番外編3 罪人達のその後・・・
・今回はちょっと暗い話ですので苦手な方はパスしてかまいません。
・内容としましては、転生者編で大罪獣になった3人の人間のお話になります。
――《憤怒》――
倉形隼輔の人生は憤怒の連続だった。
最初にその感情を自覚したのは6歳の時、周囲からの視線に違和感を覚えたのがキッカケだった。
自分と同い年の子供達が自分を避けるようになり、話しかけてもすぐに逃げられてしまう。何故かと聞けば、全員が親に言われたからだと答える。
周囲の大人も自分を怖がるような目で見ることに耐えられなかった隼輔は思い切って母親に相談し、母親の口から自分の父親が暴力団の幹部だという知らされる。
まだ幼いながらもテレビなどの媒体からそれなりの知識を得ていた隼輔はそこで初めて自分の置かれている環境に怒りを感じたのだった。
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12年が経ち、隼輔は18歳になった。
自分の家庭事情を知った後、隼輔は周囲に自分はヤクザじゃないと反論し続けた。
だが、人間の先入観と言うものはそう簡単に拭えるものではなく、誰も隼輔の訴えに耳を貸すことはなくむしろより強い嫌悪の目で見るようになった。
10歳を過ぎた辺りから学校では陰湿なイジメが増えるようになった。
子供とはある意味大人よりも残酷であり、大人がしているなら自分もしてもいいと判断し、親達から関わるなと言われている隼輔を陰で虐める様になった。
中学に入るとさらにエスカレートしていき、同級生が暴力沙汰を起こせば自然に疑いの目は隼輔に向けられた。誰もが、家族がヤクザと言う理由だけで隼輔に冤罪を着せるようになり、隼輔は怒りを増しながらも高校をどうにか卒業して孤独のまま地元の大学に進学した。
彼が孤独から救われたのは大学に1年の秋の頃だった。
その週は大学の文化祭の準備期間で講義への出席者が普段より疎らな科目が多かった。
そんなある講義の時間、何時ものように人を避けて一番隅の席に座っていたとき、不意に1人の女子学生が彼に声をかけてきた。
「ここ、開いてる?」
「・・・・・・・ああ。」
それが隼輔の心に光を差した女性、桑原朝陽との出会いだった。
彼女の第一印象は少し暗い感じの女、だった。
その後、学食などで売店で会うようになり、次第に会話の数が増えていった。
関東にも雪が降り始めた頃、隼輔は朝陽の家庭事情を知ることとなり、彼女も自分とは別の理由で偏見を受けてきたことを知る。
朝陽の父親はある事件で容疑者にされ逮捕された事があった。
裁判で冤罪だと証明され、家族も元の生活に戻る筈だった。
だが、一度でも疑われた人間に対する世間の目は残酷なものだった。
陰では「本当は犯人では?」という根も葉もない噂が囁かれ、中には遊びで嫌がらせをする者が出てきて一家は住み慣れた土地を離れざるをえなかった。
その後の事は、言わなくても隼輔には予想ができた。
互いに孤独を抱えていた2人は次第に打ち解けあい、雪が溶けて桜が咲き始める頃には恋人になり、深い間柄にまで発展していた。
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どこにでも他人の幸せを壊そうとする者は存在していた。
彼らは隼輔と同じ大学に通う学生も数人入っている地元ではそこそこ有名な不良グループだった。
基本的に弱者を見下すのが好きな連中の集まりだった彼らは、ようやく幸せを感じ始めていた隼輔と朝陽を、ハッキリとした理由もなくただ気に入らないと言う身勝手な理由で不幸にしようと動いたのである。
その日、隼輔はバイトを済ませてからデートの待ち合わせ場所に来ていた。だが、待てども朝陽が現れる事はなかった。隼輔の携帯が鳴り、その向こうから朝陽の悲痛の声が届いたのは、約束の時間から1時間が過ぎた頃だった。
病院に駆け込んだ隼輔が見たのは、婦警に支えられながら泣き続ける心身ともに傷つけられた彼女の姿だった。
何があったのか知った隼輔はすぐに警察に犯人を捕まえるように頼むが、彼女を襲った犯人が捕まる事はなかった。
理由は二つ、一つは犯人グループのメンバーに地元の名士やら政治家やらの子供がいたために圧力がかかったことと、担当した警官が隼輔の事を知っており先入観で彼が問題を起こしたのではと勝手な憶測を立てたのが理由だった。
理不尽な現実に、隼輔の怒りは再び燃え上がった。
――――――ふざけるな!憎い!許せない!殺してやる!全部だ!!
朝陽のおかげで鎮められていた怒りは日に日に勢いを増しながら燃え上がっていく。
そして、隼輔は実家にあった父親の武器を持ち出し、彼女を襲った連中に復讐をしに行こうとした時だった。
『――――――その《憤怒》気に入ったよ♪』
不意に目の前に現れた異様な空気を纏った少年、それを見た直後、彼の意識は真っ暗になった。
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その後の事を隼輔は夢のような感じではあったものの、ハッキリと覚えていた。
暗くなった意識の中で、彼は抑えられない怒りの奔流に飲まれていた。
次第に自分の体が獣の姿になり、朝陽を襲った連中を怒りのまま襲い続け、その後はまるで逆らえない意志に操られていくのも覚えている。
その後、体がビルのように大きくなってドラゴンや剣を持った少年にやり場のないような怒りをぶつける戦いをしていった。
〈――――――お前!復讐よりも大事な事があるだろ!!〉
怒り任せに暴れていると、相手の少年の声が頭の中に響いてきた。
怒りに全身を支配された隼輔には、最初は何を言われているのか理解できなかった。
そして相手が少年からドラゴンに入れ替わり、少年と同じように頭の中に直接声をかけてきた。
〈――――――愛する者の傍に居る事を放棄してまで優先すべき行為なのか?〉
〈―――――――!!〉
それは単なる綺麗事を言っているのとは全く違う意味で隼輔の心の奥に響いた。
《獣》と化した隼輔を見るドラゴンの視線には同情など全くなく、不思議としか言いようのないものだった。
その直後、隼輔の体はドラゴンの口から放たれたブレスに飲まれ、再び意識は途切れたのだった。
その時のドラゴン、黒王が《神龍》と呼ばれる存在だと知るのはもう少し後のことである。
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「ん・・・・・・・・・?」
目を覚ますと、そこは見覚えのない和室だった。
隼輔は起き上がろうとするが体は妙に怠かった。
まるで長い夢から覚めた様な感覚が数分間続くと、隼輔は夢の中の出来事を全て思い出した。そして、それが夢ではなくその手にも人を傷つけた感覚が残っている事もすぐに理解した。
「あ・・・あ・・・・・・・!?」
隼輔は思わず叫びそうになったが、不意に部屋の襖が開いた事により寸でのところで意識が逸れた。
「―――――――起きたようだな?」
襖の向こうから入ってきたのは見覚えのない小学生位の少年だった。
だが、小学生と言う割には妙に威圧感と言うか空気が違うその少年に、隼輔はすぐにどう対応すべきか迷った。
「丁度帰る所だったんだが・・・・。まあいい、取り敢えずお前の両親を呼んで来よう。」
「ハ・・・・?」
「ああ、そう言えばお前はここに来たことがないんだったな?ここは芦垣組の本家屋敷、つまりお前の父親の職場と言う訳だ。」
「なっ!?」
「・・・・全部覚えているだろう?お前は派手に暴れた後、俺の知り合いに呪縛から解放されてここに運び込まれたんだ。正直、お前の父親はかなり取り乱していたぞ?お前が《大罪獣》にされたと知った途端、奴は普段では考えられないほど動揺して暴走寸前だったからな。お前は色々不満があるようだが、奴も父親として苦悩し続けていたんだ。」
「親父が?そんな・・・ありえない・・・!」
「信じられないなら自分で確かめろ。ああそれと、どっかのバカがお前の大事な人を連れてきていたぞ?まあ、いろいろ驚く事になるが・・・・、とにかく、よく話し合え!」
「おい、どういう―――――――――!?」
少年はそれ以上何も言わず、部屋の外へと去っていった。
その後、隼輔が起きたという報せを聞いた彼の両親となぜか朝陽が彼の元へとやってくる。
何度か衝突する事があったものの、その日の夕方になる頃には互いに笑えるようになっていた。そのキッカケを与えたのは、またしても朝陽だった。
十年以上続いた親子の溝は、この日を境に修復されていったのだった。
なお、その日の隼輔の父の顔は何故か赤く脹れていたり、引っ掻いた様な傷がいくつもあったが本人はその理由を話す事はなかったという―――――――――。
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――《怠惰(悲嘆)》――
病院の一室で、岸名遥花はベッドの上で眠り続ける佐須桐吾が起きるのを待ち続けていた。
「佐須さん・・・・・・・・・。」
あの後、結局遥花は署に戻って上司に見聞きしたこと全て報告したが、その内容が現実離れしすぎていた為に勇吾の忠告通り捜査から外されてしまった。
その後、日が沈んでまもなく2時間が過ぎようとした頃、西町警察署に佐須が警察病院に搬送されたという連絡が入り、遥花は上司の制止を振り切って市内の警察病院へ向かった。
病院に駆け込むと、そこは戦場のような慌ただしさが広がっていた。
遥花は看護師から病室の場所を聞き、そこで眠り続けるやつれた姿の佐須の姿をみたのだった。
あれから半日以上が経ち、佐須は未だに眠り続けていた。
病室の外では昨夜から医師や看護師がほぼ不眠不休状態で動き続けていた。
遥花もまた、関東各都県で起きた原因不明の集団意識不明事件の捜査の為に一度呼び戻され、休憩も兼ねて再び病室へ来ていた。
「佐須さん、私どうしたら・・・・・。」
佐須が《大罪獣》になった事件はおそらく未解決のままになるだろうと遥花は察していた。
西町署だけでなく関東の多くの警察署は、1万人以上の被害者を出した事件の捜査に追われ、それ以外の事件の捜査は後回しにされるか、人員を割かれている状況だった。
「ん・・・・・・・・!」
「――――――――!佐須さん!!」
そして、事件発生から1日近くが経過して佐須桐吾は目を覚ました。
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医師からの簡単な診察を受けた後、佐須は遥花から自分がいなくなった後の出来事を聞いた。
「そうか、俺も同一事件の被害者扱いか・・・・・・。」
「被害者が多すぎるのと、別件である証拠が何故かひとつも見つからなかったので本部はそう判断したようです。それに、被害者の中には他にも警察関係者が複数いたのも影響したんだと思います。」
「――――――――――――」
「あのう、佐須さん?」
遥花の声が届いているのかいないのか、佐須はしばらく窓の外を眺めながら沈黙を続けた。
その目には覇気を感じる普段の彼とは違い、まるで何かが抜けたような、思い悩んでいるような目だった。
そして十分以上経過すると、不意に何かを決意したような顔で遥花に話しかけた。
「-――――岸名、俺はしばらく刑事を降りようと思う。」
「え!?」
「本心で言えば、警察自体を辞めたいと思っている。今回の件で、俺がいかに刑事が向いていないのか思い知らされた。犯人を追うどころか、逆に―――――――――――」
「佐須さん、何を言っているんですか!?西町署には佐須さんがまだ必要なんですよ!それに、私だってまだ教えてもらいたいことが・・・・・・・。」
「・・・・岸名、お前の気持ちはありがたいが俺にはもう刑事を続ける意志が残っていないんだ。いや、そもそもとっくの昔に俺の意志は折れていたんだよ。それなのに、俺はつまらない見栄を張り続けるためにそれを認めようとも、向き合おうともしないでこの様だ。全く、確かに俺の罪は《怠惰》な訳だ・・・・・・。」
「佐須さん・・・・何を言ってるんですか?」
「・・・・・今は言えねえが、何時か話す。岸名、お前もここにいないで捜査に戻れ!」
遥花はその後も何度も訊き返すも、佐須は頑なに答えようとはせず彼女は納得がいかないまま病院を後にする。
数日後、退院した佐須は静養を理由に長期休暇に入り、数週間西町署から姿を消すのだった。
そして佐須が休暇を取った1週間後、疑問が解消されていない遥花は彼の自宅へお見舞いを兼ねて向かうのだが、そこで彼女は“ある事件”に関わる事となるが、それはまだ先の話である。
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――《傲慢(虚栄)》――
事件の翌日、良樹は市内のホテルの一室で父親の声で起きた。
父親に起こしてもらうのは滅多になかった良樹はどこか嬉しそうな顔をしながら起き上がり、その日の朝は久しぶりに父子水入らずの朝食をとっていた。
「良樹、ここの食事はうまいか?」
「うん!やっぱりパパは食通だよね♪」
良樹の父勝義は政治に携わりながらも、休日には息子と味巡りをしているのだが詳しい事は省略する。
昨日は警察での取り調べを受けた後、勝義は午後の予定を全てバッ――――――調整し、事件現場になっている自宅から最低限の荷物を持って市内の(料理が美味い)ホテルにチェックインした。
そして今日の早朝、良樹はまだ知らないが警察から行方不明だった家政婦が発見されたという連絡が来ていた。
秋本父子には知りようの無い事だが、家政婦の田中直美こそが秋本春子を《大罪獣》に変えた、カースの“端末”だったのである。
「良樹、嫌かもしれないが食べ終わったらママのお見舞いに行くぞ?」
「う・・・うん・・・・。」
良樹は少し複雑そうな表情で答えた。
昨日、ホテルにチェックインした後、良樹は今まで言えなかった事を全て父親に話した。
それは一昨日の学校のプールでの事に始まり、勝義が仕事で留守にしている間にあった母親からの暴力のことだったり様々な事を話し、勝義を唖然とさせた。
勝義も妻が自分のいない所で問題を起こしている事は知っていたが、良樹から聞かされたのはそれを遥かに上回る衝撃的なものだった。
普段から仕事と家庭を両立しようと心がけていたにも拘らず、一人息子に多大な負担をかけていた事を反省した勝義は、少しでも息子の心を癒せるように接していった。
その一方で、困難になるだろうが母親との関係をゆっくりでもいいから修復できないかとも考えていた。
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病院に到着すると、看護師から春子が今朝目を覚ましたと知らされ、2人はわずかに不安を抱きながらも病室へと向かった。
「Oh!?シッキーじゃねえか!」
2人は病室の前で、金髪のウィッグを被った馬鹿に会った。
ちなみに同時刻、ここから離れた場所にある芦垣組の屋敷にももう1人の馬鹿が出没していたのだが、彼らには知る由がなかった。
「・・・・良樹、知り合いかい?」
「え~と、(勇吾)お兄さん達と一緒にいた人・・・?」
もし、ここに勇吾達が居れば物凄く嫌な顔をしながら馬鹿を殴って持ち帰っていただろう。
「あ!そっちのオッチャンがシッキーパパだろ?」
「シッキー・・・・・・?」
「Yes!ヨシキだからシッキーだぜ!ヨッシーだとかぶっちゃうからな?」
誰とかぶるのかは、この時点では良樹は知らないが、いきなりニックネームを付けられて戸惑いを隠せない様子だった。
「あのう、何でママの病室の前にいるの?」
「That’s Good question!俺なりに被害者へのアフターケアをしてきたところだぜ!!シッキーも昨日から俺のFriendだからな!友達の家族だから俺も全力で頑張ってやったぜ♪」
もし、ここに勇吾達が居れば、一瞬で顔を真っ青にして病室に飛び込んで行っただろう。
「んじゃ、俺は次の病室に行ってくるぜ!See you again~~♪」
「シーユー・・・・・?」
「良樹、彼はどういう人なんだ?」
「・・・・さあ?」
状況が全く読めない父子は、呆然としながら病室のドアを開いた。
「「ええ!?」」
その光景を目にし、2人はまた呆然とした。
「~~~~~~♪」
そこにいたのは、マンガやラノベに囲まれて楽しそうにしている春子の姿だった。
「あら?2人ともどうしたの?」
「マ、ママ・・・!?」
「春子、何があったんだ!?」
そこにいたのは2人の知る春子ではなかった。
意識が戻って数時間、その間に彼女は家族が疑うほどの変貌を遂げていた。
後に、OSHIOKI中の馬鹿は以下のように語った。
「ん~と、大罪獣になっていた奴らって、みんな心の一部っていうか、負の部分が無くなった状態で心に空き部屋みたいなのができちゃってただろ?だから俺が楽しい事を入れてやったぜ!俺、偉くネ?」
つまり、《大罪獣》の体は“核”となった人間の精神、特に闇の部分と深くつながっており、浄化されるとその精神もまた浄化されてつき物が抜け落ちたようになる場合がある。
特に一時の激情ではなく、長年続いた負の感情が抜けた場合はその影響が大きく、放心状態が長く続く場合がある。
馬鹿はそれをケアするため、春子を始めとする一部の被害者達に自分の趣味を吹き込んだのだ。
「ふっふ~~ん♪」
「パパ・・・・・・・?」
「・・・・・・彼は、一体何をしたんだ?」
その後、退院した春子は週に何度もアキバに出入りしたという話が蒼空を通して勇吾達の耳に入るのはもう少し後の話である。
・秋本家についてですが、春子は自分の息子に対する仕打ちを悔いて反省し、定期的に教会に通いながら償っていきます。
・次回は番外編のラスト、ライくん視点のお話です。
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