第119話 女装バカ
・凱龍王国編、思ったより長くなってきました。
後輩達の群れから脱出した勇吾と良則はどうにかロトや正則達と合流する事ができた。
合流後は一緒に昼食をとるために(学生が経営する)レストランに寄った。
「正則は何にするの?」
「龍王カレーセット!」
「どんなカレーだ?ロトは決めたのか?」
「ビーフランチセット!」
勇吾と良則も適当にランチセットを選んでいった。
今、勇吾達の座っている席には勇吾と良則以外には正則やロト、アリアとその友達が6人がいる。
正則やロト達の友達は同じ学校に通う同級生ばかりである。
全員が既に勇吾と良則とは何度も面識があるので、他の学生のようにはしゃぐ事はない。
2人にとっては安心して接する事のできる後輩でもあった。
「ランチセットお待ちどうさま~~~~♪」
そこに、メイドに女装したバカが注文した料理を持ってきた。
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
勇吾だけじゃなく、全員が沈黙した。
それを気にすることなく、バカはウィンクしながら料理の皿をテーブルに配っていく。
「・・・・・・おいバカ、どうやって脱獄した?」
「バッカだな~~~!俺には親友が一杯いるんだぜ~~~~?」
「神や龍王をくだらない事に召喚するな!と言うか、何でここにいる!?」
「後輩にヘルプ頼まれちゃった♪」
「おい!このバカ呼んだのは誰だ!?」
勇吾が大声で叫ぶと、ウェイターやウェイトレスになった学生達は猛ダッシュで逃げてった。
その後、バカはまたウィンクをしながら厨房へと戻っていった。
嫌な物を見てしまった勇吾は、さっさと忘れる事にした。
「そういえば、お前達も明日は劇に出演するんだったな?」
「うん!みんなで創作劇やるんだ!お兄ちゃんも来るよね?」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
食事をしながら雑談に華を咲かせていると、不意に遠方から魔力の波が流れてきた。
「「――――――――――!?」」
あからさまに敵意に籠った魔力に、勇吾達だけじゃなく、周囲の他の人々も反応した。
「・・・・今のは、龍族の魔力だな?」
「うん、それも結構強い龍が戦っている時に出す魔力の波動だよ。この方角は、藍晶湖の西側の町からだ!」
「あそこは確か、種族無制限の武闘大会が行われてたな?」
「今日はまだ予選だけがあるはずだけど、何だか荒れているみたいだね?」
良則はPSを展開して情報収集を始める。
すると、良則の読み通り、首都の北西部にある湖の東側にある町の闘技場で1人の龍族が大暴れしているという情報がSNSなどにあがっていた。
中にはリアルタイムで映像を流しているのもあり、良則はすぐにその映像を勇吾にも見せた。
「・・・・・・かなり盛り上がってるな。」
「まあ、僕達もだけど、この国の人って怖いもの知らずなところもあるからね。」
PSに映し出された映像の中では、碧色の東洋龍が大暴れし、観客がハイテンションで盛り上がっている光景が広がっていた。
「―――――――この龍、どこか見覚えがないか?」
「確か、歴史書とかに乗っている古龍に似ている気がするけど、僕の見た感じだと結構若いように見えるよ。」
「ああ、だが、コイツの戦い方・・・・・どこか違和感がある気がするんだよな?」
「うん、まるで手当たり次第に戦いたがっているみたいだよね。後でアルビオンか黒に相談してみる?」
「――――――黒はまだ里の方が忙しいようだから連絡がつかないかもしれないが、一応後で訊いてみるか。」
「・・・・黒お兄ちゃんならさっき見たよお兄ちゃん?」
「ロト?」
2人の会話を横で聞いていたロトは、ジュースを口にしながら話し続けた。
「お兄ちゃんに会う少し前に、知らない人と歩いている黒お兄ちゃんを見たよ。そうだよね?」
「うん!僕見たよ兄様!」
「知らない人って、どんな人だ?」
「黒くてカッコいい男の人だよ。」
「・・・・・・・・・家族か?」
ロト達の言葉を疑う訳ではないが、黒王がここに来ている事に勇吾は疑問を抱いていた。
昨日は竜江まで送ってもらった後、黒王はすぐに自分の故郷へと帰って行った。
その後は連絡をとることもなく、重体の従兄弟の事で忙しいのだろうと勝手に考えていたが、それは違っていたようである。
(まあ、黒にもプライベートもあるからそれはおかしくはないが・・・・・・)
ありえない事ではないと理解はするが、勇吾の勘はどこか違和感を感じていた。
それは良則も同じらしく、彼は視線で勇吾に「僕も同感」だと伝えていた。
「お兄ちゃん、デザートも注文していい?」
「あ、ああ、ちゃんと残さずに食べれるやつだけにしろよ?」
「は~い!」
考えていてもすぐに答えが出る訳でもないため、勇吾達は今は手元にあるランチを食べることにした。
途中、別の席からバカの声が聞こえたりもしたが、今は関わりたくもないと無視した。
-----------------
昼食を食べ終えた後、勇吾と良則は目的地が違うのでロト達と別れた。
ちなみに、ロト達はこの後南部の都市で行われる海中ミュージカルを観に行くらしい。
「―――――そう言えば、蒼空達もミュージカルに行くとか言ってたな?」
「うん、だからさっき連絡しておいたんだよ。向こうで見つけたら一緒にいてくれるって!」
「なら、安心だな。」
心配事が1つなくなり、2人は別の都市へ行くために転移装置を目指していた。
2人が行くのは文学都市『紅都』、竜江のある凱龍島の南東部にある紅龍島の中心部にある都市である。
「そう言えば、さっきの闘技場の話なんだけど・・・・。」
「何かあったのか?」
「うん、何だか大乱闘になって観客も大暴れになったみたい。」
「・・・・何やってるんだ、あの町は?」
「そこに、大会参加者として来ていた明兄が全員一撃で鎮圧して終わったってSNSに載ってた。大会の方も、少し予定が遅れたけど再開したみたい。」
「明則も来てたのか?」
勇吾は両目を丸くして驚いた。
明則とは良則の2番目の兄であり、“ある事情”から普段は国外にいる男である。
「うん、ギリギリ休暇が作れてから今日から最終日まではこっちにいられるみたいだよ?」
「つまり、王族全員勢揃いか。バカどもを含めて・・・・・。」
「・・・・・・うん。」
2人は揃って後ろを振り向く。
そこには、ワッショイワッショイと連行されるバカの姿があった。
また何かをしたらしい。
「・・・・行くか?」
「うん。」
一般人の中に溶け込みながら、2人は紅都へと移動した。
・同時連載の方も良ければ読んでみてください。




