第115話 前夜祭
凱龍王国 竜江-商業・観光区-
その日の夜は明日の四龍祭を待ち切れない人達による前夜祭が開催されていた。
前夜祭と言っても実際は本祭と言っても差し支えないほどの大規模なものだった。
首都の至る所で露店が開かれており、イルミネーションも夜の街を明るく彩っていた。
「―――――――――――で、何でこうなった?」
屋台村の一角、屋外に設置されたテーブル席の座っていた瑛介は目の前で串焼きを食べる弟妹の姿を見つめながら一気に疲れたかのように項垂れながら呟いていた。
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時間は数時間前までに遡る。
飛龍の都から真っ直ぐ竜江に帰ってきた勇吾達はホテルの瑛介の部屋の扉を開けて中に入ろうとした。
「おかえり~~~~~~~♪」
「良則、剛則を呼んで逮捕させろ。」
「うん!」
中にいたバカを見た瞬間、手際よく通報を済ませた勇吾達は中に入って顔面を蹴り飛ばした。
ズゴッ!!
「痛~~~~~~~~!!」
「今度は何をした、バカ?」
「・・・・自首扱いにするから自白した方がいいよ?」
「おい、ここは俺の部屋だよな?」
目を引き攣りながら部屋の中を歩いていると、瑛介はベランダの方から見覚えのある背中の姿が複数ある事に気付く。
「・・・・・・・・え?」
まさか、と思いながら近づくと、瑛介が近づくのに気付いたその人影達は振り向いて顔を見せた。
「あ!兄さんだ!!」
「―――――風真!?」
「お兄ちゃんだ!」
「兄貴!」
「兄さん!」
「悠月!凌玖斗!南斗星!何でお前らが・・・・・・!?」
そこにいたのは日本にいるはずの瑛介の弟妹達だった。
勇吾もそれに気付くと、バカの胸倉を掴んで詰問していった。
「おいバカ、何で瑛介の家族がここにいるんだ!?」
「連れてきちゃった!てへ☆」
「(――――――――――――ブチッ!!)」
その日の午後、竜江にいた人々は高級ホテル街から花火にも似た爆発音を聞いたが、何時もの事すぎたので大して気にかける者はいなかった。
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そして現在に至る。
あの後バカは御用になったが、厳重注意で早々に釈放された。
本来なら緊急でもないのに一般人を異世界に連れてくるのは思いっきり違法行為だが、この国の国民の子供だったと言うことでギリギリ法律には引っかからず、その場に居合わせた剛則は部下と一緒に舌打ちをしたのだった。
「―――――――で、母さんは何て言ってたんだ?」
疲れたような声で、瑛介は串焼きと一緒に焼飯に似た物を食べる|上の弟(凌玖斗)に話しかけた。
「――――ん、仕事が残っているから俺達だけで楽しんできなさいってさ!」
(――――あのバカに簡単に凌玖斗達を預けたってことは、やっぱ母さんは全部知っていたってことなのか?)
「兄さん、あれも食べたい!」
「私はあれ!!」
見た事の無いグルメばかりが売られる屋台に目を輝かせっぱなしの弟妹達に、カードの残金を確認して「しょうがないな。」と呟きながら屋台に駈け出していく弟妹の後を追って行った。
「―――――あっちに行ったぞ!」
「ハハハ、私を捕まえてみたまえ明智君?」
「誰が明智小五郎だ、バカ!!」
人混みの間から聞きたくない声が聞こえたが、今日は思い出すのも嫌なので聞かなかったことにした。
その後、瑛介も幾つかの屋台を巡りながら珍しい食べ物を買って弟妹達と一緒に食べていった。
瑛介達のいる屋台村は日本で言うB級グルメを中心に扱っている屋台村で、普段は地方に直接行かないと食べられない珍しいグルメばかりが売られている。
中には口に出せない材料が使われていたが、客の多くは知らないのか、知ってて気にしてないのか全く口に出さず楽しそうに食べていた。
「兄さん、これ何の肉?」
「・・・・・さあな?」
瑛介もそれに倣い、弟に訊かれても決して答えはしなかった。
食べ始めてから1時間近く経ち、瑛介の弟妹達は今度はデザート系に手を出し始めていた。
普段から節約などで買い食いなど年に数えるほどしかした事の無い彼らは、普段から我慢している分も含めて食べており、瑛介もここにいる間ぐらいは楽しませてやりたいと財布の紐を少し緩めていた。
「―――――――そっちも楽しんでいるようだな?」
「―――――蒼空か?」
弟妹達が屋台で買う物を選んでいるのを待っていると、後ろから蒼空が声をかけてきた。
龍星と一緒に屋台を巡っていた蒼空の手には近くの屋台で売っているアイスが握られており、彼も食べ歩きを楽しんでいるようだ。
「勇吾から聞いたが、またあのバカが何かやったらしいな?」
「・・・・・ああ。」
「気を付けろ。俺の経験から言えば、旅行後、家や学校が勝手に改造されている可能性がかなりある。お前の自室や教室の床に隠し通路ができていて、突然容赦なく奴が現れたりすると思った方がいい。」
「・・・・・・・・・」
「―――――奴の祖父も、気まぐれに俺の隣で夕食を食ったりしていたからな。孫の奴もきっと・・・・・・」
「それ以上言わないでくれ・・・・・・・」
既に何度も被害に遭っているため、蒼空が言っていることが嫌でも予想できる瑛介は頭を抱えながらどうすればいいか悩んでいた。
「――――まあ、それについては王家にでも相談すれば全面的に協力してくれるだろう。それより、お前に渡したい物がある。」
「渡したい物?」
蒼空は何も持っていない方の手を腰に付けているポーチに入れると、そこから銀色のブレスレットを5個取り出して瑛介に渡した。
本物の銀でできているように見えるブレスレットには小さい文字で何かが刻み込まれていたが、日本語でも英語でもなかったので瑛介には読めなかった。
「何だこれ?」
「今日行ってきた歴史都市で買った土産用のブレスレットを俺が改造したものだ。効果はどれも同じで、身に着けていても魔力を使えない一般人には視認されないようになっている。それを腕にはめておけば、お前達に流れている“龍王の血”を抑制する事ができる。」
「な―――――――!」
「それをずっと付けておけば、お前やお前の弟妹達の体も次第に血と順応していくから今まで通りに暮らす事ができし、選択する猶予期間も大分延ばすことができる。今のお前には必要だろ。」
「蒼空、お前・・・・・・・」
「昨夜の詫びだ。お前だけの問題でもないのに、不用意に不安にさせることを言ってすまなかった。」
蒼空は軽く頭を下げながら謝罪した。
渡されたブレスレットの1つを試しに腕にはめてみると、確かに自分の中に流れる血や魔力が今より安定するような感覚がした。
「―――――俺はもう気にしてないけど、貰っていいのか?」
「少なくとも、まだ何も知らないお前の弟妹には必要な物だろう?」
「・・・・そうだな。じゃあ、貰っておく、ありがとな!」
「礼はいい。それより、早く弟妹達の所に行った方がいいぞ。さっきからあのバカの気配が不自然に消えているから、変な事を吹き込まれるかもしれないぞ?」
「―――――な!?わかった、じゃあまた明日な!!」
物凄く嫌な予感が走り、瑛介はすぐさま弟妹達の元へと走っていった。
残された蒼空は彼の命運を祈りつつ、龍星と一緒に安全地帯へと避難していった。
「――――――――ん?」
「どうしたの兄ちゃん?」
「・・・・・いや、何でもない。」
屋台村を出ようとした瞬間、すぐ横を“何か”が通過する気配を感じた蒼空だったが、悪意を感じなかったのでこの場は無視することにした。
(さっきのは龍族、それも・・・・・後で良則にでも知らせておくか。)
無視はしたが、直感が何かを訴えていたのが気にかかった蒼空は、ホテルに戻った後にこの事を良則を通じて国に伝えたのだった。
賑やかな前夜祭は日付が変わる時刻まで続いていった。
そして日付が変わると同時に、王国の国境線を4つの巨大な“何か”が外から越えた。
それらは本島に近づくと一瞬で姿を消し、辺りは最初から何もいなかったかのように静まり返ったのだった。
・3日目終了、次回から四龍祭が始まります。
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