第111話 歴史都市
凱龍王国 歴史都市『千紋州』
瑛介が父親の家族と対面し、勇吾が黒王と再会していた頃、他のメンバー達は首都竜江から南西700kmにある歴史都市、『千紋州』に来ていた。
ここは例えるなら凱龍王国版の京都であり、古き時代の王国の姿を残した歴史情緒あふれる都市である。
街には国内外から訪れる多くの観光客で溢れ、現代とは異なる建築様式で造られた都市を堪能している。
「―――――――で、この年は300年前までは“第2の首都”とも呼ばれていたんだ。理由はいくつもあるけど、一番の理由はゲートの存在だな。千紋州は元々千門州、千の門がある州という意味でついた地名で、ここには昔、異世界に通じている門が千以上あったんだ。」
「多っ!?」
「多すぎだろ?」
「そう思うだろ?だから昔は門を間違えて迷子になる奴が多かったらしいぜ?」
「バカじゃないのか?」
トレンツのガイドに、ツッコみの嵐はしばらく続いた。
本来なら勇吾か良則がガイドをする予定だったが、2人ともいないので代わりにトレンツがガイド役をやっているのである。
「で、さすがに問題が増えてきたことと、異世界への新しい移動法ができたとかで時空の整備工事が行われて門の数も今じゃ8まで減ったって訳だ。」
「その門って、どこにあるの?」
「外周部に4つ、中心部に建つ旧千紋城の敷地内に残りの4つがあるぜ!」
トレンツは都市の外周を指差しながら説明を続けていく。
千紋州にあった“門”は元々、この土地の様々な要因が重なって発生した自然の産物である。
今でこそ同じ入口から様々な異世界へと移動できるのが普通となっているが、数百年前の時代において時空移動は一部の稀少能力者を頼るか、自然発生した“門”を利用するのが一般的だった。
自然発生した“門”は例えるなら山に隔たれた2つの街を繋ぐ天然のトンネルのようなものであり、1つの“門”から行く事のできる世界は1つだけ、つまり当時は千以上の異世界とこの都市は繋がっていたのである。
ただし、この“門”には重大な欠点もあった。
1つは出口の問題であり、毎回同じ入口から入ったとしても、同じ場所に出るとは限られないと言う事、つまり、地球に通じる“門”を通っても出口の先は日本だったりヨーロッパだったりする訳である。
そして2つ目は、異世界を結ぶトンネルである以上、異世界側にも千紋州に通じる“門”の出入り口があり、向こう側からそれと知らずにこちら側に異世界人が来てしまう事が多いことである。
「―――――いわゆる『神隠し』ってやつだな!地球でも世界中で突然原因も分からず人が消えてしまうことってあるだろ?あれって、一部は地球側に開いた“門”に誤って入ってしまったのが原因だったりするんだよな。」
「あ~~、あるわねそう言う話!」
「僕もお祖母ちゃんに昔話で聞かせて貰った事があるよ。」
「まあ、特に日本や中国といった東アジアに特に多くてな、歴史的人物とかも迷い込んだりすることもあったんだぜ?」
「例えば?」
唯花が訊くと、トレンツは「そうだな~~~?」と5秒ほど考えた後に、日本人の大半が知る人物の名前を挙げていった。
「―――――――源義経とか・・・・」
「マジで!?」
「「ええええええ!?」」
「牛若丸!?」
「そうそう!800年くらい前だったかな?東北地方にあった“門”に落っこちてここに来たらしいんだよ。発見された時重傷だったらしくてさ、療養した後に日本に帰したんだけど、何か出口を間違っちまったらしくて今のモンゴルに出ちゃったみたいなんだよ?」
「それって・・・・・・・」
「源義経がチンギス=ハン説・・・・・・・?」
日本の歴史ミステリーの1つの真相が明かされ、日本人一同は一部を除いてポカンとしていた。
だが、衝撃のカミングアウトはまだ続く。
「え~と、後は織田信長とか?」
「信長もかよ!?」
「ていうか、暗殺されてなかったのか!?」
「いや、マジで殺されかけたらしいぜ?こっちの記録だと、逃げる途中で本能寺の地下に隠された“門”に飛び込んでこっちに来た挙句、何か気に入ったとかで一緒に来た家臣と一緒に永住しちゃったみたいだぜ?」
「―――――そう言えば、信長の遺体って発見されてないってテレビでやってたな?」
「うん、実は生き延びたっていう説もたくさんあるしね。けど、異世界に来てたなんて・・・・・・」
「・・・・誰も想像できないよな?」
その後も「実は生きてた!」という、地球の歴史上の人物達の名前がトレンツの口から挙げられていったが、あまりに有名すぎる人物であったため、ほとんどがドン引きしたのだった。
なお、この国の各所に日本建築がよく見られるのもまた、こういった事故で日本から来た人達がそのまま永住するなどした影響である。
最も、事故以外で移住してきた者達が多いのだが、それはまた別の話である。
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トレンツのガイドで一時間ほど街を巡った後、彼らは何組かに分かれて名所巡りやグルメ巡りをしていた。
そんな中、蒼空は大通りの一角にある土産物店に来ていた。
「・・・・・名匠作、“バカ除け人形”。あのバカ、いったいこの街で何をしでかしたんだ?」
見てはいけないこの国の黒歴史を垣間見ながら、蒼空は龍星と一緒にお土産を選んでいた。
最も、家族には友達と田舎に旅行に行くとしか言いていないのであまり目立つような土産物は買えないのだが、それでも普段目にする事の無い珍しい品物を見るだけでも十分に楽しめていた。
「兄ちゃん、蓮兄ちゃんのお土産何がいいかな?」
「――――――湯呑でいいだろ。」
その辺にあった原産地不明の土産物を適当に選んでカゴに入れる。
その後もストラップなど、無難な土産物を選んでいくと、商品棚のひとつに一風変わった商品が置いてあるのを見つける。それは一見すれば色付きガラスの置物に見えたが、よく見ればボーリング玉サイズの原石を削って作られたと思われる、エメラルドでできた彫刻だった。
「これは・・・・・・・?」
エメラルドでできたという事よりも、そのデザインが気にかかった蒼空は近づいて凝視してみる。
それは、碧の龍が“誰か”と戦う姿を現した彫刻だった。
「――――――まさか、『碧羅の龍王』・・・・・・・!?」
「おや?お客さん、分かるのかい?」
蒼空が目を丸くして彫刻を見ていると、横から店主の男が声をかけていた。
見た目は60を過ぎた辺りに見えるが、実際はその数倍は生きているような洗練された気を纏っている。それなりに腕の立つ者なら、店主がかなりの猛者であると一目で気付くだろう。
「見ただけで『碧羅』と分かるなんて、若い者にしては・・・・・・・・いや、お客さんは違うね?」
「・・・・店主、この彫刻は何時からここに置いてあるんだ?何故、あの龍王達の姿を正確に模した彫刻が存在するんだ?」
「・・・・・お客さん、会計はあちらですよ?」
「・・・・・・・・。」
タダでは話さない、と目で言ってくる店主の意を察した蒼空はレジに向かって会計を済ませる。
会計を済ませると、店舗の裏戸の方へ案内される。
そこは普通の裏庭だったが、敷地の境界にかなり精巧に隠した結界が張られていた場所だった。
「・・・さて、お茶でも飲みながら話しましょうか?」
「店主、人間の気配を纏っているが―――――――」
「・・・・察しの通り、私は龍族ですよ。人里が好きで、もう100年以上もこの町に住んでいる変わり種のしがない龍ですよ。」
「そうか、ならもう一度訊く。店主、何故この店にあの彫刻があるんだ?あのモチーフになっている龍、あれは七十年以上も前に―――――――――――――」
「七十年以上前、当時の契約者とは別の場所で『創世の蛇』に消された龍王のはずですな。今ではその姿を覚えている人間はほとんどいない、伝説の龍王、それが『碧羅の龍王』ですな。しかし、私のような年寄りが昔を思い出して作ったのかもしれませんよ?」
店主は笑いながら答えるが、蒼空にはその眼が全く笑っていない事をすぐに見破っていた。
「それはありえない。思い出して彫ったのなら、別の姿をした彫刻になっているはずだ。あんな、最後の戦いを正確に彫った物などには決してならない!」
「・・・・・なるほど、お客さんは転生者、それも前世はあの組織の人間でしたね?」
直後、店主の目つきが変わり、獲物に狙いを定める獣のような気迫が裏庭全体に放たれた。
並の人間だったら一瞬で失神していただろう気迫だったが、蒼空は全く動じることなく店主と対峙する。
すると、店主の姿は老人のものからアラフォー位にまで若返っていった。
おそらく、これが店主の本来の姿なのだろう。
「・・・・・そうか、店主はあの龍王の―――――――」
「―――――――それ以上は言うな。先に私の質問に答えてもらうぞ!」
「―――――いいのか?今日は神龍も集まるんじゃなかったのか?」
あからさまに蒼空に敵意を向ける店主だが、蒼空は全く動じることなくむしろ落ち着きを取り戻していた。
「―――――ペリクリスだ。」
「!」
「ペリクリス=サルマント、それが『碧羅』を殺した男の名だ。直接会った事はないが、俺の知る『真なる眷属』の1人だ。別名、『神話狩り』と言えば分るか?」
「なっ――――――――――!?」
(“奴”のことは知らない・・・・・・なるほど、どうやら直接見ていたのではなく、《念話》系の方法で断片的に見ていたといったところだな。)
蒼空は自分の中にある龍族に関する知識と照らし合わせながら状況を推理していった。
蒼空の知識によれば、龍族の中には時折そろって強大な潜在能力を持つ兄弟が生まれる時がある。その兄弟は精神の一部がテレパシーの一種で深く繋がっており、その強弱には差があるが、片方が死なない限りは五感や知識などを共有し合ったりする。
十中八九、目の前で唖然としている店主もまたそれにあたるのだろう。おそらくは、その光景を断片的ではあるがリアルタイムで見ていたのだろう。だが、断片的であるために“敵”の正体までに知る事が出来なかった、というところだろうと蒼空は推測していた。
「さらに言えば、今日の龍族達の会合の議題である『天嵐』を襲ったのも奴の可能性がある。」
「―――――――!!何だと!?」
「行かなくてもいいのか店主、いや、『碧落』の神龍?」
「――――――――――。」
店主はしばらく蒼空を睨み続けたが、熟考の末に「怒鳴ってすまなかった。」と謝罪を言って店舗の方へと戻っていき、早々に店じまいの準備に取り掛かり始めていった。
残された蒼空はその場にあったベンチに腰を落とし、弟の買い物が終わるまでの僅かな時間の間だけ過去の記憶を思い返していった。
(まさま、ここに来て奴の名を思い出す事になるとはな・・・・・・・。十中八九とは言ったが、龍王を何人も殺そうとするのはペリクリスぐらいだろう。)
蒼空は前世でその男に直接会った事はない。
だが、組織にいる以上はその異常な噂は嫌でも耳に入っていた。
(――――――龍王殺し・・・・・・・龍族全てを敵に回す以上、何かしらの計画が裏で動いているのは確実だな。ここにきてそれが発覚したのは組織にとって想定内か、それとも想定外なのか・・・・・・どちらにしろ、碌でもない事しか考えられないな。)
フウ、と息を吐きながら、蒼空は自分と組織との縁が未だに根深いものだと改めて理解するのだった。
四方を山に囲まれたこの街の夏風は日本よりも心地よく涼しく、蒼空は弟が自分を呼ぶ声が聞こえるまでの間、異国の庭で風に当てられ続けていったのだった。




