番外編4 神々の日常~横浜を護る神々による天罰~
・番外編もこれでラストです!
・今回はたくさんの日本の神様達が登場するお話です。知っている名前も出てくるかもしれませんよ?
「えーと、常立さん?」
「・・・・・・・・。」
よう!みんなご存知ライ様だ!
え?どんな状況かって?簡単に言えば、社の中で正座させられてるぜ!
ちなみに俺を無表情で睨むこのイケメンはここの主祭神の国常立様、日本じゃ一番古い神とも呼ばれるスッゴク偉い神様だぜ!俺なんかカスと言える位に!!!
ちなみに、俺は常立様にこの前の横浜での一件について尋問されている。なにせ、あの事件では横浜に社を持つ神達も多大な被害を受けたのだから無理もない。当事者の俺は重要参考人って訳だ。
「・・・ライ、大体の事は分かった。こちらで集めた“事実”にも符合している。」
「そうか、じゃあ俺はこれで・・・・・」
さあ、今日も遊びに行くぜ!
「だが、その翌日からお前を含めた数柱の神が頻繁に天罰を落とした理由はまだ言っていないな?」
「え?何の話ですか・・・?」
ヤバ!しっかりバレてるよ!?
ちょっと調子に乗っちまったぜ?
「―――――――話せ。」
「・・・・ハイ。」
しょうがない、事件翌日からの俺の活躍を話すとしますか。
けど常立様、無表情は怖すぎるのでヤメテください!
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【ケース1】――女の敵を許さない女神の場合――
8月某日 横浜市内 とある甘味屋
事件後、横浜で最初に俺に接触してきたのは日本のシンボルで祀られ、女性の強い味方でもある女神だった。
「―――――という訳なのよ、協力してくれない?」
「なるほどな~~。それで俺を呼んだのかよ、サクヤちゃん?」
とある甘味屋で、俺は付き合いの長い女神、サクヤちゃんと餡蜜を食べていた。金は俺持ちだ。
「けど、みんな忙しい時にやるのか?今はカースが荒らした土地を整えるのが先じゃねえの?」
そう、今はカースが暗躍した影響で横浜周辺の気の流れ、つまり自然魔力のバランスが乱れたり淀んだりしている。おかげで現在、横浜やその近隣の土地を担当している神様達は大忙し・・・・のはずだが、サクヤちゃんは何故か俺と餡蜜を食っている。
「いいのよ!その辺はお父様達だけでも十分よ。私は本業として女の敵を抹殺するわ!」
頑張っている神様の中にはサクヤちゃんの子孫もたくさんいるんですけど?
「・・・・サクヤちゃん、もしかして酔っぱらってないか?」
サクヤちゃんは酒造の神様でもあるからなのか、よく酔っ払ってる時が多いんだよな。
「酔ってないわ。今朝は度数の低いのしか飲んでないから。」
「飲んでるじゃん!」
「別にいいじゃない、せっかくのお供えを無駄にしちゃもったいないでしょ?それに、こっちは飲まなきゃ身も心も持たないのよ。知ってるでしょ?私の夫の噂は?」
「ああ・・・・、そう言えばさっきから痛い視線をビンビン感じるな。」
言い忘れたが、サクヤちゃんは既婚者だ!お姉さんと一緒に自分に求婚した某農業神に嫁いだのはいいが、その旦那は一緒に嫁いだサクヤちゃんのお姉さんを醜いと追い返すわ、妊娠したら不倫を疑うわの問題の多い奴だったんだよな。お蔭でサクヤちゃんは若干男性不信なとこがあったりする。
ちなみに、さっきから遠方より俺達を監視する視線があるのだが、誰の視線かは言わなくてもわかるだろう。
「全く、ちょっと外出するだけでこれなんだから。この前なんか、ウカと一緒にショッピングした時だって隠れて見張ってたのよ?」
「同性同士でもかよ?どんだけ疑り深いんだ、アイツ?」
ああ、ウカって言うのは一言で言えばお稲荷さんのことだ!
「――――話は戻すけど、お願い♡」
「何で俺なんだ?」
「ウズメに聞いたわよ?人間と契約してからは、年がら年中天罰を無料配布しているって!」
「ウズメちゃん、どんな説明を・・・・・・・・。」
無料配布って、ティッシュと一緒にするなよ。
しかし、女神同士の情報網と言うのはとにかく侮れない。
俺の噂も既に全女神に知れ渡っていると見た方がいいな。
「じゃあ、早速行くわよ?」
「へいへい・・・・・・。」
ま、超年長者のお願いは、俺としては無闇に断れないからな。
俺は餡蜜を食べ終えると、サクヤちゃんと一緒に『女の敵』の討伐に向かった。
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同日 市内某病院
俺達が向かったのはこの前の事件の被害者達が入院する病院だった。
「うわ~~、確かに嫌な“気”が病室から漏れてるな~~~~?」
「でしょう?あいつら、私の土地で変態行為を何度も繰り返しているのよ!しかも、警察にバレテも親に頼み込んで揉み消してまた襲うの繰り返し!」
「クズだな!」
何所にもいるんだよなあ、親の威光を頼りに犯罪繰り返す連中!
何か俺も腹が立ってきた!女の敵は俺の敵でもあるしな!
「この前の事件だって、《大罪獣》にされた被害者の何人かはあのクズ連中に彼女を襲われた人達なのよ!ああいう元凶を絶たない事には、この前みたいな事が何度も繰り返されるわ!」
ん?何か聞き覚えのある話のような気がしたな?
「《大罪獣》になったクズもいるけど、そっちは“例の事情”で手を出す気はないわ。取り合えず、まずはあの連中からお願い!」
「よし!けど、サクヤちゃんも手伝えよ?」
「もちろんよ!私の氏子達の仇、しいては女性の敵は私も直せず抹殺するわよ!!」
「・・・・・・殺すのはダメだぞ?」
駄目だ。目に火がついて聞こえてそうにない。
まあ、取り敢えず天罰下すぜ!
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そして、(サクヤちゃんが指名した)クズども全員が俺の結界の中に集められている。
『――――――と言う訳で、お前らに天罰を下す!!』
もちろん俺は雷鳥モード、サクヤちゃんも華やかな着物を着て女神モードで降臨だぜ!!
なお、集められた“女の敵系”クズは200人弱、ほとんどが捕まっていないレイプ犯や痴漢のおっさん、あとは親の威光でやりたい放題のバカボンどもだ!
「――――――ふざけるな化け物!!」
「さっさと帰せ!!」
『―――――――神だから、全員性転換させられるぞ?』
「「「――――――――――――――――――!!!」」」
よし、黙ったな。
こいつら、下半身が本体みたいな事ばかりやってるからな。これはよく効くな!
あ、ちなみに性転換は俺の専門外だからハッタリだ!変身系はできるけど♪
『―――――罪無き娘達の純粋な魂を傷付けし罪人達よ、木花咲耶姫と天神雷鳥大神の名の元、そなた達に神の裁きを下しましょう!』
おお!すごい迫力だな?クズどもみんなビビってるぜ♪そりゃあ、神様が悪人を裁くなんて現代人なら大抵信じちゃいないからな。
さて、俺達流にOSHIOKIだ―――――――!!
あ、言っとくが貞操がどうとかっていう感じの天罰はやってないからな?
ちょっと、地獄を案内したりはしたけど命までは獲ってないぜ?
精々、知らない方がいい様な場所に強制転送したり、世にも恐ろしい大魔王の根城に放り込んだりとかしかしてないぜ?
後日、被害者の一部がが再び行方不明になるというニュースが全国放送で流された。
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「ホウ・・・・・?」
常立さん、感情が読めない顔で見つめないでください。
すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ライ、よくやったじゃない!私からも褒めてあげるわよ♪」
「―――――ウズメか?」
「常立さん、私はライとサクヤのとった行動を支持するわ!女の敵は私の敵だからね♪」
「・・・・・・いいだろう。木花咲耶姫との件はこれで終わりだ。ライ、次の話を始めろ。」
「・・・・・ハイ。」
フウ、ウズメちゃんのお蔭でまず1回乗り越えたぜ!
さて、次の話は――――――――――
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【ケース2】――大手より地元中小企業を応援する神の場合―――
8月某日 横浜中華街
その日は気まぐれで中華街で食べ歩きをしていた。
すると、とある中華料理店の前を通過しようとした時、店内に見覚えのある奴がいた事に気付く。
「ん?もしかしてイタケルにカネヤマか?」
「お!久しぶりだな、ライ!」
「モグ・・・・ライか?」
そこにいたのは、横浜を中心にたくさの社を構えている五十猛神、通称はイタケルで何を隠そう、あのスサノオの息子だ!
その向かいの椅子に座ってチャーハン食ってるのは、イザナミ様のゲロから生まれた鉱山を始めとする金属関係の神、金山彦神だ!
「おいおい、お前らが人に混じって食事とかって珍しくないか?てか、日本の神様が中華街でランチってどうよ?」
「お前にだけは言われたくはないな。年がら年中、世界中で食べ歩きをしているだろ?」
「だって~~~、俺ってまだ若いし~~~?」
「――――神に年齢など関係ないだろ!」
そりゃそうだ。大抵のメジャーな神様は俺より超年上だからな。
俺は開いている席に座ると、適当に注文をして待ってる間に2人と話し込んでいった。
「そうそう、この前はお前の親父にとんだ厄介事を押し付けられたんだぜ?知ってるか、七大天使が相手だったんだぜ?」
「押し付けられたのはお前の契約者で、お前は親父と酒飲んでただろ?」
「うんうん、この前も全然戦ってなかったしな。みんなしっかり観てたんだぞ?」
う~~ん、流石は古き神格の方々、嘘などはそうそう通じなさそうだ。
「で、お前らはここで何をしていたんだ?一次産業と二次産業を司るお前らがそろって食事って事は、何か相談事でもしてたのか?」
イタケルは西の方だと林業の神だが、他にも漁業や造船業、あと海運業の神様もしている。
カネヤマは先に言った通りの金属系の神、鉱業や金属加工業など、職人系の神様だ。
「ああ、実はな―――――――――――」
イタケルの話を要約するとこうなる。
何でも、横浜だけでなく日本各地のそれぞれが祀られている神社にお参りに来る中小企業の社長さん達が気にな
る話をしてきたらしい。
それによると、各企業の製造している商品の質が下がっていないどころか向上しているにもかかわらず、そろいもそろって技術で劣る大手に仕事を奪われるケースが多発しているらしい。
そして、何故がベテランの社員ばかりが自分や家族に不幸が降りかかるという問題を抱えているらしい。
2人はそれぞれ神使を使って調査したところ、どうやら何者かが中小の皆さんから運気を奪い、一部の高所得層の人間にドンドン移しているらしい。
「―――――――――――『創世の蛇』だな。」
「やっぱりそう思うか?」
「もう400年近くになるな、奴らが世界中で暗躍し始めてから。」
「人間だけでは手に負えないだろうな。何せ、奴らの頭目は全員が神格なのだからな。とは言え、俺達が動くにはお前の様に契約者が必要だからな。」
「契約すればいいんじゃね?適格者なら、横浜にも俺の知り合いに何人かいるぜ?」
「だが、それは人間側から望まれないと成立しないだろ?」
「全くだな。さ~て、この件はどうしようか?」
おい、何でここで俺の方を見つめるんだ?まあ、大体予想はできるけど・・・・。
俺が契約者持ちなのは有名な話になってるからな。
「要は、奪われた“運気”を元の持ち主に還元すればいいんだろ?」
「・・・やってくれるか?」
「何だか無理矢理頼んだみたいで悪いな~~♪」
カネヤマ、心にも無いこと言うな!今後はゲロ神と呼ぶぞ!?ついでにここの料金はお前もちにすっぞ!
そんなこんなで、食事を済ませた俺は奪われた“運気”の回収を始めた。
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1、とある高級料亭にて
「――――――では、今後ともよろしくお願いします、先生。」
「ハハハ、何のなんの!専務も社長によろしく伝えてといてください♪」
真昼間から酒を飲んでるおっさんの集団、うん、間違いなく碌でなしだな!
俺らは悪徳代議士とどっかの企業の重役との密会現場に来ている。もちろん、姿は人間には見えないようにしてだ!
〈それじゃ、早速回収するか?〉
〈あ!ついでに天罰を含めて本人の分も何割か徴収するか!〉
〈だな!散々真面目に生きてる連中を食い物にした天罰を与えてこうぜ♪〉
〈・・・・お前ら、何か楽しんでないか?〉
そう言いつつ、俺はそこにいた連中から“運気”をごっそり回収した。
直後、オッサン達の腹が凄い音を鳴り響かせた。
「うっ・・・・!」
「は、腹が・・・・・・・!?」
「せ、先生・・・ちょっと、トイレに・・・・・!!」
その後、食中毒を起こしたオッサン達はトイレの前で仁義なき争いを繰り広げていった。
後日、犯罪の盛り合わせでオッサン達は逮捕され、警察や検察で取り調べのフルコースとなった。
当然、この料亭はすぐに営業停止処分となり、翌月には正式に倒産した。どうやら、この店はオッサン達の黒い金でできていたようだ。
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2、とあるセレブ私立学校
次に来たのは裕福な家の子供ばかりが集められたエスカレーター式の私立校、あからさまに性格の悪そうな連中が夏期講習などで集まっている。
俺達は校舎に隣接する職員棟にある理事長室に侵入し、そこにいた胡散臭い取引現場を目撃する。
「――――――これはほんのお気持ちです。」
高級品を纏った禿げたオッサンが、万札の詰まったトランクをアラフォーの女性理事長に渡す。
どう見ても法律無視しまくった光景だ。
「まあ、これは随分たくさんの肖像画ですね?」
〈それのどこが肖像画だよ!100%汚い諭吉の詰め合わせじゃねえか!〉
〈あ!この女、確か親父のとこの土地に住んでる氏子だぜ?〉
〈マジで?何でスサノオの氏子って変なのが多いんだ?〉
〈別に多くはないだろ?単に、こっちには親父を祀った神社が腐るほどあるだけだろ。〉
〈てか、首都圏はお前んとこの親戚を祀った神社ばっかりじゃね?〉
どうでもいい事を話しながらも、俺は強欲ババアと闇献金を渡したオッサンから“運気”を回収する。
その直後、ここでもその効果はすぐに現れた。
「おっと、少々失礼します。」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ。」
携帯電話が鳴ったオッサンはババアに礼をしてから電話に出る。
直後、オッサンは顔を真っ青になった。
「何、警察だと!?息子が自首して逮捕!?妻も別件で逮捕されただと!?」
〈あ!もしかしてこのハゲ、この前サクヤちゃんと抹殺したクズの親父か!!〉
〈ああ、そう言えばそんな話があったっけ?〉
そう言えば、あいつらあの後どうなったんだっけ?
一部はサクヤちゃんが樹海へと連れてって、他には国外追放したり、まあ他にもいろいろ・・・・・。
あ、今度はババアの携帯が鳴った!このパターンだと・・・・
「えええ!?娘が人身売買の共犯で逮捕ですって・・・!?一体何の話!?」
〈母娘そろってクズかよ・・・・。〉
〈きっと、他人の運で今までバレテなかったんだな。〉
その後、理事長室に警察や国税局がセットで押し寄せてきてババアもオッサンもお縄にかかった。
ちなみに、これも学校のトップの“運気”を回収した影響なのか、夏季講習で登校していた一部のお坊ちゃんやお嬢ちゃんも別件でお縄にかかった。スキャンダル学園だな。
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3、とある都内の銀行
あの後いくつも回収し続け、最後に寄ったのは東京のとある銀行の頭取室、そこではお約束と言わんばかりに胡散臭い取引が行われていた。
「これが来月以降発表予定の当社のプロジェクト情報です。」
「ほほう、今年は随分と攻めていっているみたいだね?この分だとまた株価が上がっていくな♪」
「ええ、今後もお約束の分さえ頂ければいつでも情報を流しますよ?」
〈・・・・今度はインサイダー取引かよ!〉
〈つくづく、人間とは欲深い生き物だな。ま、その分面白い人間はよく目立って俺らには都合のいい時もあるけどな♪〉
〈闇が濃いほど、小さい光も明るく輝くからな。〉
そんな皮肉を言いつつ、俺達は最後の回収を済ませる。もちろん、天罰分も含めてだ。
さて、今度はどうなるか・・・・・?
「と、頭取・・・・・!!」
「どうした、今は来客中だぞ?」
頭取室に真っ青な顔をした男が飛び込んでくる。
「頭取!今すぐテレビをつけてください!!大変な事になっています!?」
「「――――――――――?」」
さてさて、一体何が起きたんだ?
頭取のオッサンが部屋に設置されたテレビの電源を入れると、そこには高級住宅街に立つ豪邸が警察に家宅捜査を受けている光景が映った。
「な――――――――――!?」
「ど、どうやら代議士の先生方が身の危険を感じて告発したみたいです!頭取、おそらくここも・・・・・!!」
「・・・・くそっ!!あの野郎、全部こっちに罪をかぶせる気か!?」
なるほど、一緒に善からぬことをしてた連中に裏切られたか。
〈こう来たか・・・・・。〉
〈ああ、このパターンだと売った連中もすぐに逮捕されるだろうがな。〉
ちなみにその後、取引男の方もやってた事が全部バレテ職場を追われてお縄となった。
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「―――――それで、回収した“運気”は持ち主に返したのか?」
「ああ、ついでに少し色を付けといたぜ?お蔭で倒産寸前のところは寸でのところで助かったようだし、体を壊した氏子達も元気になったぜ!」
「ああ、そう言えばダーリンもそんなこと言ってたわね?」
ウズメちゃんのダーリン、つまり猿田彦ことサルのことだ。
あいつは道路の神だから土木系の職業にもご利益があるんだぜ?
「なるほど、どうやらこの2つの件は少々目立ち過ぎただけで問題はなさそうだな。」
よし!どうやら切り抜けられそうだ!!
「だが(・・)、最後の東京での騒動は・・・・・・・どういう事だ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
知らんぷり、知らんぷ・・・・・り・・・・・・・・。
「―――――――――言え。」
ハイ、ごめんなさい。
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【ケース3】――食べ放題が好きな軍神の場合――
えー、先に分かりやすく言えば―――――――――――
「肉持ってこーい!!」
「ビールだ!ビール!!」
「てめえ、それはこっちのもんだろうが!!」
「やるかコラ――――!?」
まあ、ハッキリ言えば日本の神の中でも脳筋というかバトルバカというか、つまり日本の軍神が東京のとある食べ放題のレストランに集合している訳だ。
俺?俺はスサノオに強制的に参加・・・正確に言えば拉致されて連れてこられた訳だ。
全員人間に化けているとはいえ、今ここには食欲旺盛な軍神がとにかく食いまくっている。
「おいライ、ボサッとしてないでお前も食え食え!」
「食えって、俺が食う前にお前らが食いまくってるんだろスサノオ!?」
俺が肉を焼けばそれをスサノオが食い、俺が寿司を持って来れば隣にいる連中が勝手に横取りする。
神様に年は関係ないとはいえ、年季が違うとこういう場では圧倒的に不利だ。
「フム、では私もカルビを頂くとしよう。」
そう言って、俺の向かい側に座っているムキムキのアスリートっぽい兄さんは神速の勢いで他のテーブルの網で焼いている肉を一瞬で回収していく。
「おい!俺の肉取るんじゃねえよ、韋駄天!!」
別の席でタケミナがトングを向けながら怒鳴ってくる。
肉を取った兄さんの名は韋駄天、言わずと知れた速さが売りの神だ。ちなみに、日本古来の神ではなく、元々はインドの方の(ヒンドゥー教の)神様をしていた。
怒鳴ってきたのは建御名方神、俺の同じ社で祀られている大国主の息子でスサノオの子孫だか孫らしい。確かに性格がそっくりだ。
「フム、それが自分の性分故・・・・。」
「クソッ!!」
「ガハハハハ、お前もまだまだ青いなタケミナ?」
「マザコンジジイは黙って酒飲んでろ!!」
「んだとぉーーーーー!?」
よし、バカ一家がケンカしているうちに俺も食うか!
俺はそそっと抜け出して皿に次々と御馳走を持っていく。
そして肉の大皿へ向かうと、俺より先に来た誰かがゴッソリと肉をかっさらっていきやがった!!」
「なっ!何全部持ってってんだよ、ミカヅチ!?」
「バカめ、全ての肉は最強である俺の物だ!」
肉を山盛りにした皿を持ちながら、建御雷神は言った。
こいつは雷神としても有名な日本神話においてスサノオと同等に有名な軍神、建御雷神だ。
こいつはとんでもないチート野郎で、昔、日本中の神々から国を寄越せと言ってヒャッハーしまくった奴だ。今、スサノオと睨み合っているタケミナもその時にコイツに力比べで挑んだが、ミカヅチの野郎は手を剣にしたり氷にしたりと反則級の力を見せてタケミナに命乞いをさせて国を奪ったりした。正直、ここにいる軍神の中じゃ最強じゃないかと思う。おまけに性質が悪い。
あ、知ってる奴もいるだろうが、勇吾の持っている神剣は元々こいつの得物だったんだぜ?
とそこへ、何だか強面のオッサン達が俺達に詰め寄ってきた。
「おい兄ちゃん、さっきから好き勝手にやっているようだが調子に乗るなよ?」
「ああん!?」
あ、運悪ぃなこのオッサン、相手が悪すぎだって!
しかし、ヤクザVS軍神、ある意味スゴイ光景だな。
「おい、テメエ!兄貴はこの辺のシマを取り仕切ってる組の幹部なんだぜ?痛い目見たくなかったら大人しくその肉を寄越しな!」
「おい、この店で兄貴に逆らうとただじゃ済まねえぜ!?」
あ~~~あ、もう駄目だなこいつら。完全にミカヅチの機嫌を損ねやがったな。
しっかし、日本最強の戦闘力を持つ軍神達が集まってくる時に来るとは運の悪い連中もいたもんだな?
「お、聞いてん・・・・・・グハッ!?」
「な、何だテメーは!?」
「・・・・・邪魔だ。」
オッサンのくっ付いていた奴は背後から来たそいつに踏みつぶされた。
そこにいたのは同じく不機嫌な表情の軍神、経津主神だった。
うわあ、ミカヅチと同格の奴まで怒らせちゃってるよ、こいつら・・・・・!
「・・・フツヌシ、肉ならミカヅチが全部取ってったぜ?」
「問題ない、奪い取るだけだ。」
「おう!いい度胸じゃねえか!」
おい、お前らが戦ったら日本が吹っ飛んじまうだろ!?
「テメーら、無視してんじゃねえぞ!!!!」
あ、オッサンも切れやがった!空気読めよ・・・・・・。
「「ああ!?」」
まあ、当然その後は“日本の二大軍神”によるハリウッド映画顔負けのアクションシーンがド派手に繰り広げられたのは言うまでもない。
俺はその光景を無視し、スサノオ達のいる席から離れた席でようやく食事にありつけた。
ちなみに、その隣の席では同じように他人のフリをしたまま大人しく食事をとるヤマトタケルや摩利支天など数人の軍神の姿もあった。
まあ、軍神全員があんなキャラじゃないからな。俺も雷神だが、ミカヅチとひとくくりにされたくわない。
その後、神にケンカを売った“とある組”は一夜にして崩壊し、翌朝のニュースに流された。
さらに言えば、スサノオ達が料金の何倍も食いまくったので帰る頃には店長と店員一同が大泣きし、この店の建つ土地の神であるウカちゃんからは直接抗議が来た。なお、稲荷神であるウカちゃんはスサノオの娘の1人だ。
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ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・
うう、常立様が静かに怒っているよ・・・・。
俺、被害者だよね?別に俺は暴れすぎてないし、食いすぎてもいないぜ?
「あ、あのう・・・・・・・・・?」
「――――――――――ライ、しばらく謹慎だ。」
「・・・・・・・・ハイ。」
ウズメちゃんは同情するように俺を見ている。
うう・・・・・、今度から軍神とは関わらないようにしよう。
けど、韋駄天に限っては丈と契約しているから難しいか?
・今回登場した神様達・・・
【ケース1】
・木花咲耶姫・・・浅間神社の祭神、富士山を御神体とする女神様でお父さんも山の神様です。彼女の子孫が神武天皇、つまり日本の皇族達になります。お姉さんからは嫌われているようですが・・・・・。
【ケース2】
・金山彦神・・・金山姫神と一緒にイザナミ様のゲロから生まれた神様だそうです。本来は鉱山の神様ですが、今では金属加工を始めとする職人達の神様でもあります。
・五十猛神・・・本文でも書いた通りのスサノオの息子です。元々は林業の神様ですが、今では商売繁盛や厄除け、航海の安全や大漁祈願の神様でもあります。そのせいか、横浜近隣には祀った神社がかなりあります。
【ケース3】
・建御名方神・・・大国主の息子でありスサノオの子孫、有名な話では元寇のときに神風を起こして敵を追い払ったとされています。
・韋駄天・・・これは結構知っているんじゃないでしょうか?足の速い神様です。
・建御雷神・・・雷神や剣の神様としても有名です。
・経津主神・・・建御雷と一緒に語られることの多い、刀剣の神様です。
・ヤマトタケル・・・元人間、大昔の皇子様です。
・摩利支天・・・仏教の守護神。
・本日の2話目から新章スタートです。




