能――
【状態】精神支配(中) 精神汚染(大)
暁――――いや、敵の大罪獣達のステータス情報を見た。
2体とも誰かに精神を操られているみたいだ。
それに精神汚染の度合いがかなり強い。
早く助けないと2人の心が壊れてしまう!
『二手に分かれた方がいいな。』
「じゃあ、僕と夜鋼は鳥の方を!」
「俺と冬弥は龍の方だな!」
『おい、俺は?』
「龍の方に行けよ。俺は鳥の方にするからよ。」
僕達は二手に分かれて僕は鳥型の《大罪獣》、暁の元に向かった。
「暁!!」
『うあああああああ!!クズは死ねぇぇぇぇ!!』
暁の目はさらに危険なものになっていた。
多分、僕が誰なのかも分からなくなっているんだ。
「《ライトニング》!!」
晴翔が雷魔法で攻撃する。
だけど、暁は素早くそれをかわし、そのまま晴翔に向かって襲いかかっていった。
『クズは死ね!!』
「掛かったな!《雷撃の束縛》!!」
『グギャアアアアアアアアアア!!??』
『《闇縛り》!!』
接近したところを、晴翔は拘束系の魔法を当てて動きを封じた。
さらにそこへ、夜鋼が足元から影のようなものを広げて暁の全身を縛っていった。
『「琥太郎!!」』
僕は宙を蹴り、暁に接近して刀を振るう。
光属性の力を刀身に込め、僕は暁の胴体に向かって大技を放った。
「《破邪・白刀斬》!!」
『ぎゃああああああああああああああああ!!!!』
「暁!正気を取り戻して!!」
『あああああ・・・・!!何でだ!?何でだああああああああ!!??』
僕の一振りは闇属性には効果があったようだ。
切り口から禍々しい魔力が吹き出し、口から苦痛の声が漏れ出してくる。
『何でだ!?何でそんなクズと一緒にいるんだああああああ!!!???』
「え!?」
「・・・クズって、どうやら俺の事みたいだな。」
暁の口から出た言葉に、僕は驚き、逆に晴翔は落ち着いて反応した。
一体、何を言ってるの?
『まだ正気には戻ってはいないようだが、溜まっていた感情を言葉にして吐き出しているようだ。おそらく、これが彼を《大罪獣》にした“闇”の一旦なのだろう。』
「それって・・・!」
『そいつはクズだ!!悪だ!!最低だ!!お前を散々傷付けた最低最悪のクズじゃないか!!なのになのに、何でそんな奴と仲良くしてるんだああああ!!??そこは!そこに立っているのはそんなクズじゃなくて俺だろおおおおお!!??何時だってそうだったじゃないかああああああ!!!』
「「――――――ッ!!」」
『惑わされるな!!』
暁の言葉に、僕と晴翔は動揺してしまう。
まさか、そんな・・・暁が《大罪獣》になってしまった理由って、僕達のせい!?
戦って助けるという覚悟が僅かに揺らいでしまった。
夜鋼はすぐに叱咤するが、その時は既に遅かった。
『フザケルなああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
絶叫と共に、暁の体から大量の魔力が爆発した。
「「うわあああ!?」」
『クッ!』
爆発した魔力は暴風となって僕達を弾き飛ばし、暁の体を囲む様に一本の黒い竜巻を造っていった。
その時の衝撃は、まるで僕達を拒絶しているような、体よりも心に大きく響いた気がした。
「暁・・・。」
『――――やめるか?』
「「!!」」
一瞬、夜鋼の言葉に冷たさのようなものを感じた。
その叱る様な冷たさのせいか、僕達の迷いは一気に消えた。
「やめないよ!」
「ああ!」
『・・・来るぞ!』
気を引き締め直した直後、黒い竜巻は消え、その中から黒い巨人が現れた。
「あれは・・・!?」
「4枚羽?」
『あの姿は・・・。』
消えた竜巻の中から現れたのは、2本足で立つ鳥人間だった。
背中には2対の翼、全体が人型に近い以外の容姿は黒い鷹のままだった。
それと、さっきよりも禍々しさが一気に増している。
『―――――死ね!!』
「「『―――――――ッ!!』」」
速い!!
ほとんどノーモーションで、暁は晴翔に向かって接近し、その鋭い爪で引き裂こうとした。
『《雷撃の楯》―――――グワッ!?』
「晴翔!!」
晴翔は咄嗟に《防御魔法》を使ったけど、暁の爪が当たった瞬間にそのパワーに負けて吹っ飛ばされてしまった・
吹っ飛ばされた晴翔は近くのビルに激突、暁はそこへまた攻撃しようとしていた。
「やめろ!!《風鎖刃》!!」
僕は刀を振るい、刃から放たれた風で暁をもう一度拘束しようとする。
だけど、当たる直前で風の鎖は弾かれてしまった。
「弾かれた!」
『厄介な・・・どうやら、風属性は無効化されるようだな。他の属性での攻撃しか効果がないだろう。』
「そんな!」
なんてショックを受けている間に、暁はビルの壁に減り込んだ晴翔にさっきよりも強い一撃を当てようとしていた。
『お前が・・・全部お前のせいだ・・・!!』
「・・・ハッ!偽善者の正義ゴッコかよ?」
『何だとクズめ!!』
あれ?
もしかして、会話ができるようになってる?
『全部お前のせいだ!!お前が!お前が!お前がああああああ!!お前らがアイツを虐めたから全部壊れたんだ!!お前さえ、お前さえいなければあああああああ!!!』
憎悪に満ちた声が僕の耳にも届いてくる。
それは何もかも失ったような、イジメに苦しんでいた時の僕なんかよりも絶望した声だった。
アンドラスの事件で終わったと思っていた一連イジメ問題は、まだ終わっていなかったんだ。
僕は、今になってその事に気付いた。
それは晴翔も同じなんだろう。
暁の言葉に一瞬目を丸くし、悔いるような表情になった。
だけど、それも数秒で元の普段通りの彼の顔になった。
そして、晴翔は暁に向かって声を上げた。
「ああ、そうだな。俺は自分勝手な嫉妬や不満を理由にお前らの関係をぶっ壊した。ようやく思い出せたぜ。お前、他の連中と一緒に俺が琥太郎をイジメてるのを見て見ぬふりしてた奴だろ?」
『――――――ッ!!う、五月蠅い!!』
「そういや、琥太郎が声を掛けたら一目散に逃げてた奴もいた気がしたが、あれはお前か?」
『五月蠅い!!五月蠅い!!五月蠅い!!五月蠅い!!悪いのはお前だ!!お前はクズだ!!全部お前がいたからこうなったんだ!!』
「俺に全部罪を着させて、自分は琥太郎と同じ被害者だって言いたいんだろ、お前は?」
『黙れ!!!』
まるで相手を逆撫でするような言葉だったけど、その言葉に暁は酷く動揺していた。
「本当の親友なら、何で助けなかったんだ?それとも、お前もアイツをイジメてたのかよ?だったら、お前も俺と同じ最低最悪のクズじゃねえか?一緒に地獄に逝くか?』
『黙れえええええええええええ!!!悪いのはお前達だああああ!!お前達が死ねええええええ!!』
暁は絶叫しながら後方に下がると、両手に黒い風を集め始めた。
あれはマズイ!!
どれくらいマズイかは分からないけど、あの魔力の量は軽く10万や20万を超えている!
それになんだか耳鳴りがする。
『マズイ、あれは周囲になるもの全てを分子レベルで破壊しかねない!!』
「えええ!?と、止めないと!!」
『乗れ!完全には無理だとしても、死人を出さない位には相殺するぞ!』
「うん!」
僕は夜鋼の背中に乗り、僕を乗せた夜鋼は一瞬で音速を超えて晴翔と暁の間に移動した。
その直後、暁は両手に溜めた黒い風を晴翔に向かって放った。
『『――――《都市破壊の黒嵐》!!』』
その声は、別の“誰か”の声と重なっていた気がした。




