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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第11章 白狼編
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第184話 不意打ち

 ウエンレラは元々小さな巻き風を指す言葉だった。


 開拓期以前の北海道の農村に時折現れる巻き風(ウエンレラ)は周囲の畑を荒らしていき、まるで鎌で裂くように木々も倒していき、その特徴は本州甲信越地方に伝わる妖怪「カマイタチ」にも似ていた。


 ある日、また人里に現れたウエンレラはいつものように畑を荒らしていたが、近くにいた農民が巻風姿のウエンレラに向かって鎌を投げ込んだ。するとウエンレラは逃げるように姿を消し、その場には血塗れになった鎌だけが残されていた。




--------------


 慎哉達の前にいるウエンレラは伝承に出てくる巻風とは異なり、明らかに竜巻という規模の大型の個体だった。


 そこからは魔力を感じることはできても意思のようなものは感じられず、ステータス情報に載っていたように誰かに洗脳された上で使役されているようだった。おそらくは、今回の一連の事件の黒幕であるフェランの仕業なのだろう。



「行くぜアルバス!!」


「ああ!」



 アルバスの体が一瞬まばゆい光に包まれ、次の瞬間には1体の白い飛龍が砂浜の上に現れていた。



「あいつ、ドラゴンだったのか!?」


「あ、そういえば言ってなかったっけ?」


「聞いてねえよ!」



 後方で見ていた冬弥は目の前で起きた変身に驚きを隠せないでいた。


 それを横で見ていた慎哉は、久しぶりにアルバスのステータスを確認してみることにした。



【名前】アルバス

【年齢】50  【種族】龍族(飛龍)

【職業】冒険者  【クラス】聖龍

【属性】メイン:光 氷 サブ:風 水

【魔力】6,180,000/6,180,000

【状態】正常

【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv4) 属性術(Lv4) 龍眼 人化 体術(Lv3) 神速 浄化

【加護・補正】契約した龍 物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv3) 氷属性無効化 光属性耐性(Lv5) 風属性耐性(Lv3) 水属性耐性(Lv3) 闇属性耐性(Lv3) 龍神の加護 四龍王の加護 乱世の救済者



 約1ヶ月ぶりに見るアルバスのステータスは以前よりも全体的に能力が向上しているのが見て取れた。


 以前はサブ属性だった“光”がメイン属性になり魔力も増えている。能力や補正も強化され、加護も新しいのが追加されていた。



(うわ~、アルバスもどんどんチートっぽくなってきてないか?)



 アルバスのステータスに若干呆れつつ、慎哉はアルバスやトレンツ達が戦うのを見届けた。



「《アイススピアー》!!」



 トレンツの魔法、鋭い槍状の氷が数十本現れると一斉にウエンレラに向かって飛んでいった。だが、数十本の氷の槍の多くは命中する前に風で砕かれ、残った数本は竜巻を貫通したが効果はなさそうだった。



「・・・貫通系の攻撃は効果がない?」


「だったら、今度はまるごと凍らせてみる!アルバス!」


『分かっている!』



 トレンツの言葉に答えるよりも先に飛翔したアルバスは竜巻の真上まで来ると、その中心に向かってブレスを放った。



『《ホワイトブレス》!!』



 地上にいる仲間を死なせない程度には加減をした威力のブレスを放つと、爆発と同時周囲一体は氷点下の冷気に包まれた。その中心には一本の巨大な氷柱が立っていた。



「やったか!?」


「いえ、まだよ!!」



 ミレーナが答えた直後、氷柱全体に何本もの亀裂が走り弾け飛んだ。



「おいおい、どういう体をしてるんだよ?」



 弾け飛んだ氷の中から現れた竜巻を見ながらトレンツは呟いた。もっとも、竜巻を丸ごと凍らせることも十分に非常識ではあるが。


 氷柱の中から出てきたウエンレラはその勢いを急に上げ、トレンツ達のいる方へ前進を開始した。周囲の砂を巻き込みながらの前進はそれ自体が攻撃力を持ち、トレンツとリサは自分の周囲にバリアを張りながら前進してくるウエンレラに向かって攻撃を続けた。



「《ブリザードブラスト》!!」


「《アクアエッジ》!!」



 加減はせず瞬殺するつもりで攻撃するが、先程より回転速度を増したウエンレラの竜巻はその威力を利用して攻撃を弾いていく。



「風の中に本体がいるカマイタチと違って、竜巻そのものが本体だから厄介ね。!」


「・・・それになんだかさっきから大きくなっていないか?このままだと街の方にも被害が及ぶんじゃね?」


「竜巻ごと消し飛ばすよりもまず、あの回転力を削ぎ落した方が良さそうね。」


「だな!」



 時間と共にその大きさと力を増していくウエンレラに苦戦していた2人は、倒すよりも先に相手の力を削いでいくことを選んだ。


 そしてトレンツは上空を見上げ、アイコンタクトでそれをアルバスにも伝え、アルバスもコクリと肯いて返事をし、すぐに降下してウエンレラの前に立ち塞がった。



「慎哉!ちょっと派手なのやるから防御を張るんだ!」


「――――――わかった!《アイスバリア》!」



 トレンツに言われて慎哉はすぐに自分と冬弥を囲む様に《防御魔法》を唱えた。氷属性の魔力が半球ドーム状に2人を囲み、通常の《バリア》よりも強力な盾が2人を守り始めた。


 その直後、アルバスは両翼を激しく羽ばたかせ始めた。



『《ホワイトトルネード》!!』



 アルバスが唱えるのと同時に、ウエンレラの前に白い竜巻が発生した。それはウエンレラの竜巻よりも大きく、一瞬で周囲の砂浜を吹き飛ばした挙句、海岸に打ち寄せてきた海水を一瞬で凍結させていった。


 白い竜巻はウエンレラと衝突し、同方向に回転する二つの竜巻は互いに威力を減衰させ始めた。ウエンレラは負けじと押し返そうとするが、魔力で圧倒的に上をいくアルバスは己の魔法にさらに魔力を流し込んで強化していく。



「よし!ウエンレラが小さくなっていくぞ!」


「丸ごと凍らせただけだとダメだけど、ああやって弱らせる攻撃は有効みたいね。後は厳戒まで弱らせたところを叩くだけよ!」


「イッケ~!アルバス!!」



 ウエンレラは時間と共に回転力を失っていき、その大きさも回転力に比例して小さくなっていく。衝突から一分も経つ頃には最早その姿は竜巻ではなくただの巻き風となっていた。



『――――――トレンツ!』


「おう!《絶対零度白氷蹴撃(アブソリュートゼロキック)》!!」


「『ライ〇ーキックの真似よね(か)?』」



 アルバスの白い竜巻が消えたと同時にトレンツは高く跳び、小さくなったウエンレラに向かって絶対零度のキックをお見舞いした。


 無駄に威力のあるのそのキックはまさに必殺の効果を発揮し、ウエンレラはその威力に抗う事も出来ず跡形もなく消えたのだった。



「――――――Win!!」



 少年マンガの主人公みたいにトレンツは決めポーズをとった。


 ウエンレラがいた場所からは妖力が完全に消滅し、完全に倒したのを確認するとリサと慎哉も自分達にかけた魔法を解除してトレンツの元へと駆け寄った。



「やったな、トレンツ!」


「何だよさっきの技!?仮面〇イダーのパクリか!?」


「それはもう言ったわ。」


「イエ~イ!俺とアルバスの勝利だぜ♪」


『ポーズが無ければもっと良かったんだけどな。』



 アルバスも地上に下り、会話の輪の中に入る。


 ミレーナは周囲に敵がいないのを何度も確認し、敵がもういないと分かるとホッと軽く息を吐いてみんなにも伝えた。もっとも、今も周囲を包み込む濃霧が健在である以上はまだ油断はできないので、探知系の魔法は引き続き常時発動させてはいる。



「じゃあ、また何か起きるまでは引き続き監視と待機だな!にしても、アイツ本当に遅いな?やっぱ、敵と遭遇してるんじゃね?」



 トレンツがミレーナを見ながら言うと、ミレーナも頷いて答えた。



「こんなに待っても来ない以上、その可能性が高いわ。だとしたら、今は勇吾達と合流しているかもしれないわね?」


「なあなあ、何の話をしてるんだ?」


「今説明するよ。」



 状況が読めない冬弥に慎哉が事情を簡潔に説明しようとする。



「ん?」



 だがその直後、慎哉は周囲に奇妙な違和感を感じた。それは何かが見えた訳ではなく、ただ慎哉の第六感が言葉ではすぐに言い表せられないような違和感を報せていたのだ。



「どうしたんだ?」



 隣に立っていた冬弥はいち早く慎哉の様子が変なことに気付き、何かあるのかと周囲を見渡した。



「ん?」



 そして冬弥も慎哉と同じように違和感に気付き始めた。


 その時だった!




「バレちゃった♪」




 まるでイタズラが親にバレてしまった子供のような口調の声が慎哉達の耳に届いた。



「「『この声――――――!!』」」



 トレンツ、ミレーナ、アルバスの3人はその声を聞いた瞬間、戦慄した顔になり、すぐに警戒をマックスにした。


 だが、その時はもう遅かった。



     ブシュッ!!



「「え!?」」



 慎哉と冬弥は揃って声を漏らした。


 一瞬、互いに何が起きたのか全く理解する事が出来ず、呆けた顔をで視線を僅かに下げた。



「あれ?」


「・・・・・冬弥?」



 冬弥の目に映ったのは自分の胸から噴き出す自分の血だった。


 慎哉の目に映ったのは、何か細長い物に胸を貫かれて血を流す冬弥の姿だった。





「少し予定とは違っちゃったけど、別に良いよね?」





 そして声の主は、霧の奥から12枚の黒い羽を広げその姿を現した。


 『幻魔師』カースウェル、最凶最悪の敵が再び彼らの前に現れた。




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