第176話 予定外の合流
勇吾が《スローワールド》を解除すると周囲は元の深夜の商店街に戻った。
既に黒王とアルバスも人型になっている。
「けど、マジで慎哉と瓜二つだな?流石双子!」
トレンツは黒王の背中で寝ている冬弥の顔を何度も見ている。髪形などの多少の差異はあるとはいえ、それ以外はどう見ても慎哉と全く同じ、言われなければ間違えそうにもなる。それは良則も同じだろう。
そんな中、黒王はある懸念を勇吾に伝えた。
「―――――勇吾、さっきも言ったが冬弥をここに連れてくる際に例の刑事に目撃されている。おそらく、家族にも知られているだろう。」
「ああ、これは事後処理が大変だな。黒、軽い暗示で誤魔化す事はできそうか?」
「難しいだろうな。家族は分からないが、少なくとも刑事の方は例の一件で耐性ができている可能性がある。念入りにやらない限りは難しいだろう。」
「・・・そうか。」
勇吾はどうしたものかと考え始める。あの横浜での大罪獣の事件の後、『幻魔師』によって大罪獣にされた被害者には日常生活に支障をきたす後遺症は見られなかったが、代わりに魔法などに対して耐性ができていた。
普通に暮らす分にはあまり影響がなさそうに見える耐性だが、慎哉の時のように無意識のうちに魔法で隠れている者を察知したり、今回のようにまた事件に関わった際に記憶処理などが効きにくくなるなどのデメリットもあった。
「いっそみんな話しちゃえばいいんじゃね?」
「そんな単純な問題じゃない。真相次第で取り返しのつかない事になり兼ねないんだぞ!」
「・・・真相次第?」
「慎哉と冬弥、2人が実の兄弟である事はほぼ間違いない。だが、そうなると少なくとも2人のどちらかは実の両親と引き離されたという事になる。最悪、2人とも今の家族とは赤の他人の可能性だってある。」
「あ!」
トレンツはハッとなった。
勇吾の言うとおり、実の兄弟が全く別の家庭で育ったという事は、少なくとも片方は血の繋がりのない家族と暮らしているという事になるのだ。
「その辺りの真相を明らかにするまでは本人達にも伝えない方が賢明だろう。中途半端な情報は本人達を無意味に混乱させるだけだ。」
「うん、僕もその方がいいと思うよ。」
勇吾の意見に良則も同意した。
そんな中、黒王はどこか呆れた様な表情を浮かべながら別の方向を見ていた。
「――――――――黒?」
黒王の様子に気付いた勇吾が声をかけると、黒王はフウと軽く溜息を吐いた。
「・・・勇吾、どうやらその考えは不可能になりそうだ。」
「え?」
「・・・・・・。」
黒王がある方向、商店街の先にある交差点を指差すと、交差点の右折方向から人影が気配も出さずにいくつも現れた。
「「「――――――――――――!?」」」
突然視界に映った人影に、黒王以外の4人全員が驚愕する。
そして人影達は、勇吾達気付くと手を振りながらこちらに走ってきた。
「お~~~~い!」
「「「――――――――慎哉!!」」」
人影の1つは慎哉だった。
その後ろには晴翔と翠龍、そしてリサ達もいた。
(このタイミングで・・・・・・!!)
悪いタイミングで現れた慎哉に焦る勇吾。黒王の方に視線を向けると、彼は勇吾に視線を向けようとはしなかった。
(気付いていたのか!?)
「お~い、やっと見つけたぞ~♪」
「勇吾!お前ら何で北海道にいるんだ~?」
「ハハハ、翠龍からお前らが北海道に行っているって聞いたから夕飯を食べに行くついでに来たんだよ!」
(――――――――翠龍!)
勇吾は自分達の行動が翠龍に筒抜けだった事に驚きつつも、どうして今の今まで慎哉達が近くにいることに気付けなかったという理由を悟った。
1ヶ月ほど前、勇吾達が凱龍王国に行った際、首都竜江では翠龍による辻斬り・・・ではなく、強そうな相手に強引にケンカを売る事件があった。その時は警察も動いたのにも拘らず、ほとんどの警官が翠龍を追う事はおろか見つける事も出来なかった。
翠龍には隠密行動に優れた能力を有しており、それは神龍である黒王でも察知するのに後れを取ってしまうほど優れていた。
今回もまた、翠龍が勇吾達に気付かれないように慎哉や晴翔にも同様の能力を使用した事により本人達が姿を現すまで黒王以外は誰も気づく事ができなかったのだ。
「うわあ、タイミング悪すぎじゃね?」
「ああ・・・僕の予感がまた当たっちゃったよ。」
「ん?みんなどうしたんだ?」
困惑した表情の勇吾達を見た慎哉は首を傾げながら何度も勇吾達を見比べた。
そこに晴翔達もやってくる。
「よう!リサから聞いたけど、お前らさっきまで戦ってたんだってな?」
「う、うん・・・・。」
「どうした、何か問題でもあったのか?」
「バカがバカやったとかじゃないのか?」
「「あ~~~~。」」
晴翔は勇吾達の様子がおかしいのに気付き、翠龍はまたバカが何かやらかしたのかと予想する。それに慎哉と晴翔はありそうだと勝手に納得した。
「いや、バカは今日も朝からどこかに行っていてここには来ていない。」
「じゃあ、なん――――――」
「車が接近してくる。」
「「――――――――――!」」
慎哉の言葉を途中で遮り、黒王は後方約1㎞からここに向かってくる車の存在を報せた。
「―――――警察か?」
「いや、一般車両のようだ。少し法定速度を越えて走ってきている。」
「ヤバ!見つかる前にずらかろうぜ!」
今は深夜、一般人が今の勇吾達を見たら間違いなく深夜徘徊だと思うだろう。
第一、今夜の目的を達した以上はここに長居する理由はない。
「マズイな。すぐに立ち去るぞ!慎哉達もさっさと行くぞ!」
「おい、腕引っ張るなよ!」
勇吾は慎哉の腕を引っ張ってこの場を去ろうとする。
だが、またしても悪いタイミングでトラブルが発生してしまう。
「ん・・・・・・・・」
「あ!」
「え?」
「うわあ。」
「――――――――。」
移動しようとした直後、黒王の背中で眠っていた冬弥の意識が覚めようとしていた。
「あれ?そういえば、黒のおぶっているの誰だ?」
「「「・・・・・・・・。」」」
慎哉の問いに誰も答えられなかった。
黒王に至っては無表情のまま無言を通している。
「うっ・・・・・寒っ!」
夜風の冷たさに当てられた冬弥は半分寝惚けた状態で目を覚まし、顔を上げて周囲を見渡した。
「・・・・・・どこ?」
「「は?」」
「・・・・・・俺?」
晴翔と翠龍は間の抜けた様な顔になり、慎哉はまるで鏡を見ているかのような錯覚に陥りながらも冬弥の顔をジッと見つめた。
その様子を見ていた勇吾達は上手く頭が回らなくなり、口笛を吹いて誤魔化そうとしたり明後日の方向を向いたりするなど、つまり軽く現実逃避していた。
「ん・・・・鏡?」
「・・・声も同じ?」
一方、寝惚けた状態の冬弥は慎哉と同じように鏡を見るかのように慎哉の顔をジッと見ていた。
十数秒後、微妙な静寂の中、深夜の商店街に同じ声が2人分ハモって響いた。
「「えええええええ!!??」」
「――――――――近所迷惑だ。2人とも静かにしろ。」
ようやく現実を認識できた双子に対し、黒王が普通に2人を注意する。
その時、彼らを眩しいほどの光が照らし、同時に車の急ブレーキの音が深夜の商店街に響き渡った。
「冬弥!!」
「冬弥!!」
「先輩、急にドアを開けないでください!!」
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」
急停車した車のドアがバンと開き、中から冬弥の名を呼ぶ男性が2人飛び出してきた。
それを背を向けながら聞いていた勇吾は本当に胃に穴が空きそうな思いになりながら、深く、本当に深く溜息を吐くのだった。
「あ、父さん!叔父さん!」
「・・・誰?」
「何!!??」
「冬弥が2人!!??」
慎哉と黒王に背負われている冬弥を見て驚く大人達、事態は勇吾達の都合など全く無視しまくって進もうとしていたのだった。
・ちなみに、車を運転していた遥花は酒を飲んでいません。同乗者たちは思いっきり飲んでますが。




