第137話 後夜祭
凱龍王国 凱王城前広場
その日の夕方、太陽が西に沈んでいき国中が夕日の光に染まっていく中、開催セレモニーが行われた広場は大勢の人で賑わうパーティ会場・・・・・ではなく、宴会場と化していた。
さらに付け加えるなら、ここだけでなく国中が宴会場と化していたのだった。
「「「乾杯~~~!!」」」
大勢の人々がジョッキやコップを掲げながら声をあげた。
4日間続いた四龍祭の閉会も十分前に終わり、ある意味では四龍祭最後の大イベントである国を挙げた打ち上げパーティ、つまりは後夜祭が始まった。
「じゃあ、今夜は勇吾とヨッシーの奢りで食いまくるぜ!!」
「おい慎哉!!何故そうなる!?」
「あはは・・・・ノリだよノリ♪」
「僕は別に良いけど?色々あって予想外の収入がたくさんあったし?」
「というか、予想外の収入なら・・・・・・・・」
全員が同時に瑛介の方を見る。
「うっとおし~~~~~!!」
「ハハハハハ!!流石我が孫だ!!」
「兄貴、スッゲェカッコ良かったぜ~~~!!」
「いい加減、ゆっくり食わせろ!!」
今回の四龍祭で一番大儲けした少年は、家族による強制スキンシップ地獄に堕ちていた。
だがそれも無理もない話である。
ほんの数時間前、瑛介は『迅龍王』との熾烈極まるレースの末、僅差でゴールし、父親と同じく初出場初優勝の栄冠を手に入れたのである。
優勝直後は先代飛龍王を先頭に、飛龍氏族全員が超大歓声をあげて喜びまくり、飛龍の都でも住人全員が数十年ぶり、いやそれ以上ぶりの歓喜に包まれたのだ。
「――――――にしても、マジで5㎜差で初優勝って、チートっぽくね?」
「確かにな。瑛介はこの数日間で驚異的な成長を遂げている。今日の《聖龍水》の影響もあるが、元々この土地は龍族にとっては成長を促進・・・・・・簡潔に言えば経験値が溜まりやすくてレベルアップが早くなる効果があるから、それも原因の1つだろう。」
「な~~る!低レベルだけどスペックが高いキャラがメ〇ルキ〇グやプ〇チナ〇ングを倒しちゃったみたいに一気にレベルが上がりまくったってことか!」
「・・・・・別に戦闘をした訳じゃないが、まあ、そんな感じだろうな。日本と言うより、向こうの世界じゃこんなに都合よくはいかないだろうが。」
「副賞も凄かったよな!何か、無人島とか船とか飛行機とかいろいろあったけど、あれってどこから予算が出てるんだ?」
慎哉の質問に対し、勇吾はジュースを飲みながら答えていった。
「基本的には向こうと同じでスポンサーからだが、今じゃ莫大な経済効果もあることから、国や個人単位でも資金や賞品が集まっているんだ。20年位前のレースじゃ、バカの父親が碌でもない賞品を出して大騒ぎになった事もあったらしい。」
「え!どんなのだ!?」
「・・・・・・聞くな。」
勇吾はそれ以上慎哉のその質問に答えることはなかった。
ちなみに読者にだけに教えると、丈の父親、つまり良則の叔父は今から22年前の『四龍祭記念凱龍島周回飛行レース』の商品に、バカ仲間と共同で制作した魔法道具、そのノートに書かれた名前の人が数分後に全裸になる『ヌードノート』を商品として出し、その年のレースは世界中から男女問わず変態が勢ぞろいするとんでもない事態になったのである。
その後、優勝者は当然そのノートを手に入れた訳だが、現在は良識の名の元に処分済みとなっている。
「・・・・そういえば、数時間前にも言った事だが、日本に帰ったら一度蒼空に診てもらえ。国の専門家でもいいが、お前の場合は蒼空に診てもらった方がいい。」
「分かってるって♪“蛇の道は蛇”ってことだろ?」
「この場合、“元蛇”と言った方が合ってるかもな。」
「お~~い、蒼空!勇吾が面白い事言ったぜ~~~~~~!」
「おい!!」
そんな事が続き、後夜祭は盛大に盛り上がっていった。
慎哉達も明日には日本に帰国すると言うこともあり、異世界での最後の夜を大いに楽しんでいた。
少し離れた場所では宙づりにされたバカや、大勢のファンに囲まれた国王一家の姿もあった。
「お~~~い!タロットの“吊るされた男”のコスプレ~~~~~~♪」
「「一生吊るされていろ!!」」
さらに場所は移って蒼空の周りにはたくさんの女の子が集まっていた。
「・・・あの!よかったら友達になってください!!」
「メルアド交換してください!!」
「また、この国に来てくれますか?」
「おかずにしていいですか?」
「―――――そこの警官、こいつを逮捕しろ!」
バカの悪巧みによって一時的に美青年化していた蒼空には何時の間にか大勢のファンが生まれており、彼が明日帰国すると知った彼女達はアピールをしにきているのだ。
本人にとってそれは面倒事でしかないが、この国の女を下手に怒らせると命が危ない事を、前世の記憶を含めてよく知っている蒼空は仕方なく相手をしていた。
ちなみに、さきほど危ない発言をした少女は警察官に御用となった。
「・・・・・・モテモテじゃない?」
「紫織、何を不機嫌になっている。またバカに変な事でもされたのか?だったら、その辺にいる王族の誰かに言えば処刑してくれるぞ?」
「ち、違うわよ!!」
「?」
1人だけ、蒼空が大勢の女の子に囲まれている事が面白くない紫織は不器用ながら自分もアピールしようとしていた。
その光景を、少し離れた場所で彼女の友人達は面白そうに見守っていた。
「(イケ!そのまま転んだフリをして一気にいくのよ!!)」
「(く~~~~~!まさか数年後にあんなイケメンになるなんて悔し~~~~!!)」
「(紫織!!いらないんだったら私に頂戴!!)」
「(兄ちゃん、鈍感過ぎ~~~!)」
何故か龍星も混じっていた。
さらに別の場所では、女性陣が恋バナに花を咲かせていた。
「――――――キャ~~~!やっぱり勇吾の事が好きなんじゃない!!」
「違うわよ!アイツとはただの幼馴染で・・・・・・!!」
「――――――テンプレ。」
「リサ、もう国中にその噂は広がっているから否定しても無駄よ?それに、下手に否定すればバカが火に油を注ぎかねないから、噂が自然鎮火するのを待った方が賢明よ?」
「うっ・・・・・・!確かに・・・・・・」
「でも残念よね。予想していなかった訳じゃないけど、兄弟全員好きな子がいるなんて・・・・。」
「バカのせいでバレた時はとんでもない事になったわよね。知らない人が見ればクーデターと見間違える位に・・・・・」
((クーデター・・・・・・・!?))
一体どんな事件が起きたのかと、女同士の会話は止まることなく続いていった。
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夜も深くなり、幼い子供達は満腹感なども重なって眠気に襲われ始めていた。
次第に幼い子供連れの大人達も眠気でふら付き始めた子供をどうにか起こしたり、または背負いながら宴の席を後にし始める姿がちらつき始めている。
「―――――――ロト、眠いならもう帰るか?」
「ん・・・・・・まだ平気・・・・・。」
勇吾も途中で合流したロト達チビッ子勢も次第に眠気に襲われ始めたのを確認し、大丈夫だと言い張りながらも欠伸を漏らし始めたロトの体を抱き上げて帰宅しようとした。
「姉ちゃん、ロトがもう眠そうだから先に帰ってるよ。アリアは何所にいるか知らないか?」
「ん?それだったらさっきお母さんが抱きかかえていたのを見たから先に帰ったんじゃない?帰るんだったら、12時ごろになったらお風呂を沸かしておいてくれない?その位の時間に帰ると思うから。」
「分かった。精々男に逃げられないようにするんだな?」
「コラ!」
「ハハハ、冗談だ。じゃあ!」
多少本気の冗談を混ぜつつ、勇吾はその後すぐに慎哉達にも先に帰る事を告げて広場を後にした。
一番近くにある転移装置を目指して歩いていると、不意に空が明るくなったような気がした。
「何だ?」
「―――――――おい!みんな上を見ろ!!」
「!?」
誰かが真上を指差しながら叫んだ。
それに釣られて勇吾も反射的に夜空の方を見上げると、そこには大きな4色の光球が浮かんでいた。
「――――――――は!?」
予想外の光景に、勇吾は思わずロトを落としそうになった。
首都上空に浮かぶ4色の光球、しっかりと認識すればそこからはなぜ今まで気付かなかったのかと思うほどの凄まじい力が感じられた。
「・・・・・・・・お兄ちゃん?」
「あ、起こしちゃったか?」
周囲のどよめきに半分眠っていたロトも目を覚まして上空を見上げた。
すると、しばらく静止したままだった光球はロトが視線を向けたのを合図とするかのように大勢の目の前ではじけ飛んだ。
シャァ―――――――――!
「うわあ~~~~!!」
「・・・・・凄いな!」
4色の光球は弾け飛び、まるで星の雨のように地上へと降り注いでいった。
その光景に誰もが目を奪われ、次の瞬間に現れた4人の姿を目にするとほとんどの者達が言葉を失った。
「―――――――――――――――――『四龍王』!?」
光球の浮かんでいた場所に現れたのは4人の龍王だった。
蒼い鱗に海色の瞳をした『海龍王』ハイロン、白い鱗に空色の瞳をした『迅龍王』シュンロン、紅い鱗に炎色の瞳をした『紅龍王』サラマンダー、そして金色の鱗に黄金色の瞳をした『北龍王』ファーブニル、四龍祭の本来の主役である伝説の四龍王がそろってその姿を民衆の前に現したのである。
・次回で凱龍王国編は完結です。




