第202話 都市伝説
・一時的にペースが上がったので久しぶりに連日投稿です。
――蒼空サイド――
それは9月に入り新学期が始まった頃、勇吾達が北海道で慎哉の出生や連続変死事件の調査をしている時の事だった。
その日は普段通りにブラコンを振り切りながら龍星と登校し、久しぶりに会う同級生と軽く挨拶をしていった。
お約束と言うべきか、中には宿題を家に忘れてきたり、堂々とサボるバカが何人かおり、こ
れまたお約束と言わんばかりに担任に怒られていた。
始業式が終わり、10分ほどの休み時間になると俺以外の児童達は夏休みの思い出を話し合ったり土産物を配ったりしていた。
俺も周りから何処に言ったのかと訊かれたが、さすがに異世界と答える訳にはいかないので適当に誤魔化した。
そして休み時間が終わろうとした時、その話は俺のすぐ前の席から聞こえてきた。
「だから絶対UMAだって!」
「見間違いだろ?」
「本当に見たんだって!アニソンを歌う銀色のドラゴンを!」
「――――ッ!?」
思わず吹き出しそうになった。
あのバカ龍王、何目撃されているんだ!!
まさかこんな所で普段から何を考えているのかわからないバカの話を聞くとは思わなかった。
「お前って、本当にUMAとかオカルトとかって好きだよな?夏休み中も都市伝説とか追いかけてたのか?」
「そうしたかったんだけど、夏休み前の事件とかで自由に外出が出来なかったんだよ。内の親なんか、まだ気にしていて「寄り道するな!」って言ってるんだよ。だから盆の家族旅行以外はほとんど家の中でネットでしか調査できなかったんだよ。」
「お気の毒♪」
『幻魔師』の起こしたあの事件は未だに横浜の住民達に深い傷跡を残しているようだ。
当然だ。
それが奴の現れる所には常に残す定番の置き土産なのだから。
「で、何か面白そうな話とか見つかったのか?」
「ふっふ~ん♪それが予想以上に豊作だったんだよ!今年は何故か世界中から怪現象とかの書き込みが多くて、ネットの中は大盛り上がりだったよ!」
「へえ、そんなに多かったんだ?」
「そうなんだよ!海外じゃ天使や悪魔の目撃例も多くて面白かったけど、日本でも色々な怪現象とかの書き込みが多かったんだよ!」
・・・嫌な予感がする。
最近の日本での怪減少関係にはかなりの確率で俺の関係者が関わっている可能性がある。
勇吾達なら事後処理などもやるだろうが、問題はあのバカコンビだ。
碌でもない都市伝説を残しているに違いない。間違いなく。
「――――でさ、中でも新しいのが『廃墟の闇露天商』なんだよ。東京や大阪で話題になってるんだけど、横浜でも見た人がいるらしいんだよ!」
よくある都市伝説か。
ほとんどが与太話だが、中には“こちら側”の事件も混ざっている。
俺達の情報網に引っ掛からない話も少なくないから油断ならない。
「『廃墟の闇露天商』?何だそれ?」
「噂が流れだしたのは1週間位前なんだけど、街の廃墟ビルや人気のない路地裏を歩いていると怪しい露天商に声をかけられるんだってさ。」
「それ、只の不審者じゃないのか?」
「違うんだって!その露天商は声をかけられた人にしか見えなくて、一緒にいた人には声も聞こえないんだよ。そして声をかけられた人は決してその露天商から逃げる事が出来ず、露天商が差し出した商品を受け取るまでそこから動く事が出来なくなるんだってさ。」
キーンコーンカ-ンコーン!
始業の予鈴が鳴り、他のクラスメート達が次々に自分の席に戻っていく。
前の席で話していた2人も話をそこで一旦止め、聞いていたの方は担任が来る前に自分の席へ戻っていった。
俺は新しい都市伝説の情報を頭の片隅に記憶し、目の前の事に意識を切り替えた。
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放課後、これといった用事もないので真っ直ぐ帰宅しようとした時、俺の前を都市伝説好きのクラスメートが前を歩いているのに気付いた。
彼はあの時と同じ別のクラスメートと並んで歩いていて、休み時間の時と同じように最近ネットで話題になっているという都市伝説の話で盛り上がっていた。
「―――――――でさ、富士の樹海でケルベロスを見たって噂が載ってたんだよ。流石にそれはガセだろうってことになってるけど。」
「国が違うだろ。ケルベロスって確か・・・イギリスの話だろ?」
(ギリシャだ!)
「違うって、イギリスじゃなくてギリシャの怪物だよ。甘党で焼き菓子を与えると襲ってこない地獄の番犬なんだ。」
「それ、番犬失格じゃないのか?」
などという話が数分間続き、靴を履き替えて外に出ようとしたところで不意に聞こえてくる話の内容が変わった。
「そうそう、昼前に話した『廃墟の闇露天商』の話なんだけど、3組の河西の兄さんも遭遇したらしいよ?」
「本当か?河西って、確か結構金のある家の奴だったよな。親が政治家とか、兄弟揃って英才教育を受けてるとかっていう?」
「それ!直接訊いた訳じゃないんだけど、昨日、街外れの廃ビルの近くで怪しい露天商に会ったらしいんだよ。河西と同じ塾に通ってる加藤が、数分間棒立ちしたままの河西の兄さんを帰宅途中に見たって言ってたんだ。」
「それだけじゃ、その露天商に遭遇したか分からないだろ?」
「本人から聞いたらしいよ?その後、放心状態だった河西の兄さんに加藤が話しかけると、河西の兄さんはパニくって工藤に「今の見た!?」とか、「何、あの鳥!?」とかって言ったらしいんだ。だから間違いないよ。『廃墟の闇露天商』は客に商品を渡すと、突風とともに消えるらしいんだ。そしてその際、客になった人は不気味な鳥を目迎するらしいってネットに乗っていたんだ!」
「へえ~!」
3組の河西か・・・。
何度か会った事があるし、確かあいつの兄はうちのブラコンと同じ私立中学に通っていたはず。聞いた話だと、どうも人間関係で苦労しているらしいが・・・。
しかし、この街でそんな都市伝説の目撃例が出ているとはな。
この街には『幻魔師』の一件以降、以前にも増して強い結界を張っているからそういった怪異等は基本的に発生し無い筈なんだが・・・。
街外れの廃ビル、それがどの廃ビルを刺すのかは不明だが、俺の結界の境界のすぐ外にも何ヶ所か廃ビルがあったはずだ。
まだその都市伝説が本当かどうかは不明だが、俺の結界の外で起きているのなら安易に否定する事は出来ないな。
只でさえ、最近は色々と表沙汰にできない事件が世界中で発生しているのだからな。
「で、その露天商は何を客に売ってるんだ?」
「ネットじゃ色々憶測が流れているけど、自分も遭遇したって人の書き込みが幾つかあったんだ。それによると、その露天商は“人間をやめる薬”を売ってるらしいんだよ。」
(――――――――何!?)
俺は思わず声に出しそうになった。
“人間をやめる薬”、その言葉に俺は聞き覚えがあった。
(まさか・・・・・・!)
「何じゃそりゃ?」
「言葉通りの意味じゃないかな。書き込んだ人も、それ以降は一度もネットに出て来なかったし、みんなガセだろうって言ってるけど。」
謎の露天商の話をそれ以上聞く事はなかった。
前を歩く2人は別の話題に移り、校門の前で俺の家とは反対の方向へと行ってしまった。
呼び止めて詳細を聞く事も出来たが、下手に彼らを“こちら側”も巻き込むリスクを起こす訳にはいかに。
俺達に関わらず、今まで通りの日常を過ごす事ができるのならそれに越したことはない。
俺は駆け足で自宅へと向かい、『廃墟の闇露天商』について調査を始めた。
(お前が動いているのか――――――――シャル!?)
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――???サイド――
良い気分だ。
こんな解放感に包まれたのは何年ぶりだ?
いや、生まれた時から束縛されていたんだからこれが初めてだな。
ああ、なんて良い気分なんだ♪
「ヒ、ヒィィィィィィィ!!!!」
「あ、あぁぁぁ・・・や、やめろ・・・・!!!」
ハハハ、イイ面で怯えてやがるな、アイツら?
何時もは散々デカい面をしていた癖に、軽く脅かしただけでこのザマだ!
馬鹿馬鹿しい、何で俺は今までこんな連中にビビっていたんだ。
少し前までの自分が情けなくてしょうがねえ!
けど、今はそれ以上に爽快な気分だ
「や、やめてくれ!悪かった!今までの事は謝るから・・・!!」
今更遅いんだよな~♪
普段は善人面して周囲を味方に付け、その裏では別人みたいに好き放題他人から甘い汁を啜りながら快楽に溺れていた奴が、自分の身が危うくなった途端に命乞いなんて遅すぎるんだよ。
お前らは今日から俺に甘い汁を捧げる為だけに動いてもらうからな!
「キャァァァァァァァァァァァァ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハハハハハ!!
さあ、これでお前らは人間ではなくなった!
今日からお前達は俺に重々な奴隷、餌を集め敵を狩る牡犬と俺を喜ばせる牝犬だ!!
「「「・・・・・・・・・。」」」
ハハハハハ!!
ああ、コイツらが完全に転化するのが楽しみだ!!




