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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第9-1章 凱龍王国編Ⅰ―1日目―
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第93話 入国

・日曜1話目です。

8月某日 早朝 《ガーデン》


 その日のガーデンは、まだ朝なのにも係わらずいつもより賑やかな声が響き渡っていた。


「え~~、凱龍王国行きの皆さんはこちらにお集まり下さい!」


「おいバカ、朝早くから何やってるんだ?」


「ツアーガイドごっこ♪」


 ドン、とイイ音が今日も響いた。


 今、ここには異世界旅行ーーー正確には馬鹿が(勝手に)主催した「夏の凱龍王国ツアー?」の為に、帰省する勇吾達はもちろんのこと、慎哉や琥太郎など、日本人組が大勢集まっていた。


 ただし、日本人組全員が来ている訳ではなく、何人かは家庭の事情や“別の事情”で来れない者もいた。


 だが、大半の者は馬鹿が根回ししたお陰で(不満がある者もいたが)すすんで参加してくれていた。


「晴翔は荷物はそれだけなんだ?」


「ま、着替えだけと財布とかだけで充分だろ?」


 それは学校側のスケジュールの変更で運よく(・・・)時間ができた琥太郎や晴翔だったり・・・・


「あれ?なんだかんだで瑛介も行くんだ?」


「仕方ねえだろ?バイト先だけじゃなく、家にまで手を回されてちゃよ!」


「その割に、荷物に気合いが入ってるだろ?」


「~~~~~!!」


 それはバイト先の店長が運良く当たった海外旅行で休暇が得られた勤労少年だったり・・・・


「キャー!イイ男がイッパーイ!!」


「目指せ、玉の輿よーー!!」


「あ!紫織は関係ないわよね?」


「だから違~~う!!」


「兄ちゃん!ワクワクするね!」


「ああ・・・そうだな・・・。」


 馬鹿の陰謀により、弟だけでなく取引先のお嬢とその友人3名と一緒に行く羽目になった転生者もいた。


「良樹も来れたら良かったのにね?」


「家族旅行なんだから仕方がないだろ。まあ、その家族旅行自体胡散臭いが・・・・。」


 そんな愚痴が数名の口から漏れながら時間は過ぎていった。



「あ~あ~!これより、入国時の注意事項についてヨッシー王子から説明がありまあ~す♪」


「え?」


 馬鹿は良則にマイクを渡し、その直後に締め技をかけられて落ちた。


 その後、良則が簡潔に向こうの世界でのマナーなどを含めた注意事項を話していき、勇吾は入国許可証を兼ねたカードを配っていった。


「―――――では、出発するか。」


「ああ、頼む。」


 勇吾に確認をとると、黒王は《時空の門》を自分を中心にして発動させた。


 《時空の門》、その名の通り異世界へ移動する出入り口を開く能力だ。


「では、出発だ!」


 勇吾の声とともに、一同は凱龍王国へと出発した。




----------------------


凱龍王国 凱王城下層部


 公設の転移装置(ゲート)の前に、若い王が弟と並んで立っていた。


 その背後では20人ほどの武装した男女が整列して立っていた。


「・・・・来たか。」


「全員構え!今度もあのバカを取り逃がすな!!」


「「「ハッ!!」」」


 武装した者達は“ある人物専用捕縛武装”を前方に構える。


 そして、転移装置の中央が光りだし、1人の馬鹿だけ(・・・・)が現れた。


「到着!そして逃げる!!」


「「確保――――――!!!」」


「「「おおおおおお!!!」」」


 竜則と剛則の合図と共に、『バカ狩り部隊』が馬鹿に襲い掛かる。


 逃走しようとする馬鹿を捕縛するミッションが始まった。



-------------


同時刻 凱龍王国 竜江ゲートポート


 その頃、約1名だけを事前の打ち合わせ通りに別のゲートに送った黒王は、それ以外の者達と共に首都の港湾区にある『竜江ゲートポート』に転移していた。


 この世界(以後、リンクワールドと呼ぶ)に点在する各国の主要都市には貿易と交通の拠点である空港や港の他に、『ゲートポート』が存在する。


 ここは船舶や航空機ではなく、『転移装置』を利用して他国や異世界(・・・)へ移動する国営施設である。


 ただし、基本的には“異世界へ移動する為の専用港”としての側面が強く、他国への移動は特別な行事以外では災害時の軍隊派遣などでしか利用されない。


 これは全ての貿易や交通を『空間転移』に依存すると必然的に大量の魔力が必要になり、いずれ――物資のみを転送(・・・・・・・)する場合、『転移装置』の使用魔力の何割かは自然魔力を使用する為――この世界に流れている自然魔力が枯渇して環境問題に発展するのを防ぐ意味もある。


 それは異世界への移動でも同じことが言えるように思われるが、いくつかの“例外”を除けば基本的に異世界へ移動するのは冒険者や旅行客、民間企業や公的機関の調査団などの人の移動がメインであり、その場合は魔力の負担は利用者側が負担する事が原則となっている。


 一見利用者側への負担が多いように思えるが、リンクワールド内の全国家間で作られた法律では、「異世界へ移動する者は最低限の自衛手段を有しなければならない」と決まっているので、異世界へ移動する者は例外なく魔力量が最低でも100万を超えているのである。


 対して、異世界へ移動する際に消費する魔力は移動先によって異なるものの、大体1人当たり10万~40万となっている。


 本来、魔法などで自力で異世界へ移動する際に消費する魔力は、個人差があるが基本的には軽く50万を超えるが、『転移装置』は移動の際の負荷を最小限に抑えるので、消費する魔力も最大で2割にまで下げられる。そのため、実際に利用する側からすればそもそも負担にも感じられないのである。


 さて、話は戻り、黒王の力で凱龍王国へ転移した日本人メンバーは始めて見る光景に目を奪われていた。


「スッゲェ~~~~~~~~~~!!!」


 慎哉はドーム状の天井を見上げながら声をあげた。


 彼らが今いるのは四方を外の景色が見えるドーム状の建物の中だった。


 窓、と言うより壁の向こう側には日本とは明らかに違う事を思わせる異世界の海と港が広がっていた。


「―――――――――ここが凱龍王国の首都か・・・・・。」


 蒼空は興味深そうに外の景色を眺めていた。


 隣に立っていた龍星は目をキラキラさせながら今にも飛び出しそうになっている。


 それは他の面々も同じで、自分達が異世界に到着したのだと理解すると我先にと外を見渡せる部屋の端へと走り出していった。


「キャァァァ!!見て見て、あそこにペガサスが飛んでる!!」


「キャァァァ!カワイ~~~~~~~♡」


「ねえねえ!あれってワイバーンじゃない!?」


「・・・・・マジでドラゴンの国かよ。」


「ヨッシー!あそこに見える城がお前の家か!?」


「あ、言ってなかったけど、僕の実家はお城じゃなくて別の家だから!あそこは日本の議事堂みたいな場所だよ。」


 興奮が収まらない光景が何分も続こうとした時、彼が集まっている壁の反対側、通路が見える場所から男性の声が聞こえてきた。


「そこのお前達、騒ぐ前に入国の手続きを先にしておけ!」


「あ!竜兄――――――!!」


「お前ら、あそこにいるのがヨッシーの兄ちゃんだぜ?」


 通路から現れたのはこの国の国王であり、良則の兄である竜則が声を出すと、良則は歓喜の声を上げ、トレンツはどうなるか(・・・・・)分かった上でみんなに竜則を紹介した。


「「「キャァァァァァ~~~~~~~♡」」」


 すると、女性陣がピンク色の声を上げて竜則目指して突撃して行った。 


「・・・・トレンツ、お前・・・・。」


「ハハハ、やっぱこれはお約束じゃん?」


「あ、竜兄が!」


「大丈夫じゃない?毎度のことだし?」


「そうね、別に命の心配は必要ないし、王様なら余裕でかわせるでしょ?」


 毎回の光景を勇吾達凱龍組は平和に眺めていた。


 その後、竜則が今年からできた“伝家の宝刀”とも言える、どんなファンでも一瞬で撃沈させることのできる一言を喋って女子勢を鎮め、そのまま全員を先導して入国手続きを行う場所へと案内していった。


「あ、そう言えば丈は何でいないんだ?」


「「「―――――――――――――――」」」


 慎哉がフと気づいて勇吾に訊くと、勇吾以外の凱龍組は一斉に視線を逸らした。


「・・・・あのバカなら、ついさっき捕獲して刑罰に処しているところだ。」


 竜則が軽く溜息を吐きながら答えると、勇吾達は驚きながらも安堵の声を持出した。


「――――――早かったな?」


「最初はまた取り逃がすところだったが、たまたま通りかかった祖母(・・)が瞬殺してくれた。」


「「「ああ~~~~~~。」」」


 勇吾達は納得のいく声をあげた。


「祖母って、ヨッシー達の祖母さん?」


「うん、この国の先々代王妃で僕や竜兄達のお祖母さんだよ。今はお爺さんと一緒に郊外で・・・・・・仲良く暮らしてるよ?」


「今、何か間が空いてなかったか?」


「――――――――気のせいだ!」


 この話はここまでと、竜則が強制的に止めると、一同は通路の出口からゲートポートのロビーに到着した。


「「「お~~~~~~~!」」」


 そこは一見すれば空港のロビーと大差はなかったが、各所にある設備などは日本の空港とは大きく異なる部分が多かった。


「彼らの手続きを頼む。」


「ハイ!お任せください、陛下!」


 竜則は待たせていた職員に慎哉達の手続きの方を任せると、職員もビシッと気を引き締めて答えた。


「え・・・・・陛下?」


 訊いたのは琥太郎だった。


 すると、トレンツはニヤケながらそれに答えた。


「あれ、言ってなかったっけ?ヨッシーの一番上の兄ちゃんはこの国の国王陛下だぜ?」


「「「えええええええ――――――――――!!!???」」」


 良則が王子だと言う事は知っていた彼らも、まさか国王直々に出迎えてくれていたという事実に驚愕するしかなかった。


 ちなみに、これは過去に何度もあったお約束の行事なので職員や他の利用者達は特に驚く事もなく、一瞥だけして仕事や手続きに戻っていった。










・ヨッシーは家族の話をほとんどしていませんでした。


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