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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第9-6章 凱龍王国編Ⅵ―6日目(四龍祭3日目)―
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第128話 魔王の呪い

 ハイロンの口から出た神器の名に、勇吾は息を飲み、隣で黙考していた黒王は聞こえていないのか全く動じる様子はなかった。



「天羽々斬剣、やはりあれも『滅龍神器』の1つだったか。」


「――――神代の時代では龍も蛇も同義に扱われる事が多いですからね。日本神話における最大級の大蛇である八岐大蛇を倒した剣もまた、『滅龍神器』に含まれるわけです。君の持つ、《布都御魂剣》とも縁のある神器なので詳しい事は既にご存じだと思いますが・・・・・。」


「ああ、日本の神器については一通り知っているから説明は不要だ。だが、何故奴が《天羽々斬剣》を持っているだけでサマエルに狙われる?危険度で言えばあの大魔王(・・・・・)の方が明らかに(理不尽なほどに)上な筈だろ?」


「当然の疑問ですね。理由の1つとしてはシドが神器の適合者であること、そして彼ら(・・)が既に《真なる眷属(オリジン)》を数人倒している(・・・・・・・)のが大きな要因です。」


「「―――――――!?」」



 今まで黙考していた黒王も目を開いて驚いた。


 《真なる眷属》とは即ち、『創世の蛇』の創設メンバーであると同時に、あの『幻魔師』と同格の怪物である事を意味している。



(・・・・どこまで規格外なんだ。瑛介も近い将来はそれ位までに化けるのか?)


「――――そうかもしれませんね。」


「心を読むな!!」



 ツッコみを入れつつ、勇吾はこれまでの情報を整理していった。


 とにかくチート系だったロトの父親シド=アカツキと瑛介の父『天嵐の飛龍王』ヴェントルは人知れず『創世の蛇』の大幹部達を倒し、更には一部の《盟主》にとって致命的な武器である『滅龍神器(ドラゴンスレイヤー)』の1つ、《天羽々斬剣》も所持していた。


 シドとヴェントルを危険視した《盟主》サマエルは執拗に2人の命を狙って行き行方不明になる。


 ヴェントルの方は重傷を負って30年ほど前の日本に逃げ延び、そこで正体を隠しながら6年前まで静かに暮らし、その後は(おそらく)死を偽装して再び姿を眩ませた。


 そしてシドもまた、異世界を逃げ回りながら、ある世界の女性との間に息子ロトを授かるが、すぐにヴェントルと同じように死を偽装して姿を眩ませ、現在は地球のどこかにいると思われる。



「―――――――しかし、オリジンを倒すほどの2人が何で30年近くも逃亡生活を続けてるんだ?それに、奴はお前達とも契約していた・・・・・・・・いや、お前達が直接動くのは制約に触れるんだったな。」


「ええ、私を始めとした高位の存在は無闇に表の世界に干渉する事は制約で禁じられているんです。組織もそこを突いて追い詰めていき、更にはサマエル自身が2人に“ある呪い”をかけたんです。」


「呪いだと!?」


「・・・・・相当性質の悪い類の呪いです。」



 ハイロンは顔に苛立ちを浮かべながら話していく。



「―――――――まるで毒のような呪いです。シドが親しくなった同類(・・)、家族や友人にその呪いが毒のように染み渡り、最終的に死に至らしめる解呪が極めて難しい呪いです。」


「それは―――!」


「ええ、全く無関係な人間といる時は無害ですが、一度でも親しい友人や家族に接触するとその人達は一瞬で呪いに感染して死んでしまうのです。解呪できない以上、2人は姿を眩ませて孤独に生きるしかなくなったのです。」



 ハイロンから語られた真実に勇吾は言葉を失いそうになった。


 「親しい同類を死に至らしめる呪い」、それは既に親しい者達は当然のこと、新しく出会う者達にも親しくなるにつれて呪いが影響を及ぼすと言うことになる。


 それはすなわち、同じ場所には長居する事ができず、呪いが続く限り延々と孤独に生きることを強いられることでもあった。



「――――なるほど、それで飛龍王は自身の生存を明かさずに人間のフリをしながら日本で暮らしていたわけか。妻子が無事なのは人間と混血(ハーフ)だったからか。」


「ええ、この呪いはあくまで同類、シドなら人間、ヴェントルなら龍族を死に至らしめるものです。ヴェントルにとっては、妻子に恵まれたのは何よりの救いだったのでしょう。」


「――――逆に、シドは人間の女との間に子供を授かったせいで早々に消えるしかなかった訳だな。」


(・・・つまり、ロトの母親が死んだのは早々に消えたとはいえ、サマエルの呪いの影響を多少なりに受けてしまったせいだったのか!?)


「そう言うことです。」



 愛しているからこそ一緒には居られない。


 シドがどれほどの苦痛を抱えながら生きているのか、それは勇吾にも想像しきれるものではなかった。



「――――じゃあ、俺がロトを父親と引き合わせたら・・・・・」


「あの子は死にます。」


「・・・・・・・・・。」


「その可能性を少しでも下げるため、2人は死を偽装し、家族や仲間とも連絡を絶ったのです。例え真実をありのまま伝えたとしても、感情に流されて先走る者は必ず出てきますからね。それは、あなたにも言えることなのなのですよ、天雲勇吾。」


「―――――!」



 勇吾は反論する事が出来なかった。


 ハイロンの言うとおり、勇吾も最初は感情に流されてロトとアリアを保護し、ロトの父親を捜す為にいくつもの異世界を旅してきたのである。



「私達もそれを避けるために今まで黙っていたのですが、先日の彩雲山の件で状況は一変し、ヴェントルの生存が龍族全体に知られてしまいました。こうなった以上は最早時間の問題です。兄も今、飛龍の都に出向いて今の長老や重鎮達に同じ説明をしていると思います。」


「――――解呪方法の手がかりはないのか?」


「・・・・・・取り乱さないんですね?」



 ハイロンは少し感心したような顔で勇吾を見つめた。


 ハイロンの話通りなら、勇吾が今までやって来たことは全て息子を思うシドの意志を踏み弄ってしまう愚かな行いと言うことになってしまう。


 だが、それでも勇吾は取り乱さず確かな意志を瞳に宿しながらハイロンから視線をずらさなかった。



「呪いのせいで隠れているのなら、その呪いを解呪するだけだ。違うか?」


「―――――フ。」


「黒王、良い契約者を持ったようですね。」


「ああ。」


「――――解呪の方法ですが、手立てが無い訳ではありません。理想的なのはサマエル自身を倒す事なのですが、そもそも何所にいるのかすら分からない相手なのでこれは置いておきます。次に確実なのは新しい解呪法の開発ですが、これには必要な物がいくつもあるのですが、君達は既にそのうちのいくつかを揃えています。」


「―――――あ!」



 勇吾を指差しながら話すハイロンに遅れて、勇吾はすぐに何が言いたいのか察して自分の収納空間から黒い大剣を取りだした。


 勇吾の愛剣である神器、《布都御魂剣》である。



「そうです。まず必要なのは君の持つ浄化の力を持つ神剣《布都御魂剣》です。彼女(・・)の力も借りればその辺の邪神の呪いならほぼ確実に浄化が可能です。ですが、それだけではサマエルの呪いを破るには力不足です。その為に必要なの物の1つが『滅龍神器』、蛇や龍に属するサマエルの力を破る為には必ずこれが必要になります。」


「それは、奴の持つ天羽々斬剣ではダメなのか?」


「可能ですが、それだとどうしても接触する必要がでてきますのでできれば避けたいですね。確実なのは、あの大魔王(・・・・・)の持つ聖剣アスカロンです。」


「「・・・・・・・・・・・・・・」」



 勇吾と黒王は揃って嫌な顔をした。


 2人とも、可能ならあの大魔王とは一生関わりたくないのである。



「そんな顔をしないでください。他には神剣グラムですが、これは私でも何所にあるのか分からないので難しいですね。」


「北龍王は知らないのか?」


「・・・・・反吐が出るから関わりたくないそうです。」


「・・・・・・・・・・・・・。」

「――――次に必要なのは強力な浄化能力を持った人間か神獣ですが、これは既に仲間の中にいるから問題ありませんね?」


「ああ、良則か、王族、または飛鳥家に頼めば大丈夫だ。」


「次に必要なのは生産系の魔法、特に錬金術に長けた研究者が必要ですが――――――」


「それも大丈夫だ。蒼空ならそう言うのには何より詳しいし、何より組織に関する情報は俺達の中で一番多く持っている。残りはなんだ?」



 少しずつ希望が見えてきたのか、勇吾の表情には次第に笑みが浮かんできた。


 だが、次にハイロンが口にした言葉で再び表情を変えることになる。



「――――最後に必要なのが『天使の力(テレズマ)』です。それも、サマエルと同格の最高位クラスの熾天使(セラフィム)、理想はミカエルを含めた七大天使のテレズマが必ず必要なんです。」


「――――七大天使!」



 その言葉を聞いた瞬間、勇吾の頭の中をつい最近であった“あの男”の顔が過ぎった。



「これについては、君達は既に縁ができているので入手する可能性は皆無ではないはずです。おそらく、近いうちにまた出会う事になるのかもしれません。」


「・・・・・“奴ら”は神器を回収していた。なら、奴らが既に持っている神器の中に『滅龍神器』がある可能性も十分に考えられるか。」


「――――振り返ってみれば、そもそも海龍王殿が直接動く事になった原因には“あの男”がいた。奴が瑛介と接触した事により、今に至っていると考えても過言ではないな。」



 それは偶然と片付けるには出来すぎた縁だった。


 もとより、勇吾も黒王もこの世に偶然があるとは思っていない。



(――――アベル=ガリレイ、奴は何か重要な事を既に知っている・・・・・・!?)



 勇吾の額に冷や汗が流れ落ちた。


 とその時、上空一面に巨大なPSが展開された。





『ピンポンパンポ~~~~ン!!どうも~~~~!みんな大好き護龍丈くんでえ~~~~す!!』





 海龍島の上空に、バカのバカ面がアップで現れた。


 その瞬間、海龍島にいる全ての者達が空を見上げた状態で固まってしまった。


 もちろん、勇吾達も例外ではない。





『みんな楽しんでるか~~~い?四龍祭もいよいよ後半ってことで、今から俺プレゼンツの、凱龍王国にいる国民もそうじゃない連中も全員参加のビッグゲームを開始しま~~~~~~~す!!』







―――――あの野郎!!!







 その瞬間、凱龍王国内にいるほとんどの人々の心がひとつになった!


 バカはそんな事など露知らず、どんどん話を進めていった。






『え~~~~~、ゲームの内容は『キングドラゴン鬼ごっこ』でえ~~~~す!ルールは簡単、今日の日没までにただ今お祭りをエンジョイしている『四龍王』を捕まえた個人or団体に賞金1億G(百億円)ア~~~ンド、好きな王族1名と好きな日24時間自由に好きにしていい権限をあげちゃいま~~~~~~す☆』






 PSの画面が変わり、そこには4人の男の写真が映し出されていた。


 その中には、今勇吾の目の前で唖然としているハイロンのものもあった。







『―――攻撃は自由!ついでに制限時間内は国内での結界系や隠蔽系の魔法は強制完全無効化しちゃうからYOROSHIKU!!んじゃ、スタ~~~~~~~ト!!』






 次の瞬間、全ての結界が消滅し、周囲にハイロンの姿が露になった。







「丈~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」





《天羽々斬剣》についての補足

・スサノオはこの剣を使って八岐大蛇を倒しましたが、尾を斬った際に中にあった天叢雲剣(草薙剣)に当たって刃が欠けてしまったそうです。剣としての硬さは天叢雲剣の方が上のようですね。

・現在は奈良県の石上神宮で布都御魂剣と一緒に祭られているそうです。



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