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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第3章 アンドラス編
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第18話 黒王の言葉



「―――――行くぞ。」



 闇に沈みそうになる意識を覚まさせたのは勇吾の声だった。


 頭を上げると、そこには手を差し伸べる勇吾の姿があった。



(アンドラス)はおそらく今も動いている。これ以上犠牲が出る前に決着をつけるぞ!」



 お前が責任を取れ、と言われているのかと思った。お前のせいで関係のない人間まで殺されたのだから――――と責苦を受けるのかと思った。


 だが、返ってきた言葉は責苦ではなかった。



「ついでにお前のイジメも今夜中に片付けるぞ!」



 意味が分からなかった。


 イジメを片付けるなど意味が分からない。無理に決まっている。少なくとも今夜中に片付けられるような簡単な問題じゃないと、琥太郎は勇吾の正気を疑った。

 


「勘違いするな。俺達は俺達の目的があってアンドラスを追ってきただけで、契約した奴(おまえ)を糾弾しに来たわけじゃない。大体、お前が責任を負う事など何もないだろう?」


「――――!!でも!僕が契約したせいで、関係のない人まで―――――――――!!


「馬鹿か!?」


「――――――――!?」



 ポカッと、頭を軽く殴られた。



「お前の言っている事は、詐欺の被害者は騙し取られた金が悪用されたら責任を取らなきゃいけないと言うことだ。そんな事を言っていたら、独裁者に払った税金を悪用されたら国民全員が犯罪者になってしまうだろ。」


「でも――――――――!!」


「でもじゃない!!」



 また殴られた。


 そこで、横で静観していた黒王が割り込み勇吾を下がらせた。



「立花琥太郎、お前が負いたい責任は悪魔と契約してしまった事ではなく、自分が弱かった事(・・・・・・・・)に対してじゃないのか?」


「―――――――――――ッ!!」


「お前は自分が臆病者だから人が死んだと思っているんだろう。だからこそ、お前は強くなかった自分が許せないのだろう。」


「・・・・・・・・。」



 黒王の指摘に、琥太郎はそれが自分の心が揺れ動くのを感じ、それが自分の本心であることに気付いた。


 小さい頃から強さに憧れて剣道を始めた。だが、同級生からのイジメに心が折れ、さらには悪魔に付け入られてしまった。悔しかった。そして許せなかった。自分が臆病だったせいでたくさんの命が犠牲になってしまった。自分で自分を責めた。


 だが一方で、弱い自分がどこかでそれを誤魔化そうとしていた。人がたくさん死んだのは悪魔と契約してしまったからだと。イジメさえなければこんな事にはならなかったのだと。自分の本心を覆い隠すように偽りの気持ちが生まれていった。そして、そんな嘘の自分に琥太郎は酔っていった。


 黒王の言葉は、琥太郎の心を覆っていた嘘を振り払い、目を覚まさせていった。



「―――――なら、お前がすべきことは責任を負うのではなく、自分と向き合って立ち上がることじゃないのか?」


「―――――――うん。」



 黒王の言葉には不思議と琥太郎の心を包み込み、力を当てえていった。


 何時の間にか、琥太郎の顔からはさっきまでの恐怖も絶望も消えていた。そこにあったのは、澄んだ目をした普通の高校生の少年の顔だった。



「―――――黒。」


「フッ――――――――――。」



 勇吾は何か言いたそうな目で黒王を睨んだ。


 それを不敵な笑みを浮かべながらかわし、後は任せたと言わんばかりに部屋の隅に移動した。



「少しはすっきりしたか?」


「あ、うん。」


「なら行くぞ!アンドラスを片付けるのにお前の協力が必要だ。」


「―――――協力?」


「そうだ。勘違いしていたようだが、俺がお前に「行くぞ。」と言ったのは責任を取らせたいからじゃない。お前の案内が必要だからだ。」



 そう言うと、勇吾は部屋中にたくさんのPSを展開させた。SFみたいなものが現れたことに琥太郎は驚くが、そこに映っている内容を見てさらに驚く。そこには、琥太郎を始めとした彼の同級生に関する個人情報の数々であった。



「午前中にできる限り集めておいた。裏サイトへのアクセス履歴や交友関係についてもな。おそらく次に狙われるとしたらこいつらとその周囲の人間だろう。だからこそ、お前の案内が必要なんだ。」


「あ、案内って――――――?」


「各個人情報と、普段誰とつるんでいるかまでは掴めたが、行動パターンまでは調べられなかった。おそらく、学校から自宅待機を指示されても守らないのがほとんどだろうから、今もどこかで集まっているはず。アンドラスはその性格からして次にそこを狙うはずだ。だからお前に連中が集まりやすい場所を案内して欲しいんだ。時間が残されてない以上、これはお前にしかできないことだ。わかったか?」


「――――!う、うん!!」



 再び差し出された勇吾の手を、琥太郎は今度はしっかりとつかんだ。


 余談ではあるが、イジメの首謀格は判明していたのでそっちを尾行するという手もあった。だが、あの時点では悪魔の正体もわからない上、琥太郎自身の安全も保障されていなかったので2人はそろってこっちに来ていたのだ。最も、勇吾が琥太郎に協力を頼むのには他の理由もあったのだが――――――――。



       ぐ~~~~~~~~~~~~~~~。



「「・・・・・・・・・・・・。」」



 誰かの腹の音が悲鳴を上げた。



「――――――急ぐのもいいが、まずは食事だな。」


「「・・・・・・・・・・・・。」」



 どっちの腹が鳴ったのかはあえて触れない。









--------------------------


 一方、勇吾達が動いていることなど知らない慎哉は――――――――。



「待て―――――――!!」


「逃がさないわよ―――――――――!!」


「しつこいぞお前ら!!」



 同級生(ストーカー)に追いかけられていた。


 数分後、勇吾ではなく黒王からメールが来るまで慎哉は彼らのストーカーに悩まされ続けるのだった。









--------------------------


――桜ヶ丘市繁華街某所――


 お昼時が終わりを迎えようとしていた頃、繁華街の一画のカラオケボックスの中にはある高校の生徒達が空気を澱ませていた。


 集まっていたのは全員が桜田中央高校の1年生だった。さらに詳しく言うなら、そのほとんどが学校裏サイトの常連で琥太郎に悪質なイジメを繰り返していた張本人達である。


 高校の休校が決まった後、彼らはすぐに集まっていた。適当にランチメニューを注文し、歌も歌わず惨殺事件の話ばかりをしていた。



「―――――じゃあ、私たちは疑われてないのね?」



 女子生徒の1人がリーダー格の少年に問いかけた。



「ああ、あんま話さなかったが―――――あの様子だとほとんど疑ってないな。なんか、子供には絶対起こせない殺され方だったとか言ってる感じだったな。」


「なあ、どんな風に殺されたのかまだわかんないのか―――――!?」


「ネットじゃ、血の海だったとか血の匂いが近所にまで広がってるって書き込まれてるな。」


「エエッ!?血の海ってなんだよ!?」


「そうよ、初耳よ!!」



 携帯をいじりながらネットに書き込まれている情報を読み上げていた少年に数人が詰め寄る。



「――――うるさいな。俺は書き込まれていることを言っただけだぜ?ほら!」


 少年が周りに自分の携帯を見せると、全員がその内容に注目する。そこには現場の情報が生々しく書き込まれていた。警察関係者しか知らないような情報も僅かに混じっていたが、おそらくは一部の警官が情報を漏らしているのだろう。



「―――チョッ!ミンチとか書いてあるぞ!!」


「ウソだろ・・・・・俺らもそうなるのか!?」


「バカなこと言うな!!あいつらとはちょっとつるんでいた位だってのに、そんなんで殺されてたまるか!!」


「ねえ、ここ―――!剣で切り刻まれたって書いてある!もしかして立花が――――――!」


「「「――――――――――――――――ッ!!??」」」



 全員の顔に一瞬だが恐怖が走った。


 彼らの誰もがその可能性を恐れていた。


 ここにいるメンバーは学校やネットでイジメを行っていた。そして殺された者達の中にはその先頭に立っていた者達も入っていた。イジメと関係のない者も殺されていたので今まで口には出していなかったが考えていなかったわけではないのである。



「んな訳ねえだろ!剣道やってるからって、あいつが真剣とか買えるわけないだろ!!」


「だ、だよな!」


「そ、そうよ!アイツに人殺しができる訳ないじゃん!!」


「―――――でも、あいつの知り合いって可能性はあるんじゃ・・・・・?」


「しつこいぞ!!」



 ドンとテーブルを叩いて黙らせる少年。彼が琥太郎に対するイジメを先導した一番の首謀者だった。特に理由もなく、暇潰しの感覚で小銭を要求から始めた彼は次第に味を占めたかのように今では暴力も平気で振るうようになっていた。


 少年の両隣には、同じようにイジメを始めた2人の少年が座って顔を青くしていた。琥太郎の復讐ではないと思ってはいるものの、もしも――――と云う恐怖が全身から抜け出せずにいたのである。



「おい、お前らもビビってんじゃねえぞ!お前らまで立花が復讐を始めたとか考えてんのかよ!?」


「んな訳ないだろ!」


「だったらその顔は何だ!どう見てもビビってるようにしか見えねえぞ!!」


「―――――!お前こそ、心当たりとかねえのかよ――――――!?お前やアイツの親父は官僚何だろ!お前らの親の面倒事が原因じゃねえのかよ!!??」


「―――――テメエ!!」



 リーダー格の少年が隣の少年の胸倉に掴みかかる。互いに殺気が籠ったかのような目で睨みかかる。



「テメエこそ人の事言えるのかよ!?テメエの親こそ裏で疾しい事してんじゃねえのか?」


「―――――んだとぉ!!??」



 彼らにとって親の事は禁句だった。


 2人とも家族とは数年前から不和が続いており、最近では顔も合わせる事も嫌になり帰らない日もある。そもそも、彼らがつるむ様になったのもそれがきっかけだった。



「ちょっと!こんなとこでケンカしないでよ!!」


「―――――全くだ。」


「こっちはお前らの巻き添えで殺されるかもしれないってのによ――――――。」



 周囲は冷めたような白い目で2人を見ていた。


 まるで自分達は被害者だと言いたそうな視線だった。



「――――――――テメエら!!!」



 少年の怒りは更に増し、部屋の空気はいっそう悪くなっていった。


















--------------------------



 闇の中で笑い声が響き渡る。



『ハハハハハ――――――――――――――!!』



 アンドラスは不和を生む。


 ついさっきまで仲が良かった者達の関係を壊し互いに争わせる。




『ハハハハハ―――――!もっと、もっと争え獲物共―――――――!!!』




 彼らは気づかなかった。


 自分達が悪魔の術中に嵌っているという事に。




『―――――――――――そして壊させろ――――――!!!』




 そして次のターゲットになっているという事に。




 彼らはその時まで気付くことはなかった。











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