第154話 神龍武装化
フォルスとアミー、2体の悪魔をその身に武装したウィルバーはジャンに狙いを定めて今までの攻撃とは比較にならないほどの破壊の一撃を放った。
それは“闇”と“土”と“火”だけでなく、“水”や“木”など、“光”と“時”以外の属性全てを融合させた破壊にのみ特化した魔法だった。
もし、この時の光景を大衆が目撃していたならば、その破壊力から核兵器を連想していたのかもしれない。
それほどの爆発がルガーノの山々を飲み込んでいったのだ。
だが、事前に展開されていた凱龍王国軍の結界、そしてそれ以外の者達が張った結界のお陰で民間人への被害はもちろん、目撃者が出ることもなかった。
いや、そもそも今の攻撃による被害は、負傷する者はいても死んだ者は1人も出てはいなかった。
『今のはかなり危なかったな。』
『あれほどの数の属性を瞬時に融合、そして直後に攻撃か・・・・・。百年以上の時を生きた者とはいえ、これほどのものを放つとはな。恐ろしいものだ。』
勇吾達は今の攻撃の被害を受けてはいなかった。
彼らも反射的に防御を展開しようとしたが、それよりも早く彼ら全員を守る者達が現れたのである。
『―――――――ったく、あの緑マント野郎!強引に《召喚》や《転移》を妨害しやがって!あと一歩遅かったら大惨事だったじゃないか!!』
『・・・いえ、仮に一瞬でも間に合わなかった場合、あの方は自分で被害を防いでいたでしょう。』
そこにいたのは4体の・・・4人の龍達だった。
美しい純白の鱗の龍皇と同じくらい美しい黒い鱗の神龍、そして氷雪の龍に風の龍、勇吾達の頼もしい仲間達が戦場に加わっていた。
「アルビオン!」
「―――――黒!」
『遅くなってすまない。力ずくでも来れたのだが、少々顔見知りに頼まれてすぐに《召喚》に応じる事が出来なかった。』
「顔見知り・・・それって!」
「ジャン=ヴァレットか!」
良則が言おうとした名を勇吾が先に応えると、アルビオンは黙って首肯した。
アルビオンは龍族の中でも古参の部類に入る長命な龍皇である。
それ故、勇吾達が想像できないような人物との面識もあり親交もある。
勇吾達にとって敵か味方か分からない相手との親交があったとしても不思議ではないのだ。
『―――――――その話は後だ。来るぞ!』
黒王によって会話が中断されると、一同はすぐに戦うべき相手の方へと視線を向ける。
そこには、炎に覆われた赤黒い甲冑を身に纏い、禍々しさを放つ双剣を握るウィルバーがいた。
彼は大技が勇吾達だけでなく、本命の標的にさえ無駄に終わったことに動揺する様子もなく標的を再び勇吾達に戻していた。
そして瞬きする間もなく間合いを詰めて斬りかかってきた。
(速い――――――――!)
明らかにさっきまでの上を行く速度に勇吾は反応が僅かに遅れてしまった。
だが、勇吾の喉元を狙っていた双剣は寸でのところで止められた。
「――――――――ッ!良則!」
「勇吾、この人は本当に強い!僕達全員で戦わないと確実に倒せない相手だ!」
双剣を籠手で受け止めた良則はそのまま受け流し、ウィルバーに全力の蹴りをお見舞いする。
それを体を反らして避けたウィルバーはそのまま良則と激しい接近戦を繰り返していった。
拳と剣の戦いである以上、どうしてもウィルバーの方に分があったが、良則も《閃拳》を嵐のように放っていく。
だが、一時的に拮抗する事はあっても良則は中々優勢にはなれなかった。
『『「《乱舞する斬撃》!」』』
ウィルバーはその場にいた自分の敵全てに斬撃を放った。
それは施設内で良則が見たのとは大きく異なり、一つ一つが今のウィルバーが持つ属性の何れかを帯びた万を超
える斬撃だった。
「オオオオオ!ヤバい!ヤバい!」
『トレンツ、全部上に流すぞ!!』
『私達もです!』
「ええ、分かってる!!」
後方にいたトレンツ達は襲い掛かる円輪状の斬撃の嵐に吹雪や暴風をぶつけて軌道を逸らしていく。
だが、悪魔2体分の力も加わっているウィルバーの斬撃は彼らでも全てを逸らす事は出来ず、1割近くは彼らに向かって襲い掛かってくる。
それをアルバスが正面に氷山を造りだして防いでいくが、それでも何発かはアルバスの翼を切裂いていった。
『クッ!』
アルバスは久しぶりに身を斬られる痛みを余裕で耐えながらも、龍族の体を容易に斬り裂く敵の力に一瞬であるが戦慄していた。
本来、龍族は攻撃力だけでなく防御力においても神に次いで最強と言われるほどの高さを誇っている。
上位の龍族なら核兵器による攻撃にも耐えられる。
アルバスも黒王やアルビオンと比べると数段劣るが、それでも並大抵の攻撃で傷付けられるほど軟ではない。
それを難なく切裂く今のウィルバーの力は人間だけでなく、龍族であるアルバスにも脅威だった。
『・・・トレンツ、悔しいが俺達は後方から支援に徹するしかない。』
「ああ、精々あいつらの邪魔にならないようにやろうぜ!」
そしてトレンツ達は後衛に徹していった。
一方、勇吾達はトレンツ達の方を気にする余裕もなくウィルバーの猛攻に苦戦していた。
良則が全方位から《閃拳》などで攻撃し、僅かに注意が移っている隙を突いて勇吾が斬りかかる。
だが、まるで同じ手を何度も見てきたようにウィルバーは2人の攻撃を難なく防いでいき、時にはカウンター技をお見舞いしていった。
「クソッ!やはり戦闘経験の差が圧倒的に向こうが上か!」
「こんなに苦戦するのはアベルの時以来だよ。やっぱり、全員で全力をぶつけないと勝ち目がない!」
「長期戦は向こうに分がありそうだからな。」
『――――――なら、こっちも相手とと同じ手で戦うべきだろう。』
「・・・・あれか。だが、俺達はまだ一度も―――――――――――」
『悩む時間も惜しい。いくぞ!」
『良則、俺達もだ。』
「え――――――――――!?」
勇吾と良則の返事を待たず、黒王とアルビオンは、とある《神龍術》を使った。
それは、ウィルバーが今やっている芸当とは似て非なる技だった。
『『《神龍武装化》!』』
直後、強大な魔力の波動がルガーノ地方だけでなく、ヨーロッパ全域、更には北アフリカや西アジアにまで広がっていった。
2人に斬りかかろうとして言いたウィルバーは、直感的に危険と判断して数十m後方に退いた。
そして、次にウィルバーが目にしたのは、自分と同等、いや、それ以上の力を纏った剣士と拳士の姿だった。
『『「・・・・・・・・・凱龍の血が成す技か。」』』
その姿を目にした瞬間、ウィルバーは僅かでも自分が気圧されたのを自覚した。




