第122話 凱龍冒険記 前編
・四龍祭2日目です。
凱龍王国 竜江――教育・研究区――
四龍祭2日目、この日の午前、勇吾達は教育・研究区の一角にある劇場に来ていた。
普段ここでは音楽の授業や芸能系学科の授業、そして各サークルが練習やイベントで使用する場所だが、予算をケチることなく使われた数々の設備は、最早学生用の施設とはだれも思わないほど充実しており、四龍祭開催期間中も各種イベントの会場として使用されている。
「・・・・・デカすぎじゃね?」
それが慎哉の率直な感想だった。
設備が充実しているだけでなく、そもそも建物自体の大きさが半端なかった。
外観はドーム球場と同じくらいあるのではと思える程であり、初めて来る人が見ればここがどういう場所なのか混乱しそうになるかもしれない。
「まあ、ここに限っては僕のお祖父さんが勢いで造ったからなんだけどね。」
「――――――――なるほど、あのバカならこれ位は普通だな。むしろ、如何わしい装飾が皆無なのが奇跡なくらいだ。」
「う・・・・・・・・!」
「ヨッシー、しっかりしろ!!」
良則の説明に蒼空は物凄く納得していた。
ちなみに、木の陰に隠れて見えなくなっているが、ちゃんと建物の横には記念のサインが刻み込まれている。
その後もいろいろあったが、勇吾達は入口から劇場の中へと入っていった。
「―――――――正則のクラスの劇は10時からCホールだからあっちだね!」
「外もデカいけど中も広いんだな?」
「大小合わせれば15のホールがあるからな。これだけあれば授業やサークル活動とかで利用予約の順番待ちになる事も少なくて済むからな。」
劇場に関する豆知識を話しながら勇吾達は階段を上ってパンフレットに載ってあるホールへと入っていく。
中に入るとすでに先客が大勢集まっていた。
客席は2階席まであり、軽く二千人以上は座れる広さだった。
「お!ヨッシー、あそこにいるのお前の家族じゃね?」
「あ、本当だ!」
「・・・・・・王族が一般人の中に堂々と混ざっているな。ああいうところも血筋か?」
「うぅ・・・・・・・・・・!」
「・・・・・蒼空、その辺にしておけ。」
客席の最前列席近くには明らかに纏うオーラの質が異なる観客が何人も横に座っていた。
座っていたのは良則の両親に3人の兄、少し離れた席には妻に耳を引っ張られている祖父の姿もあった。
「ヨッシー、やっぱ灯歌は来れないのか?」
トレンツは、国王一家の席が1つだけ空いているのに気付いて訊くと、良則も頷きながら残念そうに答えていった。
「うん、一応席はとってあるけど、スケジュール上間に合わないかも・・・・・・・・・・」
「―――――――――――間に合ったわよ!!」
「え、灯歌!?」
良則の言葉を遮るように、横から灯歌が良則に飛びついて来た。
「フウ、いろいろ裏ワザとか使ってギリギリ間に合ったわ♪」
「灯歌、どうし―――――――――」
「お!灯歌じゃん、お久~~~~~♪」
「灯歌ちゃん!久しぶりね!?」
「こうして会うのって何ヶ月ぶりだっけ!?」
トレンツ達も久しぶりに会う幼馴染の少女を囲む様に飛びつき、変装用の帽子や(魔法のかかった)サングラスを乱暴に弄りながら歓迎していった。
横から見ていた慎哉達は、突然の珍客に呆気にとられつつも、彼女がこの国に来てから何度もポスターやテレビ、雑誌などの見かけた有名人だと気付くと、すぐに事情を知る勇吾に詰め寄っていった。
「勇吾、あの娘ってもしかして・・・・・・!?」
「良則の双子の姉だ。ちなみに当然二卵性双生児。」
「うそ!?テレビで何度も映ってたわよ!?」
「・・・・有名人!?」
すでにファンになっている者もいたため、勇吾への質問の嵐は止むことなく続きそうになるが、通路に立ったままだと他の観客の邪魔になるので一旦中断して席まで移動した。
席に座ったら再び質問攻めが始まり、勇吾はうんざりとしていた。
そして10分ほど経つと開演を知らせるBGMがなり、観客席はすぐに静まった。
「(そう言えば、ヨッシーの弟達のやる劇ってどんな内容なんだ?)」
「(史劇、歴史を題材にした劇だよ。正則達がやるのは王国の黎明期を再現した割とメジャーな話だね。)」
「(ロトの奴、結局役名を言わなかったけど、そっちはどうだ?)」
「(父さんは衣装や舞台をを作るのを手伝ってたから知ってると思うけど、僕は聞いてないよ?)」
「(・・・・・嫌な予感がするんだが。)」
「(ま、まさかね・・・・・・・・?)」
考えすぎだと思いつつも、念の為周囲に注意しながら顔を舞台の方へと向けた。
司会は教師の1人が行い、観客の拍手と共に舞台の幕は上がっていった。
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~凱龍冒険記~
昔々、世界の何所でもない場所に神様の住む世界がありました。
世界はいくつもの島や大陸に分かれており、神様達はいろんな場所に分かれて暮らしながら色んな世界を見守ったり管理したりしてました。
世界の外れには小さな島がたくさん浮かんでおり、その中の1つの島には龍神さまが住んでました。
龍神様の住む島にはたくさんの龍達が仲良く暮らしており、みんな龍神様に感謝しながら平和に暮らしてました。
ある日、龍神様の所に1人の子供の龍がやってきて龍神様にお願いをしました。
「龍神様、僕はもっと広い世界がみたいです!外の世界を旅をする許しをください!」
「――――――愛しき子よ、外に出ればもうここへは帰ることは出来ないぞ?ここは神の世界、ここへ帰ってくるためには私と同じ神になる以外に方法はない。それでも外の世界に行きたいか?」(龍神役:アリア)
「それでも行きたいです!僕は色んな世界を旅してたくさんの友達を作り、一緒に旅をするのが夢なんです!龍神様、どうか許しをください!」
「いいだろう。お前の目に強い意志があるのはわかった。外へと行く門を開けるが、その前に愛しき子よ、お前の名を教えてくれぬか?」
「はい!僕の名前は凱の龍、凱龍です!」(凱龍役:ロト)
「では凱龍よ、せめてもの餞別としてこの指輪をあげよう。大切な友ができたらひとつずつ渡しなさい。そうすれば、指輪はお前とお前の友を護ってくれるだろう!」
「ありがとうございます龍神様!」
「では凱龍よ、外の世界へ旅立つがよい!」
龍神様は外の世界への門を開き、少年龍凱龍は神様の世界から旅立ちました。
龍神様は凱龍を心配そうな目で見送りながら門を閉じていきました。
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「(勇吾、ロトくんが主人公だよ!アリアちゃんも龍神役なんてすごいよ!)」
「(ああ、さすが俺の弟妹だ!才能にあふれているな!)」
「(才能なら正則だって負けてないよ!)」
「「(兄バカだ!!)」」
「(あれ?じゃあ、正則くんは・・・・・・・?)」
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凱龍の冒険は波乱に満ちていました。
最初に行った世界では龍の姿をした凱龍を見た人間達が怖がり出して石や矢で攻撃してきました。
初めて外の世界に来た凱龍は何で攻撃されているのか分かりません。
魔法で姿を消してコッソリと人間達の話を聞きました。
「民衆よ、空からやってきたあの怪物は我々の敵だ!あの怪物が我々の幸福を奪い、世界に病や飢えをバラ撒いているのだ!この世界は人間が神から与えられた人間の為だけの世界、我々は神から頂いた世界を守る為に悪魔の使いであるあの怪物と戦うのだ!」
「「おーーーーーーーーー!!」」
凱龍はビックリしました。
もちろん凱龍は悪魔の使いではありません。
悪い人間は、自分達の悪行や失敗を凱龍のせいにして民衆を先導していったのです。
ショックを受けた凱龍でしたが、お腹を空かせた子供を見つけたのでコッソリと美味しい木の実のなる木を魔法で育てていきました。
そして人間達に見つからずにコッソリと別の世界へと移動しました。
その後もいくつもの世界を旅しましたが、どこでも凱龍は悪者扱いされて心が荒んでいきました。
ですが、優しい凱龍は人間不信にはなりませんでした。
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「(おい、小さい子のやる劇じゃないんじゃね?)」
「(・・・・・・重いだろ。内容が。)」
「「(・・・・・・・・・・・・・)」」
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何度目かの世界移動の末、凱龍はある世界の一番大きな大陸の東の地へとやってきました。
凱龍は人間達を驚かせない様に人間の姿に変身して人間の町を歩いていました。
賑やかな街を旅していると、怪我だらけの女の子が凱龍の前で倒れました。
他の人間達は最初は女の子を心配しましたが、すぐに興味をなくしていきました。
「・・・・・大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
女の子を意識がなく何もしゃべりません。
放っておけない凱龍は女の子を運んで魔法で治療をしました。
お腹が減っていたみたいなので食べ物や水を持って来て食べさせました。
「これで大丈夫だよ?」
「・・・・・ありがとう。」
女の子はリンという名前でした。
リンにはヨウと言う名前の弟がいましたが病気でずっと寝たきりです。
薬を買うにはお金がなく、作ろうとしても材料の薬草は高い山の上にしかありません。
リンとヨウを見捨てることのできない凱龍は覚悟を決めて元の姿に戻って薬草を採りに行きました。
凱龍が採ってきた薬草で作った薬でヨウは元気になりました。
「龍のお兄ちゃんありがとう!」
2人は凱龍を怖がりません。
不思議に思った凱龍が聞くと・・・・・・
「死んだ父さんと母さんが言ってました。龍は見た目が人間と違っていても仲良しになれるって!それにお兄ちゃんは怖くないしカッコいいです!」
ヨウの言葉がうれしかった凱龍は涙を流して喜びました。
3人はすぐに友達になり、凱龍は龍神様から貰った指輪を2人にあげました。
だけどその様子を悪い貴族の息子が隠れて見てました。
貴族は凱龍の持つ指輪がスゴイ宝物だと思い兵を率いて襲ってきました。
「ここにいたら危ない!一緒に逃げよう!」
凱龍は元の姿に戻り、背中に2人を乗せて遠くへ飛んでいきました。
貴族の親子は悔しがりましたが、その直後に家が竜巻に襲われてなくなってしまいました。
誰も気付かなかったのですが、空の上には雲に隠れて別の龍が全部を見ていました。
その龍の名は青龍、龍神様の友達で同じ神様でした。
罰が落ちた貴族は貧乏になり街からいなくなりました。
一方、凱龍達は西へと飛び続け、ある山の麓で休んでいました。
「お兄ちゃん、僕とお姉ちゃんも旅の仲間にしてください!」
「うん!一緒にいろんな世界を見に行こう!」
凱龍はヨウと熱い握手をしました。
すると、ほとんど無口だったリンも長い前髪を除けながら笑顔を見せました。
「―――――ありがとう凱龍、これからよろしくね!」(リン役:正則)
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客席は一瞬で凍り付いた。
(((正則――――――――――――――――!!??)))
国王一家は心の中で大絶叫した。
・劇の内容は本編のストーリーとも少し関係のある物語です。
・感想&評価お待ちしております。




