第102話 白刑
・今まで名前自体出てこなかった瑛介が目立ってきました。
〈お前――――――――――――――!〉
頭の中に直接声が聞こえてくる!
《念話魔法》ってやつか!?
〈お前、まさか――――――――――――〉
不良ドラゴンは俺に何か言おうとするが、言葉は最後まで続かなかった。
直後、俺達の周りは何か巨大な影に飲み込まれた。
『――――――見つけたぞ!』
俺達の頭上に、白い龍が突如として姿を現した。
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――勇吾サイド――
さっきのは何だったんだ?
空中で静止したままだったリンドヴルム――――――ヴァルトは俺達の方を見て、まるで信じられないものでも見たかのように驚いた顔になっていた。
同時に、瑛介がまるで蛇に睨まれたカエルの様に固まっていた。
「・・・勇吾、もしかしてあのリンドヴルム、瑛介だけを見てないか?」
「ああ、どうやらそのようだ。」
瑛介の視線もヴァルトの方を見ている。
おそらく、ヴァルトの《龍眼》に飲まれたショックで硬直したのだろうが、何でヴァルトが瑛介だけを見て驚いているんだ?
そんな事を考える暇など与えないかのように、俺達の上空にはまた新たな珍客が現れた。
『――――――見つけたぞ!』
現れたのは良則が契約している龍、アルビオンだった。
「・・・・・・良則、アルビオンを呼んだのか?」
「呼んでない!アルビオンとは横浜の事件以降は一度も会ってないし、連絡も取れてなかったんだ!」
「初耳だな?」
良則の奴、珍しく動揺しているな。
さっきまでそんな素振りなど見せてなかったが、アルビオンの事が心配だったんだろうな。
横浜の1件以降と言う事は、もう10日近くも連絡が繋がらなかったのか。
『――――――――――チッ!龍皇かよ!?』
アルビオンの姿を見た途端、ヴァルトは舌打ちをしながら視線を瑛介からアルビオンに移した。
それと同時に瑛介は糸が切れた人形の様に崩れた。
「おい、大丈夫か!?」
「あ、ああ・・・・・・。」
慎哉達が慌てて駆け寄って瑛介の体を支える。
《龍眼》は龍族だけも持つ飛鳥家の《神眼》とは別の特殊な眼、その能力は未だに比喩的にしか説明できず、昔黒に訊いた時は『人には見えないものを見る瞳力』と話し、同時に『その眼で見られた者は知らない事を知られる』とも言っていた。
おそらく、瑛介は奴に自身の内面、精神部分の何かを覗かれたのだろうが、どこか違和感も感じる。
もしかすると、別の“何か”で同時に覗かれたのかもしれないな。
『・・・・ヴァルト、お前はどれだけ暴れ続ければ気が済む?各地の龍王に手当たり次第に戦いを挑むなど正気の沙汰とは思えないな?』
『・・・・・・・・・。』
龍王に戦いを挑んだ!?しかも手当たり次第にだと!?
確かにそれは正気の沙汰とは思えない。
龍王と言えば、龍族の中でもトップクラスの力を持つ文字通り王だ。
龍神に最も近い力を持つとも言われ、その力は黒さえも圧倒する。
今目の前にいるアルビオンもまた、字は違うが正真正銘龍王、並の龍族が手当たり次第に敵に回していい相手じゃない。
『――――――フン、俺が誰と戦おうと関係ないだろ。それに、遥か高みに戦いを挑むのは俺達龍族の間じゃ日常茶飯事じゃないのか?それを、お前らは騒ぎすぎなんだよ!』
『その言い分自体は間違ってはいない。だが、お前のやっているのは修業でもなければ王への挑戦でもない、ただの駄々にすぎない!それに、お前は龍族だけでは飽き足らず、人間や他の種族にまで手を出している以上、俺も見過ごす訳にはいかない!!」』
『ウッセエ――――――!!そんなに俺が気に食わないなら力づくで止めて見ろ!!』
直後、周囲をヴァルトが巻き起こす突風が吹き荒れる。
『クタバレ、『白の龍皇』――――――――!!!』
竜巻は数十本!?
ヴァルトの奴、力任せに竜巻を生み出してアルビオンにぶつけてきたか!
だが、俺から見てもそれはアルビオンに直撃するとは思えないな。
なぜなら―――――――――――――
『――――――――――――――《白刑》!』
―――――――瞬殺だな。
ヴァルトは空から落ちてきた光の柱の直撃を受けて一瞬で戦闘不能になった。
今までどの龍王にケンカを売ったのかは知らないが、流石に今回は相手が悪すぎたな。
どれだけ力に自信があったのか知らないが、齢が数千年の龍皇を相手にするのには余りに力不足だろ?
まあ、そんな相手と戦わずに契約を結ぶ奴もここに居る訳だが―――――――――
『―――――お前達にも迷惑を掛けたな。龍族を代表して謝罪する。』
「―――――――アルビオン!今まで何所に行ってたんだよ!?」
『すまない良則、あの事件の直後に俺達の間で問題が連続して起きたんだ。お蔭で四六時中飛び回る程多忙になって、お前達と連絡を取る余裕もなかったんだ。本当にすまない。』
「あ、別に頭を下げなくても・・・・・!」
アルビオンは俺達に深く頭を下げて謝罪した。
“連続して”か、もしかして黒が昨日から音沙汰がないのも何か関係があるのか?
「お兄ちゃん、虎の人がこっちを見てるよ?」
「ん?」
ロトに言われて下の方を見下ろすと、ヴァルトと戦っていた黒い風虎族――――――夜鋼が俺達の方を静かに凝視していた。
ああ、そう言えば今回の一番の被害者はあっちだったな。
負傷もしているみたいだし、俺達で治療した方がいいか?
『―――――そちらの風虎族の者よ、そちらにも多大な迷惑を掛けた事をお詫び申し上げる。』
『・・・・いや、謝罪の必要はない龍皇殿。こちらの件に関しては、こちらにも責がある事だ。皇が頭を下げる事はない。』
夜鋼からは既に殺気も敵意も消えている。
そして、夜鋼はアルビオンや俺達に事の次第を話していった。
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彩雲山 展望台公園
トラブルはあったものの、どうにか俺達は予定より少し遅れて山の中腹にある展望台公園に到着した。
遅れたとは言っても昼までにはまだ1時間ほど余裕があり、俺達は各々自由に行動していた。
慎哉は未だに龍族と契約を望んでいるらしく、展望台から山々を見渡しながらこの辺り一帯に暮らしている龍族を探しに行っていた。
「あ!サイウンオオアゲハだ!」
「あっちにもいるよ!」
「キレ~~イ!」
ロト達は珍しい昆虫や花に夢中で疲れ知らずに辺りを走り回っている。
とりあえず、希少種もいるから後で注意しておくか。
「――――――で、何でさっきから俺の写真ばかり撮ってるんだ?」
「欲しい人がいるもんね~~~♪」
「きっと泣いて喜ぶわよ♪」
「・・・・・ラブ♡」
「そこ~~~~!何勝手な邪推してるのよ~~~~!!」
「・・・・・何なんだ、全く。」
蒼空は女子どもに遊ばれてるな。
と言うより、人数が増えている気がするな?
他の連中も好きなように楽しんでいるが、俺は先に気になる事を片づける事にする。
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「これで傷は全部治ったよ。」
「・・・すまない、この程度の傷にこの国の王子の手を煩わせてしまい――――――――――――」
「いいよ、僕が治したくて治しただけだから!」
「気にするな夜鋼、俺の契約者は例え敵だろうと助けようとするお人好しだ。お前に非があってもなくても治しただろうから、謝罪するだけ無駄だ。蚊に刺されたと思えばいい。」
「・・・・アルビオン、それって何か違わない?」
良則の元に行くと、丁度人型をとっている夜鋼の治療を終えた所だった。
人型の夜鋼は和服を着た青年の姿をしていた。
黒髪に銀色の瞳、俺の何倍もの時間を過ごしているだけあって、纏っている空気は彼の貫禄を表すかのような落ち着いたものだった。
あの後訊いた話によると、夜鋼はここ30年程は1人で世界中を旅をしており、ここへは知人に逢あった後に寄るつもりだったらしい。
その途中、ここから西南西に200kmほど言った場所で龍族同士のケンカを見かけ、明らかに周囲を顧みない戦いだったので止めようと割って入ったそうだ。
だが、それに機嫌を悪くしたヴァルトは標的を夜鋼に変更して襲い掛かり、周囲の街の風を派手に乱しながらここまで来て今に至るとの事だった
話を聞き終えた時のアルビオンは激昂はしなかったものの、地上に墜落して気を失っているヴァルトを一瞥しながら「コッテリ絞らないとな。」と呟いていた。
「良則。」
「あ、勇吾、どうしたの?」
「・・・あの不良ドラゴンに尋問しに来た。」
「「「―――――――――――!」」」
俺の言葉に、3人は似たような反応を見せた。
どうやら、あの時のヴァルトの変化を3人とも見逃していなかったようだ。
「―――――――――――今、開ける。」
アルビオンが片手で印を結ぶような動きを見せると同時に目の前に光の檻が現れた。
逃げる隙間の無い光の壁で囲まれた人1人が入る程度の檻の中には、反省の色など全く窺えない不良少年の姿をしたヴァルトが閉じ込められていた。
肩よりも下に伸ばした緑色の髪に金色の瞳の少年、それがヴァルトが人化した姿のような。
「・・・・・・・何だ、お前?」
ヴァルトは俺に敵意丸出しで睨みつけてくるが、俺は構わずに話しかけた。
そもそも、俺達が今までに戦ってきた相手と比べたらこの程度の敵意など可愛いものだ。
「――――――訊きたい事がある。」
「ああ!?」
何も答えねえよ、と言いたそうな目で睨んでくるが、その顔も俺の質問で呆気なく崩れた。
「―――――――お前、何を視た?」
・本日は『ボーナス屋、勇者になる』が10時に更新予定です。
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