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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第11章 白狼編
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第188話 選択肢

 人間をやめますか?

 ⇒はい

  いいえ

 ホロケウカムイの言った言葉を、冬弥はすぐに理解する事ができなかった。


 単に「生きる事を望むか?」なら理解できる。だが、ホロケウカムイはその先に「人間をやめてまで」を付けて言った。



「・・・・・・は?」



 当然、冬弥は呆けた声を漏らす事しかできなかった。



 ホロケウカムイも冬弥の反応を予想していたのだろう。急いで返答を求めようとはせず、冬弥の次の言葉を口にするのを静かに待っていた。



「・・・人間をやめるって、それどういう意味だよ!?」


『言葉通りの意味だ。人間をやめてでも生き続ける事を望むかと訊いたのだ。』


「だからそれがどういう意味かって訊いてるんだろ!というか、死んだのに生き返る方法があるのか!?」



 目の前の神の言葉に冬弥はますます混乱する。



『死者を蘇らせる。それは例え神でも触れる事を禁じられている所業。お前は既に人間として(・・・・・)生を終えている以上、蘇らせる事はできぬ。本来ならばこのままお前の魂を天へと送るべきだが、今回の死は本来起こりえぬ筈の死、ましてその原因の1つが我にある以上、このまま天へ送るのは忍びない。故に、お前自身に生を望む意志があるのなら1つの選択肢を与えようと思い至った。』


「それが人間をやめるかってことか?」


『・・・人間として死んだ以上、お前を人間のまま蘇らせる事はできぬ。だが、現世にあるお前の身体に流れている“人間以外の血”に我が干渉し覚醒させればお前の体は人以外のモノに変わり、お前に新たな生を与える事ができる。すぐに理解するのは難しいだろうが、云わばこれは『転生』に類似した裏技、異邦では『化身』や『復活』とも呼称されているものだ。』


「それって、キリストの復活みたいなのか?俺、聖職者じゃないぜ?」



 ホロケウカムイの話を聞いていた冬弥の頭に思い浮かんだのは、世界的大宗教の有名な逸話(エピソード)だった。それは2000年近く前、『神の子』と呼ばれた1人の男が時の支配者であるローマ帝国への反逆者として処刑され、その3日後に復活したとされる話だ。


 宗教に疎い冬弥でも知っている有名な話であるそれは、今まさにホロケウカムイが冬弥に与えた選択肢の内容に似ているのではないかと、冬弥は思ったのだ。



『――――――確かに似ているとも言える。ただし、あれは“神性”と“神格”を揃えた上での『復活』であり、その点で言えばお前とは根本的に違うとも言える。お前の場合、神や天使ではなく『神獣』、或いは


『聖獣』に生まれ変わることになる。お前が選ぶのならばの話だが。』


「『神獣』?『聖獣』?青龍や朱雀みたいな?」



 冬弥は自分の中のサブカルチャー知識から抜き出した単語を呟いた。現代のゲームや漫画のネタとしては定番の『四神獣』または『四聖獣』の事である。



『その認識で間違っていない。我も元々はそれに属し、時を経て神格を得ることで神へと昇格したのだ。冬弥(・・)、お前の体の中には遠い先祖の『神獣』の血が眠っている。お前が望むのならば、我はお前を人間ではなく『神獣』として復活させ現世に戻そう。』



 ホロケウカムイの目は真剣そのものだった。


 その眼には強制も誘惑もなく、冬弥がどれを選ぶのかを見届けようとする眼だった。



「その、『神獣』になったら・・・・・・。」



 神獣になったら元の生活には戻れないのではないか?そう言いかけたが、言い切る前に途中で止めた。それは冬弥にとって重要な問題だったが、今はそれよりも重要な問題があることを思い出したのだ。



(俺が生き返ったら慎哉が・・・!)



 冬弥はたった今聞いたばかりの敵の目的を思い出す。敵の目的は慎哉と冬弥のどちらかを死なせること、正確にはそれを経た実験だが冬弥にはどうでもいい事だった。もし、自分が人間をやめて復活した場合、敵は再び冬弥を、今度は慎哉の方を殺そうとするはずなのだ。


 もっと生きたい。だけどそれで慎哉が殺され様な事になったら本末転倒、結局は死ぬ人間が入れ替わるだけではないかと自問自答した。


 そして答えは意外にもすぐに出た。



(俺はもっと生きたいし、慎哉(あいつ)を死なせたくもない・・・・・・!!)



 意を決し、冬弥はホロケウカムイに向かって今一番重要な事を尋ねた。



「復活したら、『神獣』になったらみんな(・・・)を守る事ができるのか!?」


『・・・・・・それはお前達次第だ。敵は強大、例えお前が『神獣』に覚醒したところで勝てる相手ではない。だが、誰も死なせずに生き残る事はできるだろう。どうなるかは結局のところお前達次第、ここでは答えの出せぬ問いだ。』


「じゃあ、守れるかもしれないってことなんだな?」


『可能性は否定しない。』


「そうか、だったら俺はそれでいい!今すぐ生き返らせてくれ!!」


『(・・・・・・良い目だ。)』



 選んだ冬弥の目を見て、ホロケウカムイはその目に曇りが無い事を確かめた。


 仮に冬弥の目が曇っていたとしても冬弥の選択を変えない限りはそれを叶えるつもりだったホロケウカムイだったが、その目を見た途端、安堵したかのように表情を綻ばせた。



『―――――――――お前の選択、二言はないな?』


「ああ!!」


『なら、お前の選んだ選択を我は叶えるとする。言うのが遅くなったが、この場所の時の流れは現世とは大きく異なる。今は現世よりも早く時が進んでいるせいで現世ではお前が死んでからまだ1分も経っていない。目が覚めればすぐに戦いになるだろう。』


「分かった!早く始めてくれ!」


『よかろう。そこで動かず目を閉じ、精神を落ち着かせよ。』



 冬弥は言われた通りに目を閉じてジッと動かないようにしながら心を落ち着かせていった。すると、冬弥の体は白く輝き始める。


 輝きは次第に強くなり始め、それに伴って冬弥の全身の輪郭がぼやけていく。



『――――――冬弥、お前が次に目を開けた時、お前の身体は我と同じ『神獣』の姿になっている。すぐには慣れぬだろうから、お前の体と魂に“知識”と“記憶”を与えておく。違和感を与えぬようにしておくのですぐに戦う事ができるだろう。・・・願わくば、お前達がここに来る事がもう起きないことを祈っている。』



 目を閉じている冬弥は気付いていない。


 この時のホロケウカムイの顔は別れを惜しむような、愛おしい者を見るような、神と言うよりは慈愛に満ちた人間に近い表情をしていた。


 それが何を意味するのか、目を閉じている冬弥には決して知る事はなかった。



『―――――――行け、永く短い生を楽しんで来い!』



 次の瞬間、光が弾け空間全体を飲み込んでいった。


 光が収まると、そこには冬弥の姿はなく寂しそうな表情をしたホロケウカムイだけが残されたのだった。



『・・・・・・出てきたらどうだ?』



 顔を引き締め直したホロケウカムイがそう呟くと、彼以外居ない筈の空間に複数の気配が発生し、その気配の主達はすぐにホロケウカムイの周りに現れた。


 その内のいくつかは動物に似たシルエットを見せたが、それは一瞬で消え代わりに数人の男女が立っていた。


 1人は毛深く真っ黒な着物を身に纏った大柄の男、2人目は少し露出のある山吹色の着物を着た長髪の女性、3人目は草色の着物を着た金髪の小柄な少年、4人目は爬虫類のような眼をした長身の青年、5人目は歴戦の勇士を思わせる無精髭がある男だった。



山の神(キムン)太陽の神(トカプチュプ)風の神(レラ)蛇龍の神(ホヤウ)雷の神(カンナ)、揃いも揃って盗み聞きとはいい御身分だな?』


「神だからね♪狼の神(ホロケウ)もそんな窮屈な格好をしてないで人化しなよ?」


『・・・フン!』



 金髪の少年に言われ、ホロケウカムイはその姿を変えていった。



「・・・・・・。」


「何度見ても小僧によく似ているな?」



 全身黒ずくめの男は面白そうに人間の姿になったホロケウカムイをジロジロと見ていた。


 今のホロケウカムイの姿はアイヌ文様が刻まれた白い半袖の着物を身に纏った黒髪の青年、その顔は不思議なことに冬弥によく似ていた(・・・・・・・・・)


 纏っている空気こそ違うが、外見はどう見ても大人版冬弥(慎哉)だった。



「よかったのか?」


「ああ、2人は2人の人生がある。これ以上俺が関わるのは蛇足、邪魔にしかならない。」



 爬虫類の眼をした青年の問いに、ホロケウカムイは当然の事のように答えた。表面上は。


 ホロケウカムイの口調は冬弥と話している時とはすっかり変わり、見た目通りの青年風になっていた。



「俺のことよりも、高位の神々がそろって何してるんだ?あ、レラを除いてな。」


「何だとーーー!?」



 金髪の少年は子供のようにプンスカと怒るが周りは普通に無視した。


 それはどうでもいいとして、ホロケウカムイの問いに答えたのは勇士風の男だった。



「ホロケウ、それはお前も分かっているだろう。あの厄介なのがこの地で好き放題しているのだからな。」


「たまに遊びに来るオタク神どもは無視していいけど、あの堕天使達は違うわ。百害あって一利無しよ!」


「そうそう!今だって、気持ち悪い風や霧のせいで吐き気がしそうなんだよ!」


「・・・俺の縄張りもかなり荒らされたな。これが人間ではなく、神格を持つ者の仕業であれば俺達が始末していたが・・・。」


「性質の悪いことに、奴は存在の大半が人外でも一応は人間、俺らが手を出すわけにはいかない。」



 集まった者達、古より日本最北の地を見守ってきた神々は口々に現状への不満や苛立ちを話し始めた。


 彼らは知名度こそそれほど高くはないが、神格は(一部を除いて)ホロケウカムイと同様にかなり高い神々なのである。



――――――山の神であり、熊の神でもあるキムンカムイ。


――――――太陽を司る女神であるトカプチュプカムイ。


――――――悪戯好きな風の神であるレラカムイ。


――――――翼を持った大蛇の姿で知られる蛇神、ホヤウカムイ。


――――――雷の神であり、その本性は龍神の1柱とされるカンナカムイ。



 ホロケウカムイと共にアイヌの伝承でのみ語られる神々である。



「――――――契約者を得れば我らも現世に干渉する事は可能だが、我らと契約できる者は限られている以上、こちら側で静観するしかない。」


「けど、俺達と違ってお前はすぐそこに――――――」


「レラ!!」


「ヘイヘイ!」



 ホロケウカムイはレラカムイを威嚇し、レラカムイは渋々口を閉じた。


 レラカムイの言おうとしたこと、それはすぐに契約できる人間が身近にいない彼らと違い、ホロケウカムイには今すぐにでも契約できる人間が2人、いや、今は1人いるということだった。


 だが、ホロケウカムイは決してそれをしようとはしなかった。昨夜のように一時的に憑依する事はあっても、直接契約を行う事は決してしないと自身で決めていたのである。



「ホロケウ、お前がそれを隠そうとする理由は俺達も理解している、しかし、お前がいくら隠したところで2人が真実を知るのは時間の問題、早ければ今回の件が終わった直後に知ることになるんだぞ?」


「・・・それでも、俺が話さない限りは誰も確証を得る事はない。あの2人には今まで通りに人の世で生きていてほしい。だからこそ――――――――――」



 付き合いの長いキムンカムイの言葉に、ホロケウカムイは辛そうな表情を見せた。


 ホロケウカムイにとって慎哉と冬弥の兄弟は特別な存在、単なる末裔や加護を与えた人間という枠で収まる様なものではないのだ。それはここにいる5柱の神全員が知っており、だからこそ彼らはホロケウカムイに意見する事はあっても2人に干渉する事は1度もしてこなかった。





「――――――だからこそ、俺はただ見守るだけの存在()のままでいいんだ。」





 哀しげに話すホロケウカムイの顔を、5柱の神々はただ静かに見ていることしかできず、それ以上は何も言わずにその目を現世へと向けるのだった。





 最後に神様たくさん出てきました。

 ホヤウカムイって、ゲーム版「デビルサバイバー2」で初めて名前を知りました。


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