第198話 冬弥の日常 後編
――――16:15 本屋
本屋に神がいた!
比喩じゃなくてマジで神様がいた!
見た目は族っぽいというか、そっち系の派手な格好をしたオッサンだけど俺の全身の細胞が目の前にいるのが神だと報せてくる。
「・・・・・・・・・。」
しかも俺が買いたい単行本が置いてある場所の前に立っているし。
(誰だよ、このあっち系のオッサンみたいな神様は?)
「スサノオだ。」
(心読まれた!?)
超有名な神様でした!
それにしても、端から見たら普通に現代のそっち系のオッサンにしか見えないな。
「ホウ、ライの奴から聞いてはいたが、確かにホロケウの奴に似てるな?」
「ド、ドウモ、ハジメマシテ・・・。」
ヤバ、緊張して口が上手く動かせない。
「ハハハ!何もしねえからそんなに緊張するな!しっかし、やっぱ親子だな。色々そっくりだぜ!」
スサノオ様は俺をジロジロと見ている。
まあ、顔だけは似ているけど。
「顔だけじゃねえよ。そういう、普段はノリで問題を解決する癖に自分の事になると難しく考えすぎちまうところも奴にそっくりだ。」
「・・・・・・。」
「お前も奴の事なんか軽く親父だと思ってればいいんだよ。俺らの間じゃ、生まれ方なんか気にするだけ無駄なんだよ。俺なんか、親父が鼻を穿ってる時に鼻の穴から生まれたからな!」
「え?」
「俺以外の連中なんか、血とかゲロとか、中にはチ〇コやウ〇コから生まれた奴もいるんだぜ?親が沢山いる奴だって少なくねえ!それに比べたらお前なんか数百倍マシな生まれ方をしてるよ。単純に考えとけばいいんだよ!」
スサノオ様はガハハと笑いながら俺の背中を何度も叩いた。
何も考えていないような喋り方だけど、不思議と力付けられるような感じがするな。
もしかして、神様は言葉にも力があるのか?
「俺なんか姪とかと近親婚しまくったりしているけど気になんかしてねえぜ?」
「そこはしろよ!」
「お!ツッコみができるくらい余裕が出てきたか?」
思わずツッコんでしまったな。
そういえば、神様ってどの国でも近親婚が多いんだっけ?
「ま、とにかく前向きに生きろよな♪っと、姉ちゃん会計頼むぜ?」
そしてこの神はマンガやラノベを10冊以上買って本屋を後にした。
俺に会いに来た訳じゃないのか?
――――17:00 自室で勉強
「――――ってことがあったんだよ。」
「うわあ、お前も面倒な神様に顔を覚えられたな。俺らなんか、名古屋で好い様に利用されたんだぜ?」
「マジかよ・・・!」
家に帰宅した俺は今日も東京から来ていた慎哉と一緒に受験勉強をしていた。
雑談の方が多いけど。
まだ検討の段階だけど、俺は東京の高校を目指そうと思っている。
慎哉も俺と同じ高校を受験しようと考えてくれている。
「でさ、ここの証明ってどうやんの?」
「ええと、そこは~。」
だから雑談もしているけどちゃんと勉強だってしている。
俺も慎哉も頭は普通より上くらい良いみたいだから真面目に頑張れば名門の進学校にも合格できるだろうって勇吾達は言ってくれている。
嬉しいけど、飛び級で大卒済みのあいつらに言われてもあんまり嬉しくないのは俺だけか?
「「うわあ、英語の長文訳すの面倒臭え~~!」」
偶に愚痴を零しながらも俺達は真面目(?)に受験勉強を続けていった。
――――19:55 夕食後
慎哉は夕食前に帰って行った。
母さん達は食べていってほしかったみたいだけど、慎哉の住んでいる北守家にはまだ事情を知られていないからと遠慮していった。
ちょっとガッカリしながら夕食を済ませ、弟の健太と一緒にテレビを見ていた。
「――――ちょっと!このゴルフクラブ、何時買ったのよ!?」
「・・・バーゲン品だ。東京は安い店があっていいよな・・・?」
「ふざけないで!」
後ろで親が喧嘩していたけど俺達は気にしない。
俺はテレビの超常現象&怪奇現象特集を見ていた。
『――――天罰か!?雷の鉄槌を落とす謎の怪鳥!!』
・・・・・・。
テレビの画面には詐欺集団に雷を落とした謎の怪鳥の再現映像が映っている。
おい、まさかこれって・・・?
「うっ・・・・!?」
「おい!どうした!?」
ん?
振り向くと、母さんが口に手を当ててしゃがみこんでいた。
病気か!?
「だ、大丈夫か!?」
父さんが慌てて母さんを支える。
何だ!?食中毒!?それとも別の病気か!?
「へ、平気・・・・・。多分、デキたみたい・・・♡」
「「は!?」」
俺と父さんは揃って間抜けな顔をした。
その直後、テレビでは次の怪現象の話に移っていた。
『――――神の御利益!?不妊症の女性が奇跡の妊娠!!』
それは不妊症が悩んでいた女性の夢枕に複数の神様が現れ、その翌日に奇跡的に自然妊娠したという話だった。
女性は、御利益があるという埼玉県の某神社に何度もお参りしていたらしい。
だが、その時の俺の耳にはMCの声は届かず、後になって健太から聞く事になるのだった。
――――23:00 就寝
あの後、祖父さんや祖母さんも巻き込んでの大騒ぎになった。
俺は健太から聞いたテレビの内容から原因をすぐに突き止めてすぐに慎哉と勇吾に連絡し、俺の予想は即肯定された。
その後は電話越しで慎哉と大いに盛り上がり、気付けば深夜になっていた。
「ふう、今日はもう寝るか。」
下では父さんと爺さんが酒のボトルを開けてまだ盛り上がっている。
あれは明日も胃がもたれるな。
「・・・いい夢見れるといいな。」
そういえば、あの事件が終わってから“あの夢”はすっかり見なくなっている。
元々、あの夢は神様からの警告だったみたいだし、事件が終わった今じゃ必要がなくなったってことなんだろう。
お蔭で最近は夢を見るのが少し楽しみになっている。
内容が分かっている夢よりも、内容が分からない夢の方が断然楽しみだからな!
「消灯っと!」
俺は部屋の電気を消し、毛布を被って目を閉じた。
こうして俺の1日は終わった。
――余談――
翌日、俺の家に早くも懐妊祝いが届いた。
住所はバラバラだったが、差出人の名前を見て俺は言葉を失った。
差出人欄に書かれていたのは、全部神様の名前ばかりだった。
中身は高級品ばかりだった。
後日、慎哉から某神様が自宅謹慎を受けたと知らされた。




