第216話 爆発
――???サイド――
――――血が熱い。
――――まるで今にも沸騰しそうなほど血が熱い。
――――早く全身に溜まったこの熱を発散させたい。
「あら、――――、土曜なのに出掛けるの?」
荷物を持ち、靴を履いて外に出ようとした直後、半月ぶりにあの女に声を掛けられた。
チッ!
何でこの日に限って声を掛けてきやがる。
「――――今日から新人戦なんだよ。」
「ふ~ん、棒振りの大会なんて出て意味あるの?あれって近づくだけで臭うんでしょ、もっと品のある大会に出たらどうなの?」
「・・・関係ないだろ。」
「何よ、その口の利き方!私の――――の為を考えて言っているのよ!」
相変わらず、この女は何を言っているんだ?
俺の為?
自分達の為の間違いだろ。
俺は今まで一度も、お前らに何か感謝するような事をされた記憶は無い。
「私みたいに、音楽をやればいいのに。何でそんなのやってるのかしら?」
お前達は何時だって自分達の自慢しかしない。
自分達のやってる事が正解、違う事をする奴は不正解、不正解を選ぶのは自分達より劣った人種、それがお前達の絶対的な価値観だからだ。
「どうした?玄関の前で何をしている?」
また五月蠅いのが出てきた。
「あ、パパ!ねえ聞いてよ。――――たら、まだ棒振りをやってるのよ!私恥ずかしい~!」
「なんだ、まだやっていたのか?」
コイツも俺を汚い物を見るような目で見てきやがる。
「あんなのは使われる側の人間がやるものだ。出来損ないとはいえ、お前もこの家の人間なら使う側の人間の嗜みだけをすればいい。今からでも遅くはない。少しでもこの家の人間としての誇りがあるならそんな物は捨てて勉強でもしていろ。言っておくが、高卒や三流大や二流大出など許さんからな。」
「そうだパパ!私、アメリカとイギリスのどっちの大学に行くか迷ってるのよ~。ランキングだとアメリカの方が上だけど、イギリスの方も上位だし尊敬する先生とかもいるのよね~♪パパはどっちがイイと思う?」
「ん?そうか、それは確かに悩みどころだな。私はハバードを勧めたいが、ケンブリッジも捨てがたいしオックスフォードも最近は・・・。」
クソッ!
こいつら、勝手に話題を変えやがった。
大した目標も無いくせに、自分のブランドを上げる事にばかり熱中しやがる!
「それに~、趣味のバイオリンもやりたいからヨーロッパの方がイイんじゃないかな~って思うのよね~?」
「そうだな・・・。今夜、母さんも居る時に話し合おうか。ああ、お前まだいたのか?」
「いちゃ悪いかよ?」
「何だその口の利き方は!?」
「そうなのよパパ!!――――ったら、さっきから下品な言葉ばかり使うのよ!信じられないでしょ?」
「まったく、あんな愚民の通う様な高校に行っているからそんな口を利くようになるんだ!ホントに、同じ子供でも他の兄弟とは何でこんなに出来が違うんだ!!」
醜悪だ。
俺の目の前で醜悪な化け物達が汚い口で汚い言葉を吐いてやがる。
イライラする!
俺にコイツラと同じ血が流れていると思うだけで反吐が出る!
「聞いているのか!?今日はもう外に出るな!!部屋で自分の過ちを反省していろ!!まったく、こんな棒切れなど持っているから・・・!」
「パパ、それ臭うから捨ててくれない?私コイツと部屋が隣だから臭いが気になるのよ~!」
化け物どもが俺の物に手を伸ばす。
汚物に触れるように手にハンカチを乗せながら俺から奪い取ろうとする。
「――――触るな!!」
俺は化け物の手を弾いた。
一瞬、化け物の目が信じられないような物を見るような目になったが、すぐに怒りの形相に染まる。
「この、家の恥晒しが!!」
「パパ、屑にしっかりお仕置きしちゃって~♪」
醜い・・・こいつらは醜い。
こいつらは・・・・・・悪だ。
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―――――ポタ・・・ポタ・・・ポタ・・・・・・
赤、一面が真っ赤だ。
俺以外全てが真っ赤に染まっている。
『ハア、ハア、ハア・・・!』
「・・・ぁ・・・ぅ・・・・・・!」
「ヒ・・・ァ・・ヒァ・・・・・・!?」
化け物どもはまだ意識が残っている。
五月蠅くなるのも面倒だ、声を奪ってやろう。
「何の騒ぎで・・・ヒッ!!」
『騒ぐな!!』
「どうした・・・うわっ!?」
屑どもが集まってきやがったがすぐに黙らせた。
もっと早くこうすべきだった。
元々ここは俺にとって最も忌まわしき場所、何時までも残しておくべき場所ではない。
そしてこいつらも、何時までも生かしておく理由はない。
『・・・止めだ!』
―――――待て。
手が勝手に止まった。
何故だ、まるで自分以外の意志に全身の自由を奪われているみたいだ。
―――――ガキ共は生かしたまま眷属へ変えよ。それ以外は糧にせよ。
聞き覚えの無い声が俺を誘導していく。
俺は、その声に言われるがままに虫の息になったこいつらに血肉に口を付けた。
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――琥太郎サイド――
この頃になると大分寒さも楽になってきたな。
最近は異常気象のせいで9月に入っても真夏日になる日があって大変だったけど、もうその心配はなさそうだね。
まあ、僕達の場合は耐暑用の魔法のお蔭でそんなに大変じゃないんだけどね。
「中学の大会よりも賑やかですね。」
隣を歩いていた部長に話しかけると、部長も頷きながら「そうだろ?」と答えてくれた。
「高校の大会は大学や民間企業からもスカウトマンとかが来るからな。卒業後に(各競技の)名門大や社会人チームに入ろうと考えてる奴も多いから、その分熱気とかが違うんだろうな。それに小中の時よりもマスコミの注目度も違うし、土日だし、家族が応援に来たりするからこれからもっと賑やかになるぞ?あ、あそこに屋台発見!」
「せ、先輩・・・。」
先輩は会場近くで営業している屋台に目を奪われ、その後顧問の先生に叱られた。
先輩の言うとおり、周りを見ればマスコミの人やどこかのスカウトマンっぽい人が見え隠れしている。
最近は修業の成果もあって人の気配を感じる技術が身について来た。
偶に人間じゃない人とかもいて、僕が気付いた事に気付いて目が合ったりもするけど、互いに害がないと分かると軽く頭を下げてすぐに別れた。
今日も辺りを見渡すと何人か人間じゃない・・・多分、聖獣らしい人が学生の中に混ざっていた。
あれ?もしかして今日の対戦相手だったりするのかな?
「タタタ・・・どうした、立花?」
「あ、何でもないです!それより、まだ集まってないみたいですね!?」
慌てて話題を逸らしたけど怪しまれなかったみたいだ。
先輩も気になってたらしく、今集まっている部員の数を数え直していた。
「補欠の2人と先鋒がまだ来てないな。バスに乗り遅れたか?」
「あ!今1人来ました!」
バス停の方を見ると、丁度今到着したバスから僕達の先鋒をやる部員がやってきた。
彼は小学校の頃から同じ道場に通っていた同級生で、中学でも一緒に剣道部に入っていた。
高校に入ってからも一緒に剣道部に入ったけど、1学期のイジメやアンドラスの事件があって以来、なんだか互いに気まずくなって話すことも少なくなっていた。
最近は僕の方から声を掛けたりもしてるけど、向こうは何だか避けているような気がする。
「・・・遅くなりました。」
「おはよう!」
「・・・おはよう。」
今日も目を合わせてくれなかった。
だけど僕は気にせず、軽く肩を叩いて励まそうとした。
「今日は頑張ろ――――――え!?」
「・・・・ああ。」
最後まで言い切れなかったけど、向こうは気付かなかったみたいだった。
だけど、その時の僕は肩を叩いた時に感じた感覚に気を取られてすぐに気付かなかった。
(今の、感覚って・・・・・・!?)
彼の肩を叩いた瞬間、僕は確かに感じてしまった。
それは、つい最近に何度も感じた事のある感覚だった。
あの感覚は忘れようとして忘れられるものじゃない。
そう彼は――――――
「補欠組揃いました~!」
「よし、会場に入るぞ!!」
「「「ハイ!!」」」
僕は周りに流されるままに足を動かしていった。
僕の視線の先では、彼が背中を向けて歩いているのが見える。
その背中は人間と同じように見えた。
だけど、だけど――――――
――――――彼は、《大罪獣》だった。




