第197話 冬弥の日常 前編
――北海道 〇〇市――
俺、佐須冬弥!
この前色々あって人間やめちゃった♪
人間やめたと言っても普段は元の人間の姿で生活しているから特に問題はない。
あの事件以来、生まれてすぐに生き別れた双子の兄貴、慎哉とはほぼ毎日連絡を取り合ってるし直接会いにいったりもしている。
魔法って便利だよな?
世界的に有名なネコ型ロボットの秘密道具みたいなのを簡単に再現できるんだからな。
俺の家になんか、あのピンクの扉みたいに別の場所に一瞬で移動できる扉が設置されていけるから何時でも慎哉のいる東京に行ける。
というか、俺よりも大人達の方が頻繁に使っている。
扉は祖父さん達が住んでいる方の家の裏庭に設置しているせいか、祖父さんや祖母さんはほぼ毎日都心に出かけている。
主に昔住んでいた町に行って知人達に会いに行ったり、散策したりだ。
あの扉、ダイヤル式のレバーで行き先を指定できるようになっているから指定すれば東京以外にも行けるようになっている。
本当は1カ所を結ぶ扉につもりだったらしいけど、横浜に在住している叔父さんも利用できるように気を遣ってくれたみたいだな。
実際、叔父さんもあの日からよく顔を見せに来たりしている。
そういえば、叔父さんは職場に復帰したらしい。
刑事をやめるとか言ってたけど、あの事件の後になって何があったのかもう少し続ける気になったらしい。
その理由は俺にも分からない。
さてと、話は変わるけど、今日は俺のある1日を紹介するぜ!
――――6:00 起床
俺の朝は早い!
人間をやめてから朝は早く起きれるようになった。
どうやら回復力が上がったお陰で、少ない睡眠時間でも十分に心と体の両方を全快するようになったみたいだ。
「う~ん!気持ちイイ~!」
夏とは違って大分朝が涼しくなってきたけど今の俺にはこれが丁度良い。
俺は最近になって始めた早朝ランニングを開始した。
微精霊が漂う早朝の街は実に清々しいな!
――――7:10 朝食
シャワーを浴びて汗を流した後は朝食だ。
今朝は昨日の晩御飯で余ったカレーだ。
最近は食欲が増したから大盛りを平らげてやった。
「うぅ・・・朝からよくそんなに食べられるな?」
「父さんは飲みすぎなんだよ!」
昨晩の酒が響いている父さんにはドン引きされたけどな。
食べた後は歯を磨いて学校へ出発!
――――9:00 学校(授業中)
1限目が始まった。
だけど今、俺は授業に集中できていない。
何故なら、周りの声が俺の気を乱しているからだ。
『ウワア、ホントニソックリ!!』
『デショ?何度見テモハクロウサマニ似テルヨネ!』
『コノ感ジ、人間ジャナイヨネ?』
俺の周りで好奇心旺盛な精霊達が好き放題に喋っている。
人間から聖獣に転生して以降、俺は人間の時には見えなかったものがハッキリと見えるようになった。
どうやら、あの神様に似ている俺が気になってしょうがないようだ。
『ミンナニモ言イ触ラサナイト!』
『ウン!100万人位言イマクロウ!』
(やめろ~~~~~~~!!)
こんなのが毎日続いているおかげで勉強に集中できない。
後で知ったんだが、北海道には関東とは比較にならないほどの数の精霊が住んでいるそうだ。
しかも無駄に生きがいいというか、とにかく好奇心が旺盛らしい。
――――12:30 学校(給食)
ウザイ精霊を威嚇してどうにか追い払った頃には午前は終わっていた。
勉強以外の事で消費したカロリーを補充していると、今日も俺の視界に新たな問題の種が入ってきた。
(・・・また憑かれてるよ。)
俺の目に映ったのは幽霊に憑りつかれたクラスメイトだった。
勿論、俺以外に見えている人は誰もいない。
どうやら、俺は精霊だけじゃなく幽霊とかも見えるようになったらしい。
これはかなり厄介で、視線が合ったりするとしつこく付きまとってくる。
人間みたいに憑りつかれたりはしないけど、中には自分が死んでいると自覚していない霊もいるから「何で誰も気付いてくれないんだ!?」とか「一体どうなってるんだと!?」としつこく訊いてくる。
下手に返事とかすれば周りには変人扱い間違いなし!
そう言う訳で、基本的には無視するか、限度を超えた時は実力行使で排除した。
「フウ。」
「どうしたんだ、佐須?」
「いや、別に?」
今日も幽霊1名を成仏させた。
方法は加護のお蔭で頭の中に入っているからケータイを使うような感覚で難なくできた。
だけど、きっと明日も別の霊が誰かに憑いている。
学校が建てられている場所は訳アリな場所が多いって話は本当みたいだな。
――――15:55 学校(下校)
下校時刻になった。
受験生の俺は部活も引退済みだから真っ直ぐ・・・いや、途中で本屋に寄ってから帰宅だ。
靴を履き替えて外に出る。
すると、不意に空から人間じゃない何かの気配が降ってきた。
『―――――おや?』
「ん?」
気配のすぐ後に声が聞こえて俺は空を見上げた。
そこには1羽の普通じゃない鳩がいた。
普通じゃないというのは、全身に“神気”とかいうオーラが纏わりついていたからな。
鳩は俺をジッと見つめながら地面に降りて来た。
『・・・もしやとは思いますが、貴方様はかの『白狼』ホロケウカムイ様に縁のある御方ではないでしょうか?』
精霊とは違い、流暢で丁寧な日本語だった。
俺は返事に迷った。
勇吾達の話によれば、俺の親は3人いるらしい。
俺を産んでくれた両親ともう1人、遺伝的には親子関係と証明されていて1度死んだ俺を復活させてくれた神様、ホロケウカムイだ。
最初は実感はないけど、落ち着いて考えられるようになってきた今は何となく親近感のような物を感じるようになってきている。
血が惹き合っているってことなんだろう。
数日前に慎哉に話してみたら同じだと答えてくれた。
正直言って複雑過ぎる話だ。
今目の前にいる鳩にもどう答えればいいか迷ってしまう。
とりあえず、嘘は言わないようにしてみる。
「え~と、一応は血を引いてはいるな。」
隣に誰もいなかったのはラッキーだったな。
じゃなかったら変な目で見られてしまう。
『おお!やはりそうですか!白狼族は数が少ないですからもしやと思いました!あ、失礼!自分はここから南西に行った場所にある神社で八幡神様の神使をしている物でございます!』
「ああ、あの神社のか!」
どうやら学校から近い場所にある神社の神様に仕えているようだ。
どうりで神っぽいオーラを纏っているはずだ。
『―――――『白狼』様には我が主と神使一同大変お世話になっております!先日の1件につきましても主は大変感謝しているとお伝え下さい!』
「は、はあ・・・・。」
お伝えくださいって言われても、俺にあの神様と連絡を取る方法はないんだよな。
って、この鳩ドンドン喋ってくるな。
『――――――では、今後ともどうぞお見知り置きください!』
「あ、ああ。」
5分ほど話して俺は鳩神使から解放された。
そういえば神使って、犬や狐とかじゃないんだな。
後でネットで調べてみるか。




