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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第10章 救出編
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第141話 リディ=グライリッヒ

・新章「救出編」開始です!

数ヶ月前、――ドイツ ハーメルン――


 リディ=グライリッヒはドイツのハーメルンに暮らす15歳の学生だった。


 彼女は家族に愛されて育ち、友人にも恵まれて育ったごく普通の少女だった。


 彼女自身も自分は何所にでもいる普通の一般人であると認識しており、あえて特別な点があるすれば祖母譲りの綺麗な紅い髪だった。


 小さい頃の人形遊びの延長なのか、彼女は自分の自慢の髪を友人達と一緒に弄ってその時の気分や流行に合わせて髪型を変えたり、髪型に合わせてファッションを研究するのが趣味だった。


 15歳の誕生日を1週間前に迎えたばかりのその日もまた、地元の普通中等学校(ギムナジウム)での授業が終わるとすぐに友人達と一緒にショッピングをしながら来週開かれるパーティに来ていく服をどうするかなどを楽しそうに話しながら過ごしていた。



「じゃあね、リディ♪」


「うん!また明日ね~~♪」



 友人達と別れ、リディは通いなれた道を歩きながら自宅へと向かっていた。


 その日は母方の祖父母と一緒に食事をする日だったため、リディは少し早足で歩いていたが、不思議な事に何度も同じ道をグルグルと廻っているような錯覚を感じ始めていた。



(・・・・あれ?ここって、さっき通った場所よね?)



 友人と別れた場所から自宅までは普通に歩いても15分とかからない。


 だが、彼女は既に20分近く歩いているにも拘らず、一向に自宅が見える場所にすら辿り着けていなかった。



「―――――――――え!?」



 そして、“彼ら”は唐突に彼女の前に姿を現した。


 何所から現れたのかは分からない。


 彼らは一瞬にして彼女を四方から囲んでおり、全身から放つ異様な存在感で彼女の両足を硬直させて逃走する手段を絶っていた。



「――――――――――確保しろ。」



 若い、おそらく20代半ば辺りの男が指示を出した直後、リディは意識は暗闇に落ちた。


 その日の深夜、帰宅しないリディを心配した家族は街中を捜すが見つからず、警察に行って捜索願をだしたが、それは何者かの力により翌日には無理矢理取り下げられたのだった。


 そしてリディ失踪から数ヶ月、家族や友人達の必死の捜索の甲斐もなく、彼女の行方を掴む手掛かりは未だに発見されていない。




--------------------


――スイス某所――


 リディが目を覚ました時、彼女がいたのは白い手術室のような場所だった。


 そこで彼女は手術着のような服1枚だけの姿で手術台のようなベットに拘束され、満足に身動きができない状態にあった。


 唯一動かせた頭を左右に向けると、そこには自分と同じようにベッドに拘束された少年少女達の姿がいくつもの見えた。


 自分の状況が全く理解できない彼女は必死に叫ぼうとするが、不可解な事にどんなに叫ぼうとしても口から声が出ることはなかった。


 しばらくすると、自動ドアが開く音とともに数人の足音が聞こえてきた。



「へえ、彼女がこの世界の“封印の鍵”なんだ。随分時間がかかったけど、ようやく見つかった訳だね♪」



 顔は見えなかったが、彼女の耳には中性的な声が聞こえてきた。



「やはり地道な調査と言うのは研究者の基本、疎かにせずにとにかく毎日調べ続けていたらハーメルンの街で発見できた。圧倒的な人海戦術を無駄にしてすまなかったな、カース。」


「確かに、流石の僕もちょっとショックだったかな。“これ”も含めてかなりの“端末”を用意して20年近く捜していたお姫様がたった半年で発見されてしまったと知った時は久しぶりに本体の(・・・)心臓がビックリして跳ね上がっちゃったね♪」


「・・・・・・それ、本当か?」



 最初はただの雑談のようにも聞こえたが、話が進むにつれてリディは彼らが自分を長年捜していた事を知った。


 曰く、自分は彼らにとって重要人物であり、その時(・・・)が来るまでの間は厳重な監視の上で監禁するらしい。


 曰く、自分以外にここにいる少年少女達は男性研究者の個人的な研究用に世界各地から攫ってきた自分とは何の関係の無い人達らしい。


 曰く、警察などには裏で圧力などをかけてあるので自分達が捜索される事はないらしい。


 曰く、用が済んだ後はその時の気分で処分を決めるらしい。



(・・・・・・嘘、よね!?)



 最後の2つを知った瞬間、彼女はどうしようもない恐怖に襲われた。


 必死に抵抗しようとしてもしっかり拘束されている上に声が全く出ず、その後に行われた理解不能な検査などにも精神以外での拒絶はできなかった。



(嫌!!出して!!家に帰してよ!!)



 それは数十時間、それ以上に長く感じさせられた苦痛の連続だった。


 度重なる検査が終了した直後、彼女は再び意識を手放して暗闇へと落ちていった。




----------------------


 次に目を覚ますと、彼女は不思議な浮遊感の中にあった。


 そこは気を失う前までいた部屋とは正反対の薄暗い部屋だった。


 そして、リディは自分が円柱状の水槽の中に閉じ込められている事に気付く。



〈え・・・・・・何!?〉


〈あ!あの子も起きたみたいだよ!〉


〈―――――――!?〉



 突然、頭の中に聞き慣れない声が聞こえてきた。


 耳にではなく、頭に直接流れてくる声にリディは混乱しそうになるが、すぐに別の声が彼女の疑問を解いてくるた。



〈私達もよく分からないけどテレパシーで話ができるみたいよ。ほら、左の方を見て!〉



 言われるがままに左の方を向くと、そこには彼女と同様に水槽に閉じこめられている少女が軽くウインクをしている。


 さらに周りを見渡すと、そこにはあの部屋にいた少年少女達が同じように水槽の中にいた。


 その後、リディは彼女達からいろいろ話を聞いて現状を粗方理解した。


 リディが気を失った後、白衣の男は拘束した彼女達全員に小さい真珠のような物を幾つか入れたらしい。


 その後、全員今いるこの部屋に運びこまれて水槽の中に閉じ込められたらしい。


 水槽の中には変な液体で満たされているが、不思議なことに呼吸ができ、数時間経っているのに空腹も尿意もない。


 相変わらず声は出なかったが、代わりに全員がテレパシーが使えるようになったらしい。


 説明を聞き終える頃にはリディも冷静さを取り戻していた。


 そして軽く自己紹介をしていくと、不意に部屋の自動ドアが開き、外から白衣を着た2人の男女が入ってきた。



「自己紹介は終わったかしら?」



 白衣の女が話しかけてきた瞬間、部屋の中が異様な空気が充満してリディ達は本能的な恐怖に襲われた。


 女は腰まで伸ばした髪を揺らしながら部屋の中を一周し、水槽の中の彼女達を観察していった。



〈何、この人・・・・・!?〉


〈怖い・・・・・!!〉



 彼女の何に恐怖を感じているのか分からないまま、女は最後にリディの前で立ち止まった。



「フフフ、彼女が『封印の乙女』ね。直接見るとその違いがハッキリと分かるわね。それに、綺麗な髪ね?」


「シャル、確認が済んだらカースと一緒に報告に行ってきてくれ。さすがに彼女の研究だけは上の承認が必要だ。」



 白衣の男、リディをさらって怪しい検査をした男はため息を吐きながら(シャル)に話しかける。



「フフフ、それじゃあ行ってくるわね。けど、私が戻るまで面白いことはしないでいてくれるかしら?」


「・・・・・・」


「じゃあ、急いで戻って来るわね。くれぐれも抜け駆けはダメよ、フェラン♪」



 そして女は部屋を去り、残った男、フェランはリディ達を怪しい笑みで見つめると1人ずつ観察を始めていった。




--------------------


 ここに来て1ヶ月が過ぎた。


 あれ以降、何人もの人間が部屋を出入りしたが、その中でも特に多かったのは3人、白衣を着たシャルとフェランの男女、そしてこの場所で最も異質な空気を纏ったカースと呼ばれるマジシャン風の少年だった。


 最初は3人の中の誰かが来る度に恐怖に襲われたが、テレパシーでつながった彼女達は互いに励ましあいながら乗り切っていった。


 だが、それからさらに1ヶ月が経とうとしたある日を境に彼女達の僅かな余裕は容赦なく奪われ始めていった。



〈うう・・・・ガルル・・・・!〉



 最初は12歳のフランス人の少年だった。


 彼の姿はこの数週間で人間から少しずつ離れていき、今は狼少年、いや、狼男に近づいていた。


 人らしい理性は残っているものの、後ろからは狼の尾が、全身からは体毛が生えて爪や犬歯も伸びていた。



〈何で!?どうして!?〉


〈・・・もしかして私達、知らないうちに人体実験されてるんじゃ・・・・!?〉


〈う、嘘だろ!?〉



 そしてその不安は的中していた。


 少年に続き、次々と変化が起こり続け、羽が生えた者、猫っぽくなった者、吸血鬼っぽくなった者が出続けた。


 さらに1ヶ月が過ぎる頃になると彼女達の中には希望がほとんど残ってはいなかったが、リディだけは心の中で助けを求め続けていた。





(誰か助けて!!)





 そして、その悲痛の叫びを聞いた者が1人だけいた。








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