第104話 小嶋瑛介の過去
・そう言えば本編には書いてませんが、勇吾達が凱龍王国に来た時点で“彼”は異世界に召喚されてます。
――晴翔サイド――
「・・・・・・・何だこれ?」
「「「えへへ~~~~~~♪」」」
俺の目の前には世にも奇妙な革新的現代アート・・・・・じゃねえ!!何だこれ!?
記念写真撮るって言うから来てみたら、何だか知らないがチビ共が自慢げにあちこちから変な植物を集めて1つの作品みたいに飾っていやがった。
開いた傘の様にデカいクローバー、山盛りの様に敷かれた朝顔、他にもキキョウやキク、中には明らかに食虫植物っぽいグロイ感じの大小様々な植物が生け花の様に飾られている。
「おいチビッ子共!これは何だ!?」
「芸術~~~~!」
「お話お城!」
「プレゼント!」
プレゼントって誰にあげるんだよ!?
俺は絶対に要らないぞ!!
「あ~~~、そう言えばうちの弟妹も俺の誕生日に似たような物作った事があったな。食虫植物はなかったが、代わりにスズメバチや毒キノコが混じっていたけど・・・・・。」
「おい、そっちの方が危険じゃないか?」
スズメバチって、一歩間違えたらお陀仏だろ!?
「そう言えば、お前って兄弟多いんだったな?」
「まあな、もうすぐ11歳になる弟に9歳の妹、8歳になったばかりの妹に6歳の弟、後は俺を入れた5人兄弟だ。良則のとこよりは1人少ないけどな。」
「仲は良いのか?」
「良好なんじゃないか?たまにケンカする事はあるけどよ、基本的にはみんな俺に懐いてるからな。」
兄弟か・・・・。
そう言えば、アンドラスの一件以来家がどうなったか聞いてなかったな。
まあ、親は揃って俺のことを心配してないから興味ないけど、兄さんや妹の朱里の方はどうしてるんだろうな?
兄さんは暴行で受けた傷が思ったより深いらしいから親父同様まだ入院だったはずだが。
親父はともかく、兄さんの方は一度見舞いにでも行った方がいいか?
それはともかく、弟や妹が4人もいるのは凄いな。
俺の周りでそんなに兄弟いる奴は、(6人兄弟の)良則や(9人兄弟の)丈ぐらいだったからな。
しかも、その弟妹全員を母親と2人で養っているなんてな。
「バイトの給料で間に合ってるのか?」
「ついこの間までは結構厳しかったけど、今は《千変千影》のお蔭で少しずつ余裕が出てきてるな。母さんも今年から正社員になって収入は随分上がったしな。」
「そう言えば、深夜のバイト増やしたって聞いたけど、バカの奴、全部に手を回してたのか?」
「・・・・ああ、居酒屋のバイトは店長一家が幸運にも海外旅行に当選して今はヨーロッパだし、ガソリンスタンドの方はタイミングよく改装工事の日程と重なったし、工事現場の方は社長の駆け落ちした娘が偶然現場の前通ったところで陣痛が始まっただけじゃなく、何故か監督や他の何人かの社員の奥さん達もそろって産気づいて次々に早退していって、挙句会社はしばらく休業状態に陥ってしまったんだよ。」
「・・・・・最後の方、どうやったんだ?」
「・・・・・さあ?」
その日は満月でも出てたのか?
どっちにしろ、旅行の為に随分と手間をかけるやつだな。
まさかと思うが、俺の実家の方にも何かしてないよな?
マジで兄さん達の事が心配になってきた。
「晴翔!そこ危ないよ!!」
「――――ん・・・って、おおおおお!!??」
琥太郎の声がしたと思った直後に俺の目の前には飢えた食虫植物が!!
って、これ食虫植物じゃなくて食人植物だろ!?
「《凍結》!!」
あっぶねぇ――――!
もう少しで俺がランチになってたところだった!
「―――――――晴翔、大丈夫!?」
「ああ、今のチビ共が採ってきた奴か?」
「うん、どうやらまだ息があったみたい。トレンツに聞いたんだけど、この辺りには半分魔獣に近い植物も数種類生息しているんだって。普通は一般人進入禁止区域にいるらしいけど・・・・・」
「あのチビ共、どこまで遊びに行ってたんだ?」
「まあ、子供は平気で危ない所にも行っちまうからな。大方、ちょっとした冒険気分だったんだろ?」
「そうみたいだね。今、リサや蒼空がみっちり説教しているからもう大丈夫だと思うよ?」
ああ確かに、向こうで蒼空がチビ共を正座させてるな。
てか、アイツの弟も正座してるな。
「・・・・・何か懐かしいな、ああいうの。」
「ん?」
「・・・昔、父さんが生きてた頃はあんなバカな事してたなあ、と思ってさ。」
そうか、瑛介の倒産は6年前に・・・・・。
「瑛介のお父さんってどんな人だったの?」
「さあな、地元の運送会社で働いている以外は俺もほとんど知らなかったからな。葬式の時になって初めて天涯孤独だったって事を知らされたしな。」
「―――――え!?」
「あん時は驚いたし、大変だったんだぜ?」
瑛介はそう言いながら、自分の家族の話を語り始めた。
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――瑛介サイド――
父さんが死んだのは俺が10歳になる前、下の弟が生まれて3ヶ月が過ぎようとした時だった。
俺の家は名古屋の中心部からかなり離れた場所に建つ当時築11年の一軒家だ。
2階の窓からは農地が見えるその家で俺たち一家は暮らしていた。
運送会社で大型トラックの運転手だった父さんはほぼ毎日トラックに乗り続け、東京や大阪などの大都市から地方都市に至るあらゆる都市に貨物を運んでいき、家にいる時間は他の家よりも少なかった。
けど、たまに連休がとれた時はいなかった時の分も一気に清算するかのように家族サービスを欠かす事のない人だった。
幼稚園や小学校の運動会の時も少々強引に仕事を調整してもらうなどして必ず来てくれた。
だが、父さんは決して自分の生い立ちについて話してくれることはなかった。
小学校の作文の宿題で、「両親の子供のころ」という題で書く事になった時も俺は運良く帰っていた父さんに訊いてみたが、父さんは話をはぐらかして何も答えてはくれなかった。
ある時、妹が「お父さんのパパとママは何所にいるの?」と訊いた時、父さんは困ったような顔をしながら、「凄く遠い所で一緒に暮らしている」と答え、それを聞いた俺は祖父母が他界しているのだと子供ながらに悟った。
そんな事があった日から数日後、深夜に仕事を終えて帰ってきた父さんは、妹のトイレを手伝って布団の中に戻ろうとした俺に酒を飲みながらどこか悲しそうな眼をしながら俺に話しかけてきた事があった。
「―――――――――瑛介、もし父さんが―――――ら―――――――いる、―――――を頼れ。そうすれば――――――――に行けるから、そこで父さんの――――――――せ。」
「・・・お父さん?」
「――――いや、忘れてくれ。」
「?」
その時、父さんが何を言ったのか思い出す事が出来ない。
それ以前に、そんな出来事があった事すら、最近まで随分と忘れていた。
それを思い出す余裕のない事件がその半年後に起きたからだ。
その日は新学期が始まって1週間ほどの残暑の厳しい日だった。
汗だくになりながら帰ってきた俺は、3ヶ月前に生まれたばかりの弟の元へ行き、他の弟妹と一緒に小さい弟と遊ぶのに夢中になっていた。
夕方になり、母さんが夕飯の支度に入ろうとしたその時、俺達家族の運命を大きく変える一通の電話が掛かってきた。
「はい、小嶋です。あ、いつも主人がお世話に――――――――――――――――え?」
受話器の向こうにいたのは父さんの勤める会社の社長だった。
母さんがその報せを聞いた時、相手が何を言っているのか理解できない顔のまま数分間硬直していたのを俺は今でも覚えている。
「あ・・・・・ああああああああああ―――――――――――!!!!!」
そして何が起きたのか理解した瞬間、母さんは糸の切れた人形の様に床に崩れ落ち、今まで見た事のない様な顔で、近所にも聞こえるんじゃないかと思えるような声で泣き出した。
何が起きているのか分からない俺は、母さんが手放した電話の相手がまだ何かを叫んでいるのに気付き、受話器を取って何があったのか訊いた。
「・・・・・父さんが、死んだ?」
死因は事故死だった。
普段よりスムーズに仕事が進んだ父さんは予定より早く名古屋に向かってトラックを走らせていた。
そして名古屋を目前にした時、通過していたトンネルが突然崩れ始めた。
トンネルの出口まであと少しという所で瓦礫が父さんの車を直撃、発見された時には既に死亡していた。
「あ、あなたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
遺体安置所へは母さんが一人で入っていったが、泣き叫ぶ声は俺達兄弟は今でもよく覚えている。
唯一覚えてないのは、当時生後3ヶ月だった下の弟だけだ。
その後、悲しむ暇もなく葬儀の準備が始まり、俺も駆けつけてくれた父さんの同僚達を手伝っていったが、そこで初めて俺は父さんが天涯孤独だったという事実を知ることになった。
父さんには両親はおろか、親戚が1人もおらず、親がどこの誰なのかも分からない孤児だったらしい。
子供の頃、路上で重傷で倒れた所を発見され、その後は施設に預けられて少年期を過ごしたらしい。
高校卒業後は今の運送会社に就職し、その5年後に母さんと結婚して俺達兄弟が生まれた。
結局、今でも父さんの家族については何も分かっていない。
葬式は父さんの会社の同僚や社長の協力のお蔭で無事に終わったが、その後も事故の捜査やら遺族会やらで慌ただしい日々が続いていった。
ようやく落ち着いたと思ったのも束の間、今度は自分達の今後の生活を考えなければならなかった。
最初の1年は父さんの残した貯金や保険金などで持ちこたえたが、俺達兄弟全員が成人するまでの養育費には全然足りず、母さんは少しでも俺達に負担をかけないためにパートを始めた。
母方の祖父母も親身になってくれたが、それでも我が家の家計は日が経つにつれて厳しくなる一方だった。
中学に入った俺は少しでも母さんの負担を和らげようと新聞配達のバイトを始めた。
だが、食べ盛りの弟妹を養うにはまだ足りないと思った俺は家族には内緒で深夜のバイトも始めた。
当然年齢を偽ってのバイトだったが、幸運にもバイト先の店長が俺の事情を理解してくれたのと、元々他の同年代の男子より身長が高かった事もあって誰にも怪しまれずに生活費を稼ぐことができた。
そして今年、俺は高校生になり当時赤ん坊だった弟も来年には小学校に入学する歳にまで大きくなった。
母さんも日頃の成果が認められてパートから正社員になり、厳しかった生活も次第に良くなるだろうと思っていた。
だが約2ケ月前、上の妹が病気で入院してしまい多額の治療費が必要になってしまった。
ようやく少しは楽になれるはずだった母さんは自分の事を顧みずに残業を進んでやるようになり、日に日にやつれていった。
俺は無理をしてバイトを増やそうと考えていた日の深夜、そいつは唐突に俺の前に現れた。
「な、何なんだテメーは!?」
「無理かもしれませんが、どうか落ち着いてください。」
バイト帰りの俺の前に、青色を纏ったそいつ、アベル=ガリレイが現れた。
アベルはまるで珍妙な物を見る様に俺を見下ろし、俺の利き手を掴んでたった一言だけ呟いた。
『祝福を――――――――――――』
その瞬間、俺の中に大量の情報が入るような感覚が走った。
その感覚は数秒で収まり、俺が呆然と立ち尽くしているのを見たアベルは仮面の向こう側で笑みを浮かべているかのような声で別れを告げて消えていった。
数日後、俺は路地裏で縄を振り回すバカと、一緒にいたバカ神に追いかけられた挙句捕縛された。
そしてその後もいろいろあって今に至った訳だ。
・瑛介のお父さん、読んだ方なら想像できると思いますが、お約束の「実は~~だった」的な人です。




