第220話 2体の大罪獣
――勇吾サイド――
「――――何だ!?」
「廃墟の闇露天商」を追って東京を離れていた俺は、不意に東京の方から強大な気が爆発するのを感じた。
『どうやら、今までのとは格が違う《大罪獣》が現れたようだ。見ろ、空が大きく動いている。』
龍の姿に戻っている黒が頭を上に向け、俺も同じように視線を空へを向けた。
そして、俺の目に何かに引き寄せられるかのように動く雲が映った。
「雲が・・・!」
まるで早送りの映像を見せられているような気になってしまう。
雲は強大な気が感じられた咆哮、つまり東京方面へ引き寄せられていた。
『急いだ方が良さそうだ。おそらく、今度の《大罪獣》で復活した神格は天空神だろう。』
「黒、急いで東京へ戻ってくれ!!」
『分かっている。』
黒は進路を百八十度変更し、一路東京へと向かった。
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――琥太郎サイド――
「え!?」
突然、周囲が《大罪獣》の気配で充満した。
僕達のとは別のコートから。
「――――胴あり!」
向こうの大将も同じように気付いたのだろう。
突然の出来事に気を逸らされ、その隙に部長に1本取られていた。
だけど、僕はその事よりも別の試合場の方に目を奪われていた。
「あれは・・・・・・!」
同じ2回戦の試合を行っていた隣のコートで、僕は全身から禍々しいオーラを放ちながら試合に挑んでいる他校の選手の姿を目にした。
あれはマズイ!
ステータスを見た訳じゃないけど、全身から出ているオーラの量や密度、何より禍々しさが明らかに危険としか見えない。
僕はすぐ観戦席の方へ視線を向けると、そこには同じように驚愕して立ち上がっている晴翔達と、僕に向かって首肯する夜鋼がいた。
(勇吾も丈もいない時に・・・!)
今ここには勇吾も丈も、銀洸もいない。
今はまだ人間の姿をしているけど、このまま完全に《大罪獣》の姿になってしまったら他の人達をみんな巻き込んでしまう。
それだけはどうにか避けないと!
だけど、その時の僕の僅かな迷っている隙に、事態は更に悪化していった。
〈――――琥太郎!横を見ろ!!〉
突然頭の中に夜鋼の声が聞こえ、僕は反射的に横の方、正確には“彼”の方を振り向き驚愕する。
『ォォォォォォォォォォ・・・・・・!!』
「――――――暁!!」
“彼”――――上野暁からも禍々しいオーラが噴き出していた。
それは朝に肩を叩いた時とは全く違う、何かに対して強い敵意を抱いているようなオーラだった。
「おい、どうした上野?体調が悪いの・・・」
「あ、駄目です先輩!!」
「え?」
彼の、暁の様子がおかしい事に気付いた先輩の1人が彼に触れようとし、僕は咄嗟に止めようとした。
その直後、狭い体育館の中で2つの気が爆発した。
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――勇吾サイド――
黒とともに急いで東京へ戻った俺だったが、ある場所を境に先に進めなくなっていた。
「これは、風属性の結界か!」
『邪気も混ざっている。状況から考えて、この向こう側にいる《大罪獣》が張ったものだろう。それよりも、この先にある街は・・・』
「桜ヶ丘だな。」
俺達の前には、邪気を含んだ暴風の壁が立ち塞がっていた。
巨大な竜巻をドーム状にした形の結界は一般人以外の進入を堅く拒んでいる。
地上の被害の低さからみても、魔力と無縁な一般人には普通の強風程度の影響しかないようだ。
つまり、この結界は俺達のような明確な驚異の進入を阻む為のものということだ。
他の町で使われていたら厄介だったが、幸いにも結界が囲んでいる町は琥太郎と晴翔の住んでいる桜ヶ丘だった。
「桜ヶ丘なら、《ガーデン》を経由して移動できる。黒!」
『ああ。』
そして俺達は、一旦へ向かい、そこにある桜ヶ丘へ直接通じている扉から結界の内部へと移動した。
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――琥太郎サイド――
「ゴホッ・・・!みんなは・・・!?」
「大丈夫だ。今のところ、死人は出ていない。」
周囲に埃が漂う中、僕のすぐ隣で夜鋼が気絶している先輩達を風で護っていた。
あの瞬間、会場内に2本の竜巻が発生して天井を貫いた。
竜巻は会場内を無差別に破壊し、周囲は一瞬で悲鳴と絶叫の渦に飲まれた。
「ケホッ!他のみんなは?」
「俺達は無事だぜ~!」
声のした方を見ると、そこには戦闘体勢に入っているみんながいた。
よかった。
「他の人達も無事みたいだね?」
「そのようだ。どうやら、この会場にはかなりの強者が来ていたようだ。あの直後、一般人全員を気絶させた上で個々に結界を張ったようだ。」
「それって・・・?」
「当人は隠れたようだが、知りたいならあの者達に聞けばいいだろう。」
そう言うと、夜鋼は対戦校の選手達のいる方を指さした。
そこには、先生や他の部員達を護っている剣道着姿5人の姿があった。
その中には僕と戦った桜庭という2年の選手もいた。
ただし、背中から白い翼を生やしていたけど。
「夜鋼、あれって!」
「・・・5人とも、人間ではなく私と同じ聖獣、おそらくほとんどが後天的に覚醒したタイプだろう。」
「それって・・・!」
すると、僕達の視線に気付いた彼らは鋭く睨み返してきた。
と思ったら、その内の1人が敵意を露わにして僕に襲いかかってきた。
「お前達かぁぁぁぁ!?」
「うわっ!」
両手を獣のように変えて襲ってくる相手に、僕は反射的に《天翔丸》を出して相手に向けた。
けど、僕が刀を動かすよりも速く、夜鋼が間に割って入り、相手を片手で受け止めた。
「なっ!?」
「ほう、お前は『雷虎族』か?」
鋭い爪を伸ばしている相手の手を余裕で掴んで動きを封じた夜鋼は、面白そうな目で相手を見ていた。
「短絡的なのは先祖の血なのだろうが、どうか落ち着いてくれないか?私達も、この突然の事態に驚いているところなのだ。」
「な、何言って・・・!」
「待て!」
そこに別の人が前に出てきた。
大将戦で部長の対戦相手だった人だ!
「ぶ、部長!」
「申し訳ありません!うちの者がご迷惑を・・・」
「いや、気にしなくてもいい。それよりも、見たところ、君は他の4人と違って純血のようだが?」
「え、どういう事?」
夜鋼に今の意味を訊こうとしたが、この場で答えを聞く事は出来なかった。
『ギャオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「「「!!」」」
無くなった天上の更に上から獣の鳴き声が聞こえ、同時に突風が襲い掛かってきた。
そして、それだけじゃなかった。
『――――悪は消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
蒼黒い双翼を広げた怪物が、僕のよく知る人の声で殺意に満ちた言葉を吐きながら襲い掛かってきた。
「―――――――暁!!」
それは、小学校の頃からの友人が《大罪獣》に成り果てた姿だった。




