第151話 闖入者
時は数分前に遡る。
勇吾と別れてリディ達を乗せて移動した黒王は王国軍が設営した仮設基地に来ていた。
そこでリディ達を軍の兵士達に預け、黒王は基地の中で今も戦っている勇吾達の様子を感じ取っていた。
――黒王サイド――
どうやら厄介なのが出てきたようだな。
地上に出た際に立ちはだかった悪魔、魔力の特徴から間違いなく堕天使だろう。
おそらくはソロモン72柱の1柱、地獄の大総統である序列58位のアミーだろう。
そしてたった今地下から出てきたのも同じソロモン72柱の悪魔だな。
「何で行っちゃ駄目なんだよ!?」
「危険だからです!陛下からもあなた方を最前線に出さないように言われているので、何と言われようと行かせられません!!」
今、俺の目の前では慎哉が王国軍の兵と揉めていた。
本当なら勇吾も連れてくるつもりはなかったのだろうが、今回はとにかく少しでも人手が必要だったため彼らにも協力を頼んでいた。
協力と言っても前線で戦わせる訳ではない。
慎哉達にはサポートを中心に手伝ってもらい、戦闘はたまに敵が召喚した下級悪魔などの排除のみに限らせている。
「―――――慎哉。」
「あ!黒からも言ってやってくれね?」
「慎哉、今回の相手は横浜であれだけの事をした組織そのものだ。それにお前も敵の力を感じているはずだ。勇吾達が今戦っている敵、あれはお前が助けに行ったところでどうにかできるレベルではない。死ぬぞ!」
「けど・・・。」
慎哉、お前の気持ちはよくわかる。
分かっているからこそ、今回は絶対に行かせる訳にはいかない。
それに、納得はしてはいないがお前も理解はしているのだろ。
「――――――――今回はここで見届けろ。」
俺が言いたいことが伝わったのか、慎哉はようやく大人しくなった。
その直後、遠くから大きな爆発音が俺達の耳に届いた。
これは火の属性、アミーが本気を出し始めたか。
その直後、俺達の前にいくつものPSが展開した。
「な、何だ!?」
『ハイハ~イ!みんなの丈くんが戦場を実況生中継しま~す!』
「「「・・・・・・。」」」
姿が見えないと思ったら・・・。
いつものことだと分かっているので口では何も言わない。
展開されたPSには、炎に包まれた青年の姿をした悪魔アミーと、騎士に似た姿の悪魔・・・あれは《悪魔武装化》か。
あれはマズイな。
画面越しにも敵の強さが伝わってくる。
奴は強い。
良則達がいても決して容易に勝てる相手ではない。
俺も行くべきか・・・。
〈――――――――少し待っていただきたい。〉
その念話が俺にだけ届いたのはその時だった。
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――リディサイド――
何だか映画みたい。
あの嫌な施設を脱出し、直後に炎のお化けと遭遇、私達を助けに来てくれたユウゴという同い年位の人が囮になっている隙に、私達は黒いドラゴンに乗って山奥にある軍の基地みたいな場所に来ていた。
そこで最初に驚いたのは私達を囲んで毛布を掛けてくる軍の兵隊さんにじゃなく、私達を背中から降ろした直後に変身した黒いドラゴンにだった。
しかも映画俳優顔負けの、人間じゃない(そうなんだけど)ような美青年の姿に私を含めた女子全員が思わず歓声をあげそうになった。
そして今、私達は基地の中の診察室のような場所にいる。
違うと分かっていても、さらわれた時の記憶が蘇りそうで正直落ち着かない。
そして何より、私達の診察をしているのが白衣を着た男の子だということが一番落ち着かない。
「――――――筋力の低下はほとんどなしか。精密検査をしてからでないと結論は言えないが、彼奴、また随分と悪趣味に力を入れてるな。」
軽い触診を受けた後、目の前の男の子は呆れたような顔をしながらブツブツと独り言を呟き続けている。
まさか本当にこの子がお医者さんなの?
私の後ろに並んで待っているみんなが私とほぼ同じことん考えていた時、突然目の前にテレビ画面のような物が中に現れた。
『ハイハ~イ!みんなの丈くんが戦場を実況生中継しま~す!』
「・・・・・・・・・・・。」
聞き覚えのある、緊張感0の声が聞こえてきた。
『只今の戦況は、チームヨッシーが合流してソロモン72柱の序列58位のアミー、そして同じく序列31位のフォルスを《悪魔武装化》した契約者、傭兵ウィルバーと交戦中だぜ!』
何だか他の場所からも同じ声が聞こえてくるのは私の気のせいかな?
「・・・ウィルバー=オルセン、奴がここで雇われていたか。しかもフォルスと契約・・・・・・因果なものだな。」
「?」
「いや、気にしなくていい。診察を続ける」
何故だろう。
目の前にいるのは明らかに私よりも年下の男の子のはずなのに、何だかずっと年上の人と話しているような錯覚がする。
その後、いろんな角度からの映像が変な実況と共に流れてくる。
そして私の診察が終わって診察を出ようとした時、画面の向こうから凄い爆音が響いて来て心臓が止まりそうになった。
「―――――――――――何、今の音!?」
「・・・・・・闖入者か。」
「え!?」
闖入者・・・?
私は診察室を出る事を忘れて目の前の画面に目を奪われた。
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――トレンツサイド――
「勇吾!!ヨッシー!!」
俺の目の前で勇吾とヨッシーが巨大な爆発に飲み込まれていった。
クソ!アミーの奴、端っから俺とリサと戦う気なんかなかったのかよ!
あれだけの物量攻撃を与えていたのに、勇吾達に攻撃する余裕があったのかよ!
『ハハハハ!!』
アミーの奴、何を笑ってやがる!
いや、今はそれよりも勇吾とヨッシーだ!
「トレンツ、何考えてるの!?」
俺が勇吾達がいる方向、未だ赤黒い炎や土煙、それに局地的に重力が乱れている爆心地へ行こうとするのをリサが止めに入る。
「止めるな!炎や熱なら自力で防げる!」
「違うわよ馬鹿!ちゃんと向こうを探知して!悪魔の魔力が邪魔で見つけ難いけど、2人とも無事よ!」
「え?」
俺はすぐに探知魔法を使った。
あ、確かに勇吾達の反応がある!
あれ・・・?
それに知らない奴がすぐ近くにいないか?
「・・・リサ、敵って何人だっけ?」
「・・・悪魔が2人に人間が1人よ。けど、あれはそのどちらでもないわ。」
リサも俺と同じ疑問を抱いていたようだ。
てか誰だ?
何時の間にあそこに乱入したんだ?
『・・・何だと?』
アミーも異変に気づいたようだ。
気付くの遅いな。
調子に乗って警戒を怠っていたんだろうが、それでもアミーの驚き方はどこか変だ。
それにさっきから感じていたんだが、アミーのダメージが不自然なほど少なくないか?
俺達が勇吾と合流するまでの間にも奴は勇吾と戦っていた筈なのに、それを加味してもダメージが少なすぎる。
『何者だ!!』
俺が違和感を抱いている事など微塵にも思っていないアミーは持っていた槍を横に振り、それと同時に爆心地から立ち上っていた炎が一瞬で消滅した。
「―――――――勇吾!ヨッシー!」
炎が消えた直後、俺の視界には周囲に防御壁を張っている2人の姿が映った。
そして同時に、2人の前に立つように見覚えのない“誰か”の後姿も映った。
「誰だ?」
相手に届かないと知りつつも俺は謎の闖入者に向かって声を呟いていた。
次第に土煙がその場所だけ晴れていき、その後姿が見え始めた。
「――――――――――――――――――――――」
緑色のマントを纏った重装の騎士、俺の言葉では言い表せないような気迫に包まれながら勇吾とヨッシーを護るように身の丈ほどの楯を構えながら立っていた。
そしてその視線の先には、双剣を構えたウィルバーが立っている。
『「・・・・・・ジャン・・・ヴァレット・・・・・・!!」』
その騎士と対峙していたウィルバーは、声を僅かに震わせながら相手の名前を口にしていた。
一方、名前を言われた騎士の男は沈黙を続けていた。
一体、何者なんだ?




