第106話 解かれる封印
――瑛介サイド――
「は?何を・・・言ってるんだ・・・・・?」
「聞こえてただろう。お前の父親は俺や黒王と同じ神龍、それもヴァルトと同じ氏族だ。」
「あいつと・・・・!?」
何を言ってるんだ・・・?
父さんが神龍?
つまり父さんは人間じゃなくて龍族ってことなのか?
しかもあの不良ドラゴンと同族!?
「信じられないのは無理もない。俺も奴から聞いた直後はすぐには信じられなかったが、良則が《神眼》でお前の体に《神龍術》による“封”があるのを確認している。《神龍術》が使えるのは龍神に選ばれた一部の龍族、神龍クラスの者だけだ。」
「そんな・・・それだけで父さんが神龍だって言うのかよ!?他の誰かが俺に“封”ってやつをかけたかもしれないだろ!?」
「それはありえない話だ。お前が生まれた年から最近までで日本に出入りした神龍は黒王だけだ。だが、黒王がお前に接触したのは先月が始めて、そして良則の見立てだと、お前にかけられた“封”は生まれた直後にかけられたものだ。そしてお前の母親が人間である事も確認済み。他にも根拠はあるが、結論としてお前の父親が神龍の1人である事はまぎれもない事実だ。」
「・・・・・・・・・。」
訳が分からない。
父さんが龍族、それも神龍・・・・・・・!?
じゃあ、俺は・・・・俺達兄弟は・・・・・・。
「でも、俺のステータスには人間て書いてあっただろ!?」
「《ステータス》も絶対ではないし、お前にかけられた“封”もそれらの情報を改竄するためのものである可能性が高い。それに、片親が龍族でも生まれてくる子供が人間であるケースは少なくはない。」
どういうことだ?
俺が困惑するのを察したのか、勇吾が続きを話してくれた。
「この前のチャットで俺が言った事を覚えているか?この国の始祖王である凱龍王の妻も人間だったが、生まれてきた子供は人間だったと。」
「――――――あ!」
「混血に関しては様々なケースがあるが、人間のお前の父親が龍族でもおかしな事じゃないんだ。」
「・・・・そうか。」
どうやらこれ以上は反論できそうにもない。
落ち着いて考えてみればそれで辻褄が合う点も多々ある。
父さんの親族が見つからないのも、身元が分からないのも、何も話してくれなかったことも納得がいく。
龍族なんだからどんなに警察が調べても身元がわかる訳もないし、父さん自身も話す訳がない。
どうして息子の俺にも話さなかったのかまではわからないが・・・・。
「――――――――納得したようだな。」
「―――――――――――(コクリ)」
俺は頷いて答えた。
「じゃあ、話を進めるぞ。アルビオン!」
「―――――これからお前にかけられている“封”を解除する。」
「!?」
「始めるぞ。」
「ちょっ・・・・・!」
ちょっと待て!いきなりかよ!?
って、聞いてねえ!!
「そのまま動くな。《秘封解錠》!」
「あっ―――――――!!」
アルビオンの右手から放たれた魔力が俺の体に入り、同時に俺の中で何かが弾けた。
―――――――――――――時が来てしまったか・・・・・・・・・・・・
え・・・・・・・?
一瞬、懐かしい声が聞こえた気がした。
「――――――――成功だ。」
「「―――――――!」」
アルビオンの声が聞こえたと思ったら、勇吾と良則の表情が驚愕のものになった。
何・・・・・うっ!?
「何・・・・だ・・・!?」
体が熱い!?
何だ、血が沸き立つような感じがする!
「落ち着け。それは封じられていた魔力が解放されて一時的に体外に放出されそうになっているだけだ。基礎修行でやった事を思い出せ。」
「無茶言うんじゃ・・・ねえ!?」
体が熱すぎて集中なんかできねえ!!
ダメだ!もう、抑えきれ・・・・・!?
「良則!結界を――――!!」
「分かってる!!」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――!!!」
絶叫とともに、俺の体内から大量の魔力が爆発するように溢れだした。
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彩雲山 ????
同時刻、結界に護られたとある隠れ里の中では住民全員が異変を察知していた。
「――――――――!?」
「長!今の魔力は!?」
「まさか・・・!すぐに向かわせろ!!」
「御意!!」
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凱龍島 ???
同じく同時刻、久しぶりに里帰りしていた黒王も異変を察知していた。
「・・・この魔力!?」
「兄さん!!」
「・・・勇吾のいる場所か!」
異変が己の契約者の目の前で起きている事に気付いた黒王はすぐに飛び出しそうになるのを必死に抑えた。
「玄、すぐに皆を集めるぞ!」
「はい!兄さん、この魔力の波長はまさか!?」
「・・・・間違いなく、“あの王”の直系のものだ!しかも、これは・・・・!?」
感じる魔力が知っている人物のものであることに、黒王は動揺を隠せなかった。
(これは瑛介の・・・・・何が起きている!?)
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凱龍王国 北の聖地
王国の北部に存在する聖域では老いた龍が心臓の鼓動が止まるかのような衝撃を受けていた。
それは傍にいた他の龍達も同様であり、先ほどまで話していた議題など頭の中から綺麗に抜け出していた。
「これは・・・いや、何故・・・・・!?」
「翁、私が視てきます!!」
「俺も行ってきます!」
許可がおりるより先に、一族の優秀な若手2人が飛び出していた。
「生きていたのか・・・・?」
「翁!気を確かに!!」
老いた龍は、周囲の声に気付くことなく、しばらくの間呆然とするしかなかった。
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凱龍王国 首都 凱王城
異変に気付いたのは龍族だけではなかった。
政治に携わる者であるのと同時に、国外にも名を轟かせる猛者が多く集まる凱王城の中でも動揺が広がっていた。
「彩雲山の中腹・・・・良則のいる場所か!」
「陛下、いかが致しますか?」
「すぐに警察と共同で調査団を向かわせろ。」
「はい!!」
(―――――――良則、何が起きている?)
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???
「これは・・・・・・・!」
そして違う世界にいる彼も異変に気付いていた。
「――――――――アベル。」
「どうやら、私の置いた布石が思わぬ結果を生んだようです。」
「・・・・・・。」
「今は彼ら自身に任せましょう。私は予定通り、『四秘宝』の調査に向かいます。」
「・・・・無理はするな。」
「ええ、分かっています。陛下。」
その日、龍族の大半と一部の人間達は、龍王の眠る山で起きた異変を察知した。
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