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第163話 神様話(かみさまばなし)

・難産でした。

・これは番外編に入れるべきか、それとも新章として扱うべきか迷いましたが番外編扱いにしました。

――東京 北守家――


 その日の朝、早朝トレーニングを終えた慎哉が自宅のリビングで気まぐれに新聞を読んでいると、あるページの小さな記事に目が留まった。



「ん?」



 そこにあったのは、普通なら軽く流しそうになるゴシップ欄にある記事だった。


 たまにツチノコやらUFO、よく聞くような都市伝説を短くまとめて載せただけで、慎哉も数日に1度くらいしか見る事はなかった。


 だが、今日の新聞に載っていた内容は少々見過ごせない記事だった。



『北海道で銀色の龍!?』



 小さな記事の見出しのそれを見た直後、慎哉は瞬時にとあるバカコンビの顔を頭に思い浮かべた。


 そしてこの記事が、作り話ではないと理解したのだった。



「・・・何やってるんだ、あの2人?」



 ほぼ同時刻、勇吾が当事者自身を問い詰めると、返ってきた言葉は「『白い○人』を買いに行ってた♪」だった。


 実際は北海道を一周しながらグルメを堪能して回った訳だが。


 当然、すぐにバレたバカはその場でお仕置きされた。




--------------------------


――《ガーデン》――


 その日の午前、慎哉は新聞記事の事を勇吾に尋ね、勇吾もそれに答えてこの件は片づいた。


 なお、バカは現在留守中である。



「つーか、最近の都市伝説とかって丈達が関わってるんじゃね?」


「痛いところを突いてくるな。」


「否定はできないな。実際、たまにどこかの湖で目撃される○ッシーなどの何件かは泳いでいる銀洸やその仲間だったりするからな。」



 世界中のUMAファンが知ったらガッカリ、そして別の意味で興奮する事実を黒王は淡々と語っていった。


 そしてそのまま、この日の午前は地球世界の裏話暴露会(?)になった。


 話すのは主に勇吾と黒王だが・・・。



「えっ!?マジで神様って今もこっちに来てるのか!?」


「一部はな。基本的に神は人間と契約しないと人の世には直接干渉できないが、人間に化けて買い物する位なら普通にやっている奴は結構いる。」


「ライは俺に会う前から普通にアニ○イトに通っていたしな。しかも、あいつと違って全国的に有名な神と一緒に!」


「それって、誰?」


「・・・・・・。」



 勇吾は何も言わずに視線を逸らした。


 慎哉が何度もきいても答えようとはせず、黒王も同様に沈黙を通した。



「・・・ライといえば、一緒に祭られている神に大国主がいる。」


「あれ?いきなり話題変えられてね?」



 慎哉はスルーされ、勇吾の話は勝手に進んでいった。



「以前、俺達に強制依頼をしてきたスサノオの実子とも子孫とも言われている国造りの神として有名な神だ。お前も名前くらいは知っているだろ?」


「あ~~~、何か“因幡の白兎”とかの話に出てだっけ?」


「そうだ。それ以外にも有名な逸話は多々あるが、それは今は置いておく。それより、大国主が七福神の大黒天(だいこくてん)と同一の神と言われているのは知っているか?」


「え、何それ?大黒ってあれだろ、小槌とか袋とか持っている奴!」



 慎哉は何かを振ったり背負ったりするジェスチャーをしながら訊き返した。



「大国主の“大国”はダイコクとも読めるから習合したそうだ。」


「シャレかよ!」


「―――――大国主は別名の多さでも有名だな。その多くは、元々は別の神だったのが時代の流れで次々に統合されて今の大国主に至っている訳だ。」


「神様、統廃合されてるのかよ。」


「日本はとにかく神の数が多い国だからな、時が経つ毎に習合されていくのは珍しい事でもないさ。」



 実際、日本は八百万の神々の国と呼ばれるだけあって数えきれないほどの神がいる。


 その中には日本各地の神社で祀られているメジャーな神もいれば、一部の地域のみで祀られているマイナーな神がいる。


 数が多い上に、特徴がよく似た神同士もたくさんあり、長い歴史の間には政や当時の世情などによって複数の神が1柱の神に習合するケースは数多くあった。


 特に大国主のようなメジャーな神においては、その徳の高さを示したりする理由なので他の神との習合が積極的に行われていったのである。


 その背景には、メジャーな神を祀っている氏子に公家や貴族、武家などがいた事も関係していたのかもしれない。



「んで、何でその大国主の話になったんだ?」


「・・・昨日、ライから連絡があって、その大国主が最近行方不明になったらしい。それどころか、世界中で何柱かの神が行方不明になっていて、ライがその捜索と原因究明をする事になったらしい。契約者がいるという、それだけの理由でな。」


「うわあ~、また厄介事になりそうじゃね?」


「・・・・・・・・ハア・・・。」



 勇吾は凄く疲れたように深く溜息を吐いた。


 先日の名古屋の一件の事もあり、神が関わっている事件に対して、勇吾は嫌な予感しか感じられないのである。



「―――――――行方不明になった神の中には、インドの神でありながら日本人とも馴染みのある神もいる。」



 一気に疲れた様な勇吾に代わり、黒王が続きを話していった。



「どんな神なんだ?」


「インドラとシヴァ、日本では神仏習合されて帝釈天と大黒天と呼ばれている神だ。」


「あ!それどっちも知ってる!ていうか、大黒天ってさっき出たばっかりだし!」


「大黒天は今でこそ日本人に馴染み深い福の神だが、その名前の由来はインドの破壊神マハーカーラを漢訳したものだ。そしてマハーカーラはインド(ヒンドゥー教)の最高神の1人であるシヴァの化身でもある。」


「破壊神が何で福の神なんだ?」


「確かにシヴァは暴風雨をもたらす破壊神だが、一方では雨で大地に恵みを与える神でもある。そしてシヴァの化身であるマハーカーラも、破壊以外に財福を司る側面があり、日本ではこの点が強調されて福の神となったわけだ。まあ、結局は人間の都合にすぎないということだ。」


「へえ~~~!」



 黒王の話を、慎哉は感心しながら聞いていた。


 なお、シヴァが大黒天と名前が変わったのは仏教の勢力拡大により、インドの神々の多くが改宗されて天部に降ったからとされている。


 ちなみに、その際に大日如来の命でシヴァを倒した降三世明王の仏像の足元にはシヴァとその妻が踏まれている。


 さらに余談だが、ヴェーダ神話の暴風雨の神ルドラはシヴァのルーツとも言われ、ルドラの別名にはアスラがある。



「じゃあ、他の七福神も元はインドの神様なのか?」


「いや、大黒天と同じインドの神なのはーーー」


「毘沙門天と弁財天だ。」


「あ、復活した!」



 さっきまで疲れたように俯いていた勇吾が復活し、黒王の説明の続きを話し始めた。



「毘沙門天はインドの財宝の神であるクベーラであり、弁財天は水と豊穣、そして言語、音楽、勝利の女神であるサラスヴァティーが仏教に取り込まれて日本に伝わった神だ。」


「へえ~!他のは?」


「寿老人は南極老人星を神格化させた中国の神、福禄寿は木星や禄星、南極老人星の三星を神格化させた同じく中国の神だ。布袋は9世紀に実在した伝説の仏教僧が神格化した神で、最後の恵比寿だけは日本由来の神で元々は鯨やイルカ、魚全般を神格化させた神だ。まあ、海の向こうから来た神とも言われているけどな。」


「おお~!つまり、日・中・印の神様がコラボしたユニットってことか?」


「・・・まあ、簡潔にまとめればそうなる・・・のか?」


「・・・・・・。」



 勇吾に問われた黒王は沈黙したまま視線を逸らした。


 勇吾と慎哉は知らないが、以前バカも似たような事を黒王の前で言っていたのである。



「お~い!何やってるんだ~?」



 そこに、そのバカ本人がやってきた。



「何でもない!それよりお前こそ何してたんだ!?」


「佐○保バーガー買ってきたぜい!みんなで食べようぜ♪」


「食べよ~~~♪」



 バカの背後から銀髪の少年が現れ、両手にはテイクアウトしてきたハンバーガーが大量に入った袋が下げられていた。



「銀洸・・・・・。」



 日本に順応しまくっている龍王を呆れながら見る勇吾。


 この日もまた、勇吾達はバカに振り回されながら1日を過ごすのだった。






・余談ですが、福禄寿と寿老人は同じ星を神格化させた神ということもあり、同一の神と考えられたこともありました。そのため、歴史上でも福禄寿は七福神を外されてしまう話もあるそうです。

・恵比寿は日本独自の神と考えられていますが、海の向こうから来た神とも言われているのでそれも怪しいです。

・七福神のルーツは調べてみると結構面白いです。暇な時に調べてみるのもいいでしょうね。


・次回から新章開始です。


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