第97話 初仕事
ギルドを後にした慎哉達は店長の案内の元、この辺りで子供達が隠れて遊びそうな場所へ案内してもらった。
依頼にあった迷子の名前は『蒼穹玲真』、港湾区に住んでいる銀行員の長男で今年で6歳になるらしい。
どうやら最近魔法にハマっているらしく、近所の知り合いから魔法を教わってヤンチャを繰り返しているらしく、今日も朝から友達と一緒に海岸の方へ遊びに行ってしまったらしい。
依頼人は今日の午後から家族で地方に出かける予定らしく、出発時刻までに息子を連れてきてほしいそうだ。
「この界隈でチビどもが遊ぶとしたらこの辺だろうな。気をつけろよ、この国のガキどもはお前らの国の人間よりも身体能力が高い上に、普通に魔法も使えるからな!」
「あ、それは十分知ってるから!」
「・・・・嫉妬できないほどにな。」
「まあ、予想はしていたけどね。」
晴翔と琥太郎は苦笑しながら辺りを見渡す。
店長が案内してきたのは小型の船舶などが停泊している光景が見える埠頭の近くだった。
周囲には今は使われていない古い倉庫などの建築物が観光名所として残っており、四龍祭の近い今は近くの住民達が飾り付けをしている姿が見られる。
「今は祭の準備でどこもいろんな資材が歩道とかに置かれているから死角ができやすいんだ。で、イタズラ好きなガキどもはそこに隠れたり廃材とかくすねたりするわけだ。」
「あ~、俺も昔似たような事したな~!」
慎哉は妙に懐かしそうに言った。
琥太郎も似たような経験があるのか、「あったね。」と小さく呟いた。
晴翔だけは家庭の事情などでそう言う経験は無く、「そうか。」と適当に流した。
「じゃあ、俺はここで待っているから、後はお前らで何とかするんだな!」
「ああ、ありがとなオッチャン!」
「案内、ありがとうございました!」
「助かったぜ。」
3人は店長に礼を言うと、迷子探しを始めた。
方法としては、慎哉は建物の上に跳んで肉眼を頼りに探し、晴翔は《探知魔法》を使って探し、琥太郎は《風術》を応用してそれらしい子供を探していった。
最初の10分は空振りの連続で、別の子供や何故か子供の姿に変身したオッサンばかりしか見つかった。
なお、度々「バカがそっち行ったぞーー!」と言った叫び声がしたが、慎哉以外の2人は住民達同様にスルーした。
そして次の10分が経とうとしたとき、琥太郎の風がターゲットらしき人物を発見した。
「いた!南南西130m、小さい子が5人いるよ!」
「――――こいつらか!」
琥太郎の知らせと同時に、晴翔は探知魔法でその子供達を捉える。
そして、依頼書にあった子供の特徴、魔力の量や属性を確認する。ついでに魔法の使用の有無も。
「ビンゴだ!特徴がピッタリの奴がいたぜ!どうりで見つけ難い訳だ。全員に《結界魔法》がかかっていて、探知を避けてやがった!」
「けど、完全に成功してなかったみたいだね。雑で穴が結構あるよ!」
〈慎哉、俺も誘導しながら向かうから、先に行って捕まえてこい!〉
〈OK!〉
返事を簡単に済ませ、慎哉は屋根づたいにターゲットの場所へ向かった。
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その場所へは10秒もかからず着き、屋根の上から下を見おろすと5~7歳の男の子達がヒーローごっこをしていた。
「消し炭になれ!翔龍爆牙―――――――!!」
「させないぜ!コキュートスストーム!!」
赤髪の子の手から炎が飛び出し、相手の黒髪の子の手からは水流が飛び出し、互いの攻撃は相殺した。
(おいおい、遊びの割に危なくね!?)
日本なら決して見られない“遊び”の風景に冷や汗が流れそうになった。
慎哉はヒーロー役をしている男の子に《ステータス》を使い、その子が探している『蒼穹玲真』であることを確認し、さっさと捕まえるべく飛び降りた。
「うわっ!何者だ貴様!?」
「ハッハッハ!お前を捕らえに来たぜ、玲真!」
ついノリで言ってしまった慎哉だったが、意味は伝わったらしく、玲真達は動揺し始めた。
「皆の者、退却~~~!!」
「逃げろ~~~!」
「「「わぁ~~~!!」」」
子供達は散り散りに逃げ始めた。
慎哉はすかさず逃げ道を塞ぐ。
「逃がすか!《アイスウォール》×3!!」
「うわあ!」
逃げ道を氷の壁で塞がれ、何人かの子は諦めて座り込んだ。
だが、玲真だけは諦めようとはせず、近づいてくる慎哉に魔法を放ってきた。
「悪代官の使いめ、聖なる炎をくらえ!《ファイヤーアロー》!!」
(悪代官って、自分の親のことか?)
などと思いつつ、小さな火の矢を冷気を纏わせた片手で受け止める。
「そん―――――うわぁっ!?」
「大人しくしろ、悪ガキ!!」
「お!ナイスタイミングだぜ、晴翔!」
屋根の上から飛び降りてきた晴翔に、慎哉は「グッジョブ!」とサインを送る。
玲真は晴翔の《捕獲魔法》により、見えない壁の球体に閉じこめられていた。
「この子達も家に送った方がいいかな?」
慎哉の背後から、琥太郎が4人の子供を連れてやってきた。
子供達は琥太郎に大人しく従っており、逃げる気はないようだ。
「それじゃ、依頼人の家に連れて行こうぜ?」
「うん!」
「ああ。」
「出せ~~~!」
玲真は家に着く直前まで抵抗をやめなかった。
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依頼人の家は港湾区の河口沿いの住宅地にあった。
隣家との間は空き地と言うより小さな森林になっており、違和感のない家と木々が共存した光景になっていた。
一種の芸術品にも見える家の前で、5人のチビッ子達は恐怖におびえていた。
「おバカ!!」
ゴン!×5
背中に赤ん坊をおぶった女性は鬼の形相で5人に鉄槌を落とした。
「攻撃魔法で遊んじゃダメって何度も言ったでしょ!!火事になって死んだらどうするの!?」
「「「「「ごめんなさい・・・・・。」」」」」
さっきまで勇者や魔王だった子供達は今、皆等しく鬼神の説教を受けていた。
「ガミガミガミガミ――――――――――!!」
ご近所中に間違えなく聞こえている声だったが、誰も文句を言わず、苦笑したりして見届けていた。
「ありがとうございました!お陰で午後の予定に間に合うことができます。これが依頼達成のサインです。」
「はい、確かに確認しました。」
依頼達成の証明書を琥太郎が受け取り、3人は無事に依頼を達成した。
そして3人がギルドに戻ろうとしたとき、目の前に意外な人物が現れた。
「―――――お前達。」
「えっ!?」
「あ、ヨッシーの兄ちゃん!」
慎哉達の前に現れたのは竜則だった。
突然の国王の来訪に周囲は騒然・・・・することはなく、まるでいつもの事のような落ち着いた反応だった。
「何でここに来たんだ?」
当然の質問に、竜則は背後で涙目になっている子供達を一瞥しながら答えていった。
「・・・お前達が捕まえてくれた子供の1人は王族で、つまり俺の従兄弟なんだ。今日は伯父夫婦達が留守で預かっていたんだが、子守をしていた者の隙を突いて逃げだし、こうなった訳だ。」
「マジで?」
「全く、懲りない奴等だ!!」
ゴキ!ボキ!
聞くだけで寒気がする音を鳴らし、竜則は未だ鬼神に叱られ続ける子供達の元へ行く。
「――――――あ!国王陛下!」
「あ・・・竜兄!?」
「・・・・お前等、覚悟はいいな?」
ボキ!
「「「「「うわぁ~~~~~~~~ん!!」」」」」
その後、他の子供達の親が揃い、凱龍王国名物、国王直々の『スーパーO☆SHI☆O☆KIタイム』が正午まで続いた。
その日、港湾区の一角で火柱のような怒気のオーラが出たと夕刊の片隅の記事に載っていたとか。
・同時連載の『ボーナス屋、勇者になる』もよろしくお願いします。




