第124話 凱龍冒険記 後編
凱龍は溺れたみんなを運びながら海を渡ると小さな島に着きました。
そこには小さな集落があり、5人はそこで休ませてもらおうとしました。
しかし村に行くと、村は暗い空気に包まれていました。
「―――――長老さん、何でこの村で何かあったんですか?」
凱龍が長老に尋ねると、痩せた長老は枯れた声で話し始めました。
「この島の奥にある祠に魔王が現れました。魔王はたくさんの兵を連れて祠を乗っ取り邪神を召喚しようとしています。邪神が復活すれば世界は絶望の闇に飲み込まれています。最初は島の守護龍様が戦いましたが、老いて力が弱くなっていた守護龍様は戦いの末に魔王以外の敵を全て倒し、魔王にも深手を負わせて亡くなりました。」
「魔王はどうなったんですか?」
「今は守護龍様に負わされた傷を癒すために祠に引き籠っていますがいずれ再び暴れ出すでしょう。旅の方々、無茶だとは分かっていますが、どうかこの島を救ってください!」
凱龍達は困りました。
彼らは今までの旅で魔王の話は聞いた事がありませんでした。
知らないのでどれだけ強いのか想像できません。
すると、そこに凱龍達と同じ位の少年が2人やってきて怒鳴ってきました。
「お前達は何もするな!魔王は俺が倒す!!」
白い髪のの少年は凱龍を睨みつけながら叫ぶと、単身、魔王のいる祠へと走って行きました。
残った蒼い髪の少年は泣きそうになりながら5人に事情を説明し始めました。
「僕達は魔王と戦って死んだ守護龍の息子です。さっきのは僕の双子の兄で、仇を討つために魔王を倒しに行ってしまいました。兄は僕のたった1人の家族です。みなさん、どうか兄を助けるために僕に力を貸してください!」
少年の必死のお願いを凱龍達は断りませんでした。
そして少年を加えた6人は魔王のいる祠へと向かいました。
祠に着くと、白い龍が黒いマントを羽織った魔王と戦っていました。
魔王の魔力は強大で、白い龍は手も足も出ませんでした。
「フハハハハハハハハハハ!!!小童のドラゴン風情にこの魔王が負けるとでも思ったか?」(魔王役:丈)
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観客席は再び数秒間凍結した。
そして、観客のほぼ全員が同時に心の中で同じ言葉を叫んだ。
(((あの野郎―――――――――――――――――!!)))
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魔王の力は手負いにも係わらず強大で、周囲の地形も変えてました。
「フハハハハハハ!!この私を楽しませる者はいないのか!?」
魔王の邪悪な笑い声は島の外まで響きました。
ですが、その笑い声も長くは続きませんでした。
「邪悪な魔王よ、これ以上はお前の好きにはさせないぞ!」
龍の姿に戻った凱龍、ファーブニル、サラマンダーは魔王と戦い始めました。
リンとヨウは少年と共に傷ついた白い龍の介抱に向かいました。
「また小童どもか?お前達ごときに私が倒せるとでも思っているのか?」
戦いは激戦となりました。
3対1にも係わらず、魔王は余裕の笑みを消しません。
次第に凱龍達は追い込まれていきます。
その時、横からたくさんの魔法が魔王に襲い掛かりました。
「なっ・・・・・・・・・!?」
「お前の敵はまだいるぞ、魔王!!」
「みんなだけを戦わせたりなんかしない!!」
「母さんの敵は俺達が討つ!!」
「か、覚悟しろ!!」
攻撃してきたのはリンとヨウの姉弟、そして白と蒼の龍の兄弟でした。
リンとヨウは旅の間に魔法を覚えて戦えるようになっていました。
特にリンの魔力はスゴク高く、今では凱龍にも負けていませんでした。
「―――――――そんなに死にたいなら一緒に殺してやる!!」
魔王は今までにない巨大な魔法を放ちました。
当たれば全ての命が死に絶える邪悪な魔法です。
それを見た凱龍はすぐにリン達を助けようとしますが間に合いません。」
「ハハハハハ―――――――――――――は!?」
しかし、魔王の魔法で誰も死にませんでした。
みんな不思議に思ってよく見てみると、リンとヨウが指にはめていた指輪が光を放ってみんなを守っていたのです。
龍神様が凱龍に渡した指輪が魔王の攻撃から護ってくれたのです。
「バカな、私の死の魔法を防ぐ力など・・・・・・・・!?」
「今だ!!」
「一斉攻撃だ!!」
不破の魔法を防がれて動揺した魔王は隙だらけでした。
凱龍達はその隙を逃さず攻撃していき、苦闘の末に魔王を倒す事に成功したのでした。
祠は無事に守られ、邪神が召喚する事はありませんでした。
「ありがとうございます。お蔭で島は救われました。僅かですが、これは我々の感謝の気持ちです!」
長老や住民達は凱龍達に感謝し、島をあげての宴を用意してくれました。
みんなは寝るのも忘れて飲んだり食べたりしてその夜を過ごしました。
翌日、島を旅立とうとする凱龍達に双子の兄弟がやってきました。
「昨日はありがとうございました。僕達は母の意志を引き継いでこの島を守りたいのですが、守護龍になるにはまだ力も資格がありません。僕と兄さんは修業の為に旅に出ようと思います。よければ旅の仲間に加えてくれませんか?」
「いいか、別に俺はお前達が気に入った訳じゃないんだからな!!」
「うん、これからよろしく!え~~と、そう言えば名前を聞いていなかったね?」
凱龍は双子の名前を聞いていなかったことを思い出しました。
「僕の名前はハイ。」
「俺はシュンだ!」
凱龍達に兄のシュンと弟のハイが加わりました。
そして7人は次の世界へと旅立ちました。
その後、彼らはたくさんの冒険をしていき1つの国を造ります。
その国の名前は凱龍王国、凱龍は王様になり、リンは王妃様、ヨウは英雄となり、ファーブニル、サラマンダー、シュン、ハイの4人は龍王になって王国や世界の人々を今も見守っているのです。
これは王国を造った凱龍王とその仲間達が出会った最初の物語です――――――――
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たくさんの拍手で劇場全体が満たされる中ゆっくりと幕は落ちていった。
「―――――――魔王との戦いの所は結構端折っていたな?」
「そうなのか?」
「ああ、史実ではもっと残酷な部分とかもたくさんあったからな。それに、双子が仲間に入るのにはもっと時間がかかっていたしな。そこは諸々の事情でカットしたんだろう。」
「小さい子の劇だしね。」
5,6歳児の劇とは思えない出来に勇吾達も満足していた。
ただひとつ、配役とある人物に関する点以外では・・・・・・・
その後、舞台の裏から出演者の児童達が現れた。
その中に、何故か普通に混ざっているバカの姿もあった。
『エ~~~ア~~~!本日の劇の配役、演技指導、そして友情出演の護龍丈くんでぇ~~~~~す♪』
バカがマイクを持って喋り出すと、途端に客席中から見えない炎のオーラが噴き出した。
勇吾もまた、拳をボキボキと鳴らしながらゆっくりと席を抜け出して舞台へと近づいていった。
『凄かったろオメエら?俺って演劇の才能も――――――――――――――――おいおい、どうしたんだよタッツー?まだ俺の舞台挨拶中だぜ?』
バカの話など耳に届いていないかのような顔をした現国王竜則は舞台に上がるとバカの手をシッカリとホールドしながらマイクを奪って観客全員に死刑執行の合図を叫んだ。
『――――――――魔王を討てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
「「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」
竜則はバカを観客席の方に投げ飛ばし、同時に観客達、出演者達の保護者達は一斉に魔王に襲い掛かって行ったのだった。
なお、良い子には見せられない光景なので、しっかり結界は張ってあった。
・四龍祭2日目は明日で終わりの予定です。




