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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第9-6章 凱龍王国編Ⅵ―6日目(四龍祭3日目)―
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第127話 『海龍王』ハイロン

 不意に2人の前に現れた『海龍王ハイロン』、彼は蒼い髪を風で揺らせながら平然と2人を交互に見ていた。


 不思議な事に、周囲の人々はハイロンや勇吾達の存在を認識できていないのか、人混みの中で立ち止まっているにも拘らず誰も3人に視線を向けることはなかった。



「――――――黒の神龍、そしてその契約者、君達の噂は私もいろいろ聞きかじっているよ。私達の友人(・・・・・)を探しに異世界を巡っているそうだね?」


「―――――――――――!!」



 ハイロンの言葉に、勇吾は息を飲んだ。


 既にロトの口から聞いてはいたが、改めて本人の口から聞かされたその事実は勇吾にとって衝撃が強かった。



「君が私に訊きたい事があるのは分かっています。そちらの神龍の用件も同じく知っています。」


「――――――――海龍王殿、それは・・・・・・・・・・」


「ここで話すのもなんですので、場所を変えてお茶を飲みながら話しましょう。」



 黒王の言葉を遮り、ハイロンは2人に背を向けながら歩き出した。


 勇吾も黒王も訊きたい事が山ほどあったが、ハイロンの独特の空気に飲まれてしまって呼び止めることすらできなくなっていたのだった。




----------------------

凱龍王国 海龍島-海岸地区-


 ハイロンの後を追って行きついた先は海岸沿いのオープンカフェだった。


 昼時にはまだ早いせいか、祭の開催期間にもかかわらず客の出入りが疎らなその店に来たハイロンは、空いている席の1つに腰を下ろすと勇吾と黒王も座る様に勧めた。


 2人はハイロンと対峙するように座ると、注文をとりに来た店員に適当にお茶を注文し、向かいに座るハイロンに対して質問をしていった。



「―――――――単刀直入に訊く。ロトの父親、シド=アカツキの居場所を知っているのか?」


「本当に単刀直入だね。まあ、それを訊くために私達を捜しに来たのだから仕方ないか。けど、私の口からは答えることは難しいな。」


「―――――難しい(・・・)?」


「正確な場所までは教えられないと言うことです。これは彼との契約なので・・・・理解してください。」



 ハイロンは本当に申し訳ないと頭を下げた。


 その姿を見た2人は、目の前の龍王が龍族の子供達が噂していた通り、本当に誰かと契約をしているのだと確信した。それも、行方不明のロトの父親と契約しているのだと・・・・・



「わかった。なら、言える範囲で教えてほしい。」


「・・・・・どうやら本気のようですね?」



 勇吾の目を見たハイロンは、その意志が本物であると確認した。


 そこに先ほど注文したアイスティーが3人分運ばれ、ハイロンは一口飲むとその海色の瞳を勇吾に向けながら話し始めた。



「私がシドと最初に出会ったのはもう40年近く前に遡ります。当時は今の君よりも少し年上だった彼は、契約していた飛龍王とともに私達に勝負を挑んできました。」


「やはり、飛龍王と契約してたのか!?」


「・・・・私と兄は久方ぶりに本気を出して戦った末、彼らと引き分けとなりました。」


「伝説の龍王と引き分けただと・・・・・・!?」



 あまりに衝撃的な内容に勇吾も黒王も唖然となった。


 ロトの父親であるシドが瑛介の父親である『天嵐の飛龍王』の契約者である事もだが、あの数々の伝説にさえ語り継がれていた四龍王のうち、『海龍王』と『迅龍王』の兄弟と戦って引き分けたという事実は、2人にとっても現実離れした話だった。



「今でも昨日の事のように思いだします。その後は兄も上機嫌になら、長い宴の末に一緒に契約しました。」


「最高位の龍王と契約できたのか。それも2人同時に!?」


「予想してたとはいえ、大した器を持った男だな。『凱龍王』の者ではないはずだな?」


「ええ、彼は『蒼天(そうてん)』と『武帝(ぶてい)』のハーフです。」



 『蒼天』、そして『武帝』、どちらも『凱龍王』遥か昔から語り継がれる神格の二つ名であると同時にその子孫である人間の血統の名でもある。


 ちなみに『蒼天』は地球の日本の血統であり、『武帝』はとある異世界の血統である。



「――――先祖がえりみたいなものなのでしょう。稀に、血筋に関係なく始祖の血が色濃く受け継いで生まれてくる人間はいますから。」


「まあ、冷静に考えてみると、飛龍王と契約していた時点で規格外だったと言えるな。けどそうか、やはり繋がっていたか・・・・・・・。」


「―――――ヴェントルの御子息の件も知っています。そして彼自身の事も・・・・・・」


2人に(・・・)何があったんだ?」


「―――――――――――――――――」



 ハイロンはしばらく沈黙した。


 勇吾が訊いたのは、彼が今2番目(・・・)に知りたいことだった。



「――――――――――私も直接見ていたわけではない。だが、30年前のある日を境に、2人はあの神々の眷属(・・・・・・・)達に命を狙われ始めた。」


「それは、『創世の蛇』の《盟主》に狙われていると言うことか?」


「そうです。7人の《盟主》の1人、『楽園(エデン)の蛇』の異名でも知られる『魔王サマエル』に執拗に狙われているのです。」


「「――――――――――――――!?」」



 その名が出た途端、勇吾も黒王も思わず立ち上がりそうになった。


 サマエル、それはユダヤ教やキリスト教において大きな意味を持つ名前であり、その名の意味は『神の毒』、または『神の悪意』とされ、『赤い蛇』とも呼ばれている“死”を司る天使だった。


 有名な話では、楽園(エデン)で暮らしていたアダムとイヴを唆し、“知恵の木の実”を食べさせて楽園から追放させた蛇がサマエルと言う話だ。


 また、一説によれば地獄の王であるサタンと同格の魔王とも言われているが、サマエルに関しては謎が多く、解明されていない部分が多い。



「―――――サマエルが何故2人を狙うのだ?」


「それは、シドが一部の(・・・)(盟主)にとって致命的な・・・・・下手をすれば組織そのものを崩壊に導きかねない《神器》を所有しているせいなのでしょう。」


「何だって!?」



 勇吾は思わず大声を上げて立ちあがった。


 だが、ハイロンが結界でも張っているせいなのか、他の客や通行人などが勇吾に視線を向けることはなかった。



「『創世の蛇』の《盟主》や《オリジン》には龍や蛇の本性を持つ者が多くいるという話は御存じですか?」


「ああ、サマエルも赤い蛇と言われているし、『軍師』と呼ばれている《盟主》、ウロボロスも蛇だな。他にも噂レベルなら邪龍や悪龍、竜人などもいると聞いた事はある。」


「それは間違ってはいません。 実際、彼らは今も世界中の力ある龍や蛇を仲間に引き込もうとしています。そんな彼らにとって、シドの持つ《神器》は致命的であり、シド自身も“天敵”なのです。」


「――――――――それは、『滅龍神器(ドラゴンスレイヤー)』か?」


「・・・・・そうです。」


「何だと!?」



 黒王の問いに、ハイロンは頷きながら肯定した。



「俺もそれに関わる件で海龍王殿を探していた。」


「やはり、『夜闇』を斬ったのは『滅龍神器』によるものでしたか。」


「黒、どういう事だ?」



 勇吾が視線を黒王に向けながら問うと、黒王は軽く頷きながら話し始めた。



「―――――先日の会合での内容は話したな。あの後、もう一度里に戻って従兄弟の傷を調べたら、上手く誤魔化してはいるが『滅龍神器』による傷だと言うことが判明した。そして昨日の晩、ようやく意識を取り戻した奴の口から、犯人が『神話狩り』である事が判明した。」


「やはりそうでしたか。」


「龍王殺しは、やはり『創世の蛇』の仕業だったか・・・・・・。」


「さらに詳しく聞くと、『神話狩り』は《リジル》という剣を持っていたらしい。北欧神話では(・・・・・・)ファーブニルの心臓を切り取ったとされる剣のようだが―――――――――」


「―――――――実際に死んだのはファーブニルに変身した弟のオッテルで、《リジル》が『滅龍神器』なのか確かめたいと言う訳ですね?」


「そうだ。」



 『滅龍神器』、それは読んで字の如く龍を滅ぼす事の出来る神器を指す。


 有名なのはキリスト教の聖人の1人である聖ゲオルグ(聖ジョージ)が竜退治で使った聖剣アスカロンである。


 北欧神話においては、邪龍ファーブニルを殺した神剣グラムやその心臓を抉った剣リジルがこれに相当するのだが、この世界においてはファーブニルは『北龍王』として生き延びており、グラムで殺されたのはファーブニルの弟とされている。


 ならば、偽ファーブニルを殺したグラムと、心臓を抉ったリジルは《滅龍神器》ではないのではと言う疑問が生じるのである。



「結論から言えば《リジル》は『滅龍神器』の1つになります。実際にファーブニルを殺すのには使われませんでしたが、元々は《グラム》と同様に龍殺しの効果を与えられて造られた武器です。そして『滅龍神器』は名のある龍を殺した武器か、龍殺し用に造られた武器が時を経て神性を持ち神格化した武器の総称です。それに、ファーブニルの代わりに死んだ弟も龍族の血を引いているのでどちらのパターンでも当てはまります。」


「――――――理解した。」



 ハイロンの話に納得した黒王はアイスティーを飲みながら黙考を始めた。



「それで、シド=アカツキが持っている『滅龍神器』は何なんだ?まさか、聖剣アスカロンだと言うんじゃないだろうな?」


「いえ、アスカロンはとある大魔王(・・・・・・)のコレクションになっていて、今は彼の曾孫や玄孫の格好のオモチャにされています。」


「伝説の聖剣がオモチャだと・・・・・・・・・・!?」


「――――――その辺は気にするだけ無駄です。」



 勇吾は目を引き攣っていたが、ハイロンに言われてこの場では忘れることにした。



「シドは長い旅路の末、複数の神器を所有していました。その中で『滅龍神器』と呼ばれている神器はただひとつだけでした。」



 ハイロンは少し間を開け、ゆっくりとその名を勇吾に話した。







「―――――――――――名を、《天羽々斬剣(あめのはばきり)》、嘗て素戔嗚命が八岐大蛇を殺すのに使ったと十束剣の一振りです。」







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