第144話 異常なる趣味
・昨日は更新できずすみませんでした。
・ついにストックが尽きてしまった事と、最近の体調不良などが重なって毎日更新が難しくなってきました。その為、毎日読んでくださった読者の方々には悪いのですが、今後は作品ができ次第、不定期に更新する事にしました。
・途中で打ち切りにはせず、完結させる様に努力いたしますので、今後とも当作品をよろしくお願いします。
――勇吾サイド――
フェラン=エストラーダは俺の顔を凝視しながら質問を口にする。
「ならもう1つ質問、どうやってコイツらの事を知った?」
どうやって、か・・・・・・。
「目的」ではなく「発覚理由」と訊くってことは、襲撃されること自体は予想していたが、キッカケが想定外だったととれるな。
態々訊いて来るってことは、夢を通したSOSには奴らは気付いていないのだろう。
かと言って、正直に答えれば彼女達のリスクが増えるだけだ。
答える必要はない。
「方法など幾らでもあるだろ。無駄な質問だな。」
「・・・なるほどな。その回答から推測すると、そちら側の訳アリな稀少能力者か、または、こいつら自身が無意識のうちに何らかの力に目覚めてお前達に助けを求めた考えられるな?」
「さあ?研究者なら後で自分で調べたらどうなんだ?」
「フッ、それもそうだ。」
クソ!予想以上に頭のキレる男だ。
数秒とかからずに正解を両方とも当てるとはな。
「一体、どんな目的でこいつらを攫ったんだ?」
「数人以外は単なる個人的な趣味みたいなものだ。最近、ちょっとした新発見をしたからそれに関する人体実験をしたくなったから適当なのを選んで攫っただけだ。まあ、多少は実験に対する適正も考慮した上で集めてもらったが、流石に“7”の連中はいい仕事をしてくれる。上質な実験動物ばかりを集めてくれたおかげで随分と趣味を満喫させてもらった。」
「・・・・その結果がこれか?」
俺は周囲に並んでいる水槽に視線を向けながらフェランに問い詰めた。
水槽の中には10代の少年少女達が閉じ込められていたが、そのほとんどが変わり果てた姿をしていた。
所謂獣人や吸血鬼のような姿になっていた。
「―――――簡単に言えば“先祖返り”を意図的に起こした結果だ。既存の魔法を利用したものと違い、俺のは科学のみで起こした者というわけだ。量を調整して投与し、効果の差を観察する為にあえて不完全な状態にしてあるが、全員が望んだ結果を出してくれた。実に有意義な研究をさせてくれたよ、こいつらは。」
「・・・・・・」
有意義、だと!?
俺はすぐにでもフェランを一刀両断にしたくなった。
だが、そんな事をしたところで何の解決にもならない。
それ以前に、奴は簡単に斬られるほどの雑魚なんかではない。
【名前】フェラン=エストラーダ
【年齢】103 【種族】人間
【職業】研究者 【クラス】探究者
【属性】メイン:土 雷 サブ:風 水 空 闇
【魔力】6,337,000/6,337,000
【状態】正常
【能力】――閲覧不可――
【加護・補正】――閲覧不可――
【開示設定】一部制限あり
く、俺の旧式の(・・・)だと全部を見る事は出来ないか!
だが、纏っている空気からしてもかなりの実力者なのは間違いない。
「―――――――で、お前はコイツら全員を助けに来たようだが、当の助けるべきコイツらは絶望に染まっててお前に助けてもらうことなど望んでいないようにも見せないか?」
「お前がそうなるようにしたんだろ!」
奴の言う通り、閉じ込められている彼女達は明らかに精神的に追い詰められているのは明らかだ。
おそらくだが、何らかの薬品か能力かで無理矢理精神を現実に縛り付ける事で自我をもたせているんだろう。
「正気を失われたら問診ができないからな。それに、研究途中で死なれたら折角の俺の趣味が台無しになる。」
「もういい、これ以上の話は無駄なようだ。」
「のようだな。だが、助けた所でコイツらが元の日常に戻れるとでも思っているのか?体の方はまだ完全に転化しきっていないから元の体に戻れる可能性は0じゃない。俺達なら余裕でできるし、お前らの所の優秀な連中の力なら十分可能だろう。だが、体は元に戻っても中身の方は・・・・・・・・」
「――――――黙れ!!」
俺は剣先を突き出した。
これ以上話していたら冷静さを完全に失いかねない。
「・・・全員解放してもいいぞ?」
「何!?」
「他意はない。既にこのラボの放棄は決定されてるし、コイツらも俺の趣味の実験が終わった時点で用済みだ。細胞のサンプルは既に採取済みだし、後の処分をそっちが無償でしてくれるなら俺にとっても損はない。」
・・・早いな。
施設が放棄される事は予想済みだが、こうも早く決めるとはな。
奴の口ぶりからすると、この施設はほとんど連中の趣味目的で建設されたものと考えるべきだろう。
「だが、その前に《盟主》から与えられた任務を果たすところをそこで見ていてもらおうか?」
「―――――――――――!!」
体が動かない・・・・・・・!?
これは俺の知らない《拘束魔法》か!
だがそれより《盟主》だと!?
今回の件、《盟主》が直接関わっていたという事なのか!?
「―――――俺と距離をとったままでいたのはミスだったな。」
「何だ―――――っ!!」
俺の頭の中に最悪の可能性が思い浮かび、俺はすぐに加速してフェランとの間合いを詰めた。
だが、奴の目の前で、俺は何かに阻まれてそれ以上近づく事が出来なかった。
目に魔力を集中しながら凝視してみると、そこにはほとんど無色透明な楯だった。
「―――――――楯!?」
「そうだ。俺の所有する神器、《無形の神楯》だ。最も、神話のように生首は嵌めこまれてはいないがな。」
「――――――――アイギス!?」
何だと!?
アイギスと言えばギリシャ神話の主神ゼウスや女神アテナが所有する伝説の防具、その形状には諸説あり、楯であったり胸当てや肩当てだったりと色々伝えられている。
また、ゼウスやアテナの同じ『オリンポスの十二神』の神である鍛冶神ヘパイストスが作られたともされており、また、英雄ペルセウスがメドゥーサを退治した時に使った楯だとも言われている。
「驚きを隠せないようだな?オリンポスの鍛冶神が作った、あらゆる災厄や邪悪を防ぐ楯、神話の中で様々な形状で語られる理由がこれだ。所有者の意志によってあらゆる防具へと形状を変える楯、ペルセウスが持った時は鏡のような輝く楯になったように、これは俺の意志が反映した《アイギス》の1つというわけだ。」
「くっ!!」
「言っておくが、今のお前にはアイギスの防御を突破する事は不可能だ。日本神話の神剣とギリシャ神話の神楯、現時点での神器のレベルはそっちが上だが、所有者の実力が未熟である分俺のアイギスの方が数段上だ。」
フェランは当然の事のように話していく。
確かに俺は布都御魂剣の力を十分に発揮させるほどの実力はまだない。
それに対し、フェランは明らかに俺よりも神器の力を上手く使っている。
力ずくで破る事もできるだろうが、それだと周りの水槽の中にいる彼女達に被害が及んでしまう。それだけは避けなければならない。
「―――――そこで大人しく見ているんだな。」
「待て、何をする気だ!?」
「見ていれば分かる。」
フェランはパチンと指を鳴らすと、奴の背後にあった水槽に照明が灯された。
「―――――――――――!?」
そして照明が当てられた水槽には、紅く長い髪の少女が俺を見つめている姿が見えた。
他の少年少女が変わり果てた姿をしているのに対し、彼女だけは人の姿をしたままだった。
そしてその顔を見た俺は、彼女が夢を通じて俺に助けを求めていた少女、リディ=グライリッヒである事に瞬時に気付いた。
だが、フェランは俺の反応になど興味がないのか、半ば独り言のように喋り始めた。
「――――――彼女の名はリディ=グライリッヒ、7人の《盟主》をそれぞれ封印している7人の生きた“錠”、その2人目だ。」
「・・・な・・・・に・・・・・!?」
封印、だと!?
「俺達が所属する組織、『創世の蛇』のトップは7人・・・いや、7柱の《盟主》だ。『創世の蛇』自体の発足はこの世界の時間で言えば400年ほど前だが、その前身となる根幹部分ができたのは紀元前の神代にまで遡る。当時、様々な神話の7柱の神格、後の《盟主》が世界に反旗を翻したのがそもそもの始まりだ。結果から言えば盟主達は敗北して本体と神性を別々に封印された。」
フェランが昔話を語る中、俺はどうにか目の前を阻む《アイギス》を破ろうとするが全くビクともせず、フェランも全く気にも留めずに話を続けていった。
「―――――450年ほど前、何らかのキッカケにより封印に不具合が生じ、3000年以上封印されていた盟主達の精神部分だけが再び現世に復活、そして封印以前から仕えていた者も含めた『真なる眷属』達と共に今の組織を創ったというわけだ。」
その顔に若干の笑みを浮かべながら、フェランはリディの入った水槽に手を触れながら更に話を続ける。
「そして、彼女こそが《盟主》の本体を封じる“錠”であり、同時に“鍵”でもある。そして今、数千年受け継がれ続けてきた封印を俺が破壊する!」
・次回更新は明日かか明後日だと思います。




