第131話 国王は朝から忙しい
・凱龍王国編もいよいよ終盤です。
凱龍王国 竜江-凱王城 国王執務室-
四龍祭最終日の朝、朝食を早々に済ませた国王竜則は自身の職場である執務室に来ていた。
執務机の上には竜則よりも早く起きて仕事を始めている職員達が置いていった書類が積み重なっていた。
「―――――――相変わらず仕事が早くて助かるな。」
椅子に腰を下ろし、竜則は積まれた書類の中から情報部が持ってきた報告書を手に取ってその内容を読んでいった。
「・・・・・・やはり『滅龍神器』が既に複数回収されていたか。神剣グラム、リジル、グラムの模倣剣であるバルムンク、聖剣アスカロン、そして十束剣の1つである天羽々斬がすでに誰かの手に渡っているか。金剛杵は未だ厳重に封印されている、か。」
昨日の昼前、バカの捜索に追われていた竜則の元に突然勇吾と黒王が現れて驚愕の事実を竜則に報告した。
2人はすぐにギルドにも報告すると言い残して去り、その場に残された勇吾はすぐに手の空いている職員を動かして情報収集に回らせた。
数時間後、今度は国内各地の隠れ里にいる長や龍王からも同様の連絡が届き、昨夜は本来の予定をこなし、バカもバカやる前に押さえながら夜遅くまで仕事に追われていった。
「―――――――まさか、すでに《盟主》が動いていたとは・・・・・俺達が直接動く時も近そうだな。」
嘗て祖父母が戦い、半壊近くまで追い詰めたとされた組織が再び力を取り戻して破滅の足音と共に歴史の表舞台に現れようとする気配を、竜則は直感的に感じていた。
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凱龍王国 竜江-下町-
四龍祭最終日の午前、4日間の祭もついに最終日と言うこともあり、昨日までの3日間は地方の都市や町を回っていた観光客達も今日は首都近隣を中心に集まっていた。
それに合わせて今日開催されるイベントの多くも首都竜江を含めた大都市圏を中心に行われる予定になっている。
もちろん例外はあり、最終日だからこそ行われるイベントを開催する地域もあり、それだけを目当てに集まる人々も少なくはない。
周囲が祭の最終日で賑わう中、勇吾は良則と共に初日に訪れた下町の一角に来ていた。
「本当に同じ場所にいたな?」
「結構細かい人だからね。」
2人の視線の先には3日前に会った占い師が同じ姿のまま2人が来るのを待っていた。
「――――――――坊や達も同じ時間に来るとはのう?」
「それで、正確な場所は分かったのか?」
「うむ!向こう側に気付かれないように視るのは流石に骨が折れたが、坊やの希望に応えられる結果を出せたと自負しておるよ。」
「そうか、無理を頼んですまなかった。」
「坊やが謝る必要はないよ。私自身も興味があった事だしね。それよりも、早速結果を教えようじゃないか。」
占い師は自分と勇吾達の周りに結界を張り、内部の情報が外に漏れないようにするとゆっくり息を吸いながら2人に結果を話し始めた。
「率直に言えば、組織の研究所のある場所はスイスのルガーノ地方じゃ。」
「――――――イタリア側にある都市だな?」
「そうじゃ。中心部ではなく、外れの方の山間部の地下にその施設があるようじゃ。それと、今年に入ってからは『幻魔師』も頻繁に出入りしているようじゃの。もちろん、端末の方じゃがの。」
「奴もか・・・・・・。」
勇吾は両手の拳を無意識のうちに強く握りしめていた。
横から見ていた良則はそれに気付きつつも、勇吾の心情を察していたが故に何も言わずにいたのだった。
「今はいないようじゃが、端末は何所にでもおるから救出の際は戦闘を覚悟しておいた方が賢明じゃな。それと、救出の最適時間じゃが、坊や達の拠点にしている日本の標準時間で言えば、明後日の午前8時から13時半までの5時間半だけじゃ。この機会を逃せば、あの娘の命の保証は私でもできん。」
「・・・・・そうか。」
「それともう1つ、その研究所には武闘派の男が警護役として常駐しておるようじゃ。見つからないのが理想的じゃが、可能な限り戦闘は避ける様にするのじゃな。ほれ、これが研究所の詳細な位置を書いた地図じゃ。後は坊や達で何とかするといい。」
「ああ、いろいろ世話になった。」
占い師から地図を受け取ると勇吾は深々と占い師に頭を下げて礼を言った。
「礼はいい。その代わり、あの娘を必ず助けんじゃぞ。」
「ああ、言われなくてもだ!」
「必ず助けます!」
2人はその後はいくつか簡単な話だけ済ませると、占い師と別れて凱王城へと向かった。
1人その場に腰を下ろしたままの占い師は、姿が見えなくなった2人の走っていった方角を見つめながら小さく微笑んだ。
「若いのう、私ももう少し若ければ惚れ込んでおったのう。」
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凱龍王国 竜江-凱王城 国王執務室-
凱王城に到着した2人は、日頃の行いと良則の顔を使って早足で執務室へと来ていた。
「―――――――――帰れ!」
「「え?」」
竜則に事情を説明した直後、竜則は2人の方を厳しい顔で向きながら拒絶の一言を返した。
予想外の反応に、勇吾も良則も一瞬何を言われたのか理解できなかった。
すると、戸惑う2人の表情を見た竜則は、今度は申し訳ない様な顔をしながら誤解を解き始めた。
「あ、別にお前達に言ったんじゃない!お前達の背後霊に言ったんだ!」
「「背後れ・・・・い!?」」
2人がそろって後ろを向くと、そこには怪しげなパントマイムをするバカがいた。
「(パクパク・・・・・・・・・!)」
「「・・・・・・・・・・・。」」
バカは何もしゃべらず全身を不愉快に動かしながら何かを伝えていた。
ちなみに、意味は「俺に隠し事なんて酷いじゃねえかマイフレ~~ンド!」である。
「――――――――――――帰れ!」
竜則は冷たい視線と声をバカの全身に突き刺した。
その後、たまたま来ていた先王に締められてバカは場外へと連れ出されていった。
「――――――――さて、これで落ち着いて話ができるのだが・・・・・良則も、黙っていた意味は理解できるが、俺にだけでも話してくれても良かっただろ?」
「ゴメン竜兄、けど・・・・・・」
「分かっている。だからその事についてはこれ以上の追及はやめておこう。それよりも、今はその救出作戦の方だな。」
「ああ、残り時間は既に48時間をきっている。打てる手は多い方がいいが、さすがに難しいか?」
勇吾が問うと、肯定とも否定ともとれる反応を見せた。
「俺個人としては全面的に協力したいが、この国の王としてはすぐには答えられないな。一個人の希望だけを優先して叶えていたら政は成り立たない。」
「ああ、それは分かっている。だが、今回は願いではなく、国民からの情報提供になるんじゃないのか?」
「―――――――そうだな。Exランクの危険指定組織の施設を叩き、そこで被害者達を救出するという名目でなら何とかなるだろう。ただし、俺は表だってお前達を参加させるつもりはないから、そこは肝に免じておけ。」
「ああ、分かっている。」
勇吾も竜則も互いに何を考えているのか大体察していたので、この場でのその後の会話はそう長くはかからなかった。
「じゃあ、僕達はギルドにも行ってくるよ。」
「ああ、俺も後夜祭までには片づけておくから、向こうへの報告が済んだら祭を楽しんでこい。折角の祭なんだ、友人達といい思い出を多く作って来い。」
「うん、兄さんもあまり無理しないでよ?あの時みたいに倒れたら・・・・・凄く大変だから。」
「ああ、あれはとんでもない日だったな。バカも枷が外れて何時になく碌でもないトラブルを起こして・・・・・。」
「・・・・・・・・わかった、俺も無理はしない。」
「――――では、失礼する。」
そして2人は執務室を後にした。
国王1人だけになった執務室の中で、竜則は引き出しから栄養ドリンクを取り出すと一気に飲み干して仕事へと戻った。
・竜則が倒れた時に何が起きたのか・・・・?番外編で書く機会があるかもしれません。




