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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第11章 白狼編
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第177話 説明と協力

・ばれちゃいました。

――北海道 〇〇市 佐須家――


 勇吾達が『エペタム』と戦い破壊した日の次の日、その日の〇〇市の住宅街は普段よりも静かな朝を迎えていた。それは土曜日だからという訳ではなく、ここ連日続く謎の変死事件、昨日は死ななかったとはいえとうとう未成年者が犠牲になった事で老若男女問わずに外出を控える家が急増したのが原因だった。


 特に地元の学校の多くは急遽休日中の学生の部活動を自粛する事を決定したので普段の土日なら僅かに見える学生の姿もほとんど見られなかった。


 そんな中、住宅街の一角にあるとある二世帯住宅、古い木造家屋の隣に新築の家を繋げた家には朝から大勢の来客を迎えていた。



「粗茶ですがどうぞ。」


「ありがとうございます。」



 初老を迎えたばかりと女性、佐須桐吾の義理の姉、つまり冬弥の母親がお茶を配って回り勇吾達は礼を述べながら受け取っていく。


 現在、佐須家の祖父母が暮らす木造家屋の部分にある少し広めの和室には冬弥を含めた佐須家の一同と客の遥花、慎哉を含めた勇吾達一同が対峙していた。



「改めまして、天雲勇吾と言います。そして隣に座っているのが―――――――」


「き、北守慎哉です。」



 慎哉は色んな意味で緊張しながら自己紹介をする。その視線の先には彼と瓜二つの少年、佐須冬弥が同じように緊張しながら正座していた。


 ここにいる本人達以外の全員がさっきから何度も2人を見比べていた。



「さ、佐須冬弥です!」


「冬弥の父の重雄です。」



 その後、佐須家の自己紹介が続き、さらにその後は勇吾達の身分や事情を魔法の実演を交えながら進めていったが、1時間以上続いたので省略する。


 現実離れした話によるショックから佐須家一同が立ち直った後は勇吾の主導で話が進められていった。



「―――――――という理由で昨夜まで続いていた連続変死事件を追う中、昨日の午後に息子さんと出会った訳です。結論から言うと、息子さんとここにいる慎哉は血のつながった兄弟、一卵性双生児です。昨夜の内に2人の毛髪を専門家にDNA鑑定してもらい確証を得ているので間違いありません。こちらが鑑定結果です。」



 勇吾は昨夜のうちに無理を言ってギルドの職員に頼んだ鑑定結果が書かれた書類を佐須夫妻に渡す。そこには、慎哉と冬弥のDNAが完璧に一致したと書かれていた。


 その結果をみた直後、冬弥の母親はショックで倒れそうになり、後ろにいた遥花に支えられながら何とか意識を保った。



「信じられない・・・・・。」


「それはこちらも同じです。発覚当初、被害者は慎哉1人だけと考えていましたから。双子の兄弟がいる可能性が浮上したのは先月の末でした。」


「じゃ、じゃあ・・・その、慎哉くんも私達の子供なんです・・・か?」


「「―――――――!」」



 冬弥の母親の質問に慎哉と冬弥の2人はほぼ同時にビクッと肩を震わせた。


 それは、この場において最も重要であると同時に最も厄介な質問のひとつだった。


 その質問を聞いた勇吾は表面上は動揺を見せず、少し間を空けてからゆっくりと答え始めた。



「それはまだ分かりません。昨日は2人の鑑定のみを優先させたのと、鑑定に必要なDNAサンプルがなかったのでまだ不明です。」


「そう・・・ですか。」



 冬弥の母は安心と不安を混ぜた様な複雑な表情を浮かべていた。


 勇吾の言った事には嘘ではない。


 しかし、嘘ではないが全てを話した訳でもなかった。。



(目に見える証拠もないのに迂闊に答える訳にはいかないからな。)



 まだ推測の域を越えていないが、勇吾は冬弥の母の質問の答えを幾通りか(・・・・)持っていた。だが、証拠もないのにそれを話せば間違いなく佐須家は混乱させてしまう。勇吾自身、家庭に少なからず“複雑な事情”を抱えているのでそう言った事態は避けたかったのだ。



「―――――ただ、こちらも15年前に何があったのか調査していますので、ご協力をいただけると非常に助かります。もちろん、無理にとは言いませんので・・・。」



 勇吾は隣に座る慎哉を一瞥する。


 既に慎哉には粗方の事情は話しており、慎哉自身も自分の出生について知りたいと勇吾に自分の意志を伝えている。


 北守慎哉と佐須冬弥、この2人の出生の秘密こそ、彼らと勇吾達を引き合わせた根源的な要因なのだ。



「・・・・・・俺、何があったのか知りたい。」


「冬弥?」



 1分ほど沈黙が続いた後、それを冬弥は確かな意志が込められた声で沈黙を破った。



「ハッキリ言ってまだ頭の中がいっぱいいっぱいだけど、分からないままにしとくのはスッゲェ納得がいかないんだよな。だからさ、父さんも母さんもこいつらに協力してくんね?」


「冬弥・・・・・。」


「いいのか?無理に知ろうとしなくても今まで通りに暮らすこともできるんだぞ?」


「父さん、それは無理だって。もう・・・兄か弟かはまだ分かんないけど、生き別れた兄弟に逢ってしまったんだからさ♪」



 両親の心配をよそに、冬弥は慎哉を見ながらニッと笑みを浮かべ、それを見た慎哉も同じようにニッと笑みを返した。



(同じ事を言うとは、やっぱり双子だな。)



 横から見ていた勇吾は半ば良い意味で調子を崩され、「フッ。」と笑みをこぼした。


 それは佐須家も同じらしく、さっきまでの不安や緊張の空気が嘘のように和らいでいった。


 冬弥は知る由もない無い事だが、慎哉もまた同じことを勇吾に言っていた。過ごした町も家庭も全く異なっても、どこか根幹の部分で通じているのだと勇吾は思うのだった。


 その後、冬弥に心を動かされた佐須夫妻は頭を下げて協力を惜しまないと言ってきたのだった。





--------------------------


 説明を兼ねた挨拶を終え、勇吾やミレーナ、佐須夫妻などの一部は部屋に残って佐須家に残っている記録などを集めての15年前の調査を開始していた。


 一方、特にやる事のないその他大勢は解散となり自室に戻ったり和室に残った者達へのお茶を淹れ直しに行ったりしていた。


 そんな中、慎哉達や桐吾と遥花の刑事2人組は庭に出ていた。



「―――――――じゃあ、その古美術商が?」


「そう考えて間違いないだろう。最初の事件の翌日、どういう経緯でかはまだ不明だが、あの店の社長か社員の誰かが夜明けとともに活動を一時停止した『エペタム』を掘り出し物と勘違いして道外へ持ち出し、それによって移動中に寄った東北や首都圏などでも何件かの同様の事件を起こしてしまったのだろう。そして専門家などに鑑定してもらった後、この町に店に持ち込んだせいでもう1つの(・・・・・)連続変死事件がこの町を中心に起きた。大体はこう言ったところだろうな。」



 縁側に座っていた桐吾は、隣に座っている人化中の黒王から連続変死事件の現時点で判明している(・・・・・・・・・・)概要を聞いていた。



「犯人が両方とも人外の時点でこの事件はいずれお蔵入りになるだろう。それまではこの町を中心にした近隣の地域も含めて厳戒体制が続くだろうが、そこまでは俺達も関与する必要はないから放置だな。」


「被害者遺族には辛すぎるな。」


「仮に真実を公表したとして、誰がそれを信じる?人間が犯人でない限り遺族もそれ以外の民衆も納得はしないだろう。それに、人外の存在が公になれば、一部の過激な思想を持った人間達が暴走するのは目に見えている。過去に会った魔女狩りのように。」


「・・・・・・。」



 桐吾は反論する事は出来なかった。


 休暇中――というよりは休職中―――とはいえ彼も刑事、それも大都会横浜で数多くの事件に関わってきたそこそこベテランの刑事だ。関わった事件の中には常人の理解の範疇を超えた異常な事件もあり、その度に過激な宗教団体や暴力団、様々な人間の様々な悪意にも触れてきた。


 だからこそ、黒王が言いたい事もすぐに理解する事も出来たし、それをあえて口に出す事もしなかった。



「――――――それ以前に、変死事件は昨日で終わるだろうが、一連の事件そのもの(・・・・・・・・・)はまだ終わってはいない。」


「――――――――――どういうことだ!?」



 黒王の言葉に桐吾は目を険しくさせた。



「『エペタム』と『アラサラウス』の説明は先程したが、どちらも俺が生まれるより昔に封印されていて、本来ならば半永久的に目覚める事はなかったはずだ。誰かが意図的に封印を破らない限りは・・・・・・。」


「・・・首謀者がいるってことか!」


「それは間違いないだろう。この1ヶ月の間に北海道だけでいくつもの怪事件が発生している。これをただの偶然で片づけるには無理がある。アラサラウスに関しては肉体を改造されていた痕跡も残っていた。確かに変死事件は終わったが、一連の事件を仕組んだ犯人をどうにかしない限りまた新たな事件が起きないとは言い切れない。まして、まだ未解決の事件が1件残っている。」



 そう言うと、黒王は視線を逸らしある方向へと向けた。



「―――――――まだ、海の方の事件は片付いていない。」



 黒王はここからは直接は見えない、数km先にある太平洋のある方角を見つめていた。




 一方、少し離れた同じ庭の中では・・・。



「なあなあ、俺ずっと気になっていたんだけどさ?」


「「ん?」」



 トレンツは横に並んでいる慎哉と冬弥を交互に見ながら昨日から考えていた素朴かつちょっと重要な疑問を2人にぶつけてみた。



「ホントのところ、お前らさ、どっちが兄貴だと思ってるんだ?」


「「俺だろ!はあ!?」」



 双子は合わせてもいないのに声をハモらせながら自分を指差した。どうやら、2人とも自分の方が先に生まれたのだと思っていたらしい。



「お前、さっきどっちからはまだ分からないとか言ってただろ!」


「そっちこそ、何堂々と誇らしげに言ってるんだ!俺の方が兄だろ!」


「違うな。お前が弟だ!」


「お前だ!」


「お前だ!」


「・・・トレンツ、責任とって止めなさいよ。」


「面白いからもう少し見てようぜ♪」



 その後、勇吾が止めるまで双子の低次元ではあるが初めての兄弟喧嘩は続いたのだった。





・ちょっと難産でした。


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