第116話 四龍祭開幕
・今回から四龍祭が始まります。
2年に1度行われる凱龍王国最大イベントの1つ『四龍祭』、その開催日初日の朝は、国中の至る所で老若男女が入り乱れて移動する光景が広がっていった。
屋台を出している人達は開店時間に間に合わせる様に下拵えをしており、数時間後に控えた開祭式に向けて国中が慌ただしくなっている。
今日を含めて4日間、凱龍王国全体がひとつのテーマパークになり、国民も国外からの観光客も、種族も関係なく盛大に楽しむ祭がいよいよ始まろうとしていた。
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凱龍王国 竜江 凱王城前広場
行政区に立つ凱王城の前の広場には数万人の人々が集まり、まもなく開催宣言を行う国王の登場を今か今かと待ちわびていた。
広場を含め、王国内の全ての都市や町村の上空には巨大なPSがいくつも展開し、そこには中継用のカメラからリアルタイムで送られてくる映像や音声が流されていた。
「来たぞ!!」
「誰かが門から出てくるよ?」
「竜則様~~~~~~♡」
正面の城門がゆっくりと開き始め、人々の意識は一点に集中していった。
シューと門から白い舞台用スモークが噴き出し、その奥からひとつの人影が見えてくる。
主催者の登場に、広場に集まった(特に女性の)人達は歓声を上げ始めた。
そして、スモークの中から国王が現れ―――――――
「グッモーニ~~~ング!」
スモークの中から現れたのはバカだった。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
バカが現れた瞬間、凱龍王国全土の時間が凍結した。
完成は一瞬で消え、開催セレモニーの進行スタッフも石像のように硬直した。
ドドド・・・・・
「あ~~あ~~~、国王代理として、この俺、護龍丈が開催の宣言を・・・・・・・・」
ドドドドドドド・・・・・・・・
「――――ここに宣言・・・・・・」
「「「「―――――――するな!!!!!!!」」」」
ズドゴ――――――――ン!!!
門の向こうから竜則が、貴賓席から他の王族が、広場の端から勇吾達が、見えない炎を纏ってバカに集中砲火した。
首都上空には、前回と同様の花火が派手に打ち上がった。
その後、国民全員がさっきのを無かった事にした上で、今度こそ開催セレモニーが始まった。
『―――――――ここに、『四龍祭』の開催を宣言する!!』
竜則の声が国土全域に響き渡り、それに続く大歓声とともに四龍祭は開催された。
国中のあらゆる街の空を風船や紙吹雪が舞い、同時に雲の中からたくさんの龍達が咆哮を上げながら現れて王国の上空を誇らしく飛んでいった。
首都竜江を含めた国内各所の都市ではパレードが始まり、この日の為に準備を積み重ねてきた者達が盛大に祭の初日を盛り上げていき、この日の為に国外からやって来た観光客達も歓声を上げながら盛り上げていった。
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セレモニー終了後、集まった人々が散り散りになっていく中で勇吾達はPSに表示されたガイドマップを見ながらどこへ行くか相談していた。
なお、セレモニー終了後に彼らの元に竜則の使いがやってきて、昨日までの3日間におけるバカ関係の慰謝料をさらに追加して全員のカードに入金していったと知らせていった。金額にして1人500G、日本円だと5万円に相当する金額である。
そして問題のバカについては、警備に就いていた警官達に捕縛されて「ワッショイ!ワッショイ!」と嫌味を込めた声で何処かへと運ばれていった。
「ていうか、広すぎて何所から行けばいいのかわかんなくね?」
「まあ、転移装置があるから移動時間の心配はないけど、確かに広すぎるわよね?4日間で日本の観光地やテーマパーク全てを見て回れって言ってるようなものだし。」
「あ!僕、この娯楽都市の方に行ってみたいです!」
「私はこっちの芸能都市!女優体験ができるって、載ってる!」
「ええ!ホント!?私も行く!」
「私も!」
「紫織も旦那と一緒に行こう!」
「だからそれはやめて!!」
「あれ、ここってヨッシーの姉ちゃんが出るイベントじゃん!」
「あ、ホントだ!」
みんな各々に行きたい場所の名前を上げていく。
昨日までの3日間で慎哉達日本人組もこの世界――――というよりはこの国の交通機関などの利用法は粗方理解したので、今日からの4日間は勇吾達の案内抜きでの自由行動となっている。
しかし、王国全土が祭の会場となっている四龍祭では最初に何所に行くかで迷ってしまうのが初心者のハマりやすい落とし穴なのである。
「迷っているなら音声検索で興味のあるブースとかを調べるといいぞ。自動でイベントスケジュールと照らし合わせて最善のルートを表示してくれる。」
「あ、ホントだ!」
「見て!11時から最新コスメの限定大バーゲンがあるわよ!!」
「あ、PSで整理券とか入手できるイベントもあるから確かめた方がいいわよ?ちなみに、そこには私も行くけど一緒に行く?」
「行く行く!!」
「――――移動開始!」
女子組はさっそくルートを決定して出発していった。
その後、慎哉はトレンツと一緒にゲームの即売会が行われる都市へと向かい、琥太郎と晴翔は教育・研究区で行われている学生達のイベントブースへと向かって行った。
「兄ちゃん!僕、海中ミュージカルに行ってみたい!!」
「ここは午後からのようだな?近くにテーマパークもあるし、そこから行くか?」
「うん!」
蒼空も弟と一緒に別の都市へと向かって行った。
次々と一同が散っていく中、勇吾と良則だけは未だにその場から動いていなかった。
「そう言えば良則、お前は正則と一緒じゃないのか?」
「うん、今日は友達や下の従兄弟達と一緒に遊ぶって言ってたから、多分・・・・」
「ロト達も一緒か、あいつこういうイベントは初めてのはずだから迷子になるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だと思うよ?でも、好奇心旺盛な年頃だから無駄遣いしないかは心配だけどね。」
「あ~~~、確かにそれは言えてるな。昨日の前夜祭も、持ち切れないほどの飯や菓子を買ってたからな、今日も食べきれないほど買ってるかもしれないな。昼にでも様子を見に行くか?」
勇吾はPSを展開して我が家のヤンチャ坊主の現在位置を確認する。
どうやら、今はまだ首都の大通りのパレードを見ているらしく、道路に沿って移動しているのが分かった。
「そうだね、初日は竜兄達も多忙で駆けつけられそうにないし、時間を見つけたら見に行った方がいいよね。そう言えば、勇吾はこれから何所に行くの?」
「午後は文学都市や歴史都市に行く予定だが、午前は特にないな?まあ、適当にイベントを覗いていくさ。」
「だったら、一緒に行かない?」
「・・・・・・俺は1人で行きたいんだが?」
良則の誘いに、勇吾は複雑そうな表情で答える。
何時もの事ではあるが、勇吾は良則が苦手であり、出来ることなら一緒にいることは避けたいとも思っている。
矛盾するかもしれないが、2人は互いに友人や仲間と思っている。
それでも、どうしても一緒にいるのが苦手な相手と言うのは存在するものである。
「――――それに、前に言ってた“あの夢”に関して分かりそうな人がいるんだよ。」
「何だと?」
「その人、四龍祭の開催期間中にだけ、数時間おきに主要都市で店を開いているみたいなんだ。今日は午前中だけ竜江にいるから、一緒に行かない?」
「・・・・・・そうだな。問題は先に解決させておいた方がいいか。」
「場所は下町だから、今いけばすぐに会えるよ。すぐに行く?」
「ああ、案内してくれ。」
祭の場には似合わない真剣な顔をしながら、勇吾は良則と一緒に下町へと向かって行った。
ちなみに、彼らが広場を去った後、広場の一角ではちょっとした騒ぎが起きていた。
「あ、元龍王がいる!」
「先代だ―――――!」
地元の子供達は、教科書の写真などで見た事のある有名人がいることに気付いて指を指しながら騒ぎ出していた。
そして、その指先にいる人物はと言うと、忍ぶ気など全くない格好で可愛い孫達との親交を深めようとしていた。
「ゲッ!祖父さん達、何でここにいるんだよ!?」
「兄さん、この人だれ?」
「・・・・・・・・・・・」
「おお!この子達がお前の弟妹達か――――――!!」
孫成分に飢えた先代飛龍王ヴォルゲル、彼も(ほぼ強制的に)孫達と一緒に祭を楽しんで行くのだが、宮殿に置いてけ堀にしてきた家族達に後で地獄を見せられるのだが、それはまた別の話である。
・元龍王まで祭に参加してきました。
・とりあえず暢気な日常的な話になっていきそうです。最近は主人公の出番が減ってきたので、勇吾視点中心に話は進みます。




