第138話 そして舞台は再び日本へ
・作者が無能だった為に、かなり長くなってしまった凱龍王国編もこれでラストです。
首都上空に現れた四龍王の姿を、王族の面々も驚愕しながら見ていた。
「お~~~~~!ビッグサイズのフォー・ドラゴンキングだな!」
「お前は黙ってろ!」
一部、スッゴクマイペースな者もいたが、そこは竜則達が一発で黙らせた。
竜則は周囲の人々の様子を見ると、さっきまでとんでもなく賑やかに飲み食いしていた人々で埋め尽くされていた凱王城前広場は嘘のように静寂に包まれていた。
多くの者は四龍王の放つ独特の気、圧倒的な存在感に飲まれて沈黙していたが、竜則を始めとする一部の者達だけは全く動じなかったが、それでも突然現れた来賓への敬意を込めて口を閉ざしていた。
(・・・・今回の事も含め、過去にも四龍王が祭に参加したという目撃例はたくさんある。だが、全員がそろって一ヶ所に現れるという事は、少なくともここ100年の間には1度もなかった。それが今回に限って現れたという事は・・・・・・いや、単に祭の最後を―――――――――)
『その通りです、若き王よ―――――――――』
「――――――――!」
海色の瞳で竜則に視線を向けながら、ハイロンは微笑みながら竜則の推測を肯定した。
『今回は久しぶりに私達も楽しませてもらいました。その感謝の意を込めて、祭の最後の宴に我々で華を添えたいと思います。』
すると、4人の龍王は両翼を大きく広げ、勢いよく雲の上まで急上昇していった。
竜則はすぐに首都圏全域に《防御魔法》を展開し、龍王達の飛翔による衝撃を防いだ。
もっとも、竜則が防がなくても四龍王や他の誰かが普通に防いでくれたのだが、それは蛇足である。
雲の上よりも更に高く飛翔した四龍王は大気圏の端近くで同時に止まった。
そして地上の方を見おろし、王の末裔達やその仲間達が全員こちらを見上げているのを確認する。
『しかし、本当に久しぶりになるね。前にやったのは400年位前だったね?』
『・・・・・あの悪神どもが領分を踏み越え始めた時期だからそれ位になるか。あの頃に比べれば、現代の連中はどいつもこいつも・・・・・』
『面白そうなのが揃ってるな。』
『バカさえいなけりゃ文句はないんだがな。ここ数十年の中でも今年は最悪過ぎだ!何で俺がゲームの生け贄にされなきゃならねえんだ!?』
『『『・・・・・・・』』』
サラマンダーの愚痴に、3人は何も言えなかった。
彼らは神格化されて以降も、四龍祭の時は必ず王国に集結して各々の役目を果たしてきた。
だが、70年ほど前から王国内に嫌な意味でのバカが年々増加し始め、それに比例して彼らは次第にバカに振り回されていったのだ。
そして今回、ついに彼らは人化中に捕捉されただけでなく、素顔を世界にさらされた挙げ句に鬼ごっこの標的にされ、億を超える人間や同族に襲われる羽目になったのだ。
『まあ、最終的には無害な子供達のお陰でゲームが終わったから良かったんじゃない?』
『その話題はその辺にしておけ!さっさと始めるぞ!』
サラマンダーはまだ不満を吐き足りないようだったが、ファーブニルの声に渋々従った。
そして4人は円陣を作るように等間隔に並ぶと、全身からそれぞれの象徴する色の魔力を放ち始めた。
『我ら若き未来の芽を守護せし四色の龍王―――――』
最初にファーブニルが不思議な響きが隠った声で言葉を紡いでいく。
『黎明の災厄、神世の毒、無限の大罪が世を蝕みし時―――――』
それにサラマンダーが続いていく。
『真実に立ち向かいし若き血潮、幾百の苦難に幾千と立つ子、無限に挑む意志に――――――』
シュンロンもその後に続く。
『天より祝福の華を授けよう―――――!』
ハイロンが最後の言霊を紡ぎ終えた。
その直後、4人の魔力が螺旋を描くように中心で混じりあい、花火のように弾けた。
-----------------
「お兄ちゃん、空に大きな花が咲いてる~!!」
「ああ、凄く綺麗だな。」
その幻想的な光景に勇吾は純粋に感動していた。
ロトの言うとおり、夜空には幻想的な一輪の光の花が咲いていた。
「伝説の龍王からのプレゼントか・・・・・・・」
「わあ、光の雪だあ~!」
夜空の花の開花に遅れ、王国全土に虹色に輝く光の粒が雪のように降り始めた。
「・・・ねえ、お兄ちゃん。」
「どうした、よく見えないか?」
「・・・天国のお父さんとお母さんも見てるかな?」
「!」
ロトの質問に勇吾は言葉を失いかけた。
勇吾はロトに父親が生きている事実を話していない。話せるわけがなかった。
ただでさえ母親の死から立ち直り始めたばかりだというのに、これ以上残酷な真実も否応なく付いてくる話をまだ幼いロトに話すことなどできなかった。
「・・・・・・ああ、きっと同じものを遠くから見ているよ。2人ともお前のことを遠くから見守ってくれているさ。」
そう答える事しか出来なかった。
勇吾は自分の顔に苦悩の色が浮かんでいたかもしれない思い、そっとロトに見られないように顔を逸らした。
もっとも、ロトは夜空に夢中で数分間は勇吾の方に視線を向けることはなかった。
(―――――――シド=アカツキ、お前は何所であの花を見ている・・・・・・・・・・。)
その後、光の雪は日付が変わる時刻まで降り続け、四龍祭最後の日が本当の意味で終わると同時に花ともに消えていったのだった。
---------------------
翌日 凱龍王国 竜江ゲートポート
後夜祭から一夜が明けた日の午前、この日のゲートポートは普段以上の人が集まっていた。
混雑と言うほどではないが、勇吾達の入国時と比較すれば明らかに倍以上の人がいることは一目瞭然だった。
「―――――――素直じゃない弟だけど、向こうでもよろしくお願いね♪勇吾、何かあったら必ずお姉ちゃんに連絡するのよ?職権濫用してでもお姉ちゃんは勇吾の所に駆け付けてあげるからね♡」
「いいからさっさと仕事に行けよ姉ちゃん!!祭期間中ずっと休んだ分、今日からしばらくはシフトがきつくなっているんだろ!?」
「平気平気!私、これでも院長の弱味を牛耳ってるから♪」
「・・・・・本当に看護師してるのか?」
ロビーでは鈴音が勇吾の見送りに駆け付け、勇吾は完全にペースを奪われて地が丸出し状態になっていた。
「(おい!あれ、本当に勇吾なのか!?)」
「(そうだぜ?あれが勇吾の素の顔なんだぜ?ああ見えて、勇吾は姉ちゃんに弱いんだよな~~~♪)」
「(――――――別人じゃないのか?)」
「(本人よ。訳あって今はみんなの知っている風になっているけど、普段のアイツはああいうキャラなのよ。それにしても、どうやって職場の上司の弱みを握ったのかしら?)」
「(気にするのそっち!?)」
一方、日本人組は勇吾の変わり様に、別人じゃないのかと疑いたくなるほど驚いていた。
なお、約1名は大人の事情によりここには来ていない。誰の事を言っているのかはあえて言わないが、あくまで大人の事情による欠席である。
「――――――もうすぐ10時、予約していた時間になるから行こうか。じゃあ鈴音さん、僕達はもう行きます。汐南さんにもよろしくと伝えておいてください。」
「ヨッシーも体には気を付けてね。あと、鬱陶しいファンクラブとかは適当に撒いておくから安心してね?」
「・・・・・ありがとうございます。」
僅かに顔を引き攣りながらも良則は礼を言った。
「じゃあ姉ちゃん、行ってくる!」
「2人のことはちゃんと見ているから安心してね。それと、あんまり1人で無茶はしないようにね?」
「・・・・うん。」
鈴音に別れを告げ、勇吾達は入国時に使用したのと同じ転移装置のある場所へと移動した。
途中、何人かは売店でも買い物をしていったにも拘わらず全員の手荷物はリュックやバッグを1つずつだけだった。
彼らが使用しているリュックなどは亮介が《創造魔法》の修業の時に創った“四次元リュック”&“四次元バッグ”なので、見た目とは比較にならない質量があの中には詰まっているのである。
ちなみに、内部時間はほとんど停止した状態なので生物が腐る心配はない。
「・・・あと2分で出発だな。全員、忘れ物とかは大丈夫だよな?」
「ああ、何度も確認したから問題ない。」
「ていうかさ、何か忘れても向こうから届けてもらえるから問題ないよな。銀洸に取りに行かせるって手もあるしよ?」
「・・・・龍王をパシリにするんですか?」
出発まであと1分を切り、日本人組は約1週間の異世界での思い出話を話したり、もうすぐ見れなくなる異世界の景色を眺めたりしながら残りわずかな時間を過ごしていった。
そして時計が10時を表示すると同時に転移装置が起動し、勇吾達の足元が光に覆われていった。
「お!出発だ!」
「楽しかったね。今度は何時来れるかな?」
「ちょっと面倒だけど、条件を満たして審査が通れば自由に行き来できるようになるわよ?」
「やったー!あそこの新作とか欲しいのよ!!」
「おい、落ち着けそこ!」
多少五月蠅くなったが、勇吾達は転移の光に包まれてこの世界から去っていった。
1週間に及ぶ凱龍王国滞在は終わり、再び彼らは日本へと戻っていった。
この1週間で勇吾の進む先はまた1つ定まり、いくつかの謎も少しずつ明かされた。
そして、物語は再び地球で進み始めていくのだった。
凱龍王国編 完
・次回からは1~2話ほど間章か番外編を入れた後、新章突入になります。




