閑話
本編にはそんなに関係の無い話です。多分。
――元ホームレスのおっさんサイド――
ここでの生活には大分慣れてきた。
ほんの2ケ月前まで公園でホームレスをしていたのが嘘のようだ。
あの日、妙にテンションの高い少年の勢いに流されてやってきた不思議な世界。
正直、最近の若者の話題には疎かったのでこの手の話を理解するには時間がかかった。
少年はこのまだ未開拓の世界を開発する為の人手が必要だと、私を始めとした大勢のホームレスを住居や食事、保険や有給などもしっかりと付けて雇ってくれた。
町には私達以外にも元ホームレスの住民が住んでいた。
彼らは名古屋から来たらしく、すぐに打ち解けあえた。
そこで知ったのだが、あの少年は関西に拠点を置く大企業、『飛鳥グループ』創設者の孫らしい。
まさかのホームレスから大企業系列への再就職だった。
最初の仕事は農作業と資材運搬、土木工事、設備の点検や設置、土地調査等の中からそれぞれ選んで行われた。
私は各設備の設置業務を選び、《ガーデン》内の通信設備の設置をしていた。
無職になる前は地元の小さな会社で同じ仕事をしていたので慣れるのは早かった。
それでも最初の頃は初めて見る異世界の技術に戸惑ったが、基本構造が同じだったことと、初日に研修が行われたのですぐに理解できた。
「お疲れさま~♪みんな大好き、お給料タイムだよ~!!」
半月が経ち、待望の給料日が来た。
さすがに最初の月は安いと例の少年は言ったが、それでも資格手当が付いて19万円だった。
その晩は宴会になり、久しぶりに酒に酔い潰れた。
「今日から残業があるよ~!手当はあるから頑張ってね~♪」
翌日から急に仕事が増えだした。
《ガーデン》内だけだった仕事が、その日から外、つまり日本各地まで範囲が拡大した。
どうやら異世界から来る人達が利用するオフィスや住宅を用意する仕事が舞い込んだそうだ。
その中でも「冒険者ギルド」という組織関係の仕事が多く、毎日東京や名古屋、札幌や仙台、福岡など日本全国を回る大仕事になった。
その分、残業手当も付くし、仕事の後の一杯が旨いから文句はないが♪
「今日から住民が一気に増えま~す!!」
《ガーデン》の住民が一気に増えた。
主に異世界からの転勤者で、異世界の戸籍が使えない方々にとって《ガーデン》は住居を構えるのに打って付けだった。
元々、この《ガーデン》の創造そのものが非常識な行為、例えるなら公海上にいきなり人が住める島を造る様な行為だったそうだ。
下手をすれば領土問題に発展しかけない愚行だったそうだが、そこは平和的に行われた政治によって解決したらしい。
その結果の1つが異世界人の日本での活動の際の生活拠点としての利用らしく、《ガーデン》には毎日新しい住人が異世界からやってきた。
その為、《ガーデン》には――元調理師や元板前だった元ホームレスが経営する――居酒屋を始めとする飲食店や――元コンビニ店主が経営する――商店等が急激に増えていった。
「あ!そうそう、住宅販売や賃貸も本格的に開始したよ♪」
仕事が増える一方で、雇用者である少年は住宅の安売りも販売を開始した。
元は《ガーデン》を想像した際に魔法を使って勢いで一緒に創ったという量産型の一戸建て住宅を安価で販売を開始したのだ。
最初は「それなら(建築関係は)全部魔法でできたのでは?」と多くの者が疑問に持ったが、それほど単純ではないらしい。
解り易く言えば、魔法で造った物は量販店で売っているような大量生産品で、低コストで簡単に量産できるが耐久性や細かいデザイン、匠の技による気配りなどが出来ない代物ということだ。
欠陥住宅ではないが、あくまで普通に暮らすのには困らない程度の設計になっているらしい。
その為の安価による販売だったが、私達は皆独身か離婚して1人暮らしの者ばかりなので希望する者は少なかった。
例外として、私より先にここに住んでいる元ホームレスの男性の1人が別れた元妻が連れて行った娘と一緒に暮らす為に購入したケースがあったが。
9月も中旬になりかけたある日、この日も私は同僚と共に仕事を終えて久しぶりに外での夕食をとっていた。
外食と言っても今は貯金を貯めていきたいので値段の手頃な洋食屋での食事だった。
私は生姜焼き定食を食べながら店内に設置されているテレビのニュースを観ていると、首都圏のニュースで連日10代の少年少女が失踪する事件が報道されていた。
『――――現場には争った形跡があり、警察は何らかの事件に巻き込まれたとみて捜査を開始した模様です。なお、行方不明になった少年達は現場付近を拠点にしている指定暴力団「〇☓☓会」とのトラブルがあったと――――』
現場の映像を見た瞬間、私は2年以上も前に離婚した妻と妻が連れて行った子供達の顔を思い出した。
当時の私は勤めていた会社を世界的な不況で倒産してしまい、先を危惧した妻に離婚届けを突きつけられ、反論もできずに判を押してしまった。
当時中学生だった長女と小学生だった長男と次男とはそれ以来会っていない。
そして、今まさにテレビに移っているのは別れた家族が暮らしている筈の街、というより近所だった。
嫌な予感がした私は2年ぶりに別れた妻に電話した。
携帯の電話番号が変わっていない事に安心したのも束の間、電話の向こうから聞こえてきたのは枯れた声で泣く元妻の声だった。
『うぅ・・・子供達が行方不明になって・・・!!』
「何だって!?」
嫌な予感は当たっていた。
テレビで報道されていた事件で行方不明になっていたのは私の子供達だった。
私は一緒にいた同僚の了解も得て元妻の元へ行き、そこで私は元妻が再婚していた事を初めて知った。
だが、それがキッカケで子供達が全員捻くれてしまい、危ない友人達と付き合い始めた挙句に今回の事件に巻き込まれて行方不明になったらしい。
警察は暴力団絡みの事件とみているらしく、最悪の状況も覚悟した方がいいと言われたそうだ。
話を聞いた私はショックを受けたまま《ガーデン》へと戻り、1人呆然としながら夜の広場で座り込んでいた。
2時間ほど経った頃だろうか、急に辺りが騒がしくなり、深夜にも拘らず急に大勢の人があちらこちらを行き来する光景が見え始めた。
さらに数分後、私の雇用主である例の少年が手を振って私の元にやってきた。
「お~い!オッチャン、ちょっとカモ~ン!!」
「?」
私は少年に腕を引っ張られ、大勢の人々が集まっている街の郊外へと行くと、そこには大勢の裸の少年少女達が地面に座り込んでいた。
正直、顎が外れそうな気分だった。
周りでは仕事で面識のある「冒険者ギルド」の職員の姿もあり、タオルや衣服を配ったり、炊き出しなどを行っていた。
「イヤ~、新しい事件を追っていたらオッチャンの子供、全員人間やめてた!テヘ♪」
「・・・・・・?」
すぐに意味が理解できずにいると、私の視界に見覚えのある顔が3つ入ってきた。
3人とも全身をタオルで覆い、顔を真っ赤にしながら困惑している様子だった。
すると、向こうも私に気付いて同時に驚いた顔で声を上げた。
「と、父さん!!??」
「え、何でここに!?」
「ええええええ!!??」
私も何が何だか分からず声を上げて驚いた。
かくして、私は約2年半ぶりに別れた子供達と再会を果たしたのだった。
《ガーデン》の住民は日々増加しています。
責任者は大忙しです。




