第207話 大口真神
――バカサイド――
むか~し昔、マジで大昔のこと、
ある所に狼の爺さんが棲んでいました。
狼の爺さんは地元の人間はバックバック喰いまくり、地元の皆さんはビビってしまいました。
地元の皆さんは狼の爺さんの獰猛さに完全に恐れてしまい、それ以来、狼を神様として祀るようになりました。
狼達は田畑を荒らす鹿や猪達をバックバック食べまくり、何時しか農民達から多大な信仰を集めました!
そして、日本で狼の神様は山の神だけでなく、害獣から田畑を守る農耕の神としても信仰されました。
狼の神様は後に『犬神』、または『真神』、『大口真神』と呼ばれましたとさ♪
またある所に、日本武尊という神様の血を引く兄ちゃんがいました!
ヤマトタケルは今の関東を征服する為にとある山を通過しようとしますが、そこにダークネスな神様が襲い掛かり、ヤマトタケルは神様を殺っちゃいましたが、直後に山火事になって皆山から逃げられなくなりました。
そこに2匹の狼(大口真神)が現れ、全身をシャイニングさせながらヤマトタケル一行を無事に避難させてあげました。
それ以来、大口真神は山や農耕の神だけでなく、火災盗難除けの神様としても祀られました。
ちなみに、これは現在の東京のお話だ。
大口真神は呼び方は違えど、日本でもメジャーな神様になりました。
しかし、文明開化とともに信仰は一気に大暴落!
日本にやってきた西洋人が「狼=悪デス!日本の皆さんも狼殲滅しようデス!」を広めてしまい、日本狼はオールデス!!
日本の狼信仰も一気に衰退していきましたとさ。
BAD END!
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「――――と、いう訳だ!」
『ノリで内容が台無しじゃねえか!!』
「え~~~~!?」
一生懸命説明したんだけどな~?
まあ兎も角、真神こと大口真神に関する説明はこんなところだ!
元々は北海道と沖縄以外の日本各地で信仰された山岳神兼農耕神だったけど、100年前に日本狼が絶滅してから一気に信仰が減ってしまい、今じゃマイナーな神様になってしまったんだ。
それでも大きな神社とかでは今も大事に祀られているんだけど、大手の神様と比べるとな~。
蒼空とアルントが知らないのも無理もないな。
俺は知ってたけど♪
「そういう訳で、お前達は怪しい薬でご先祖様の『(大口)真神』の血が覚醒しました!ついでに怪しい薬の中に一緒に入っていた色んな物も混ざっちゃって、B級モンスターになっちゃいました!兄ちゃん狼くん、君は詐欺師にまんまと騙されました!終わり!!」
『??????』
あれ~?
ちゃんと説明したのに、伝わらなかったのかな?
「あ~、何か分からない点とかあった?」
『……先祖が神とか狼とかが信じられねえ。』
「狼になっておいて、それを言う?」
『…………』
ん~~?
ファンタジー知識が足りないと理解は難しいのか?
「言っとくけど、世界的に見ても狼を先祖に持つ人間の一族とかって結構メジャーだぞ?」
『は?』
しょうがない、もう少し授業を続けるか。
余計な邪魔が入らなければいいんだけど。
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――蒼空サイド――
調べ物を終えた俺はPSを1枚だけ残し、他を全て閉じた。
真神――――人語を話し、人間の善悪を見破る事ができる神、時には悪人を天に代わって裁くという伝承もあるようだ。
調べてみたらかなり広い範囲で信仰されている。
何故今まで気付かなかったんだ。
それはさておき、俺は大暴れしたアルントに負け、風の檻に拘束されている司の方へと視線を向けた。
『グルルルルルルル……!!』
『ハア、思った以上の暴れ狼だな。少しは大人しくしてくれないか?』
拘束されても反抗心を緩めない司に対し、アルントも少し困っているようだ。
司の全身には相変わらず禍々しいオーラが溢れだしている。
だが見たところ、司の体には《大罪獣》の“核”らしき物は見当たらない。
その事から推測できるのは……。
「河西、お前が最初の感染者だな?」
『………』
「沈黙は肯定と判断する。河西、お前の眼には、俺は何色に映っている?お前達兄弟を苦しめた連中と同じ色か?」
俺の質問に対し、司は首を横に振った。
おそらく、司の眼は生まれた時から先天的に発現したものだ。
先祖返りで発現したそれは人の善悪、言葉の真偽を色で視認し、彼らの意志に関係なく他人の本性を見
破ってしまう。
それは子供の心にとっては負担が大きく、人間不審に陥る火種になってしまう。
「俺の連れがお前達の傷を抉った事は俺からも詫びる。だけど聞いてくれ。俺達はお前達の敵じゃない。お前達を助けに来たんだ」
『う……嘘―――――――』
「嘘じゃないのは分かる筈だ。少なくとも、俺は今、お前に嘘は言っていないし、敵じゃない。」
『う、五月蠅い!!人間の言う事なんか信じられるか!!』
拒絶の意志は未だ強いが、僅かに綻びが見え始めている。
司の眼は俺に対する敵意に染まっているが、同時に助けを求めるような、凄く悲しい眼をしていた。
あの悲しい眼、あれと同じ眼をした奴を俺はよく知っている。
「……お前の大好きな兄も、元は人間だ。お前は、人間だった頃の兄を信じていなかったのか?」
『違う!!』
「お前が人間を信用できない理由は予想がついている。だが、賢いお前なら薄々気付いている筈だ。今の仮初の自由は長続きしない。兄弟2人だけで生きていけるほど、現実は甘くない」
『五月蠅い!!兄さんなら絶対に成功するんだ!アイツラみたいな汚い大人のいない、優しくて自由な僕達だけの居場所を!!』
居場所か。
司のあの眼、あれは本気で居場所を求めている眼だ。
「それで、居場所は得られたのか?」
『こ、これから……!』
司の口調が揺らぐ。
目的と意志は本物だが、現状に対する自信は脆いようだな。
このまま確実に意志を崩していくのも可能だが・・・少し話題を変えよう。
「河西、今のお前の夢は何だ?」
『え?』
「毎年、学校が学年毎に作る文集の中で、お前は毎回将来の夢や憧れる職業は常に検事と書いていた。あれはお前の本心か?」
『違う!!あれはアイツラが、アイツラが無理矢理書かせたんだ!!あんなの僕の夢じゃない!!』
「なら、お前の本当の夢は何なんだ?自由になることや、居場所を作ることだけで終わりなのか?」
『違う!!僕の夢……は………』
司は大声で答えようとして言葉に詰まった。
俺もアルントも何も言わずに待っていると、司の全身を覆っていたオーラの勢いが次第に緩み始めた。
『僕…僕の夢……夢……夢…は……!?』
動揺が表情に現れ始めている。
司は気付いたようだ。
自分には、達成したいと望む目的、夢がないとということを。
いや、既に達成されていると言った方が正しいだろう。
彼はずっと家族から解放される事を、自由になる事だけを夢見、そして人間をやめることでその夢を叶えた。
居場所を作りたいというのは本当だろうが、それはきっと彼自身の夢ではなく、彼の兄、河西一秀の夢であり、今の彼には“自分の夢”と呼ぶべきものは何もない。
その事に、彼は俺の質問の答えを考える事で気付いたのだ。
『あ……ああぁ……!』
司の声が涙声になってくる。
もはや、俺達に対する敵意は感じられない。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』
まるで幼い迷子のような泣き声が、異空間の夜空にまで響き渡った。
『蒼空、一応、バカの所にはこっちの声だけ届かないように風で遮断しておいた。』
「ああ、助かる。この泣き声を聞かれたら、一秀は頭に血を昇らせて襲いかかってきただろうからな。」
俺は気を聞かせてくれたアルントに礼を言い、司が泣き止むのを静かに待ち続けた。
だが数分後、事態は悪い方へと急変する。
・ちなみに、ヤマトタケルを助けた大口真神は2匹だったそうです。
・大口真神→大神→狼となったと言われています。




