第9話 布都御魂剣
荒神編決着です。
マグマの中から現れた2本の腕――――――。
それは勇吾と黒王が最初に荒神の体から斬りおとした腕だった。
『オオオオオオオオオオオオオオ――――――!!』
2本の腕から怨念のこもった声が響いてくる。腕の表面を凝視すると、斬りおとした時にはなかった亡者の顔が腕全体に広がっていた。荒神の腕の中には半分が死霊が繋がってできていたものもあったが、その腕とは明らかに違うことが勇吾にはわかった。
そして、違うのはそれだけでない事に気付く。
「あれは・・・・・・岩か?」
最初はマグマの中から出てきたので溶岩かと思ったら違った。
亡者の顔が浮かぶ腕は溶岩のような黒っぽい岩ではなく、岩山にあるような岩石でできていた。さっきまで戦っていた荒神とは明らかに何かが違う。
「―――――《ステータス》!」
【名前】?????
【種族】神(荒魂) 【クラス】土地神
【属性】土
【魔力】1,300,000/1,900,000
【状態】再生中
「―――――――荒魂!?」
ステータス画面に表示されていたのは荒神ではなかった。名前は相変わらず表示されなかったが、別種の神と表示されていた。
『あの姿から予想はしたが、あの荒神は複数の霊魂の集合体だったようだな。あの荒魂もその1つだったんだろう。』
「つまり、俺が斬った事で混ざっていたあの神が分離したと言う事か。」
勇吾は後になって知ることだが、目の前にいる神は元々ここ周辺を護っていた土地神の片割れだった。それがこの土地に縛られていた悪霊と融合した事によって悪神と化して荒神として祀られたのである。
「・・・いや、俺が分離させたと言う事が。」
勇吾は自分が握っている大剣をみる。彼の持つ大剣は幾つもの能力を持つ。そのうちのひとつが《浄化》。斬った対象が悪霊だったら成仏させ、呪われていた時は解呪する効果なのである。
荒神を3度斬った時、大量の魂が解放されていくのは勇吾も感じた。だが、その時は周囲の土地から魔力と共に吸収した死霊たちだと思っていたのである。実際は、数百年前に悪霊化した数多の魂も一緒に解放され、最後に残ったのが悪霊の塊と融合した土地神の荒魂だったと言う訳なのである。正確に言えば、2本の腕を斬りおとした時点で土地神は荒神から分離している。彼が倒したと思ったのは荒神の半身である悪霊の部分だけであり、土地神の部分はまだ倒されていなかったのである。
「属性が土――――俺が解放した霊魂達が火属性と言う訳か。」
『そうみたいだな。現に、あの赤い魔力も消えている。』
周囲を見渡すと、さっきまで荒神から漏れ出していた魔力の煙は消え去っていた。属性の異なる霊魂が混ざりあった結果、複数の属性を持つ悪神になっていたのである。
「手負いの今がチャンスのようだな。」
『ああ。火属性を失ったことであの火力は失われている。魔力の残量もこっちが圧倒的に上、俺の息吹で一気に片づけるぞ。』
「よし!行くぞ!!」
全身に再び強化魔法をかけ、未だに灼熱を帯びた大地の上を蠢く2本の腕に向かっていった。
「《夜斬り》!!」
腕の一本に斬りかかる。しかし、さっきまでとは違い、傷つける事はできても真っ二つに斬ることはできなかった。
荒魂は、悪霊と分離された事によりその性質も本来の元になっていた。つまり、岩石のような見た目の通り物理防御に特化した体になっているのである。
「(魔力のほとんどを防御に注いでいるのか―――!?)なら、こっちも―――――!!」
勇吾は荒魂から離れると、溶岩とマグマが混ざった大地に向かって剣を突き刺す。そして渾身の一撃を放った時と同等の魔力を剣に注ぎ込んだ。
そして、自身の愛剣の名を呼んだ。
「――――――――布都御魂!!!」
名を呼ばれた剣は強く発光する。
そしてその先端から大地に向かって魔力を放ち、周囲に己の分身を作り出していった。
キィン!!キン!!キィン!!・・・・・・
勇吾を中心とした半径数十mの地面から千を超えるかと思える数の剣が突き出す。それらの剣は生きているかのように先端を斬るべきに相手に向けて傾き、主の合図とともに発射された。
「行け!!」
全ての剣がミサイルのように飛び、いまだ蠢く2本の腕に向かって襲い掛かる。狙った敵は、それは外すには大きすぎる的だった。
『『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』』
2本の腕が苦痛の声をあげる。
腕全体に数百本の剣が突き刺さっていき、貫通していくのも数十本では済まなかった。腕の表面を覆っていた亡者の顔が次々と切り刻まれ砕け散っていく。
「縛れ!布都御魂!!」
勇吾は愛剣を投げる。
そして束に繋がった鎖の端を掴む。
鎖は無限に増殖する勢いで伸びていく。先端にある剣は荒魂の2本の腕の周りを何度も周回し、次第に繋がっている鎖が何重にも縛り上げていった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
鎖を力一杯引っ張り上げ、縛った荒魂を空に投げ飛ばす。
「黒!!」
勇吾は空にいる相棒に合図を送る。
上空にいた黒王は口を広げ、その先に闇色の球体を作り出していた。球体には凄まじい量の魔力が注ぎ込まれ、周囲の大気を振動させていた。
そして黒王の視線の先に鎖で縛られた2本の腕が飛んでくる。すると荒魂を縛っていた鎖は解け、荒魂の腕だけが黒王に放り出される。
『オオオオオオッ―――――――――――――!!!』
咆哮をあげ、球体に溜めていた魔力を一気に解放し放つ。
解放された魔力はゲームなどでドラゴンが口から吐き出す炎――――某漫画の魔導士のブレスみたいな――――がより濃密度になったように形で放たれ、荒魂を飲み込んでいった。
『――――――――――――――――――!!!』
自身の魔力を超える闇の咆哮に、苦痛の声を出す事できない荒魂は闇の中へ消え去っていった。
こうして、数百年前から続く1柱(または2柱)の神をめぐる因縁はここに終結したのだった。
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勇吾を背中に乗せた黒王は慎哉の目の前に降りた。
大きな音とともに大地を震わせながら着地し、黒王は大きく広げた翼を収めると、勇吾は慎哉の前に飛び降りた。
「無事だったか?」
「勇吾ぉぉぉぉぉぉ―――――――――!!!!!」
慎哉は本日最高のテンションになっていた。
「なっ、飛びつくな!!」
「スゲェ!スゲェ!スゲェ!スゲェ!スゲェ!スゲェ!あんなのアニメとかでしか見た事なかったぜ!!」
「―――――――っ!当たり前だろ!あんなのが現実のそこら中で起きてたら大混乱だろ!?それ以前に、お前、自分がこれがどれだけ危険な状況だったのか理解してるのか!?」
『・・・・見たとおりだと、とても思えないな。』
黒王は呆れた顔で見ながら溜息を吐く。周囲を見渡すと、この辺りにまでマグマの砲火が届いている事が一目で見てとれた。
にも関わらず、このテンションである。ただ、見た目からは想像できないが、彼自身は命の危険にさらされていたと言う事は自覚している。何せ、自分の立っていた場所にも「直撃=即死」であるあのマグマの砲火が降り注いできたのである。
勇吾達は見ていなかったので知らないが、あの時の慎哉は絶叫を上げまくっており、今すぐにでもこの空間から逃げたくなるほどの恐怖に襲われていたのである。
だが、その恐怖以上の感情を彼は包まれていた。怒り狂う荒神、そして荒神から分離した荒魂と戦う勇吾と黒王の雄姿に対し、尊敬や憧れと言った言葉では表現しきれない感動を彼は抱いたのである。
「黒も凄かったけど、お前の『アレ』何だよ!?無限の〇製か!?〇ateかよ!?その剣、どれだけスペック高いんだ!?」
「あ~~~も~~~!そんなに気になるなら視ればいいだろ!!」
慎哉の質問の嵐に、両手で耳を塞ぐ勇吾。
言われてみればそうだなと、勇吾の背後に移動して彼が背負っている大剣に《ステータス》を使ってみる。
【布都御魂剣】
・日本神話に出てくる神剣(霊剣)。元々は軍神建御雷の愛剣。剣自体も神。
・【能力】《浄化》斬った対象の毒・呪いを無効化し、悪霊などを浄化する。
《無限鋼鎖》どこまでも伸び続けることが可能な鎖。結界効果あり。
《剣性吸収》特殊な剣・刀の形状・能力をコピーし自由に使える。発動条件あり。
《剣創造》イメージした剣を創造する。複数の制限あり。
《自己修復》破損しても魔力を与えることで修復される。
・チートアイテムキターーーー!!!まさに神が持つに相応しい剣!日本版エクスカリバーのひとつだ!人間が持てばそいつは勇者だ!英雄だ!日本で此奴と張り合えるのは天叢雲剣だけ!さあ、此奴をふりまくって目指せハーレム勇者!!
伝説の剣だった。
「うおぉぉぉぉ!!!チートソードだぁ――――!!」
「うるさい!少し静かにしろ!!」
『その剣をチートと呼べるかは知らないが、更に上を行く剣ならまだ存在するが?』
「マジで!?欲しい!!」
「聞け!!」
「つーか、何か砕けてきてね?」
思わず剣を抜きたくなる衝動を感じる勇吾。
そんな勇吾を宥めつつ、黒王は光に包まれながら人型になった。
「勇吾、お前がそこまで素を見せるのは珍しいな?」
「・・・・・・。」
「え!?こっちが素なのか?」
「普段は冷静を装っているが、根は所謂熱血キャラだ。」
「黒!!!」
「フッ、本当の事だろ?」
黒王に自分の本性をばらされ顔を真っ赤に染める。それを見た慎哉はニヤニヤしながら勇吾の肩を叩いた。
「何だ、似た者同士だったんだな?」
「違う!!」
「まあ・・・・・・確かにそこまでではないな。」
黒王は自分の記憶の中にある「とある馬鹿」を含めた一部の人間達の顔を思い浮かべる。が、頭がおかしくなりそうだったのですぐにやめた。あの者達との記憶の中には自身の黒歴史もいくつか含まれていたからだ。
「それはそうと、この結界をそろそろ解除したらどうだ?」
「―――――そうだった。」
頭を振り、とにかく冷静さを取り戻した勇吾は右手を挙げ、パチンと指を鳴らした。
瞬間、世界は真っ白な光に飲み込まれていった。
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光が消え、3人は元居た学校の校庭に立っていた。
さっきまでいた異空間と違い、街中には明かりを灯す家が疎らにあり、繁華街からも明かりや音が届いてくる。
「・・・・ふう。」
「―――――――戻ったのか?」
行った時と同様に呆ける慎哉。
その隣で勇吾は緊張の糸が切れたようにその場に座り込んだ。
「お、おい!?」
「思ったより消耗したようだな。」
「ああ、《スローワールド》だけでも100万は魔力を消費したからな。」
勇吾は自分の魔力の残量を確認した。
勇吾の魔力の残量は最大値の4分の1近くまで減っていた。遠くから見ていた慎哉にはわからなかったが、勇吾は神と戦うのに相当の魔力を消費しているた。
最初に使った《スローワールド》、現実と似せた空間を創るあの魔法は特に消耗が激しい。尚且つ、下級神レベルとはいえ、神を閉じ込める程の強度にまでするとなると、勇吾の適正レベルでは100万以上の魔力を確実に消費してしまうのである。まして、倒すともなると一撃毎に消費する魔力は万単位になる。さらに慎哉を死なないように守る為に―――念の為に―――30万近い魔力を使っていたのである。
「おい、大丈夫か?」
「――――ああ。とにかく今夜はこれで終わりだ。」
慎哉の手を取って立ち上がる勇吾。
「なあ、俺もお前くらい強くなれるのか?」
「・・・お前次第だろうな?才能だけ見ればかなりいいものを持ってるからそれなりに伸びるさ。」
実際の所、勇吾も黒王も慎哉は相当強くなると予想している。ステータスを見ただけでも、勇吾にはなかったレベル4《氷術》を持ち、《体術》もレベル3だ。覚醒直後でこれだ。今後はもっと能力が増えていく可能性は高いと、2人は自分達の経験から想像できた。何より、ステータスだけでなく慎哉自身を見ていてそうなるのではと直感していたのだ。
「とにかく、今夜はもう帰った方がいい。お前も早く家に戻らないと親にばれるんじゃないのか?」
「あ!!そうだった!!」
家族に無断で家を抜け出したことを思い出す。
年齢から言っても今の勇吾と慎哉は慎哉徘徊する中学生にしか見えない。勇吾に至ってはまだ布都御魂剣をまだ背負ったままなので銃刀法違反も加わる。
「―――――フッ。俺が送ろう。」
「って、おお!?」
「へ、黒!?俺は1人でも―――――!」
「無理はするな。」
黒王は2人はそれぞで抱えると、全身を《ステルス》で隠しながら夜の街を跳んで言った。
慎哉は興奮しながら楽しんだが、勇吾は顔を真っ赤にしながら抵抗できずに運ばれたのだった。
次回からは日常編?の予定です。
女の子も増やしたいです。




