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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第10章 救出編
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第158話 悪神ロキ

 そこに現れたのは1人の美青年だった。


 どこかのセレブの御曹司のような服装をした、一見すれば人間と区別がつかない青年だったが、勇吾達は彼を見てすぐにその正体を悟った。


 いや、良則だけは過去に何度か面識があったので声を聞いた時点で気付いていたが・・・。



「ロキ!」


「や、やあ!久しぶりじゃないかヨッシーくん?」


(悪神にまで浸透してるのか?あおの愛称?)


「こいつが北欧の悪名高き悪神ロキか。ラグナロクでヘイムダルと相打ちになったと聞いてるが?」



 噂をした直後に現れた世界的にも有名な悪神は「ハハハ」と苦笑いしていた。


 悪神ロキは北欧神話において主神オーディン、雷神トールと並ぶ有名な神であり、多くの神を騙したりする悪戯好きの神とされ、『神々の黄昏(ラグナロク)』では巨人族を率いて多くの神と戦い、最後は光の神であるヘイムダルと相打ちになったとされている。



「ハハハハ、あれはトリックさ!死んだフリしてラグナロクが終わるまでやり過ごしていたのさ!」


「……ヘイムダルが浮かばれないな。」


「ハハハ、それなら問題はない!バルドルみたいにとっくの昔に復活している!」


「どっちもお前が殺した光の神だな・・・。いや、バルドルは間接にだったな。」



 ロキは軽快な口調で話すが、どこか余裕のなさを感じさせられた。


 ちなみに、バルドルというのは北欧神話に登場する光の神でありオーディンの息子である。


 彼はいかなる武器でも傷つかない神だったが、唯一の弱点であるヤドリギに刺されて死んんだのだが、これをやったのはロキに唆されたバルドルの弟ヘズだと言われている。



「それはそうと、契約者のいない神が下界に下りてきていいのか?」


「ギクッ…!!」


「それに、お前には色々と訊きたい事が山ほどある。」


「……」


「まあまあ、とりあえず落ち着こうよ、勇吾!」


「俺は至って平静だ。それよりも、今回の件にお前は何所まで関わっている?」



 相手が名のある神であることなど関係ないかのように勇吾はロキを睨みつけながら問いかける。


 すると、ロキはさっきまで慌てていたのが嘘のように表情が変わり、その場の空気が一瞬で変化した。



「「――――――――――――!」」


「……複数の神格と契約しているとはいえ、ただの人間が神にその態度をとるのはいただけないな?」


「……」



 まるで遥か高みから見下ろすかのような視線に勇吾は一瞬飲まれそうになるが、既に何度もロキと同格以上の神格と接触した事のある勇吾はすぐに立ち直り、ジッと睨み返した。


 部屋の中の空気は急激に張りつめ、自身が起きている訳でもないのに部屋の中ある物が震えだす。



「―――――――ハハハ、そんなに睨むな。俺は寛大だからな、お前の質問には答えてやろう。」


((誰が寛大だ!))



 良則と蒼空は心の中で同時にツッコんだ。


 すると、良則が急に部屋を出ようとする。



「・・・やっぱり、アルビオンを呼んでくるよ!!」


「それはダメ~~~~~~!!」


「「…………」」



 ロキの態度はまたもや一変し、必死な顔で良則が部屋を出ようとするのを止めた。



「頼む!俺、表向きにはとっくに死んだかこの世界から追放されたって感じで通っているから、他の神とかに見つかったらヤバいんだって!!」


「……沢山恨みを買っているからな。」


「……怒り狂った神々が総出で襲いに来るだろうな。」



 勇吾と蒼空は宮にバカらしくなったように細目でロキの方を見る。


 北欧神話において、ロキはとにかく騙したり嵌めたり殺したりなど、とにかく他の神々にこれでもかというほどの恨みを買っている。


 特に主神オーディンの子供を含めた一派には一際恨まれており、息子であるバルドルは先に説明したとおり間接的に殺された挙句、その復活を妨害されるなどとにかく迷惑を受けている。


 主神であるオーディンもまた、ロキの息子であるフェンリルに食い殺されており、北欧の多くの神々からは底知れぬ恨みを買っているのだ。


 と、ロキに関する伝承について記憶を漁っていた勇吾は、ふとある事に気付く。



「そういえば、神が顕現したのに誰も気づいていないようだな?」


「あ、それはロキの力だよ!ロキは誰にも気づかれない様にコソコソするのが得意だから!」


「周囲には迷惑でしかない力だな」



 きっと過去にもその手を使って迷惑を起こしていたのだろう、と本気で迷惑そうな顔をする。



「ハハハハ、いいじゃないか!それより説明だろ?単刀直入に言えば、今回の件に関しては俺はただの傍観者だ。ウィルバーに接触したのは十年以上前だし、目的だって自由に動けない俺の代わりに目と耳になって貰おうと思っただけなんだぜ?」



 ロキは語る。


 ロキがウィルバーに最初に会ったのは今から十数年前、当時は別の雇用主に雇われていたウィルバーに-内に闇を抱えているのに気付いた上で-接触し、言葉巧みに騙して利用しようとしたがその時はハッキリと拒絶されたらしい。


 その数か月後、ウィルバーが1人で悲しそうに酒を飲んでいるのを見たロキは持ち前の勘を働かせて彼の過去を推察し、そこを突く様にもう一度接触すると今度は乗ってきたようだ。



「―――――これでも永く人間を見てきてるからな。コイツが過去に大事な女を守れずに死なせたのは簡単に読めた。もう何十年も経っているというのに、未だに死んだ女を諦めきれずにいた訳だ。」


「……」



 ロキの語るウィルバーの過去に、勇吾は何所か悲しげな顔を見せていた。



「――――――コイツには俺の目と耳になる事を了承させ、俺は対価として《神の禁忌術》を与えた。上手く使えば死んだ恋人に会えるかもしれないととか、色々吹き込んでな。まさか、激情に流されて悪魔を強制的に《悪魔武装化》させるのに使うとは予想外だったけどな。」


「……お前が碌でもない神だという事は再確認できた。もう用はないから帰れ!」

「言われなくても帰るさ。ここには俺がウィルバー(コイツ)と関わった痕跡を消しに来ただけだし、これ以上は誰にも干渉する気はないぜ♪」あ、言っとくけど、何をしようとコイツの命はもう駄目だぜ?元凶の俺が言うのもなんだが、禁忌を犯した代償は軽くはない。コイツの人生はあと1日も経たない内に終わる。」


「そんな……」



 良則は頭では理解はしていても納得できずにいた。


 だが神ですら助けられない、いや、仮に助ける事が出来たとしても神が直接人の生死に介入するのが禁じられている以上は納得できなくても受け入れるしかなかった。


 そうでないと、人は決して前には進めずウィルバーのように道を踏み外してしまう事もあるのだから。



「じゃあな、また何か面白そうな事があったら会おうぜ♪」


「「2度と来るな!!」」


「シーユー♪」



 ロキは最後に勇吾達を不快な気持ちにさせ、音も無く去っていった。


 その後、もう一度ウィルバーのステータスを確認すると《悪神ロキの干渉》の項は消え、今回の件に直接にも間接にもロキが関わったという証拠はひとつ残らず消されていた。


 そして数時間後、蒼空や王国軍の医師団の治療の甲斐なくウィルバー=オルセンは1度も意識を取り戻す事無く息を引き取った。


 だが、不思議な事にその時のウィルバーの顔は憑き物から解放された様な、それでいて凄く満足したかのような顔をしていた。


 何でそのような顔で死んだのか、それは文字通り神のみぞ知る謎となった。





--------------------------


――冥界 死の国ヘルヘイム――


 勇吾達のいる世界と近いようで遠い場所にある冥界にある国、その名はヘルヘイム。


 死者が集まるこの世界の一角で、ヘルヘイムの女王である1人の女神が溜息を吐いていた。



「―――――――――全く、またお父様の尻拭いをしなければならないとはね。」



 彼女はここには居ない自分の父親に呆れつつ、先程冥界に落ちた何人かの人間(・・・・・・)の魂を見つめながら自分の仕事を始めた。



「まあ、私がやらないと、私やお父様だけでなくアースガルズにいる方々も異邦の神々に睨まれてしまうから仕方ないわよね。お父様も、何時になったらまともになってくれるのかしら?」



 彼女はその後もブツブツと独り言を呟き続けながら作業を進めていった。

 そして、運命を弄られた魂達は冥界から姿を消したのだった。



「―――――――――次は幸せに……ね。」



 消えた魂を見送った後、彼女は女神らしい優しい笑みを浮かべていた。

 冥界の国の女王であり、他の神にはない“特別な力”を持つ女神、彼女の名は――――







・とにかく悪名高いロキですが、奥さんとかにはそれなりに好かれていたりもします。

・なお、かの有名な魔剣レーヴァテインを創ったのもロキです。

・最後に登場した女神様、誰だか分かりましたか?


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