第114話 龍化
飛龍の都 郊外の森
宮殿を出た4人は都市の周囲を囲む外壁の外側にある森林地帯に来ていた。
森林地帯と言っても森の中ではなく、森の中にポツンと空いた円形状の広場の中心に4人は立っていた。
「この辺りなら大丈夫だろう。」
「驚いたな、都の郊外にこんな場所があったのか?」
勇吾は足元を軽く蹴りながらムートに向かって話しかけていた。
周囲を見渡せば正確な円形状を作っているのが一目で分かり、この場所が自然にできた場所ではないのは一目瞭然だった。
さらに地面を足で蹴ってみると普通の土より硬めであり、何度も圧力を加えて固めてあるかのようだった。
「ここは元々俺達兄弟が小さい頃に修行場として造った場所だが、今は街の子供達の遊び場の1つとなっている。ここなら万が一の事が起きても周囲に被害者が出る心配はない。」
「なるほどな、それで少し地面が窪んでいるのか。」
「それじゃ、さっそくやってみるか!」
瑛介は勇吾達から10mほど離れ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると意を決して能力を発動させた。
「――――――――《龍化》!」
声に出して《龍化》を発動させると、瑛介の全身が光に包まれ、同時に周囲に突風が吹き荒れて土や草が舞い、勇吾達の視界を奪って行った。
数秒ほど経って突風が止むと、そこには黒い鱗と赤い瞳を持った飛龍の姿があった。
『・・・・うまくいっ・・・・うおっ!?』
「やはり父親似のようだ。」
「うわあ、写真で見た飛龍王にそっくりだよ!」
「そうだな。」
龍化した瑛介の姿を前に、ムートは若かりし頃の兄の姿を重ね、勇吾と良則はどことなく感じる王にも似たの風格に目を奪われていた。
本人の方は、自分の姿が変わったことと、まるで最初からその姿をしていたかのような違和感を感じないことに戸惑っていた。
『・・・何だか、始めっから知っていたような感じだな?』
両手の代わりのついている翼や尻尾などを動かしながら、瑛介は率直な感想を述べた。
それを聞いたムートは数歩前に出ると突風とともに龍の姿に戻った。
『瑛介、早速飛んでみるか?』
『自分で言いだしておいてなんだけど、いきなり飛べるのか?』
『それなら問題ない。教えてもらわなくても血が飛び方を知っている。本能に任せて飛んでみろ!』
そう言うと、ムートは両翼を羽ばたかせて飛び上がった。
そして上空を旋回しながら瑛介が飛ぶのを待っていた。
『本能のままに・・・・か。こうか?』
余計なことは考えず、自分に流れる血に身を委ねて両翼を羽ばたかせる。
周囲に風を巻き起こしながら瑛介の体は少しずつ宙に浮き上がり、次第に飛び方を理解し始めると一気に上空へと上昇した。
『おお!凄い眺めだな!?』
『言ったとおり飛べただろ?』
『凄いな!何か、思い通りに飛べそうな気がするぜ!』
瑛介は少し興奮しながら森の上空を思うがままに飛んでみた。
旋回はもちろんのこと、急降下や急上昇も初めから知っていたかのようにできていた。
その様子を見ていたムートは、また瑛介が兄の姿に重なって見えていた。
(兄上・・・・・瑛介は本当に兄上に似てるよ。飛び方もそっくりだ。)
『ハハハ、スッゲェ気持ちいい――――――♪』
瑛介はすっかり空を飛ぶことに夢中になっていて、昨日の昼までの自分とは比較にならないほどの漲る力をもっと空を飛び回ることで発散したくなっていた。
飛龍氏族は龍族の中でも空を飛ぶことを好む傾向が特に強く、風と一体になって飛ぶことは彼らにとって誇るべきことなのである。
『楽しんでいるようだな。』
『黒王!』
甥が楽しそうに飛んでいる姿を見守っていたムートの横から、不意に黒王の声が聞こえて視線を横に向けると、そこにはいつの間にか勇吾と良則を背中に乗せた黒王がいた。
『隙だらけだな。声をかけるまで俺の気配に気付かないとは、王の近衛としては随分緩んでいるな?』
『・・・・・お恥ずかしい限りです。私もまだまだ未熟者のようです。』
『タメ口でかまわない。俺は敬語で話すほどの者ではない。』
『しかし、黒王殿は―――――――』
『黒王でいい。血筋だけで敬語を使い分けていたらキリがない。お前達の氏族は人間と積極的に関わっていたせいか、権力や身分に対する意識も無駄に人間に近い傾向があるのが玉に疵だ。先日のヴァルトの一件も、原因はその辺りにあるらしいと聞いたが?』
『・・・・・・確かにその通りですね。我々氏族は僅かとはいえ他氏族と比べて短命なせいか生き急ぐものが多く、その反動で価値観なども人間に近づいてしまうようです。私達のような200年以上生きている者と違い、今の若者達にはそれが不満になっていたのでしょう。ヴァルトもまた、不器用なりに龍族らしい生き方を模索していたのだけかもしれません。』
『――――――アレは単に血の気が多いだけかもしれないがな。度胸試しの類な気がする』
『・・・・・・ああ、確かにありえますね。』
ムートは視線を横に逸らしながら苦笑した。
後に判明する事だが、ヴァルトの一件は都に暮らす一部の血の気の多い若者達が「何人の龍王に喧嘩を挑んで生き残れるか」と言うチキンレースみたいな遊びをしていたらしく、ヴァルトとは別の若い龍が他里の王に襲い掛かったところで即お縄にかかって判明することになる。
黒王の勘は見事に的中していたのだった。
「ねえ黒、黒がここにいるってことは会合は終わったの?」
『ああ、後日今日来れなかった者達も集めた上で再度会合を行う事になった。予想以上に深刻な事態である以上、今回だけで全てを決めることはできないからな。』
「アルビオンは一緒じゃないんだ?」
『・・・・アルビオンは急な面会の用ができて遅れるそうだ。先に帰ってもいいそうだが、どうする?』
「そうだな、もうすぐ昼だし、昼食を済ませてから帰るとするか。まあ、その前にさっきから暴走寸前になっているアイツをどうにかしないとな。」
勇吾が指差した先には、調子に乗ってスピードを加速させて飛行する瑛介の姿だった。
黒王やムートの話では短時間であそこまで自在に飛ぶ事ができるのは龍族の中でもそんなにいないらしく、瑛介の潜在能力の高さを思い知らされた。
その後、だんだん暴走族みたいになりかけてきたところで止めに入り街に戻って昼食をとることになった。
ムートは是非宮殿でと誘ったが、瑛介が凄く抵抗したので街の(結構高い)レストランで食事となった。
龍族のレストランと言う事もあり、肉料理が豊富にあったが、以外にも野菜料理も豊富にメニューに載っていた。
どうやら龍族の間でも最近は健康ブームらしく、地元や近隣の街で収穫された野菜を利用した料理が増加傾向にあるらしい。
勇吾達も特製サラダやスープなども食べていったが、それ以上に肉料理も食べていった。
特にさっきまで空を飛んできたばかりの瑛介は普段以上に食べまくり、何かのステーキもペロリと軽く500g以上平らげていった。
食後は少しだけ休憩した後、丁度アルビオンが合流してきたところで帰る事となった。
出発の際、ヴォルゲルを始めとする瑛介の親族一同がしつこく引き止めに入ったが、そこは龍皇の威光で黙らせてどうにか飛龍の都を後にすることができたのだった。
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凱龍王国 竜江-港湾区-
勇吾達が飛龍の都を出発した頃、首都竜江の港湾区の一角ではちょっとした騒動が起きていた。
「―――――――遅いな?」
「グハッ!?」
「うわぁ!!」
倉庫街の裏側、先日慎哉達が迷子の捜索を行った場所からそんなに離れてない場所で数人の若者達が1人の少年に素手で倒されていた。
地面に転がされた数人の若者達、彼らは地元の貿易会社に勤める腕の立つ社員達だった。
彼らは全員冒険者でもあり、その戦闘力は正規軍にも劣らないかなり優秀な面々でもあったのだが、その彼らは1人の少年を前に呆気なく全滅していた。
「これで終わりか。凱龍王の因子を受け継いでいても所詮はこの程度、俺を満足させるほどの実力は持ち合わせてはいなかったな。」
不満気な表情で呟く少年、碧髪金眼の少年は昨日から港湾区を中心に強者を探し求めていた。
少年とは言ったがそれはあくまで外見だけであり、実際は彼の目の前で倒れている若者達よりも年上であった。
「明日からは四龍祭か、少しは俺を満足させる猛者が現れればいいんだけどな。まあ、狙うとすれば王族かその眷属あたりと言ったところか・・・・・・。」
あまり期待を抱いていないような口調で独り言を呟きながら、少年はその場から離れていった。
その後、気絶していた若者達は1分後に《探知魔法》を使いながら巡回していた警官達に発見されて病院へと搬送されていった。
警察はすぐに暴行事件として捜査を開始するが、現場は巧妙に痕跡を消されていた為に捜査は難航し、被害者達の記憶に残っている少年の顔を元に情報を集めるが、少年は住民達の意識に入らない様に行動していた為に目撃者はほとんど現れる事はなかった。
勇吾達が慎哉達と共に入国して3日目、凱龍王国最大の祭の1つである四龍祭を前日に控えた日の午後に起きた事件だった。
・少年の正体は!?
・次回で3日目も終了します。




