第98話 それぞれの再会
・最初は慎哉達の依頼達成報告、その後は別メンバーの様子になります。
冒険者ギルド 竜江港湾支部
いろいろあったが、慎哉達3人は店長と合流し、ギルドに戻って依頼達成の報告を済ませた。
「はい、確かに確認しました!Fランクを一見達成しましたので、皆さんはただ今を持ってFランクに昇格しました。次のランクへの昇格条件は、Fランクの依頼を20件、またはEランクの依頼を10件達成となります。」
「うわぁ、一気に増えたな?」
「はい、冒険者は能力だけでなく経験値も重要になりますので、下位ランクでも最低でもこれ位の依頼の達成が昇格の必須条件になります。」
「まあ、確かにそうだな。」
「では報酬の支払いになりますが、皆さんはこちらの世界に専用口座を開いていませんので、今回はカードへの入金か現金払いになります。どちらに致しますか?それとも、先に口座を開設してからにしますか?」
ティナは3人の前にPSを展開し、ギルドと提携している銀行の口座開設の案内を表示した。
見て見ると、今回の依頼人の勤める銀行だった。
「―――――思ったんだが、報酬の金は日本でも使えるのか?」
「「あ・・・!」」
晴翔の一言に、慎哉と琥太郎はハッとなる。
考えてみれば当然の疑問である。
依頼の報酬は当然この世界の通貨であり日本円ではないのだ。
だが、その疑問は呆気なく解消された。
「それについては問題ありません。この世界の通貨は日本円と換金可能ですので、こちらの専用口座から日本側の口座への送金も可能になります。また、換金は各ギルド支部でも可能ですので、帰国されてから日本円として受け取ることも可能です。」
「大丈夫なんだ?」
「はい、皆さんは入国したばかりなのでご存知ではないかもしれませんが、この国は古くから日本と縁の深い歴史があります。国民の中にも先祖に日本人がいる方も多く、先々代の国王陛下も日本人ですので親日派の方が多いのです。その為、年々日本へ観光に行く旅行客も増加傾向にあるのでそれに合わせて日本円との換金システムも充実しているのです。」
その後もティナの説明は続き、竜江では基本的にはどの店でも日本円は使用可能らしい。
ちなみに、この世界の通貨は統一されており、通貨の単位は『G』と『L』の2種類あり、1L=1円、100L=1G=100円となっている。
「――――――今回の皆さんの報酬ですが、依頼者側から追加報酬が加わって150G(1万5千円)となります。パーティでの達成ですので、それぞれのカードに入金する場合は均等に配分されますが、どうしますか?」
「じゃあ、カードに入金って事で!それでいいよな?」
「うん、僕もそれでいいよ。」
「俺も構わないぜ?」
「では、カードへ入金させてもらいます。なお、カードへの入金には限度額がありますので、出来るだけ早く専用口座を開設される事をお勧めします。」
慎哉達はカードをティナに渡すと、入金はすぐに終わって戻された。
「それと、皆さんが現在使用しているPSTは個人製作の簡易型ですよね?」
「・・・そうだけど?」
「これは強制ではないのですが、冒険者をする上では“簡易型”ではなく専門店で販売している“カスタマイズ型”を購入する事をお勧めします。簡易型とは違い、セキュリティも強固になっているのでギルドへの連絡や依頼の受諾など、冒険者の仕事をする上では何かと便利ですので。」
ティナは1枚の広告を渡す。
そこにはここから近いPSTの販売店の案内が掛かれており、詳細な地図も載っていた。
「う~~ん、欲しいけど高いんじゃないのか?」
「確かに安い物でも200G以上しますが、冒険者の場合は割引が利く上、分割払いも可能です。それに今は四龍祭の準備期間で機種変更をする方も多いですので、セールをしている店も多いですよ?」
ティナの説明によると、四龍祭の開催期間中は国民も外国からの観光客も祭を楽しむ事を優先するので、PSTや家電、日用品の特売を行ってもそんなに集客効果がなく、また、客の方も祭を楽しむ事を優先したいので機種変更などを開催前日までに済ませる傾向が多いそうだ。
「それと、皆さんは今普段着のようですが、冒険者業務には危険が伴う仕事も多いので、装備や道具などを購入する事もお勧めします。販売店などの情報はPSTに転送する事もできますが、よろしいでしょうか?」
「じゃあ、それでお願いします。」
「分かりました。・・・はい、転送完了しました。私からの話は以上です。お疲れ様でした!」
「おう!ありがとな!」
報酬の受け取りなどを済ませ、慎哉達はギルドを後にした。
外で待っていてくれた店長にも受付での話を伝えた。
すると、馴染みの店を案内してくれることになった。
その後、正午近くまで3人は幾つかの店を回っていろいろ買い物を済ませていった。
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凱龍王国 竜江 下町
一方その頃、蒼空は他のメンバーと離れて単独で動いていた。
弟の龍星は良則達に預けており、今は観光船ツアーを楽しんでいる。
「・・・・・・・・・。」
蒼空は無言のまま下町の川沿いの道を歩いていた。
ここには初めて来たのにも係わらず、蒼空はどこか不思議と懐かしい様な感覚を抱いていた。
(・・・・いい国だな。)
心の中で、蒼空はこの国に対する感想を抱いていた。
蒼空は前世の時、つまりはライナーだった時にもこの世界には何度か足を踏み入れた事がある。
だが、当時は組織への警戒が厳しく、特に凱龍王国を始めとする大国にはあのカースで侵入ができないほど厳重な防衛システムが敷かれていた。
その為、その頃は領海のギリギリ外側で遠目にしかこの国の姿を見た事がなかった蒼空はこれと言った深い印象などは抱いていなかった。
(龍も、人も、“この地”に生きるもの全てがいい気に包まれている。それに、身も心も良い意味で強い者で溢れているな。)
日本とも、かつての故郷とも全く異なる空気に、蒼空は心を癒されながらもどこか悲しい様な表情をしながら歩いていった。
しばらく下町の風景を見て回ると、とある一軒のカフェが目に映った。
歴史情緒を感じる建物の1階に開かれたカフェの向かいには小さな公園もあり、店の前を何人もの幼い子供達が元気よく走り回っていた。
「・・・・・・・・・。」
蒼空はオープンテラス席に座っている老紳士っぽい人物を目を細めながら見ると、そのまま向かいの椅子に座った。
ウェイトレスに紅茶を頼み、「フウ。」と小さく息を吐くと、少々不機嫌な顔で向かいに座っている老紳士モドキに話しかけた。
「―――――――下らない変装などするな、烈!」
「あり?完璧な変装だったんだけど?」
「どこがだ・・・・・。」
老紳士モドキの口から出た声は、老人とはかけ離れた若い男性の声だった。
彼は「チェ~~~!」と言いながら顔に手をかけると、無駄に派手な動作で変装を解いた。よくある、怪盗が正体をばらすあの動作である。
「ある時は――――――――」
「で、俺を呼び出して何の用だ?」
「ノリ悪いな~~~~~?」
ちょっとむくれながら、凱龍王国先々代国王、護龍(旧姓飛鳥)烈は蒼空と向き合った。
一方はかつての激戦の英雄王、対するもう一方は前世では世界を滅ぼしかけた元悪党、過去に敵対していた2人が時や輪廻を超えて再会した瞬間だった。
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凱龍王国 竜江 商業・観光区
蒼空がかつての敵と再会していた頃、良則はみんな(特に女子全員)と一緒に観光船に乗っていた。
彼らが乗っている船は首都を流れる三大河川の1つ、碧龍川、本島の内陸中心部まで続くこの川は建国の時代から首都と内陸部を結ぶ運搬の要となっており、今でも港湾区と貿易区を結んでこの国の貿易を支えている。
現在は良則達の乗っている船を始めとする観光船の姿も見られ、水上からこの国の歴史深さを楽しめる観光スポットとしても広く知られている。
「――――――――で、この川は四龍祭の機嫌にもなった龍王の一人、『碧の龍王』が大地を削った跡にできたものなんだ。これは、当事者達から直接確認もとった事だし、物的証拠も残っている紛れもない事実なんだよ。」
「へえ、そうなんだ!」
「キャァ!ヨッシーくん博識~~~~♡」
貸し切り状態の観光船の中では、良則がこの国の歴史を説明しながら船から見える名所の数々を紹介していった。
女子のほとんどは良則の博識ぶりと美貌にうっとりとし、その場所だけ空気がピンク色に染まっているような錯覚が生まれていた。
川岸には色鮮やかな花を咲かせた木々が並んでおり、デートをしているカップルの姿も多く見られた。
「この辺りは公園になっていて、今花を咲かせているたくさんの木も元々自生していたのを品種改良もしないで増やしていったんだ。花は来月の上旬まで楽しめるし、花が散った後は実をつけて10月頃になると秋の風物詩として街の人達が自由に収穫して食べているんだよ。」
「まるで銀杏みたいね?」
紫織が訊くと、良則も「そうだね。」と答えながら話を続けていった。
「でも、どちらかと言えば胡桃に近いね。今では『ゴールドナッツ』で呼ばれていて、お酒のツマミや家庭用のパンやお菓子に使われたりしているんだ。」
「ふ~~ん。」
「キャァ~~!紫織ったら浮気よ~~~!」
「ちょ、何言ってるのよ!?」
「旦那が泣くわね♪」
その後も紫織は友人達に冷やかされ、船の一角では恋バナが花を咲かせていた。
一方、船先では龍星と亮介の2人が透き通った川の中を覗き込んでいた。
この国の河川は工業廃水や生活排水で汚染されておらず、船の上からも川の底近くまで見る事が出来ていちゃ。
「うわぁ、魚がいっぱいいる!」
「あれ?あれも魚・・・・・・?」
水中を泳ぐ魚に夢中の龍星に対し、亮介は魚以外にも何かが支柱を移動する影に気付いていた。
魚と呼ぶにはあまりにも大きく、見た限りでは全長20m以上はある。
(良則さんを呼んだ方が良いのかな・・・・・?)
悩んでいるうちにその影は下流の方へと姿を消していた。
亮介は良則に訊きに行こうとするが、良則は女子に囲まれてとても近づけそうになかった。
その後、その時見た影について亮介に良則に訊きに行き、彼を驚愕させたのは船を下りて昼食に向かう直前だった。
良則の話では碧龍川にはそんな巨大な魚は生息しておらず、おそらくは龍族の誰かではないかと答えたが、あの時船の真下を通過したにもかかわらず、良則が全く気づけなかった事に彼は慎哉達が合流するまでの間ずっと考え続けるのだった。
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凱龍王国 凱龍島のとある山奥
同じ頃、凱龍王国の本島である凱龍島の奥地、都市開発がほとんど行われず、自然がそのままの姿で残っている山奥、国民の間では『碧の聖域』『龍王の膝元』など様々な名前で呼ばれている山奥の一角、碧龍川の源流が流れる場所に龍の姿に戻った黒王が大きな音をたてて着地した。
『――――――お前に呼ばれるのは久しぶりだな?』
森の方へ話しかけると、その直後に突風が吹き荒れ始めた。
突風はすぐに収まり、黒王の目の前には彼がよく知る黒い龍の姿があった。
『久しぶり、そしてお帰りなさい、兄さん!』
『ああ、ただいま―――――玄。』
黒王は、約20年ぶりに実弟の玄風と再会していた。
・勇吾、また出番が減っている・・・・・。




