第214話 神獣の末裔達
――勇吾サイド――福岡 某所『異空間内』――
『ガオオオオオオオオオオオ!!』
「黒。行ったぞ!」
異空間の街を走る夜色の猛獣を俺が作戦ポイントまで誘導する。
隠す気が全くない殺気が周囲の建物に亀裂を生み、さっきそのものが俺達に対する攻撃になっているようだった。
俺が目的のポイントまで誘い込むと、予め用意しておいたトラップを作動させる。
「――――拘束陣!」
『ガオオァア!?』
ポイントに仕掛けておいた罠を作動させ、敵を地面に縛り付ける。
念には念をと、幾重も重ねがけした拘束用の「術式陣」だ。
そう簡単に破られはしない!
「黒!」
『《邪を祓う神龍の息吹!!》!!』
上から無色の柱が落ち、黒い獣を飲み込んだ。
効果はすぐに現れ、獣は断末魔を上げる。
『ガアアアアアアァァァァァァァァァ!!??』
「終わりだ!」
崩壊し始める獣に、俺は布都御魂剣で一閃する。
直後、獣の体は砂のように崩れて消えた。
「・・・一応、無事みたいだな。」
獣が消えた跡に残ったのは一糸纏わぬ姿の1人の少年だった。
おそらく中学生ぐらいだろう。
『向こうも終わったようだ。しかし、今度は“虎”、毘沙門天の眷属の末裔か。』
空から黒が下りてきた。
「虎はアジアでは軍神の眷属である場合が多い。おそらく、毘沙門天の神話が日本に来た際に大陸から渡って来たかの神の眷属が人間と交わり、日本に血を残したんだろう。コイツはその子孫の1人という事だろうな。」
『やはり、奴らは対象を選んでいるか。祖に人ならざる者を持つ者の中で、その胸の内に強い闇を抱いている者を選定し、時を見計らって接触する。対象は相手の言葉に上手く誘導され、時間に個人差はあれど必ず渡された“薬”を服用する。』
「・・・鼬ごっこだな。向こうは常に被害者を増やしていき、俺達はそれの対処に追われる。元凶を叩こうにも出現場所を特定するのは難しい。因子を持つ人間が日本だけで何千万人もいるんだぞ。」
『むしろ、この世界では完全な純血の人間の方が少ない。それを理解した上で、奴らは動いているのだろう。』
俺達は「廃墟の闇露天商」事件に日々追われていた。
毎晩のように暴走して《大罪獣》になる被害者達への対処に追われ、救出してもその被害者全員が既に人間をやめて龍族を始めとした別の種族に転化し、人間には戻せない状態になっていたのでそのアフターケアにも追われた。
元凶である「廃墟の闇露天商」は一向に見つからず、厄介な事にギルドに所属している予知能力者の予
知の網さえも潜り抜けていた。
最近ではマスコミも最近急増している若者の失踪について取り上げ始め、このままだと世間の目を誤魔化し続けるのも難しくなってきていた。
この事件を逸早く解決させるには元凶を叩くしかないが、待ち伏せをするにしても露天商が標的にしている「神やその眷属の血を引く人間」は、それこそ日本だけでも数千万人にも及ぶ。
黒の言うとおり、現代日本に限らず、この世界では完全な純血の人間の方が少ない。
その為、待ち伏せするにしても標的になりうる人の数が多すぎてほぼ不可能に近い。
しかも厄介な事に、露天商の“薬”を服用したり、服用者から感染した人達は異形等を探知する魔法にも引っ掛からず、気配も普段は普通の人間とほとんど差異が無い。
今回みたいに《大罪獣》になるか、大きな事件を起こさない限り被害者を探すことも難しい。
全く、奴らは厄介な事にばかり頭を使いやがる。
「あのバカも、肝心な時にいなくなるし!」
そう、こういう何所に居るか分からない人物を探したりする時こそ、空属性を持つあのバカの能力が役に立つというのに、最初の事件以降、あのバカはことある毎に姿を消している。
そういえば、もう1人のバカの姿も最近は見かけない。
バカがセットで居なくなると嫌な予感しかしないのは俺だけではない。
『勇吾、居ない者に期待するよりも、今は目の前の事に集中すべきだ。トレンツ達の元に合流するぞ。」
「・・・ああ、そうだな。」
俺は倒れている少年を担ぎ、黒と共にトレンツ達の元へと向かった。
今回救助した被害者は総勢152名、全員が地元の中高生で獣型の《大罪獣》になっていた。
“核”を破壊して解放はしたものの、感染直後に救出した6名を除いた146人は人間ではなくなった。
明らかに後手に回っている。
「――――早く、見つけないと・・・!」
『・・・・・・。』
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――良則サイド――大阪府某所上空――
勇吾が九州での戦闘を終えた頃、僕とアルビオンも大阪での戦いを終えようとしていた。
『――――思っていたよりもしぶとい!』
『グガァァァァァァァ!!忌々しき異邦の神がぁぁぁぁぁ!!』
『“緋翼”の末裔め、我が恨みを知れ!!』
「知らないよ!!」
雲上を音速に近い速度で飛ぶ僕達を、多頭の東洋龍と三本足の烏が追いかけてくる。
まるで九頭龍王と八咫烏みたいだ。
ただし、外見だけで中身は名もなき神みたいだけど。
『―――――良則!』
「うん!」
アルビオンの合図を受け取り、僕は振り返って向かってくる2体の《大罪獣》に攻撃を仕掛ける。
「《破魔・炎凰波》!!」
『『ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!』』
僕の両手から放たれた炎の波動に飲み込まれ、2体の《大罪獣》は炎上していく。
そこにアルビオンが更に一撃を放つ。
『――――――滅せよ!』
『『―――――――――!!』』
横からの一閃、僕の炎で全身の崩壊が始まった2体を切り裂いた。
その直後、《大罪獣》は雲上で消滅し、代わりに現れた少年少女が地上に向かって落下していった。
それをアルビオンが素早く回収し、僕もアルビオンの背中に着地する。
「フウ、後は街の方の処理だけだね。あ、その前にこの人達を運ばないと!」
『それは俺がやっておこう。お前は裸の女が苦手だろ?』
「う・・・うん、お願いします。」
『しかし、氏族は違えど、同じ龍族の末裔まで利用されるとは不愉快だな。俺でもこれほどまでに怒りを覚えているのだ。他の王達も怒りを禁じ得ないだろう。特に八大龍王辺りは・・・。』
「じゃあ、この人の先祖って・・・。」
『『八大龍王』の4位、和修吉だろう。ここ数百年は姿を見ないが、確か過去に日本に来た際に子を成したと聞いた記憶がある。』
『八大龍王』、元は古代インドの龍王だったのが仏教に帰依して仏法を守護する存在になった龍族の王達だ。
存命だったらアルビオンと同世代らしいけど、前に聞いた話だともう何百年も会っていないらしい。
きっとそれなりに親しかったんだろうな。
右手に乗せた男の人を何所か懐かしむ様に見ている。
同時に、こんな事をした元凶に対して強い怒りを抱いているのも感じられる。
ここはそっとしてあげた方がいいのかもしれない。
「じゃあ、僕は地上の方に行ってくるよ!」
『ああ、人目には気を付けろ。流石に最近は警察などの目も厳しくなってきているからな。』
「うん!」
僕はアルビオンから飛び降りると、しっかりと《ステルス》を自分に掛けて夜の大都会に戻った。
こっちの犠牲者は全部で410名、その内約半数はヤクザ系の人や警察官、サラリーマン等の大人の人達で全員命に別状はないけど、残りは全員10代の若者ばかりで今までと同じで人間ではなくなっている。
この先、きっと被害者はもっと増えていく。
早く元凶である「廃墟の露天商」を見つけないと!
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――???サイド――
経過は順調、お客様達は例外なく商品をご利用して頂けているようです。
何柱かは討滅されたようですが問題ありません。
全ては計画通りに進行しています。
彼らが何をしようと、もはや手遅れなのです。
「人と人ならざる者、この世界においてそれらは決して解りあえないのが定めなのです。」
『同意する。同種同士でさえ争う狭量な者達に、異種族を認める器などあるはずがない。』
「それは歴史が証明し、今なおもこの世界の者達に語っている。」
『この世は神が手を出さずとも何れは滅びる。この世に生きる人間の手によって。』
「我らはそれを少しだけ加速させ、尚且つ有用させて頂いているのです。」
今更ですが、私達は誰に向かって話しているのでしょうね?
同僚達に見られたら脳外科医を紹介されそうな気がします。
しかし、それも無理の無い話なのです。
繰り返し言いますが、全てが順調に進んでいるのです。
追っ手達、主に異世界から来た冒険者や捜査官達は未だに我らを見つける事ができず、未だに鼬ごっこを続けているのですから。
彼らももう気付いているでしょう。
こちらには、予知捜査や監視の網を破る秘策があるということに。
そして我ら、世間では「廃墟の闇露天商」と呼ばれる者が一個人ではなく、我々3組のチームを指しているということに。
「では、今夜も行くとしましょう。」
『夜の町に?』
「ええ、光が照らす昼よりも、闇に包まれた夜にこそ上客に出会えるのです。」
「そう、人の世に絶望した神の血に。」
『人を捨てたいという欲望に。』
「そのような者達こそ、我らの客になる資格を持つのです!」
「『そうなんだ~!』」
「フフフ・・・・・・。」
『フハハハハ・・・!』
「『ハハハハハ!』」
笑いが止まりません。
私以外の彼らも同じよ・・・う・・・・・・で?
「え?」
『誰だ?』
「え、何、どうしたの?」
『誰かいるの?』
「あなた達のことです!!」
バカな!?
何故、何故ここに部外者がいるのです!?
しかも、何で平然とくつろいで私のいれた紅茶と焼いたお菓子を食べているのですか!?
は!!これはまさか、組織に伝わる忌まわしき黒歴史と同じ展開では・・・!?
『名乗れ!!』
「――――百界を渡り、数多の神格と拳を交えし勇猛果敢!護龍丈!」
『――――悠久の時を受け継ぎし白銀の王!名を、銀洸!』
「『――――推参!!(シャキン!)』」
・・・・・・・・・・・・・・。
何ですか、あれ?




