第140話 そして彼らも動き出す
・間章2話目です!
――とある異世界某所――
勇吾達が日本に戻ったのと同日、地球ともリンクワールドとも全く違う異世界のとある星、とある大陸、とある国の田舎町、近世のヨーロッパレベルの文明に包まれた町の一角にある酒場の中で2人の男が軽食をとりながら密談を交わしていた。
一方は茶色い髪を伸ばした緊張感の無さそうな顔に雀斑を浮かべた40手前の男、もう一方は余程の達人でなければ存在すら意識しないような空気を纏った黒髪に赤い両目の男だった。
「―――――――――そうか、息子は龍族の道を選んだのか。」
「フ~ン、意外と嬉しそうだな?てっきり、息子が呪いの対象になってしまったと焦りだすと思ってたんだが。まあ、どっちになったってリスクは変わらないから今更焦りもしないか?」
「ああ、それにお前の話だと随分豪華な仲間に囲まれているそうじゃないか?古龍のところの“黒の神龍”、西欧の“白き龍皇”、凱龍の王子、それに“転生者”、アイツも俺以上に奇縁に恵まれているようだな。」
黒髪の男は実に愉快そうな顔を浮かべながら笑った。
向かい合っていた茶髪の男も「確かにそうだな。」と肯定した。
「その仲間の何人かは『四龍王』と接触したようだ。お前の息子に至っては、『迅龍王』とレースして僅差で勝っている。ある意味、父親のお前と並んだとも言えるんじゃないのか、ヴェントル?」
「・・・・そうだな。もしかすると、数年もしない内に俺の“名”を継ぐ事になるかもしれないな。しかし、まさか『蛇』ではなく『王国』と関わって“こちら側”に来るとは・・・・・・・あの時、酔った勢いで言ってしまったことは無意味に終わったか。」
黒髪の男―――――――『天嵐』の二つ名で歴代最強とまで呼ばれた飛龍王ヴェントルは、ある日の夜に思わず息子に伝えた言葉を思い出していた。
『―――――――――瑛介、もし父さんが死んだら、奈良県〇×村にいる『飛鳥家』の当主を頼れ。そうすれば俺の生まれ故郷に行けるから、そこで父さんの家族に会って全部話せ。』
酔った勢いで思わず話してしまった忠告だったが、どうやら無駄だったとヴェントルは思った。
結局彼の息子、瑛介はその晩の出来事を正確には覚えておらず、全く別のキッカケで彼の故郷である『飛龍の都』へと辿り着いた。
「おそらく、お前の息子はお前達にかけられた“盟主の呪い”を解呪しようと奔走するだろうな。まあ、四龍王が既に解呪法を調べていたお蔭で、後は必要な物を集めるだけだが・・・・・・・・」
「・・・・・・そのいくつかはそう易々と集められないだろう。既に所有者がいるか、交渉する以前に接触する事すら難しい。それに、《盟主》の眷属共が必ず邪魔をしてくる。いくら龍神や龍王達の加護を受けたと言っても、敵はその程度で退けられるほど生半可な連中じゃない。」
「けど、すでに当代の連中は確実に数を減らしてるぜ?この調子なら今度こそ組織を潰す事も可能だと思うぜ?」
「・・・だといいんだがな。」
ヴェントルはあまり期待してい無さそうな声で呟くが、茶髪の男には内心では期待と希望を抱いているように見えた。
(全く、素直に喜べばいいのにねえ。しかし、あれからもう6年か・・・・・・・・)
茶髪の男は6年前の事を思い返していた。
6年前、表向きには不幸なトンネル崩落事故として処理されたあの事件、実際はトンネルの老朽化や点検や補修の手抜きによって起きた何処かの組織による陰謀ではなく、ヴェントルも難なく生き残ったのだがあえて死を偽装して家族の前から消えたのである。
その頃は数十年ぶりに組織の活動が活発化し始めた時期と重なり、直感的にこれ以上同じ場所にいるのは危険だと察したヴェントルは周囲に怪しまれずに消える機会を探しており、あの事故は不謹慎ではあるが絶好の機会だった。
姿を眩ませた後は腐れ縁である茶髪の男と接触し、同族との接触をとにかく避けながら地球から異世界へと飛び出したのである。
「今の様子だと、お前より先にシドの方を見つける可能性が高いだろうな。どうやらアイツ、まだアメリカの方をブラブラしているみたいだぜ?」
「―――――呪いの効果を知っている以上は発見しても接触はしないだろうな。今はまず、解呪に必要な物を集めることに集中するはずだ。」
「そうだな、俺もそれとなく様子を見ておいてやるよ。あ、ここの代金はお前の奢りで頼むぜ♪」
「・・・・お前、また小遣いを減額されたのか?」
「いや~~~ハハハハ・・・・・・・・・・」
密談はそこで終わり、2人はテーブルの上の軽食が冷めきらないうちに食べていった。
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――アメリカ合衆国 某所――
荒野に一直線に伸びる道路の横を1人の男が歩いていた。
「―――――――そうか、ロトと直接会ったのか。どんな様子だった?」
傍から見れば頭を疑う様な独り言をブツブツと呟いていたが、幸いにも荒野には人どころか車1台走っている気配もない。
すると、男の呟きに対する返事は直接彼の精神に流れ込んできた。
〈元気な男の子だったよ。友達も多いみたいだし、女の子にも好かれているようにも見えたね。多分、君が心配するようなことは何も起きていないよ、シド。〉
「・・・・・・・・・・」
〈――――――ヴェントルの子供とは、末子の方とは仲良くしているみたいだね。他の子供達とは何度か面識がある程度といった感じかな?〉
「――――――――そうか。」
男―――――シド=アカツキは目を細めながら呟いた。
シドは同じ場所には長く居られない。
長く居続ければ必ず誰かと一定以上親しくなってしまい、その者は即座に自分にかけられた呪いの餌食となって死んでしまう。
〈そっちも世界もいよいよ危うくなっている。おそらく、これ以上はどの世界に行っても――――――――〉
「分かっている。この30年、ずっと守勢に回っていたが、そろそろ攻勢に出る頃合いだろう。解呪の準備を整えつつ、奴らの基盤を削っていくとしようか。」
〈・・・・その事は彼らにも伝えなかったけど、その方がいろいろとやりやすいから問題ないね?〉
「ああ、どの道、解呪法が完成するまでは接触する訳にはいかない以上は教えない方がいい。こっちはこっちのやり方で奴らの手足を捥いでいく。少しずつ、そして確実に・・・・・・!」
〈分かりました。では、また何かあれば連絡を。〉
「そっちでも何かあれば逐一知らせてくれ。くれぐれも、奴らには注意しておけ、ハイロン。」
〈ハイ、それでは―――――――〉
そこで2人の会話は終了した。
シドは道路が続く先、東の方角を眺めながらフウと溜息を吐いた。
「――――――――これも必然か。」
意味深な言葉を呟いた後、シドは口を閉ざしたまま歩き続けた。
数日前までは悲嘆と苦痛の表情だったシドだったが、今の彼の表情には僅かに希望を抱いた様な色を浮かばせていた。
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――????――
どこにあるのか分からない白亜の城の下層部にある喫茶店、そこのカウンター席では2人の男女がティータイムを楽しんでいた。
「―――――――《ゲイ・ボルグ》は既に盗掘・・・・・・『蛇』も神器探しに力を注いでいるようね。」
香り豊かな紅茶を口にしながら、ルビー=スカーレットは隣の席に座っている大柄な男と雑談を交えながら近況報告をしあっていた。
「―――――――《ダインスレイフ》も奴らの手に渡っている可能性は高い。今回の調査で我々『黎明の王国』が入手できた神器は北欧の《フルンティング》、《ギャラルホルン》、ドイツの《ブルートガング》・・・・・・・・の以上だ。これ以外については既に失われているか、発掘済みか、どちらにしても部下達が引き続き調査を進めているところだ。」
「東洋系の神器とは違って、西洋系の神器は競争率が流石に高いわね。アベルからも聞いたけど、一部は神々の手によって異世界に隠されたそうだけど、その辺りはどうなのかしら?」
「・・・・四秘宝に関して言えば、隠されている世界までは判明している。近々、陛下直々の命で派遣される事になるだろう。」
「フフフ、まるで自分が行きたそうに聞こえるわよ、ジャン?」
「・・・・・・・・・」
ジャンと呼ばれた男は、ルビーの質問に答えないまま、手前の皿に盛りつけられたスコーンを黙々と食べていった。
ルビーも「フフフ」と微笑みながらタルトにフォークを刺し、優雅に食べていった。
「―――――そういえば!ジャンも陛下から聞いているかもしれないけど、アベルの“布石”が予想外な結果を出したらしいわよ?
「聞いている。条件に合った者をランダムに選んでやった結果、虎の子ではなく龍王の子を引き当てたそうだな。昨日発行された新聞にも『迅龍王』に勝利したと書いてあった。相変わらず、アベルはくじ運が異常なほど良いようだ。」
「フフフ、良すぎて100年後には神性を持つことになったりしてね♪私はしばらく彼らと会う事はないでしょうけど、あなた達は近い内に機会が巡ってくるかもしれないわね?」
すると、ジャンは不意にルビーの前にPSを展開させると、そこに数時間前に自分の元に届いた“ある情報”を彼女に見せた。
「――――――――その近い内は、数時間後になりそうだ。」
「・・・・・・・そのようね。」
PSには、異世界で諜報活動をしていた部下からの調査報告書が映し出されていた。
そこには、おそらくハッキングして入手したと思われる極秘情報が並んでおり、そこには彼女が最近あったばかりの少年達の名前も書かれていた。
「――――――マスター、馳走になった。」
ジャンは他の客へのコーヒーを淹れている店のマスターに礼を述べると、静かに店外へと去っていった。
「フフフ、どうやら自体はどんどん加速しているようね?」
ルビーは残った紅茶を飲み干すと、マスターに2杯目を頼み、1人でティータイムの続きを楽しんでいったのだった。
・瑛介パパとロトパパも登場、そして別勢力では新キャラが登場ジャン!
・明日から新章突入です!




