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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第11章 白狼編
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第190話 カースVS冬弥


『―――――《混沌の爆嵐(カオスストーム)》!』



 宙に浮かぶ無数の白い球と黒い球が一斉に爆発する。


 相反する属性の爆発が複雑に干渉しながら周囲を破壊の嵐で飲み込んでいった。



「クソッ!あいつ、敵味方関係なしに攻撃してやがる!!」



 カースの攻撃は無差別だった。


 トレンツ達はもちろん、使役していた妖怪達も巻き込んで破壊行為を続けていった。


 下を一瞥するとミレーナの姿は無く、何時の間にか上空にいるアルバスの頭の上に乗っていた。



「フウ・・・・。あとは・・・・。」



 心配が1つ減り、トレンツは視線を慎哉と冬弥の方へと向けた。


 すると、トレンツの目に信じられない光景が映った。



『・・・・・・思った以上に相性が悪かったのかな?』



 そこには羽を半分失ったカースの姿があった。


 カースの背中から生えていた6対12枚の羽の内、左半分の6枚が食い千切られたかのようにボロボロになっており、カースのあの余裕に満ちた笑顔も僅かに崩れ始めていた。


 一方、カースから少し距離を置いた場所には咥えていた黒い羽を不快な顔で吐き捨てる冬弥がいた。



『うえ・・・マジい。勢いでやるもんじゃないな・・・。』


「って、今何やったんだよ!?」


『え~と、全身の筋力とかをフル強化してから《神狼之牙(ディバインウルフファング)》って技を使ってみたんだよ。よく分からないけど、効果は抜群みたいだな!』


「よく分からない技なんか使うなよ!」


『それがさ、狼の神様が色々サービスしてくれたみたいで、どんな技を使えばいいのか直感的に分かるようになってるんだよ!」


「何それ、ズリイ!」



 冬弥に若干嫉妬する慎哉だった。


 そこに、カースが次の攻撃を仕掛けてきた。



『隙だらけだよ。《光と闇の千矢(デュアルレイン)》!』


『「うお!何か降ってきた!!」』



 すっかり声をハモらせるのが癖になってきた慎哉と冬弥は、空から降り注いでくる白と黒の矢の雨を避けていった。と言っても実際に避けたのは冬弥で、慎哉は冬弥の背中に乗っていた。



「おお~!速ぇ~!!」


『喜んでいないでお前も攻撃しろよ!』


「はいよ!」



 冬弥はカースの攻撃を避けるのに集中し、その間に慎哉は《氷術》で攻撃をしていく。


 カースは飛びながら避けていくが、羽を半分失ったことで飛行速度がかなり下がっており、慎哉の数押しの攻撃も1割は当たっていた。



『流石に全部かわすのは難しくなってきたけど、その程度の威力じゃ僕を倒す事は出来ないよ。それに遅くなっても、僕の攻撃力は変わっていないよ?』


『なら、これならどうだ!!』



 カースの真上からアルバスが襲い掛かる。龍のブレスが隕石のようにカースに襲い掛かり、カースは咄嗟に避けようとするが残った羽の何枚かに掠って凍る。さらに速度が落ち、そこに慎哉の攻撃が直撃する。


 それを見たアルバスは、カースの“ある特徴”に確信を抱いた。



『――――――――――ッ!!』


『やっぱりな!どういう理由かは解らないが、お前は防御系の能力が使えないようだな?考えてみれば、何時も攻撃で相殺させるか押し返すのがお前の戦法だった。少なくとも、“端末”で戦っている時は!』


『・・・へえ。』


『それに、その“端末”は横浜の時のと比べて能力が低い。俺達がまだ生きているのがその証拠だ。お前、元から俺達と本気で戦う気はないんだな?』


『そうだよ♪』



 アルバスの指摘をカースは普通に肯定する。


 アルバスはカースの“本体”との接触経験はないが、横浜の件も含めて過去に何度か“端末”と接触したり戦闘をした事がある。


 その度にカースの激しい攻撃の嵐に圧倒されていたので見落としていたが、カースは過去に一度も結界系以外の《防御魔法》を一度も使った事がない。より正確に言えば、自分の身を守る系統の能力を一度も使用した事がないのだ。


 攻撃は最大の防御と考えているのだろうと遭遇した経験のある者の多くは勘違いするが、“端末”を直接倒した事のある者達は例外なくその考えを破棄している。そしてカースの“端末”には自身の身を守る手段がほとんど無いのではないのかと推測を立てるのだ。


 勿論確証はないので表には流れていない情報だったが、アルバスはこの場で確信を持ったのだ。


 もっとも、当の本人に誤魔化す気はないようだが。



『僕はあくまでフェランに頼まれた仕事をしているだけで、君達を倒しに来た訳じゃないからね。君の言うとおりこの“端末”は最近調達したばかりのものだからそれほど力はないよ。まあ、それでも君達と遊ぶ分には困らないけどね?』


『だが、それは俺達だけでも倒せるレベルしかないとも言えるな?』



 何時の間にかカースは囲まれていた。


 アルバスがいる。トレンツがいる。ミレーナがいる。慎哉と冬弥もいる。5人が手負いのカースウェル=フェイクを囲んでいる。


 邪魔だった数十体の妖怪もカースの無差別攻撃で全滅し、全員が残った最後の敵に集中していた。



「やられた分は倍にして返すぜ!」


『ハハハ、確かに今の僕には歩が悪いみたいだ。まあ、フェランには絶対に殺せとは言われてないし、中々レアな結果が出たから苦情は言われないだろうね♪』


「逃げる気かよ!?」


「まさか!元から僕はここにいない(・・・・・・・・)んだから逃げる理由はないよ。けど、何時もみたいに最後派手なのをプレゼントしようと思ったんだよ♪』


『――――――チッ!!』



 カースの悪巧みをしようとしている顔にアルバスは舌打ちをする。



(また自爆とかじゃないだろうな!?)



 アルバスは過去のカースとの戦闘で、追い詰められたカースが“端末”を自爆させたり、周囲に魔力汚染などの迷惑この上ない置き土産を残したりなど、戦った相手にとっては迷惑この上ない行動に出る事を知っていた。


 それはトレンツとミレーナも知っていたらしく、2人もアルバスと同様に嫌な顔をした。



『さあ、僕の最後の一撃に耐えられるかな?』


『「―――――っ何だ!?」』


「―――無差別破壊攻撃だ!!」



 カースは今使える魔力の全てを放出し始める。


 光と闇が入り混じった不気味な魔力が周囲の景色を歪めていき、それに触れたら危険だと4人は(・・・)直感で悟って後退する。



「これは横浜の時に使ったって聞いた・・・・!?」


『――――――《終焉の大破壊》だ!!それも横浜の時とは違う、溜めあり(・・・・)だ!!』



 それは横浜の事件の際、追い詰められたカースが咄嗟に溜め無し(・・・・)で放った攻撃だった。あの時は溜め(チャージ)無しだったのでカースが押し負けたが、今はしっかりと残存魔力の全てを溜めて放とうとしている。その破壊力はトレンツ達には想像がつかない。



『さあいくよ!《終焉の大(ワールドエンドデ)・・・・・・』



 だが、カースの最後の一撃は放たれる事がなかった。


 何故なら、その一撃が放たれようとした直後に別の攻撃がカースを襲ったのだ。



『――――――《神狼之咆哮(ディバインウルフハウリング)》!!』


『!』



 鼓膜を貫くような声が空間全体に響き渡り、同時にカースを白い不思議な波動が襲う。僅かに神性を帯びたその波動はカースを貫き、放たれようとした攻撃を寸でのところで消滅させていった。


 それを放ったのは冬弥だった。


 彼が持つ《神狼術》の中にある技の1つが彼の魔力の大半を消費して放たれたのだ。数値にすると約140万、それだけの魔力が聖なる咆哮となってカースを貫き、その禍々しい魔力は一気に浄化されて“端末”に宿る『幻魔師』の欠片も一緒に消えようとしていた。



『ハハハ・・・・まさか覚醒したてでこの技を使うとは予想外だったよ・・・。いいよ、今回も君達に勝利を譲るよ。だけど・・・最後にちょっと意地悪をするね・・・・♪』


『――――――何だと!?』



 波動の中に溶けていくように消滅を始めたカースは、意地悪そうな顔で冬弥を見下ろしながら意地悪の内容を話していった。



『・・・僕を倒して・・も・・・この結界は解除・・・・ないよ・・・。外に・・出る・・・・・自力で頑張ってみて・・・・よ♪』


『――――――!!』



 最後に寒気のするような笑みを送り、カースの“端末”は消えていった。


 冬弥の咆哮が収まると、瓦礫だらけの砂浜の上には“器”にされていたらしいチンピラ風の青年が倒れていた。




--------------------------


 一難去ってまた一難、カースがいなくなったのを確認した5人は新たな問題に頭を悩まされていた。



「冬弥がチートになったお蔭で倒せたのにな~~?」


「何度も分析したけど、結論から言って結界は衰えることなく起動しているみたいよ。腹が立つけど、カースが言

った通りみたいよ。」


『「俺達閉じ込められたのかよ!?」』


『そうだ。』


「勇吾やヨッシーが何とかしてくれるんじゃね?」


『それは楽観的すぎるだろ。』



 双子がハモっている事には誰もツッコまず、一同はこれからどうすべきか考え始めていた。彼らは知らないが、この濃霧の結界の術者はカースであり、こことは別の場所にいる勇吾達にはこの結界の解除は不可能なのだ。


 これはこの結界の術式を開発したフェランの設計によるものであり、結界を発動させる際に“そういう設定”をしておけば、術者が死亡しても結界は持続するようにできるのだ。


 その場合、結界の魔力が尽きるのを待つか、どこかに存在する“核”を破壊するしか結界を解除する手段はないのだ。



「確実なのは何所かにある“核”を破壊する方法だよな?」


「けど、この濃霧の中探すのは一苦労よ。それに、カースの性格を考えるとかなり意地悪な場所に隠していそうだし・・・。」


「だよな~。」



 かといって結界の魔力が尽きるのを待つわけにはいかない。


 カースの“端末”の平均魔力を考えると相当量の魔力がこの結界に使われていそうなのは容易に予想がつく。それが尽きるのを待っていたら何か月、下手をしたら何年もこの中に閉じ込められている可能性がある。



『なあ、その“核”ってどんな形をしているんだ?』



 冬弥は純粋な疑問を尋ねた。



「結界によって形状は異なるけど、大体は球体状の色付きガラスみたいな感じよ。偶に術者の気まぐれで変な形をしているけどね。」


『へえ、それってあんな感じのか?』


「「え?」」



 冬弥は空を見上げながら呟いた。


 トレンツとミレーナはほぼ反射的に同じ方向を見るが、そこに見えたのは濃霧の天井だった。その先はどんなに目を凝らしても何も見えない。



「何も見えないぞ?」


『え?普通に光る石版みたいなのが浮いてないか?ほら、スーパービッ〇リマンに出てくるやつみたいなの?』


「懐かしいな、それ!」


「・・・その例えはよく分からないけど、冬弥には見えてるの?」


『ていうか、お前らには見えてないのか?』



 冬弥は首を傾げながら訊き返した。


 2人に代わり、それに答えたのはアルバスだった。



『おそらく、白狼族固有の“眼”の効果だろう。それと《千里眼》の効果も重なって、普通は視認できない者を視る事ができるようになったんだろうな。』


『じゃあ、あの石版みたいなのを壊せばいいのか?』


「けど冬弥、さっき調べたけどお前の魔力あんまり残ってないぜ?大丈夫なのか?」


「そうね、詳しい事情は分からないけど、覚醒したてで魔力を使いすぎるのは危険だから私達で破壊した方がいいわね。」


「頼んだぜ、アルバス!」


『ああ・・・って、俺だけかよ!?』



 その後、アルバスは冬弥が示した場所に向かって攻撃を放つ。攻撃は見えない何かに命中したが、一発だけでは壊せなかったのでミレーナに《補助魔法》をかけてもらい、次は威力を上げて放つ。





      バリーーーン!!





 何かが砕け散る様な音が響き、直後に世界を覆っていた濃霧に変化が生じた。


 そして、広範囲を飲み込んでいた結界はゆっくりと消滅し始めた。





―――――消滅の直後、想定外の闖入者(・・・・・・・)を招き入れながら・・・・・・。






 今回のカース(端末)は横浜に現れた端末と比べると数段劣っています。それでもトレンツ達には厄介な相手である事には変わりありませんが・・・。

 今回冬弥が勝てたのは相性もさることながら、覚醒したてで体が活性化していた事と、神様からのちょっとしたチートの恩恵のお陰です。

 さて、次回はようやく主人公の方に戻ります。


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