第132話 昇天の滝
・久しぶりに慎哉のターン!
凱龍王国 北龍島-昇天の滝-
凱龍王国の北部にある島『北龍島』、ここの中央部には国内最大級の大瀑布がある。
北龍島は東側は平地が多いが、西側は反対に標高の高い山々多く、その中には霊峰と呼ばれる山も多く存在し、そこから湧き出る水が流れて出来た川は次第に合流していって一本の聖なる大河となって平地との境界で絶景や壮観といった言葉でしか表せないような大瀑布となっている。
そしてその大瀑布には今までに様々な呼称が付けられてきたが、現在は『昇天の滝』と言う名で地図に刻まれている。
「スッゲェ~~~~~~!!」
瑛介の上からから大瀑布を眺めた慎哉は周囲に聞こえる事など全く気にしないで大声で叫んでいた。
『――――――近くで見るとさらに絶景だな!』
「ああ、まるでナイアガラみたいだぜ!」
「いや、どっちかと言えばイグアスの方に近いんじゃないか?」
「―――――世界三大瀑布より凄いんじゃない?」
日本では決して見る事の出来ない光景に、瑛介や晴翔、琥太郎も目を奪われていた。
4人は今日、2年に1度の“あるイベント”に参加する為に朝早くから(3人は龍化した瑛介に乗って)王国のはるか北にあるこの滝に来ていた。
なお、瑛介の弟妹達は神速の如く駆け付けた彼らの祖父母によって連れ去られていたので午前中は強制的に別行動となった。
「そう言えば、結局昨日の賞金とかってどうなったんだ、瑛介?」
『ああ、あの後政府の代表とか言う連中が揃って来て、賞金はバカのポケットマネーから全額支払われるとか言ってとりあえず日本の万札が詰まったトランクケースをいくつか置いて行ったな。あいつら、自分達が一瞬で金持ちになった事にまだ気づいていないみたいだったぜ?』
「ほ・・・・本当に支払われたんだ。どうするの、そんな大金?」
『貯金だろ?』
「現実的だな?」
『まあ、少しはお小遣いとして持たせたけど、後は後々の為に貯金だな。あのゲームの結果は妹達の勝利と言うよりは、俺も含めた「小嶋家の勝利」と言う形になったそうだからな。とりあえず、こっちの銀行で全員分の口座を開いて後は均等に入金して、一部は日本の方の口座に送金して生活費にするつもりだ。』
「調子に乗って派手に使うよりはマシだろうな。」
余談であるが、今回のゲームでバカが失った資産は一般人からすれば途方もない金額だったが、バカ自身にとってはあまり痛くない金額だった。
この世界だけで使うのなら問題ないが、さすがに日本円に換算すると100億円になる大金をそのまま持ち帰ることは出来ないので、瑛介もその辺りは叔父のムートや勇吾達とも相談して騒ぎにならない程度に調整しながら一部だけを日本のそれぞれの口座に送金されるように手続きをしている最中である。
「おお!下の方にたくさん人が集まってるぜ!」
「2年に1度の四龍祭最終日にだけしか発生しないイベントだからね。」
「俺達もそろそろ下りないとヤバいんじゃないか?」
『だな!』
瑛介は翼を羽ばたかせると、地上に向かって降下していった。
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地上に下りると、そこには十万人を優に超える人々でガヤガヤと大瀑布の方を見ながら騒いでいた。
集まっている人のほとんどは若者ばかりだったが、中には子や孫の付き添いで来た大人の姿もそれなりにいた。
「近くで見るとさらにスゲエな!?」
「どちらかと言えば、外国人の方が多いみたいだね?」
「正確には周辺国から来た連中がほとんどみたいだな。この辺だと、こういう場所があるのは凱龍王国だけみたいだからな。」
慎哉達は目の前にPSを展開させると、初日の内にダウンロードしておいた四龍祭の案内情報の中から『昇天の滝』に関するページを開いた。
『2年に1度のレベルアップ!!昇天の滝で聖龍水の御利益を得よう!!』
『凱龍王国の北部にある北龍島中部にある大瀑布『昇天の滝』では、2年に1度の四龍祭最終日にだけ起きるビッグイベントが発生する!
この日、北龍島の霊峰から流れる清流の水は霊峰の気と龍神の神気、そして島の守護神である『北龍王ファーブニル』の加護が溶け合った《聖龍水》になり、それを全身に浴び体内に取り込むとその者の中に眠っていた力が覚醒し、また、日々の修練で鍛え上げられた肉体に応じて魔力が上昇させるのだ!
どれだけレベルアップするかはあなた達次第!この期を逃せば次はまた2年後を待つしかない!
さあ強さを求める若者達よ、己の秘めたる力を覚醒させるために昇天の滝に集え!!』
「――――――眠っている力が覚醒って、中二病かよ?」
「要約すれば、この時期にだけ霊峰から流れてくる《聖龍水》を飲むと体が精錬されて強くなるって意味なんだけどね。この案内書いた人、良則と丈の伯父さんらしいよ?」
「ああ、どうりで他のページもそんなのばっかな訳だ。」
「それより、まだ時間は大丈夫なのか?確か、流れてくるのって数時間だけなんだろ?俺らの順番までもつのか?」
「・・・・軽く10万人以上はいるからな。押し負けて逃す可能性はあるな。」
「その心配はないみたいだよ。これを見て!」
琥太郎はPSに前回のイベントの光景を映した写真を表示させた。
そこには、黄金色に輝く土砂降りの雨に襲われながらも盛大に盛り上がっている若者達の光景が映し出されていた。
「・・・・・何だこれ?」
「海外からの参加者が急増し始めた頃から、滝の奥に住んでいる神龍が《聖龍水》を周囲一帯に撒き散らしている光景って載っているよ。これで毎回、機会を逃す人は1人もいなくなっているみたいだね。」
「強引じゃね?」
「力任せだな。」
「まあ、バカがいる国だからアリなんだろうな。これ位の事は?」
この国でどんな無茶苦茶な事があっても一発で解決する理屈、「バカがいる国だから」。
正直本人達以外の凱龍王国民にとっては理不尽でしかないとしか言いようがない。
「――――――――――始まったぞ!!」
「「「おおおおおお―――――――――――――!!」」」
不意に人混みの最前列の方から声が上がり、それと共に10万を超える群衆が同時に大きな歓声をあげた。
その直後、目の前に広がる大瀑布が少しずつ黄金色に染まり始め、視界全体が黄金色の光に飲み込まれていった。
「おおお!!マジで金ピカに光っているぜ!?」
「あれが《聖龍水》か!?」
「本当にお伽噺の中みたいな光景だね?」
慎哉達もいよいよ始まった光景に興奮し始めた。
そして2分も経つと、辺り一面は混じり気のない黄金色の輝きに包まれ、群衆の中でも川岸に一番近い場所にいた最前列の人達は我先にと滝壺目指して走り出していった。
「「「うおおおおおおお――――――――!!」」」
「・・・・・・これ、1人でも転んだら大惨事になるんじゃないか?」
「あ、でもみんなこの世界の人達ばかりだろうから自分の身は自分で護れるんじゃないかな?《肉体強化》を使えば死人が出る心配はないんじゃないと思うけど・・・・・・・」
「―――――――それ、俺達にも言えることじゃね?」
だが、彼らの不安は杞憂に終わった。
一見興奮しているように見える群衆も実際はそのほとんどが冷静に周囲の状況に気を配っており、最前列が動き出してから十分以上経っても転倒などのトラブルは1つの発生していなかった。
慎哉達のいる後方組もまた、大声を上げている者はいても慌てて前に進もうとする者はほとんどいなかった。
「――――――――――――!!」
「どうした、瑛介?」
「・・・滝の方から何かが出てくる!多分、例の神龍だ!」
「そっか、今のお前は感覚が龍族レベルだったな。」
瑛介だけが冷や汗を流しながら滝の向こう側を凝視していると、それは黄金色に輝く大瀑布の中に僅かに影を見せた状態で咆哮をあげた。
『グオォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――――――!!!』
もし、この方向を瀑布越しではなく直接聞いていたら確実に鼓膜が破けていたかもしれない。
それほどの衝撃が一帯を襲い、一直線に流れ落ちていた大量の《聖龍水》は軽く半径2㎞を超える範囲にまで吹き飛んで群衆に降り注いでいった。
「うおぉぉぉぉぉ!!息がほとんど出来ねえ~~~~~!!」
「溺死するぞ!オイ!?」
互いの声すらほとんど聞こえない状況が周囲を飲み込む。
呼吸しようとすれば大量の水も一緒に体内に入ってきて、下手に口を開ける事も出来ない。
だが、一滴でも黄金色に輝く滝の水を飲み込むとその効果はすぐに表れ始めた。
(―――――――――!?おお!何か力が漲ってくる~~~~!!)
そして、個人差はあれど、昇天の滝に集まった群衆全員が《聖龍水》の効果で何らかのレベルアップを果たしたのだった。
ちなみに、この《聖龍水》のイベントは基本的に1人に付き1回しか効果はなく、その後も何度も参加しても1回目ほどの劇的な効果は期待できないのである。
そのため、既に参加済みの者は来ることはほとんどないため、集まる群衆のほとんどが若者だけになるのである。
・豆知識ですが、ファーブニルはドラゴンの名前として知られていますが、北欧神話では元々ドワーフの百姓でした。それがドロドロした経緯を経てドラゴンに変身して殺されます。




