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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第3章 アンドラス編
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第16話 惨殺事件

平日は1日1話投稿にします。

休日はできる限り2話投稿にします。

 声が聞こえてくる。


 何もない空間に意識が浮かぶ感覚の中で聞き覚えのない声が聞こえてくる。



『―――――――――け―――――――――――て――――――――』



 ハッキリと聞こえない。


 必死に聞き取ろうとしても声の方が遠ざかっていく。



『――――き―――――――――――ら―――――――――!』



「誰だ!?何を―――――――――!?」



 叫び声は最後まで出ることは出来なかった。


 周りが真っ白になり、意識が上へ押し上げられていった。








--------------------------


「―――――――――――――――っ!!」



 目が覚めると、勇吾はベッドの上の上にいた。


 そこでようやく、自分がさっきまで夢を見ていた事に気付く。



「夢・・・・・・いや、あれは――――――――。」



 起き上がり、さっきまで見ていた夢を思い出す。


 あれはただの夢ではなかった。


 自分のような魔力が強い人間―――――と言うより魔力の使える人間が見る夢には特殊なものがある。それは時に誰かの過去や未来、遠くでの出来事だったりする。日本人で初夢という言葉が浸透しているように、夢の中には特殊なものがあり、勇吾クラス以上になると一般人に比べて高確率でこういった夢を見る事がある。



「助けて―――――か。」



 ハッキリとは聞こえなかったが、助けを求める声だと直感した。



「――――――――――若い――――――女?」



 確信はないが、あの声は女性――――――――それもかなり若い、十代の少女のように聞こえた。








--------------------------


 着替えを終え、早朝の鍛錬を行った後は朝食の準備に入る。


 現在、能力を生かしまくって創ったこの家に定住しているのは勇吾と黒王の2人である。ライはあれでも(・・・・)日本の神なので1年の多くは自分が司っている土地の方に行っている。が、結局は趣味に走る事も多いので暇を見つけては呼んでもいないのにここに来たり、時には泊り込んだりもしている。彼の氏子たちには絶対に知られくない秘密である。



「今日は魚か?」


「ああ、すぐにできる。」



 紅鮭を焼いている所にシャワーを浴びてきた黒王が来る。


 リビングには鮭の焼ける匂いと味噌汁の香りが漂っていた。黒王はテレビの電源を付けると朝のニュース番組にチャンネルを変えた。



「今朝もいつもと同じか―――――。」



 ニュースを観ながら情報収集を行う。この世界ではギルドからの情報網も限られるので、テレビやネットは彼らにとっては重要な情報源の1つである。



「焼けたぞ!」


「では、食べるか。」



 ニュースを流したまま、2人は朝食を取っていった。今朝のメニューはご飯に味噌汁、焼き鮭と御浸しといった和食コースである。彼の故郷、凱龍王国では異世界の食事の中でもこの世界の料理がメジャーになってきている。その理由には王族の影響が大きかった訳だがここでは割愛しておく。


 朝食を進めていくと、テレビから臨時ニュースが届いたと聞こえてきた。



「――――――何だ?」


「事件が起きたようだな?」



 箸をとめ、2人はテレビの前へ移動する。


 テレビの向こうでは、都内の高校生が殺害されたと報道されていた。



『―――――ます。本日未明、〇〇市〇〇で地元の高校生と思われる惨殺体が発見されました。詳細は不明ですが、殺害された遺体は複数あるとみられ、警察は捜査本部を設置して―――――――――――――。」



 女子アナの報道と共に現場の映像が流れる。


 テレビに映った現場の映像を見て2人の目はいっそう真剣なものになる。映された現場は騒然としていた。それは例えるなら武装集団が人質を取って立て籠もっているか、毒ガステロでも起きたかような光景だった。


 現場にはたくさんの警察車両や救急車が集結し、ブルーシートで覆われた事件現場と思われる建物の中を警察官が大勢出入りしていた。現場一帯は封鎖され、報道関係者も空かしか現場を見られないようだった。



「―――――――黒!?」


「殺人にしては随分な騒ぎだが、この世界では決してありえない事ではない。警察に任せればいい――――――――が、死んだのが高校生が複数となると――――――――。」


「―――――憶測していても仕方がない。直接行ってみた方がいい!」



 普通に考えれば凶悪事件が発生したとこの国の民衆は思うだろう。だが、『奴ら』を追っている2人にとってはそれだけでは片付けられないかもしれない事件に見えたのだった。


 『奴ら』――――――――それは2人が追っている組織であり、様々な世界で事件を起こしている冒険者ギルドはもちろん、向こうの世界の各国政府からも危険指定されている。組織の起こす事件は地方の新聞のゴシップとしか残らない怪事件から世界規模で報道されるようなテロ事件など大小様々である。


 日本に来てからも、2人は組織が起こしたと思われる事件や現象を調査し、場合によっては現地にも何度か向かったりもしているが何分時間が浅い。まだまだ全てをチェックしきれておらず、リアルタイムで発生している可能性もあった。そんな中、目の前で報道されている高校生の惨殺事件は調査対象としては十分な事件だった。


 そして勇吾には夢の事もあった。直接関係すると限らないが、過去にも似たような出来事があった勇吾には何かの予兆かもしれないと思えた。



「――――――とにかく、行くにしても食事を済ませてからだ。」


「あ、ああ・・・・・・。」



 比較的冷静な黒王に言われ、中断していた朝食へ戻って行った。






--------------------------


――東京都〇〇市――


 2時間後、2人は事件の起きた町に町に来ていた。


 現場の周りにはマスコミや地元住人などが大勢集まっていた。マスコミにはあれ以降警察からの情報が公開されていないらしく、マスコミよりも住人達にネットへの書き込みの方が多くの情報を持っていた。



「――――《ステルス》!」



 一目のない場所で隠蔽魔法を使い、2人の姿は一般人には見えないようにした。前回の事もあるので、以前よりも強力にかけ、念の為周囲の人間のステータスなども確認してから現場へ侵入していった。



「――――――――――!?」



 現場の建物に入った途端、2人の肌は外からは感じられなかった異様な魔力を感じ取った。


 ねっとりと、建物の空間に染みついた魔力は人間とは全く質の異なるものだった。そしてその魔力、そしてその持ち主に彼らはすぐに思い至った。



((―――――――――――悪魔か!))



 悪魔――――――――主に西アジアからヨーロッパ各地の伝承に登場する存在。時に人を誘惑し、気まぐれに願いを叶えたりもする魔に属する存在である。その種類は無名の者から有名な者まで数は多く、もしかすると今の地球の人口に匹敵するのかもしれない。


 悪魔が存在する世界は意外と多い。勇吾達もこの世界以外の世界で様々な悪魔と対峙し、討滅する事も多々あった。それらに共通するのは独特の魔力の質である。個体差はあるものの、どの世界でも悪魔の持つ魔力はどれも似た質をしているのである。



「どうやら当たりのようだな?」


「ああ、決してありえない訳じゃないが――――――少なくとも可能性は0じゃない。」


「現場は向こうのようだ。行くぞ。」


「ああ――――――。」



 異常な空気の中、警察関係者にぶつからないよう注意しながら建物の奥へと進む。現場を移動する警察官の顔色はどれも悪い物ばかりだった。建物に充満している悪魔の魔力の影響もあるのだろうが、大半は事件の異常さからなのだろうと思われた。


 そして、ある一角に近づくと、床や壁に血の跡が散らばっていた。血の跡は進むにつれて多くなっていく。そしてその一角を遮っているブルーシートを不自然にならないようタイミングを見計らって通過する。



「―――――――――――チッ!」


「・・・・・・・・・・。」



 その現場を見た瞬間、勇吾は舌打ちをし、黒王はただ目を細めて沈黙した。


 そこは血の海だった。床や壁一面に大量の血が撒き散らされ、そのほとんどが乾ききっておらず生々しさを感じさせられる。中にいる警察官のほとんどは口に手を当てながら作業を進めている。



「―――――――――――1人、2人ではないな。」


「ああ、10人近くは死んでいる。殺したのはかなり攻撃的――――――殺戮を特に好む悪魔だろうな。」



 反吐が出そうな気分になりながらも、勇吾は現場にいる警察官の会話を聞きながら自分も現場に手がかりがないか調べていった。


 所々に警察が回収しきれなかったであろう肉片の欠片が落ちている中、勇吾は壁や床に不自然な傷がある事に気付く。



(これは・・・・・・剣、それに獣か!?)



 壁には鋭い何かで斬られたような傷が、床には動物が引っ掻いたような跡が残っていた。



「勇吾、どうやらこれ以上は無駄なようだ。ここには被害者の霊(・・・・・)が1人もいない。本人から聞くことはできない。」


「――――そうか。やった悪魔は剣の使い手――――――と、おそらく獣の従僕がいる奴だ。」


「思い当たるのが何人かいるがまだ情報が足りないな。次は捜査本部で情報を集めるとしよう。」


「―――――ああ。」



 おそらく喰われたのであろう最早魂も存在しない被害者に心の中で弔い、2人は現場のビルを後にしていったのだった。








--------------------------


――桜ヶ丘中央高校――


 教室の中は未だに騒然としている。


 当然だ。昨日まで同じ教室にいた生徒が何人も殺されたのだから。授業は1限目から自習が続き、教師たちは職員会議を続けている。


 生徒達の動揺も激しかった。殺されたの被害者の多くはこの学校の生徒、そのうちの2人はこのクラスの中でもかなりの悪であり、クラスの中で起きていたイジメの首謀者でもあったのだ。この2人だけが死んだのなら敵対する誰かに闇討ちにあったとも思えたのだろうが、一緒に死んだのが2人と特別仲のいい訳でもない女子生徒だったのが生徒達の恐怖を生んだのだ。



「―――だってさ――――――!」


「でも・・・・・・。」


「――――2年生もいたって・・・・・!」



 生徒達の多くは携帯電話などを操作して情報を集めている。そして何かわかればすぐに口に出して周りに伝えていく。それによると、殺された女子は高校に入ってからハメを外し始めたらしく、昨夜は悪2人と夜遊びをしていたらしい。



「おい、ヤバいのに関わってねえだろうな!?ドラッグとか・・・・!?」


「んな訳ねえだろ!?」


「なら、何で・・・・・・!」



 殺された悪の仲間達は一番困惑していた。彼らは親や学校にはバレないようにしながら影で色々やっていたが、今回のような惨殺事件を起こす程のトラブルに心当たりはなかった。


 学校中が恐怖と混乱に陥る中、唯一答えを知る彼は恐怖だけではなく後悔に苛まれていた。



「そんな・・・・こんな・・・・・事に・・・!!」



 彼の声を聞いている者は誰もいなかった。何より、彼が事件に関わっている事に気づける者など皆無だった。







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