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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第12-1章 大罪獣編Ⅰ――神憑き――
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第201話 捨てた居場所 後編

・プロローグの後編です。

――現在――


 夏が終わり、季節は秋を迎えようとしていた。


 もうすぐ秋大会が始まる。


 僕は毎日部活に通い練習に励んでいた。


 周りからは“彼”と同様に期待され、既に団体戦のメンバーにも決まっている。


 だけど、僕の中には開いた穴は前よりも大きく、そして深くなっていた。


 “彼”とは元の関係に戻った。


 あくまで形だけは・・・。


 だけど、それでも何もかも元通りの関係には戻っていない。


 変わってしまったのだ。



「―――――これ、例の土産だ。剣道部の連中と食べろよ。」


「うわ!“〇い恋人”に“じゃが〇っくる”!こんなに買ってきたんだ!?」


「あいつらの何時ものノリに巻き込まれたんだよ。ほとんど勢いで浪費させられてしまってさ、とても2人じゃ食べきれない量になったんだよ。」


「・・・どれだけ買ったの?」


「アイツの食い気を想像しろよ。そう言う訳だから、お前も片付けるのを手伝え!」



 “彼”が楽しそうに立ち話をしている。


 相手は2ケ月前までイジメの主犯格だった生徒だ。


 嘗て僕が立っていた場所に、“彼”を苦しめた男が立っている。


 あの事件以降、僕は夢でも見ているかのように親しくなっている2人の姿を見てきた。


 何故、どうして――――――!?


 僕は答えの出せない問答を頭の中で繰り返していった。




 僕は唯一の止まり木を失った。


 僕が唯一安らぎを得られた止まり木はあの男に奪われ、僕は当てもなく彷徨い続けた。


 もう、僕が居場所は何所にも無かった。


 いや、無ければ作れたのかもしれない。


 “彼”に一言伝えればまたあの心地よい場所に居られたのかもしれない。


 だけど出来なかった。


 “彼”を拒絶したことに対する罪悪感が口を塞ぎ、“彼”に拒絶される事への不安と恐怖が足を硬直させて地に縛り付ける。



――――僕は必要とされているのか?


――――“彼”にとって、僕はもう不要なのではないか?



 胸に開いた穴の奥から声が聞こえてくる気がした。


 それは今まで胸の奥に隠し続けてきた言葉の数々だった。



――――許されるはずがない。


――――僕は保身の為に“彼”を拒絶した。


――――謝罪だってしていないのに元に戻れるわけがない。


――――“彼”にとって僕は憎むべき敵だ。


――――結局、僕はあの家の中(・・・・・)で・・・・・


――――僕に居場所なんか最初からなかったんだ。


 無限のように聞こえてくる自分の声に耐え切れなくなった僕はその場から逃げ出した。


 何所に向かって走っているのか分からない。


 ただ、あそこから居なくなりたかった。


 いや、それ以前に居たい場所なんかもう残ってはいないんだ。



――――“彼”の近くにはもう居られない!


――――あの家には帰りたくない!


――――この街には居たくない!


――――もう、消えてなくなりたい!!



 それは俗にいう「自殺願望」だった。


 僕は自分が今何所にいるのかもわからず走り続けた。





「―――――やあ、そこの少年?」





 気付くと知らない人物に声を掛けられていた。


 生気が薄れた生ける屍のような顔で振り返ると、古い空きビルに挟まれた路地裏にある奇妙な露天商の姿が目に入った。



「・・・・・・。」


「絶望したその目、成程面白い♪」



 既製品のコートを着た露天商の男は笑顔で僕を見つめてきた。



――――どうでもいい。



 大方、未成年者を狙った違法販売でもしているのだろう。


 そうでなければ、こんな人気のない場所に店を開くなどまずありえない。


 僕はすぐに背を向けてその場から離れようとした。



「――――少年、居場所を失って、消えたくなったのかい?」


「――――――!!」



 背を向けたまま僕は足を止めた。


 心の中を見透かされたからではない。


 心を、魂を、文字通り鷲掴み(・・・・・・・)にされたからだ。


 それは錯覚だったのかもしれない。


 だけど、確かに僕は不可視の手に掴まれたかのようにその場から動く事が出来なかった。



「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいい。俺は必要としている人に必要な物を売るだけの、どこにでもいる普通の露天商(・・・・・・)さ。」


「――――――――――ッ!」



 まるで自分ではない何かに全身を乗っ取られたかのように、僕の体は僕の意志に反して露天商の方へと向き直った。


 露天商の男は笑顔を崩さずに僕と視線を合わせ、“ある物”を僕に差し出してきた。



「少年、これも何かの縁だ。安くするから買っていかないかい?」


「――――――!?」


「なあに、少年にとって損の無い商品さ。これを飲めば、少年は解放される(・・・・・)。」



 僕は露天商の声と笑顔に恐怖を感じていた。


 それなのに、僕は知らない内にその言葉から耳を放すことができず、露天商の男が差し出した(栄養ドリンクに似た)1本の小瓶に視線を奪われていた。


 僕の声が大きく揺れ動いていた。


 まるで悪魔に取引を持ちかけられているような誘惑に、僕は頭では拒絶しようとしていても心では甘美な誘惑に抵抗できずにいた。


 そして、露天商の男は次の一言で僕を決して後戻りできない場所へと突き落とした。



「――――少年、人間をやめて(・・・・・・)みないかい(・・・・・)?」



 僕は、その誘惑に負けてしまった。








・突然ですが、しばらく主人公の出番なしです。というより、今章は主人公の影が薄いかもしれません。


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