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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第11章 白狼編
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第192話 フェラン=エストラーダ

 過去話です。



 俺は昔から正義や悪には興味がなかった。


 幼い頃から周りで同世代の子供が英雄(ヒーロー)ゴッコや怪盗ゴッコで遊んでいる間も俺は祖父の書庫に籠って1人で勉強をしていた。


 勉強ばかりしていたと言っても勉強が好きな訳じゃない。


 俺が好きだったのは“未知”や“可能性”、この世にある自分の知らない何かを知る事だった。


 知らないものを見る為に必要なのは知識、俺は物心付く頃から勉強を続け、ある程度知識が溜まる毎にそれを実践していった。


 最初は他の子供と一緒で植物や昆虫の成長の観察、虫眼鏡を使って紙を発火させたりといったものだった。



「フェランは自慢の孫じゃな。儂が集めた本達も喜んでおるよ。」


「・・・うん!」



 俺の最初の理解者は祖父だった。


 俺の父は所謂“仕事中毒者(ワーカーホリック)”、母は浪費癖のあるダメ女だった。


 揃って育児放棄のダメ両親に代わって俺を育ててくれたのは祖父だった。


 祖父は若い頃にそこそこ成功した商人で、家には趣味で集めた古今東西の本が綺麗に整理されて並んでいた。


 中には街の図書館にもない様な貴重な本もあり、幼い頃の俺にとっては宝の山だった。


 俺は祖父に読み書きを教わりながら日々の多くを読書と勉学に費やし、たまに祖父に古本市などに連れて行ってもらったりもした。



--------------------------


「――――全く、1人息子が名門校に入学するというのにあのバカ共は・・・・。もっと子供を大事にしろと言っておるのに・・・。」


「別にいいよ、祖父ちゃん。祖父ちゃんがいればそれでいい。」


「フェラン・・・。そうじゃ、ほれ、入学祝の本じゃよ!落札するのに苦労したが、なんとか手に入ったぞ!」


「うわあ!ありがとう、祖父ちゃん!」



 庶民が入るには厳しすぎる名門校に入る時、祖父は過去の有名な科学者が書いた本を入学祝として俺にくれた。


 俺はその時に貰った貴重本を今も大事に持っている。



「おやおや、貴族でない者が何故ここに?」


「フフフ、ここが何所か分かっているのですか?」



 俺の入った学校は全寮制で貴族の子弟ばかりが集まる学校だった。


 当然、貴族ではない俺は周囲から良くも悪くも好奇の目で見られ、性質の悪い嫌がらせも受けてきた。


 だが、俺はそれには全く関心を持たずただひたすら勉学に励み、時間を見つけては図書館で知らない本を見つけて読んだり、化学や生物の担当教師の実験に立ち会ったりしていった。


 図書館は残念な内容だったが教師陣は違った。


 歴史ある名門校の名に恥じないほどの優秀な人材が集まり、授業で行われる実験は当時の俺には夢のように楽しいものだった。


 俺は主に理系の科目に熱中していたが、ある日を境に他の分野への好奇心に目覚める。



「――――――君、私とフィールドワークに行かないか?」



 ある日、学校でも変人と名高い歴史の教師に捕まった俺は半ば強制的にフィールドワークに連れて行かれた。


 その教師は今でいう歴史マニア、またはオカルトマニアで各地の遺跡を自費で調査したりしてはトンデモな内容の論文を発表して学会で浮いてしまっている人だった。


 その人の持論は「古代文明はオーバーテクノロジーで栄えた!とか、「神話の神々は科学以外の未知の技術を持った者達だ!」だった。


 最初は俺も滑稽な話だと思ったが、フィールドワークに同行している間にその魅力を理解し、未知の文明や技術に対する好奇心に目覚めていった。


 そして気付けば、俺は学内トップの成績を出していた。



「平民が貴族より成績が良い訳がない!!」


「どんな手を使ったのですか?」


「どうせ試験問題を盗んだんだろ。貧乏人がしそうなことだ。」



 それは貴族達には不愉快でしかなく、変な濡れ衣を着せられたりもしたが俺は興味がないので無視した。


 その後、逆に俺に嫉妬していた貴族達の方が試験問題を盗んだり、親に頼んで好からぬ事をしたとして裁かれ、中には親の不祥事が盛大にバレて一気に庶民になってしまったりする者もいた。


 まあ、俺にはどうでもよかったが。




--------------------------


 数年後、俺は主席で学校を卒業して更に上の学校、今でいう大学にあたる最上級学校へと進学した。


 最上級学校では主に研究やフィールドワークを中心に活動し、充実した日々を過ごしていった。


 だが、そんな俺に不幸の報せが届く。


 俺の大事な家族である祖父が病に倒れた、速達で届いた手紙にはそう書かれていた。


 俺はすぐに祖父が入院している病院へ向かった。


 祖父は治療法がまだ確立していない難病にかかっていた。


 しかもその病は俺が在籍している最上級学校の研究棟で研究されていたものだった。



「祖父ちゃん!!俺がすぐに治療法を見つけてくるからな!!」


「・・・嬉しいが・・それは不要じゃ・・・。」


「何で!?」



 祖父は治療を望まなかった。


 死にたかった訳ではない。


 ただ、俺の足手まといになるのが嫌だったのだ。


 それを知るのはもっと後になるのだが。



「・・・フェラン、儂の事など気にせず・・好きな・・け・・するんじゃよ。この世には・・まだお前の知らない“何か”が星の数ほど隠れておる・・・。たった一度の人生じゃ・・・・楽しんで生きるんじゃ・・・よ・・・。」



 1ヶ月後、祖父は静かに息を引き取った。


 死んだ祖父の顔は死人とは思えないほど穏やかで、幸せな夢を見ているかのようだった。


 葬儀には両親も参加したが、父はすぐに仕事に戻り、母は祖父が残した遺産に手を出して好き放題していった。


 数少ない理解者を失った俺は、しばらく抜け殻のように実家に引き籠っていた。


 あの時の俺は何もかも解らなくなっていた。


 祖父が治療を断った理由、祖父が薄れる意識の中俺に言った言葉の意味、家族が死んだのに両親が無関心な理由、何もかも解らなかった。


 今思えば、あれが俺が堕ちた最初の理由だったんだろう。


 祖父が死んで3ヶ月後、学校に戻った俺は狂ったように研究に没頭していった。




--------------------------


 それから2年間の記憶は正直言っておぼろげだ。


 多分だが、俺が最初に人体実験(・・・・)を行ったのもこの時なのだろう。


 気付いた時には俺は周囲から孤立し、他の学生や教授達からは恐怖の目で見られていた。


 正気を取り戻した俺は最上級学校を後にし、当てもなく街を彷徨った。



「―――――――やあ♪」



 『幻魔師(カース)』に出会ったのはそんな時だった。


 最初に会ったのは本体ではなく、浮浪児を“器”にした“端末”だった。


 そして、行く当てもない俺は流されるまま『創世の蛇』に入ったのだった。




--------------------------


 『創世の蛇』に入った俺は水を得た魚のように生き返った。


 そこにあったのは幼い頃に祖父の書庫で呼んだ童話や学校の恩師がフィールドワーク中に聞かせてくれた別世界だった。



「――――ここで好きなようにするといいよ♪」



 カースに言われた通り、俺はこの場所で好きな事にハマっていった。


 組織がどういう存在なのか、何をしているのかなど全く気にしなかった。


 既に壊れていたからなのかもしれない。


 俺はそこで未知の技術、魔法や異世界の技術を習得しながら様々な実験を繰り返していった。


 これは可能か?あれは創れるのか?こうすると何が起きるのか?


 知的好奇心に動かされるがまま、倫理観などに捕われることなく、俺は研究と開発の日々を何年も続けていった。


 そして彼女と出会った。



「それはあなたが創ったの?」



 シャルロネーア、それが彼女の名前だった。


 『創世の蛇』の中でも研究開発を専門に扱う“Ⅳ”には多くの技術者や研究者がいたが、何故か彼女だけは俺の強い印象を与えた。


 シャルは鬼才、俺以上の本物の天才だった。


 彼女の研究は実に興味深いものばかりだった。


 俺は彼女の研究に積極的に関わるようになり、何時の間にか彼女の片腕と呼ばれるようになった。


 気付けば何十年も経ち、俺は世間ではマッドサイエンティストと揶揄されるようになった。


 人体実験による死者は3桁を優に超えていた。


 狂人だと、命を弄ぶ悪だと組織に敵対する者達から言われ続けたが俺は構わなかった。


 だけど、ある特定の実験の時だけ俺は胸が何かに刺されるような錯覚に襲われた。



――――もっと子供を大事にしろと言っておるのに・・・。



 それは亡くなった祖父が子供の頃の俺の前で呟いていた言葉・・・。


 祖父の言葉は時折幻聴となって俺の耳の中で響き、俺をある一線の前で踏み止めさせていた。




--------------------------


 ある日、俺はフィールドワークでギリシャと呼ばれる異世界の国に来ていた。


 そこの結界で厳重に守られた遺跡で、シャルは1つの神器を見つけた。



「これはヘパイストスの銘とアテナの・・・私よりあなたの方が相性が良さそうね。フェラン、これはあなたにあげるわ。」


「いいのか?かなりレアな神器のようだが?」


「いいのよ、私には不要だから。それとも、女性から物を貰うのは初めてかしら?フフフ・・・♪」


「は?」



 どうやら俺をからかうつもりだったらしいシャルは妖艶な笑みを浮かべながらその神器、《無形の神楯(アイギス)》を俺に渡した。




--------------------------


 あの時の俺はヤレヤレと思いながら受け取ったが、どうやら知らないうちに愛着を持っていたようだ。


 突然現れた男に奪われ、柄にもなく頭に血を昇らせ、奪い返そうとその男と死闘を始めたのだからな。


 だが、慣れない事はするものじゃないな。



「――――《咎人ノ罪ヲ断ツ神刃(ジャッジメントサイズ)》!!」



 奪い返そうとして逆に返り討ち、俺は目の前の男の持つ大鎌の神器で斬られた。


 今更だが俺は戦闘には向いていない。


 偶に“Ⅲ”の戦闘狂(バトルマニア)に付き合わされていたお陰で魔法戦の腕だけは無駄に成長したが、それでも《アイギス》がなければ達人級にはこうも一方的に負けるのが現実だ。


 あのまま大人しく《アイギス》を諦めて戦線を離脱していれば良かったな。


 今回の実験結果もまだカースから聞かないまま死ぬなんて、研究者としては愚か過ぎる結末だな。


 まあ、壊れた男の最期なんてみんな愚かなものだがな・・・・・・。


 それとも、今度は地獄の研究でもするか・・・?






――――悪いシャル、お前から貰った神器を失った上に楽しみに待たせていた実験結果の報告ができなさそうだ。


――――まあ、お前なら自分で自力で調べるだろうけどな。





――――祖父ちゃん、ゴメン・・・・・。


――――俺は祖父ちゃんが自慢できるような良い孫じゃなかったよ。


――――俺はただの、壊れて狂った・・・生きた亡霊だったんだよ・・・・・・。




 全身から力が抜ける。


 目の前が真っ白になりながら、俺は暗い海に向かって落ちていった。






 よくある悪党(フェラン)の過去でした。

 ちなみに、フェランの生まれは地球ではありません。文明レベルが少し地球に似ている異世界です。


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