第123話 凱龍冒険記 中編
・思った以上に長くなったので3つに分けました。
舞台の上に立つ女装した正則、人間の少女リンはこの物語においてヒロインの役である。
そのヒロイン役を演じている王子(正則)の姿に、観客の(約1名を除く)ほぼ全員が絶句していた。
しばらく経つとようやく頭が再起動し、客席のあちこちで困惑の声が上がっていた。
「(・・・・・・おい、この劇の配役は誰がやったんだ?)」
「(パンフレットには先生が担当って書いてあるけど・・・・・・・)」
「(明らかにバカの誰かの仕業だろ!あのバカか!?それとも元祖の方か!?)」
「(―――――――全員だろ。)」
蒼空は一言で断言した。
その目は凄く冷めており、これ以上驚く事は何もないといった顔だった。
「(見ろ。最前列にいる元祖バカが首絞められている。)」
「(・・・・・・容疑者筆頭間違いなしだからな。)」
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凱龍とリンとヨウの3人が旅をして数ヶ月が経ちました。
3人は大陸を西へと旅をしながらいろんなものを見ていきました。
リンとヨウもすっかり逞しくなり、凱龍と力を合わせて困難に立ち向かいました。
そんなある日、山奥の川沿いを歩いていると、川岸に怪我をした龍が倒れていました。
その周りにはたくさんの黄金が散らばっています。
「――――――君は誰?どうして怪我をしているの?」
凱龍がケガを治しながら訊くと、龍は泣きながら話し始めました。
「父が弟に殺された!弟は俺と入れ替わって罪を全部僕になすりつけた!弟は嘘と変身魔法が得意で俺をカワウソに変身させて旅をしていた神達に殺させようとした!死にそうになったが、神の1人が助けてくれて俺の死体を偽装して逃がしてくれたけど怪我で飛べなくなって川に落ちた!」
「そんなことが・・・・・。僕は凱龍、一緒にいるのはリンとヨウ、君の名前はなんていうの?」
「――――――――俺はファーブニル、この世界の北の果てに生まれた龍だ!」
凱龍は旅に出て最初に出会った同族のファーブニルとすぐに友達になりました。
旅の仲間がまた1人増え、4人はファーブニルの故郷を目指しました。
しかし、辿り着いた地にはファーブニルの故郷はおらず、かわりに1人の神様がいました。
「やあ、どうやら無事に助かったようだねファーブニル?君の弟達は2人とも死んだよ。君と入れ替わった弟は欲に目が眩んで財宝を持って逃げ出し、聖剣を持った若者に殺されたよ。下の弟も若者を殺して財宝を独り占めしようとして殺されたよ。」
神の言うとおり、ファーブニルの家があった場所には3つのお墓がありました。
1つは父、残り2つは弟達の墓です。
呆然とするファーブニルを神は笑いながら見下ろしながら去って行きます。
「ハハハハ、僕の名はロキ、いずれ神の頂点に立つ神だ!いずれまた逢おう!」
ロキは笑いながらその場からいなくなりました。
ショックのファーブニルに凱龍達は手を差しのべました。
ファーブニルをその手を涙を流しながら握り返し、4人は次の世界へと旅立ちました。
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「(これって僕達の世界のお話じゃないですか?)」
「(おれ知ってる!北欧神話の『ニーベルングの指輪』だろ?けど、いろいろ違ってね?)」
「(神話はその時代の変化に伴って人間に都合よく改竄されているからな。この話はほとんど改竄されていない事実に近い話なんだ。)」
「(そしてファーブニルは、後に『北龍王』と呼ばれるようになるんだよ。)」
「「(へぇ~~~~~~!)」」
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4人が次に向かった世界はスゴク暑い火山がたくさんある世界でした。
そこで4人は全身が炎の様に紅い鱗で覆われた巨大な龍に出会いました。
4人は巨大な龍にお願いをされました。
「――――――お願いですか?」
「家出をしたバカ息子を見つけてほしいのです。いつも私の隙を見つけては家を抜け出し空や山で大暴れ、私はこの場所を護らないといけないので動けません。お願いです。息子が取り返しのつかない事をしでかす前に見つけて連れてきてください!」
「分かりました。僕達全員で――――――――――」
「俺が1人で捕まえてくるぜ!」
せっかちなファーブニルは勝手に飛び出していきました。
後を追った凱龍達は、そこでファーブニルが紅い子供の龍とケンカしていました。
「フハハハハ!俺の名は炎龍、俺の炎は同族の鱗も焼き尽くすぜ!!」
「ハハハハ!やれるものならやってみろ!!」
ファーブニルとサラマンダーのケンカは辺りを無差別に破壊していきました。
困った凱龍は龍の姿に戻ってケンカを止めに入りました。
「ケンカはやめて!!」
山に大きな穴が空きました。
力の加減を間違えた凱龍はケンカをしていた2人ごと地面も吹っ飛ばしたのでした。
「――――――――3人とも反省!!」
3人は怒ったリンに叱られ、並んで正座させられました。
その後、サラマンダーは家でも家族に叱られて期限付きで勘当されました。
そして旅の中はまた1人増えたのでした。
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「(・・・・・・・ちょっと展開が強引じゃね?)」
「(時間の関係で一部を端折っているみたいだね?)」
「(というか、正則の演技様になってるよな?)」
「(お兄さん達の真似じゃないの?)」
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サラマンダーが仲間に加わって1年以上が経ちました。
最初はケンカばかりしていたファーブニルとサラマンダーも最近は仲良くなっていました。
そして今日も次の世界にやってきました。
「うわ~~~~~~~!!」
「沈・・・・む・・・・・・・・・・!」
着いた直後、全員海に落ちてしまいました。
島育ちの凱龍は泳ぐのも得意でしたが、他の4人は山育ちなので泳ぐのは苦手でした。
特にサラマンダーは炎の龍なのでカナヅチでした。
ファーブニルも死にかけて川に落ちた時のトラウマで泳げませんでした。
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「(カナヅチドラゴン・・・・・・。)」
「(・・・・・シュール?)」
「「・・・・・・・・・・・・」」
泳げない龍もいることを初めて知る日本人組だった。
・本文には書いてませんが、配役には女装や男装がたくさん混ざってます(笑)
・本来の北欧神話の中でのファーブニルは百姓のお父さん殺した悪いドラゴンです。そして弟の養子であるシグルズ(ジークフリート)に殺されます。




